kenyaKnight Frank Kenya ナイト・フランク

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

設立

1998 年

手数料(Rent-roll)収入

20億ケニアシリング(Ksh)(グループ全体で19億5,000万ドル)[※1]

※1 ケニアは2007年、グループ全体の年次は不明。

管理物件の総資産

不明(グループ全体391億ドル)

従業員数

70人(グループ全体4,522人)

会社概要と沿革

ナイト・フランクは、英国に本拠を持ち、世界規模で展開する不動産関連企業である。同社は不動産コンサルタントを自認するが、ケニアでの事業領域は、不動産管理が中核である。この他、住宅用・商用物件の販売代理業務や不動産鑑定、プロジェクトマネージメントも手がける。ケニアでは、不動産管理(Knight Frank(Kenya) Ltd.)と不動産鑑定(Knight Frank (Valuers) Ltd.)の2部門で登記している。ナイト・フランクはアフリカ9カ国[※2]に進出している。従業員は世界全体で4,500人を超え、ケニアでは80名を雇用する(英国からの派遣は1名のみ)。ケニアから非事務所所在国の事業を請け負うこともある。これまでに、モザンビーク、ルワンダ、ブルンジ、エチオピア、エリトリア、スーダン、モーリシャス、セイシェルで事業を手がけた。ケニアでの設立形態は合弁企業である。出資比率は英国とケニアの50%ずつ。ナイト・フランク英国パートナーが50%、ファースト・チャータード・セキュリティが40%、ケニアの経営陣が10%出資している。

※2 ケニア、ウガンダ、タンザニア、マラウィ、ザンビア、ジンバブエ、ボツワナ、南アフリカ共和国、ナイジェリア。

参入経緯

ケニアへの進出は、1998年にファースト・チャータード・セキュリティから誘いを受けたことによる。当時、不動産事業に関与していたファースト・チャータード・セキュリティが不動産事業の外注先を探すに当り、ナイト・フランクに白羽の矢を立てた。不動産部門で経験のある事業者をパートナーとして持てたことは、参入時に直面し得る困難を回避できた点で、自社で一から始めるよりも有利であった。

市場動向

ケニアの不動産市場は、概して健全である。これまでの好況は、住宅建設とオフィス物件への投資が牽引してきた。過去10年の間の変化は、インド系ケニア人が、ケニア国外から国内に投資するようになったことに顕著に現れている。海外から資金を戻してケニア国内の不動産に投資する傾向すら見られた。また、ケニアの中間層が不動産融資を利用することで、住宅建設を牽引してきたのも新たな変化である。在外ケニア人は、居住地の金融機関の利率とケニアの住宅投資から得られる利益の差に着目して、海外で借りた資金をケニアの不動産投資で運用するケースも見られた。しかし世界金融危機以後、この種の在外ケニア人からの不動産投資は低調になった。

住宅建設は、中・高級層向け住宅供給が一時的に供給過剰な状態にある。しかし、価格が大きく値下がるほどではない。オフィス物件は、近い将来値崩れが予想される。現在、ケニア(主にナイロビ)で建設中の物件が完成すればオフィス用面積は20万平方フィートを超える。一方、需要は5万平方フィート程度であり供給過剰幅が大きい。

ビジネスモデル

ナイト・フランクは、都市部で優良物件を確保して適切に管理することで手数料を得ている。ナイロビなどの大都市を重視している。ケニアで管理する商業物件は170万平方フィート以上、住宅物件は600軒以上である。管理の範疇には、物件の財務管理(家賃回収、会計記録の作成など)、事務管理(テナント選択、契約代行、公共料金支払いなど)、物理的管理(治安、公共スペースの維持・修繕など)を含む。ケニアでの2007年の手数料(Rent-roll)は、商業物件が14億Ksh、住宅物件が6億Kshの計20億Kshで、商業物件が中心である。

ビジネス拡大に向けての課題

汚職は深刻な問題だ。加えて、法の未整備も課題となっている。マネーロンダリングを規制する関連法が整備されていないため、ソマリアの海賊資金などの違法資金がケニアの不動産に投資されており、資金洗浄手段となっている面は否定できない。一部に価格を歪める効果もある。不動産にかかる商事紛争も解決が難しい。法を遵守しないために、契約を履行させることに困難が伴う。土地の権利問題については、権利が本物かだけでなく、規制・保護区内でないか等を注意深く確認しなければならない。

人材獲得の面では、ケニアは周辺国と比べれば優秀な人材が多い[※3]。頭脳流出もあるが、ケニア経済が好調だったこと、世界経済が低迷していることから、頭脳還流の傾向もある。優秀な人材を獲得する競争は、銀行とIT部門との間でとくに激しい。

※3 面談相手は、ケニア赴任前にタンザニアで駐在していた。

将来展望

ナイト・フランクはナイロビに注力していく。ルワンダへの進出を摸索しているが、先行進出企業事例を基に慎重に検討している段階である。ルワンダは、投資促進を担うルワンダ開発委員会(RDB:Rwanda Development Board)など、他のアフリカ諸国と比べても手続きなどが迅速で、非常に組織化された面がある。一方で、ルワンダは権威主義的でもある。例えば、ルワンダ歳入庁は徴税に熱心だが、会計への理解が薄いようだ。例えば、ケニアでは帳簿上の処理について、歳入庁職員に懇切丁寧に時間をかけて説明すれば理解は得られる。しかしルワンダでは、すぐに銀行口座を凍結されたりする。ルワンダに商機を見出して進出したものの、既に撤退(決定を含む)したケニア企業も3社[※4]ある。

※4 KKセキュリティ(保安)、Davis&Sheriff(水道ポンプなど)と、もう一社(名称不明)。

特徴

リージェント・グループやロイド・マシカと違いナイト・フランクは、世界展開する英国資本の多国籍企業である。企業としての競争力の源泉は、その国際的ブランドにあるように思われる。管理物件は、住宅用では、駐在員向け集合住宅など中・高所得者向けに限られる。商業物件も、ケニアの高級ショッピングセンターなどを抱える。ナイロビへの事業集中も、ナイロビが、地域ハブとして国際機関や多国籍企業の支店が多いためであるとしており、狙う顧客層は、法人・個人を問わず、高級市場と言えるだろう。

用地取得の支援などは行うものの、ビジネスの主力は賃貸・管理業務である。ケニア市場での法の未整備や契約の履行の難しさを指摘するように、資産保有には慎重だ。高級市場を対象に、魅力ある物件の管理を確保し、手数料を稼ぐフローのビジネスである。

現況の不動産市場や、在外ケニア人の役割、ソマリア資金など多くの点で、リージェント・グループやロイド・マシカとも見解を共有している。世界にネットワークを有する多国籍企業ならではの強みか、在外ケニア人やアジア系ケニア人の投資行動にも深い洞察を持っており興味深い。

(参考情報)
ナイト・フランク社面談(Mr. Ben Woodhams, Managing Director)11月26日実施
ナイト・フランク社ウェブサイト( http://www.knightfrank.com/kenya )2009年12月23日アクセス
ナイト・フランク社プレゼンテーション資料
山口揚平[2008]“企業分析力養成講座”日本実業出版社