kenyaKenya Commercial Bank ケニア商業銀行

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

設立年

1970年(前身は1896年)

総資産(2008年12月末)

1,747億ケニアシリング(Ksh)(KCB単体)

営業利益

195億5,934万Ksh(同上)

税引き後利益(2008年12月末)

53億9,385万Ksh(同上)

従業員数

約4,000人[※1](グループ全体)

※1 2007年時点では、計3,140人(ケニア2,883人、南部スーダン27人、タンザニア104人、ウガンダ11人、S&L115人)であった。

会社概要と沿革

ケニア商業銀行(以下、KCB)は、国内・東アフリカ域内最大の店舗網を持つリテールバンクである。店舗網は、ケニア国内に156店舗、域内進出国を合わせると182店舗である(2009年7月末時点)。ATM網は、自社ATMが220以上あり、ATM専業のペサポイント社との提携により、同社ATM網(110ヵ所以上)も利用可能である。株主としてケニア政府が23.1%保有しているが、政府の保有比率は徐々に引き下がってきている。KCBが近隣諸国への進出を積極化させるのに伴い、新株発行により資金を調達したためである。ケニア政府の持分は2004年までに35%に下がっていたが、これまでの2回の資金調達(24億5,000万Kshと55億Ksh)により、現在の持分までさらに引き下がった。域内株式市場では、ナイロビ証券取引所の他、ダルエスサラーム証券取引所、ウガンダ証券取引所、ルワンダ証券取引所で株式を上場している。KCBグループとしては、ケニア、タンザニア、ウガンダ、南部スーダン、ルワンダでの銀行運営の他、不動産融資会社S&L(Savings and Loans (K) Ltd)を展開している。CSR活動やスポーツイベントへのスポンサーにも積極的な企業である。

参入経緯

KCBの出自は、ケニア独立前のインド系銀行に遡る。1896年にモンバサに開設したインド・ナショナル銀行(National Bank of India)は、1958年にグリンドレイズ銀行(Grindlays Bank)と合併し、ナショナル・グリンドレイズ銀行となった。ケニア政府は、独立時に同行の60%を取得し、1970年に100%取得したのを機に、同行をケニア商業銀行(KCB)へと名称変更した。近年、KCBは目覚ましい勢いでグループ企業を増やしてきた。最初に取得したグループ企業は1972年に傘下に収めたS&Lで、以後は1997年のタンザニア進出まで目立った動きはなかった。しかし2000年後半からは一気に近隣国への展開を加速した。2006年に南部スーダン、2007年にウガンダ、2008年にルワンダへと進出した。

ビジネスモデル

KCBはリテールバンキングに主軸を置く。リテール部門は現在、収益の60%弱を生む。しかし、かつてはリテール部門が収益の約75%を稼いでいたことから、少しずつコーポレートバンキングにも注力していると言える。融資額では、リテール部門の420億Kshに対して、コーポレート部門の方が550億Kshと大きい。しかし、貸し出し利率がリテール部門の方が大きいため、収益への貢献は大きい。貸し出し利率はリテール部門が平均15%に対して、コーポレート部門は平均10%程度に留まる。

リテール部門とコーポレート部門との区分は、融資額2,000万Kshが基準となる。2,000万Ksh未満であれば、中小企業向け融資であっても、リテール部門の範疇として区分される。コーポレート部門の主な顧客の業種は、製造業、建設業、農業、観光、運輸である。コーポレート部門は、顧客との日頃の付き合いが大きな影響力を発揮する。顧客の財務上のニーズをよく理解して、顧客に合わせた解決手段を提案する力が求められる。そのために、銀行内の専門家が顧客担当(営業)を支援するシステムを敷き、営業活動をサポートする。KCB訓練センターを設けて、銀行営業上の必要な知識の研修を実施している。自前で訓練センターを有しているのはKCBだけであるという。

KCBはCSR活動やイベント協賛にも積極的だ[※2]。KCBが支援する各種活動への認知を高めて、顧客獲得にも活用する。活動の効果を外部調査機関に委託してReputation Surveyという形で測定している。調査対象は、従業員に始まり、中央銀行や歳入庁などの政府関係機関、顧客、コミュニティなど多岐に渡る。CSR活動では、環境や保健プログラムへの取り組みが広く認知されており、スポーツイベントへの協賛などの認知度も高いとの結果を得ている。

※2 2007年には、保健分野に6万9,000ドル、起業支援に3万5,000ドル、スポーツ事業に28万3,000ドル、教育分野に19万3,000ドル、環境に5万4,000ドル、厚生に6万4,000ドルを支出している。

ビジネス拡大に向けての課題

銀行業界の競争激化の中で勝ち残って行くことが大きな挑戦である。銀行各社の支店網拡大で優秀な人材が引き抜かれることもある。せっかく育成した人材を失うことは損失である。

携帯電話会社による送金サービス(サファリコムのM-Pesaや、ZainのZapなど)は、銀行にとっては脅威とみていない。例えば、M-Pesa代理店は資金管理に銀行口座を活用するので、むしろM-Pesaは銀行活動と補完的であり、銀行にもビジネス機会を提供している。KCBの資金送金システムも、M-Pesaとの相互乗り入れが可能である。むしろ、携帯電話会社による送金サービスを競合相手として脅威に感じているのは、ウェスタン・ユニオンやポストバンクなどの送金サービス会社であると考えている。

銀行業界としては、ソマリア沖海賊の資金洗浄などが疑われており、マネーロンダリング規制などが課題である。

将来展望

KCB同様、域内展開を進める民族資本系銀行としては、コーポラティブ銀行、エクイティ銀行、ダイアモンド・トラスト銀行、フィナ銀行がある。しかし、支店数はKCBが一番多い。支店数の多さに加え、進出先でのさらなる優位性を確保するために、2010年にはITプラットフォームの共通化を図る。これにより各国のKCBは相互接続され、KCBは口座保有者に利便性の高い域内取引を提供することが可能になる。

不動産融資会社S&Lは2010年1月からKCBに統合され、銀行の一部門となった。KCBにとって不動産融資事業は、追加資本があればもっと成長が見込める分野と認識されている。KCBがS&Lに資本注入することで、さらなるビジネスの拡大を目指す。

KCBは「2013年までに、アフリカの銀行として、世界との取引も可能な、顧客にとっての好ましい選択肢となる」ことを目指している。今後は東アフリカ域内を越えた展開を目指し、2010年内に汎アフリカ戦略を打ち出す予定だ。

特徴

ケニアの銀行業界は、近年の一大成長業界である。各社が支店網を拡充し、より多くの口座開設者(貯蓄)を集めるとともに、資金運用や融資により金利を稼ぐ。KCBはケニアでもトップ10に入る優良銀行と見なされている。しかし、低所得者層を取り込んで成長したエクイティ銀行や、富裕層をターゲットにするバークレイズ銀行などと異なり、その戦略が見えにくい銀行でもあった。

KCBが狙う顧客層について、企業面談では「特定の顧客層に狙いを定めた営業をしているわけではない」と明言された。一方、貸し出し利率については、銀行間でも競争力のある利率を維持することで、顧客に選ばれるよう努めている。企業としてのポジショニングは全方位展開ということになろう。積極的なCSR活動やイベント協賛は、全方位展開を支えるための一般認知拡大の方策として戦略的広報の一部として活用していると考えられる。

東アフリカ域内での積極拡大は、「規模の経済」を達成する手段である。銀行がアフリカでも金融仲介の役割を果たしつつある。東アフリカ域内では、各国の経済が成長し、経済統合も進む。銀行各社も域内展開を進めている。KCBがグループ銀行のネットワーク化をいち早く域内で進められれば、他社との比較で新たな競争優位の源泉となる。本来、銀行を活用できるにも関わらずこれまで銀行口座を開設してこなかった人々が、銀行を活用するようになっている。銀行が金融の深化によって潜在的顧客を取り込み拡大しているかぎり、出店攻勢は吉となろう。

一方支店網拡充は、多くの優秀な人材を要する。銀行業界全体が成長しているために、人材確保は各社共通の悩みであると思われる。特に国内最多の支店数を誇るKCBは、自前の従業員教育施設を有していることもあり、他行からの引き抜き対象になり易いと考えられる。KCBは、対策として業界平均よりも高い給与水準を保っている[※3]という。業績が右肩上がりで成長していく中では、多店舗展開と高人件費負担は可能である。しかし、一度成長が止まると、固定費が重荷になる。不動産融資子会社の統合は、新たな収益の柱を摸索する一手だと考えられる。支店網を拡大した次に、そのネットワークを活かすには、コーポレート部門の拡充も欠かせないであろう。

(参考情報)
ケニア商業銀行面談(Mr. Wilfred Sang, Divisional Director Corporate)12月3日実施
ケニア商業銀行ウェブサイト( http://www.kcbbankgroup.com/ )2009年12月18日アクセス
ケニア商業銀行2009年半期決算プレゼンテーション資料 ( http://www.kcbbankgroup.com/ke/images/stories/files/2009halfyearresultspresentation.pdf )2009年12月18日アクセス
ケニア商業銀行2007年持続可能性報告書
( http://www.kcbbankgroup.com/fo/images/stories/files/2007sustainabilityreport.pdf )2009年12月18日アクセス

※3 2007年の各職種の平均基本給は、男性が10万6,317Ksh、女性が9万1,849Ksh。事務員が男性5万8,434Ksh、女性6万3,600Ksh、課長(Section Heads)が男性8万5,770Ksh、女性8万7,684Ksh、マネージャーが男性19万2,090Ksh、女性16万1,138Kshなど。この他、昇給、ボーナス、退職金、医療保険、特別融資、住宅補助、有給休暇、核家族対象の葬儀補助などの各種制度がある。