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データ・リソース

kenyaEssar Telecom Kenya Limited イッサール・テレコム

設立

2008年

売上高

非開示

収益

不明

従業員数

250人

会社概要と沿革

イッサール・テレコム(以下、イッサール)は、ケニアでYU(ユー)のブランド名で展開する携帯電話通信会社。ケニア国内で携帯電話通信を提供する会社としては、全4社の内、最後発の企業である。親会社は、インドの巨大資本Essar Global Limited[※1]の通信分野の子会社Essar Communications Holdings Limited (ECHL)である。ECHLはインドでボーダフォンとの合弁企業ボーダフォン・イッサールを展開しており、インドでは5,500万回線以上の契約数を持つ。

※1 イッサールグループは、2009年8月にケニア石油精製所も50%取得し、3年以内に4億ドルを投資して、精製能力を日量100万バレル(現在は7万2,000バレル)へと拡張すると報じられている(2009年8月1日スタンダード紙)。ケニア(モンバサ)とUAE(フジャイラ)を結ぶ光海底ケーブルTeams(東アフリカ海洋システム)にも10%出資。

参入経緯

元々、携帯電話通信事業者ライセンスを申請していたのは、ジンバブエに出自を持つ南ア企業、エコネット・ワイヤレス・インターナショナル社[※2](EWI)のケニア子会社、エコネット・ワイヤレス・ケニア社(EWK)である。しかし、EWIは地元資本家との出資を巡るトラブルから法廷闘争となり、ライセンス取得と営業開始に十分な資金を集められない状況が続き、参入が遅れていた。EWIの資金困窮に対応して、ECHLが2008年1月にEWIの増資を引き受ける形で49%出資(2億ドル)、ライセンス取得と営業開始を後押しした。これに伴い、EWIが70%保有したEWKもイッサールの傘下となった。携帯電話事業の営業を開始したのは2008年11月である。

※2 EWIは、アフリカ、欧州、環太平洋東アジアの計9カ国(ボツワナ、ブルンジ、ケニア、レソト、ニュージーランド、ナイジェリア、南ア、英国、ジンバブエ)で、通信事業(携帯電話、固定電話、インターネット、衛星回線)を展開していた。

ビジネスモデル

最後発の携帯電話事業会社が採用するのは、ローエンド市場を狙った低価格モデルである。その実現には

(1) 通話エリアの拡大
(2) 競争力のある価格設定
(3) 効果的なサービス拠点

に工夫が必要である。ケニアの携帯電話契約回線数の内、70%は都市部である。人口では約33%が携帯を所有する計算だが、潜在的には65~66%程度まで増加すると見ている。市場の置かれた状況を考えると、これから対象となる顧客層は、年齢では、18~35歳の比較的若い層、地理的には、都市部でなく農村部が増加していくと考えている。業界トップのサファリコムの顧客は所得ピラミッドの上位層である。一方、後発のイッサールが狙うのは、可処分所得が比較的少ない層となる。

通話エリアの拡大は、契約者獲得に欠かせない要素である。自社でも700ヵ所以上の基地局を設置したが、ケニア第2位の携帯電話会社Zainと戦略提携関係を結び、基地局300ヵ所以上を共有した。営業開始からの人口カバー率は74%に至っており、基地局を集中的に開設してきた。事業開始からのカバー範囲の拡大スピードは、競合他社と比較しても最も早い。

競争力のある価格設定では、他社よりも安い通話・通信料を提供している。プリペード式では、自社回線だけでなく他事業者への通話も一律一分6ケニアシリング(Ksh)で提供し、全事業者中最安値をつけている。また、一定期間SMSの送信費を無料とするキャンペーンも展開した。最安値の通信料を提供することで、最も安い携帯通信事業者との認識を消費者に持ってもらう狙いがある。

サービス拠点は顧客に便利であることが重要である。サービス拠点は20ヵ所に設置済みだが、2009年末までに90ヵ所以上へと拡大して顧客との接点を増やす。一方、2009年4月には、小型乗り合い自動車(マタトゥ)の所有者組合とも提携して、マタトゥ車内でスクラッチカードを販売する取組みを始めた。翌5月にはスクラッチカードを使わないプリペード方式も導入し、ペーパーレス化にも取り組んでいる。

ビジネス拡大に向けての課題

ローエンド市場を狙った低価格モデルのビジネスであるため、利幅は薄い。そのため、コスト管理が重要となる。従業員は250名以下で、業界首位のサファリコムと比べれば、コストを10分の1以下に抑えている。また通信システムから事務用品まで、世界いずれのメーカーであっても、自社が定める品質基準に見合うものであれば、最も安い調達先から購入することを徹底している[※3]。

消費者としてのケニア人は保守的である。幼い頃から慣れ親しんで育ったブランドや商品から切り替えを促すのは、非常に難しい。加えて、企業が「高みから鈴を鳴らして注意を引き付けてもダメ」である。企業側には、「企業が消費者に近づき、顧客の生活圏に降りていって、かつ、お辞儀をして受け入れてもらう」姿勢が必要だ。

EWK時代のライセンス取得の遅れや出資を巡る法廷でのトラブルは、ブランドイメージを傷つけた。イッサールが経営権を取得してからは、顧客にEWKの負のイメージを連想させないブランド名を慎重に検討した。その結果、顧客が親しみを感じ、顧客本位であるメッセージを持たせるため、「You」と同じ音の「Yu」を採用した。

※3 イッサールは、2008年4月にネットワーク敷設工事をエリクソンに93億Kshで発注した(2008年4月14日ビジネスデイリー紙)。しかし、本原稿作成のため、面談に訪れたケニア本社では、受付での約15分の待ち時間に中国人を10人は見かけた。街中で中国人を見かけることは普段なく、通信分野における華為集団などの中国企業の躍進を垣間見た思いだ。

将来展望

イッサールは参入時から3年以内に300万回線の契約数を目標にしている。これまでの報道では、2008年11月の営業開始から3ヵ月で6万回線の契約数を獲得したことなどが報じられており[※4] 、2010年3月には200万回線を達成する見込みだ。今後、ケニア国内では、携帯番号持ち運び制が導入される予定であり、最も通話料の安い事業者のイメージを利用者に持ってもらえれば、他事業者からの乗り換えも期待できる。

東アフリカ域内への展開も検討しており、ケニアの自社ビル建設もイッサールがケニアを東アフリカの拠点と捉えている証である[※5]。2009年6月には、ウガンダで携帯電話事業者免許を取得した。その後、同年11月には、ウガンダとコンゴ共和国で営業するワリッド(Warid)テレコムを1億6,000万ドルで51%取得[※6]するなど、着々と事業拡大への布石を打っている。

※4 2009年2月9日ビジネスデイリー紙
※5 事務所は、機能性を重視して華美せず、コストを抑えているという。
※6 2009年11月17日ビジネスデイリー紙

特徴

EWKが地元投資家と揉めてケニアでの事業開始が遅れたことは、非常に大きな機会損失であった。EWKが2003年に事業免許を申請してから、イッサールの支援を仰ぎ、同社が経営権を握って実際に事業を開始するのに5年以上がかかった。2003年から2008年までに、ケニアの携帯電話回線契約数は159万回線から1,630万回線へと10倍以上に拡大した[※7]。最後発の参入となったEWKは、業務用の需要や富裕層など、最も携帯電話の利用頻度が高く、大きな利益が見込める顧客を取り込む機会を失った。EWKを取得したイッサールに勝算があるのか、狭まる利幅に挑戦する興味深い事例である。

まず指摘できるのは、日本とは異なる競争環境における市場の棲み分けである。日本の主な携帯通信事業者は、地域ごとに棲み分け(NTTドコモグループ)したり、特定企業の支援(au)を受けたりする違いはあるが、対象とする潜在的な顧客には、所得の面で大きな差異はない。しかしケニアでは、携帯電話事業でも所得の差異を考慮に入れなければならない。ケニアの場合、先行した企業(サファリコム)が最も大きな利益を見込める顧客を取り込み、高級イメージを確立している。今後、携帯電話所有率が上がるにつれて客単価が下がると見込まれる中、サファリコムは、新たな収益源としてデータ通信へ傾注し始めている。一方、イッサールは、サファリコムとは狙う顧客層が異なる。同社の場合、客単価は低くとも、今後契約数の拡大が見込めるボリュームゾーンに狙いを定めて、薄利多売で利益を生める仕組みを作っているように見える。

薄利多売で利益を生む仕組み作りの一端がZainとの基地局利用にかかる戦略提携であり、実績に捉われない最安値での調達であり、ペーパーレスのプリペード方式の導入であろう。これらは損益分岐点を引き下げるコスト管理に他ならない。

一方、薄利で利益を上げるには、実際に「多売」できるかが事業の成否を分ける。今後、携帯電話を所有すると考えられる潜在顧客は、一般に価格に敏感な層であると考えられる。この層への訴求力を高める仕組みが、他社と比べて最も安い通話料であり、プリペイドカードの安い単価設定であり、潜在顧客が移動に使うマタトゥでのプリペイドカードの販売提携である。こうした取組みは、今のところ、上手く対象顧客層に受け入れられているようだ。都市部においては、キベラなどのスラム街で競合他社を抑えてトップシェアを確保したとイッサールは見ている。番号持ち運び制が導入されれば、消費ピラミッドの中位下級層から徐々に競合他社の契約回線数を侵食する可能性も考えられる。

消費者についての考察も大変興味深い。先進国住民は、貧しい消費者には「先進国の製品や先端技術への憧れがある」という幻想に陥りがちだ。そうした考えに立つと、途上国の消費者は、手元資金が許せば、「盲目的に先進国の製品や先端技術の商品を買い求める」と思い込む危険がある。イッサールは、消費者へのアプローチに際し、Bidco(食用油や石鹸を製造)やイースト・アフリカン・ブリューワリーズ(ビール会社)の事例を徹底的に研究した。その結果が顧客本位に基づくブランド名であり、顧客の利便性を考えた各種戦略として実現されていると考えられよう。

最後にイッサールが、立地戦略としてケニアを東アフリカ域内拠点として選択したのは、同社がケニアをハブとして捉えているからである。ここにはケニア航空の存在が大きく働いている。

(参考情報)
イッサール・テレコム面談(Mr. James K. Naikuni, Head-Business Planning)11月24日実施
YUウェブサイト( http://www.yu.co.ke/ )2009年11月24日アクセス
イッサール・テレコムウェブサイト( http://www.essar.com/telecom.htm )2009年12月17日アクセス
国際電気通信連合(ITU)データベース
( http://www.itu.int/ITU-D/ICTEYE/Indicators/Indicators.aspx# )2009年12月17日アクセス
エコネットワイヤレス社ウェブサイト( http://www.econetwireless.com/ )2009年12月17日アクセス
2008年4月14日付ビジネスデイリー紙
2009年2月9日付ビジネスデイリー紙
2009年8月1日付スタンダード紙
2009年11月17日付ビジネスデイリー紙

※7 国際電気通信連合ウェブサイト