kenyaScangroup Limited スキャングループ

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

設立

2005年(前身は1983年)

売上高(2008年)

57億8,972万ケニアシリング(Ksh)(グループ全体)

収益(2008年)

3億1,579万Ksh(グループ全体)

従業員数

356人(グループ全体)

会社概要と沿革

スキャングループは、広告代理店業、マーケティング・コンサルタント、メディア投資管理、広報、実験的マーケティングなどを行う広告企業群の持ち株会社である。売上では同業界世界第2位を誇るIPPグループに属する。スキャングループの傘下には、マッキャン・エリクソン[※1] や、トンプソン[※2] などの世界的広告ブランドを含む13社がある。中核企業、ロウ・スキャナド(Lowe Scanad)は、スキャナド・マーケティングとして1983年設立された。同社は、ケニア以外に、タンザニア(1990年)とウガンダ(1992年)に進出し、2002年からはロウグループと提携し、ロウ・スキャナドとなった。顧客は進出先以外にも、ガーナやジンバブエ、モーリシャス、DRC、マラウィ、アンゴラ、モザンビークにも抱える。面談者によると、ケニアでは、スキャングループの市場シェアは52%、業界2位が28%と推計されている[※3]。2006年からは、スキャングループとしてナイロビ証券取引所に上場している。2008年9月時点の株主構成は、筆頭株主がIPPグループ子会社Cavendish S. Holding BVで27.5%、順に一般株主25.24%、創業者20.63%と続く。

※1 スタンダードチャータード銀行、ネスレ、コカコーラなどを顧客に持つ。
※2 メディア企業KTNやGM東アフリカ、ケニア商業銀行などを顧客に持つ。
※3 Quantitative Revisionsによれば、2008年の市場シェアは、スキャングループ(53%)、 ZK Advertising(16%)、Ogilvy East Africa(14%)、Ayton Young & Rubicam(7%)、Access Leo Burnett(3%)、その他(7%)。

市場動向

広告業界は、テレビやラジオを媒体として、大きく成長してきた。2008年の広告業界の成長は、2007年末の総選挙後の混乱が影響し、経済活動が落ち込んだために鈍化した。それでも同業界は36%の成長を記録した。現在は、2008年の落ち込みから回復途上であり、2012年まで順調な成長を期待している。

成長を牽引するのは、携帯電話事業者であり、多くのサブサハラ・アフリカ域内で同じ傾向である。飲料メーカーも広告支出が高いと考えられるものの、その多くが統計には表出しない。広告媒体としては、ラジオを通じた広告への支出が大きい。ラジオは、農村部でも普及しており、費用対効果が高い。特にウガンダでは、FM放送局が140局あるとされるため、それぞれの地域での広告露出を増やそうとすると、ラジオへの広告支出が多くなる。一方、タンザニアは、域内ではテレビへの広告支出が相対的に大きい。テレビ広告とは言っても、制作費の低い紙芝居のような宣伝も多く、凝った作りではない。このため、比較的安価で利用可能であり、地域ごとのローカル局も多いことがテレビ広告利用を増やしている。

新しい広告媒体も増えている。街頭看板の増加は、マタトゥ(小型乗り合い自動車)を利用する通勤者などへの効果的な宣伝方法として認識されるようになった。インターネットの広告利用も新しい媒体である。しかし、インターネット利用率が低いことから、広告媒体としては今後が期待されるメディアである。利用率の観点からは、携帯電話を利用した広告が注目される。SMS(ショート・メッセージ)を利用した広告は、携帯電話事業者が利用し始めているが、スキャナドでも顧客に対して提案している。

ビジネスモデル

スキャングループは、広告代理店として、複数代理店(Multi-Agency)モデルを採用しているのが大きな特徴である。各企業群は、総務、経理、情報システム部門などの管理部門を共有する以外は、独立採算制を採っている。各広告代理店ブランドは、特定の顧客に応じたサービスを提供し、多国籍企業に対して、本拠地や各進出先で利用する広告代理店のブランドをケニアで提供することによって顧客取り込みを図っている。傘下の企業が独自に目標設定し、活動している。

ビジネス拡大に向けての課題

広告業界の業界団体として、広告協会(Association of Practitioners in Advertising)がある[※4]。しかし、業界としては十分に組織化されておらず、低水準の広告事業者も存在する。広告業者の中には、顧客との契約どおりの回数の広告を打たない業者もある。コンプライアンスの問題は、広告業界全体の信頼失墜につながりかねないだけに、懸念される。また、法律面では、屋外広告を規定する「Physical Planning Act」の内容が、新たな広告技術の登場によって現実にそぐわないものになっていることが知られている[※5]。

観察

広告業は、近年大きく伸びてきた産業の一つである。新聞報道によれば、ケニアの広告市場は、2008年に156億Kshを記録[※6]、2009年第1四半期には、48億4,100万Ksh(前年同期は35億8,900万Ksh)と2008年を上回るペースであるという[※7]。広告業界の好調は、大口広告主である携帯電話会社の競争激化によるところが大きい。例えば、2007年には、ケニアで携帯電話会社首位のサファリコムは16億Kshを広告費に支出、業界2位のセルテル(現、Zain)も6億Kshを支出した[※8]。2008年では、携帯電話会社の広告費支出合計が38億Ksh(前年比70%増)となり、全広告費の30%が電話会社によるものだった[※9]。スキャングループの傘下企業ユニバーサル・マッキャンとの面談では、電話会社の積極攻勢がケニアだけの現象ではなく、サブサハラ・アフリカ域内全体でのことだと確認された。

広告市場の活況は、新たな企業進出も生んだ。例えば、ヤング・アンド・ルビカム(Young and Rubicam)が、交通の便のよさなどを考慮した結果、アフリカ地区代表事務所を南アフリカ共和国からケニアへと移転させた[※10]。業界が十分に組織化されていないとの指摘からは、同業界では実績のある企業だけでなく、新たに参入する企業が勃興している様子もうかがえる。

広告媒体では、ラジオが主流を占める。FM局の乱立はウガンダだけでなく、各地で見られる現象である。ラジオの広告媒体としての重要性はますます高まっているようだ。一方で、ラジオ局の乱立は、視聴者の好みの細分化を招き、広告主にとっては従来以上に費用対効果を精査する必要が生まれる。広告業界には、ラジオ局の視聴者層の分析などを通じて、各顧客に最も適したラジオ局を提案する必要が生まれよう。

広告手法の広がりも新たな潮流である。インターネット広告や携帯電話のSMSの利用が代表的な新手法だが、この他、大型映像装置を使った街頭モニターや、荷台を丸ごと広告スペースとするトラック、屋根を宣伝スペースとするタクシー、役者による交差点での広告パフォーマンスなども生まれている[※11]。これらの手法は、数年前までには存在しなった。

企業としての強みは、複数代理店モデルに尽きる。需要側では、国際ブランドを複数傘下に持つことで、多国籍企業や大口広告主である携帯電話事業者などの優良広告主を確保できている。一方の供給側では、新たな広告手法にも対応できており、管理部門を共有することで、コスト削減効果も得られている。広告業界での競争力の源泉となる資産は、主に「人材」だと考えられる。今後、同社が競争力を確保し続けられるかは、コピーライターなど、優秀な人材を確保し続けられるかもポイントとなるであろう。


(参考情報)

ユニバーサル・マッキャン社面談(Ms.Monica Kambo, General Manager)2009年11月17日面談(注:同社はスキャングループ傘下の企業)
スキャングループウェブサイト(http://www.scangroup.biz)2009年12月24日アクセス
Quantitative Revisionsウェブサイト(http://www.qrevisions.com)2009年12月24日アクセス
2007年4月1日ビジネスデイリー紙
2007年10月1日ビジネスデイリー紙
2008年2月5日デイリーネーション紙
2009年1月17日スタンダード紙
2009年6月18日ビジネスデイリー紙

※4 近隣国では、ウガンダに広告業界の業界団体があるという。
※5 2007年10月1日ビジネスデイリー紙
※6 2009年1月17日スタンダード紙
※7 2009年6月18日ビジネスデイリー紙
※8 2008年2月5日デイリーネーション紙
※9 2009年1月17日スタンダード紙
※10 2007年4月1日ビジネスデイリー紙
※11 大型映像装置を使う街頭モニターを手がける企業として、例えば、Live&Motion社がある。タクシー広告を手がける企業としては、Admove Advertising社やCab Adverts社がある。