田中 修

中国経済レポート

預金準備率引下げ

新領域研究センター 田中 修

2022年4月18日


はじめに

人民銀行は4月15日、25日から予期準備率を0.25ポイント引き下げることを公表した。引下げは、2021年12月以来、4カ月ぶりとなる。本稿では、公表文と人民銀行責任者の記者インタビュー、エコノミストの論調を紹介する。

1.公表文(4月15日)

実体経済の発展を支援し、総合資金調達コストの安定の中での引下げを促進するために、人民銀行は2022年4月25日、金融機関の預金準備率を0.25ポイント引き下げる(既に5%の預金準備率を執行している金融機関を含まない)。

小型・零細企業と「三農」への支援を強化するため、省を跨って経営していない都市商業銀行と預金準備率が5%より高い農村商業銀行について、預金準備率を0.25ポイント引き下げる基礎の上に、更に別枠で0.25ポイント多く引下げる。

この引下げの後、金融機関の加重平均預金準備率は8.1%となる。

人民銀行は「穏」(安定・穏健)の字を第一とすることを堅持し、安定の中で前進を求め、穏健な金融政策を引き続き実施し、バラマキを行わず、内外のバランスを併せ考慮して、金融政策手段の総量・構造の二重の機能を更にしっかり発揮させ、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びが名目成長率と基本的に釣り合うことを維持し、市場の活力を奮い立たせ、重点分野と脆弱部分への融資を支援し、質の高い発展とサプライサイド構造改革のために適切なマネー・金融環境を作り上げる。

2.人民銀行の関係責任者記者インタビュー(4月15日)
(1)今回の預金準備率引下げの目的

現在、流動性は合理的な充足水準にある。今回の預金準備率引下げの目的は、

①金融機関の資金構造を最適化し、金融機関の長期に安定した資金源を増やし、金融機関の資金配分能力を増強し、実態経済への支援を強化する。

②金融機関が預金準備率引下げで得た資金を積極的に運用して、疫病の影響が深刻な業種と中小・零細企業を支援するよう誘導する。

③今回の預金準備率引下げにより、金融機関の資金コストを毎年約65億元引き下げ、金融機関の伝達を通じて、社会総合資金調達コストの引下げを促進することができる。

(2)解放される資金額

今回の預金準備率引下げは、合計で長期資金を約5300億元解放する。

今回の預金準備率引下げは全面的な準備率引下げであり、既に5%の預金準備率を執行している一部金融機関を除き、その他金融機関に対し遍く預金準備率を0.25ポイント引き下げる。

省を跨ぐ経営をしていない都市商業銀行と預金準備率が5%より高い農村商業銀行については、預金準備率0.25ポイント引下げの基礎の上に、更に別枠で0.25ポイント多く引き下げる。これは、小型・零細企業と「三農」への支援強化に有益である。

(3)今回の預金準備率引下げの後、総合的に考慮すること

人民銀行は穏健な金融政策を引き続き実施する。

①物価動向の変化に密接に注意を払い、物価の総体としての安定を維持する。

②主要先進経済体の金融政策の調整に密接に注意を払い、内外のバランスを併せ考慮する。同時に、流動性の合理的充足を維持し、総合資金調達コスト引下げを促進し、マクロ政策経済の大基盤を安定させる。

3.エコノミストの反応
(1)中国民生銀行 温彬首席研究員(経済参考報2022年4月18日)

「今回の預金準備率引下げは、予想に合致するものである。現時点で、準備率引下げは充分必要である。現在経済の下振れ圧力がかなり大きいことを考慮すると、今年の経済成長目標を実現するためには、政策支援を一層強化しなければならない。

この背景下、4月13日、国務院常務会議は預金準備率引下げ等の金融支援手措置を手配した。市場の予想を安定させる役割を発揮できるばかりでなく、経済の下振れ圧力がかなり大きいと見込まれる際には、金融政策のアンチシクリカルな調節機能を発揮させ、疫病の影響が深刻な業種と中小・零細企業を支援することは、経済基盤をしっかり安定させることにとって十分必要である」。

(2)中国銀行研究院 梁斯研究員(経済参考報2022年4月18日)

「注意に値するのは、今回の預金準備率引下げはこれまでと異なり、差異化の特徴を体現していることである。

①預金準備率引下げ幅がかなり小さい。

今回の準備率引下げ幅は0.25%であり、これまで使用してきた0.5%の引下げ幅より小さい。現在わが国の法定準備率の全体水準は既に高くなく、今回の準備率引下げ後の加重平均準備率は8.1%である。

②差異化した準備率引下げである。

今回は、全体の0.25%引下げの基礎の上に、省を跨ぐ都市商業銀行と預金準備率が5%より高い農村商業銀行に、更に別枠の0.25ポイント引下げがあり、差異化した支援の特徴を体現している。この目的は、地域的な金融機関の現地への支援強化を奨励するためである。

③直接資金を解放する。

これまでの準備率引下げはヘッジ式の準備率引下げを多く採用しており、準備率を引き下げると同時に、MLFを通じて一部流動性を回収していた。しかし、今回の準備率引下げはこのようなオペレーションを採用しておらず、直接市場に向けて約5300億元を解放する」。

「準備率引下げは、もともと資金供給を増やす政策であり、実体経済の発展を更にしっかり支援するためには、同時にその他の困難緩和政策を組み合せ、企業の経営圧力を確実に緩和する必要がある。

同時に、企業の資金ニーズを深く発掘して、資金の使用効率を高め、経済の安定化に確実に助力する必要がある。とりわけ、困難な企業・業種の早急な回復・難関克服を支援しなければならない」。

(3)東方金城国際信用評価有限公司 王青チーフマクロアナリスト(経済参考報2022年4月18日)

「内外のバランスを併せ考慮することに着眼すると、金融政策の実施は比較的慎重・周到となり、将来の政策のテンポは『小幅に小走り』し、タイミングを見計らって動くものと予想される。

4-6月期に、さらに準備率を引き下げる可能性がある。現在のカギは、タイミング・テンポ・程度である。監督管理層は、疫病の影響と準備率引下げが人民元レートとクロスボーダー資金流動に及ぼす影響のバランスを取らなければならない」。

(4)広発証券 劉郁固定収益チーフアナリスト(2022年4月18日中国証券報)

「FRBが急速に金融政策を引き締め、中米金利差に一度逆鞘が出現している情況に対しては、わが国の金融政策は力を発揮して成長を安定させると同時に、内外のバランスを併せ考慮する必要がある」。

「もし、5%が預金準備率の最低ラインであり、3ランクの構造を更に重層化しないのであれば、今後の準備率引下げの余地は限界がある」。

(5)紅塔証券研究所 李奇霖所長(2022年4月18日中国証券報)

「中央銀行はインフレ期待をコントロールすることを考慮している。このため、準備率の引下げ幅がかなり抑制的なのである」。

「今回の準備率引下げの核心目的は、銀行に長期低コストの資金を提供し、社会総合資金調達コストを引き下げることである」。

(6)中金公司マクロ研究団体(2022年4月18日中国証券報)

「最近、主要短期金融市場の金利は低レベルで推移しており、銀行システムの流動性は比較的充足されている。構造的金融政策のオペレーションを強化すれば、一定の流動性供給を形成するので、大幅な準備率引下げの逼迫性は強くない」。

「銀行は現在、住宅ローン金利を引き下げており、さらに預金金利決定メカニズム改革を通じて銀行預金コストが引き下げられれば、貸出金利引下げを推進する可能性がある」。

(7)華泰証券 張継強固定収益チーフアナリスト(2022年4月18日中国証券報)

「金融政策は余地を残しておく必要があり、弾丸を撃ち尽くしてはならない」。

「MLFの利下げが空振りとなった主要原因は、外部制約である。この影響は貸出プライムレートにも同様に適用され、今回の準備率引下げは25日にようやく実施されることになった。貸出プライムレートは20日である。このため、4月に貸出プライムレートが引き下げられる蓋然性は大きくない。今回の準備率引下げは、貸出プライムレートの引下げを触発するには不十分である」。

(8)東呉証券マクロ研究団体(2022年4月18日中国証券報)

「4月に1年物・5年以上の2つの期間の貸出プライムレートが同歩調で5ベーシスポイント引き下げられる可能性がある。もし、経済成長が潜在成長水準を下回るリスクがあれば、利下げの必要が出てくる」。

(9)天風証券 孫彬彬固定収益チーフアナリスト(2022年4月18日中国証券報)

「4月に貸出プライムレートが引き下げられ、かつおそらく1年物と5年以上が同歩調で引き下げられる可能性は排除できない」。

(10)平安証券 鐘正生チーフエコノミスト(2022年4月18日中国証券報)

「今回の準備率引下げの銀行の負債コスト圧縮作用は、貸出プライムレート引下げを牽引するには不十分だが、これに続く人民銀行あるいは預金の自律的メカニズム改革等の方式を通じて、商業銀行の貸出プライムレート圧縮を一層誘導するものであり、質の優れた貸出債権の不足・銀行負債コストの軽減等は、いずれも将来銀行が貸出プライムレートを引き下げることに有益である」。