田中 修

中国経済レポート

当面の経済情勢への対応(2)

新領域研究センター 田中 修

2022年4月18日


はじめに

コロナがリバウンドし、ウクライナ紛争が長期化するなか、1-3月のGDP発表を控え、李克強総理は当面の経済政策対応の検討を急いでいる。本稿では、4月6・13日の国務院常務会議、7日の専門家・企業家座談会、11日の一部地方政府主要責任者座談会の概要を紹介する。なお、重要なフレーズは太字で示している。

1.国務院常務会議(4月6日)
(1)経済の現状

現在、わが国の経済運営は総体として合理的区間を維持しているが、内外環境の複雑性・不確定性が激化しており、あるものは予想を超えている

世界経済の回復は鈍化し、グローバルな食糧・エネルギー等の大口取引商品市場が大幅に変動し、国内で疫病が最近多発し、市場主体の困難が顕著に増大し、経済循環の円滑性がいくらかの制約を受け、新たな下振れ圧力が一層増大しており、自信を確固とするのみならず、新たな問題・新たな試練を高度に重視し警戒しなければならない

党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹し、疫病防御と経済社会の発展を統一し、中央経済工作会議精神と「政府活動報告」措置の実施に急いで取り組み、ものによっては前倒しで実施してもよい

成長の安定を更に際立てて位置づけ、成長の安定・構造の調整・改革の推進を統一し、マクロ経済の大基盤を確実にしっかり安定させる。

経済運営を合理的区間に維持し、主として雇用と物価の基本的安定を実現するには、市場主体の安定を通じた雇用の保障に力を入れ、施策を総合して物流の円滑さと産業チェーン・サプライチェーンの安定を保障し、食糧・エネルギーの安全を保障しなければならない。

各部門は大局に着眼し、主動的に行動し、既に定めた政策の実施を督促すると同時に、情勢の変化に対して事前政策案の検討に急いで取り組み、市場の予想の安定に有利な措置を適時打ち出さなければならない。

各地方も実際と結びつけ、家賃減免等の実際的で役に立つ措置を打ち出さなければならない。

(2)財政面

現在、いくらかの市場主体が深刻なダメージを受け、甚だしきは生産停止・廃業しているものもあり、際立った困難に対し困難緩和と雇用の最低ライン保障を強化しなければならない。

飲食、小売、観光、民間航空、道路・水運・鉄道輸送等の特殊困難業種については、今年4-6月期に年金保険料納付の一時猶予を実施し、既に実施している失業・労災保険料の納付一時猶予政策の範囲を、飲食・小売・観光業から上述の5業種に拡大し、これらの業種とりわけ中小・零細企業、個人工商事業者の資金圧力を緩和する。

②失業保険の保障範囲一時拡大政策を継続執行し、今年末までに保険に加入した失業者に対し、失業補助金を給付し、保険に加入した失業出稼ぎ農民に対し、一時生活補助金を給付する。

③中小・零細企業への雇用安定目的の失業保険料還付割合を高め、条件の合致した地方に60%から最高90%に引き上げることを認める。

地方が失業保険基金残高から更に4%を引き出して、職業技能訓練に用い、疫病の影響を受けて暫時正常な経営ができないでいる中小・零細企業に対して、1回限りの雇用継続訓練補助金を給付することを認める。

(3)金融面

再貸出等の多様な金融政策手段を適時柔軟に運用して、総量・構造の二重の機能を更にしっかり発揮させ、実体経済への支援を増やさなければならない。

①穏健な金融政策の実施を強化し、流動性の合理的な充足を維持する。

「三農」支援、小型・零細企業支援再貸出を増やし、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援手段をうまく用いて、市場化・法治化した方法により金融機関の実体経済に対する合理的な利潤移譲を促進し、中小・零細企業の資金調達の量の増加・範囲の拡大・金利の引下げを推進する。

②消費と有効な投資を金融支援する措置を検討・採用する。

新市民に対する金融サービス水準を高め、社会保障的性格をもつ住宅への金融サービスを最適化し、重点プロジェクトの資金調達需要を保障し、製造業向け中長期貸出のかなり速い伸びを推進する。

③重点分野・脆弱部分への融資を支援する。

科学技術イノベーション・包摂的高齢者介護(養老)特別再貸出を設け、人民銀行は貸出元金に対してそれぞれ60%・100%の再貸出支援を提供する。

政府特別債を用いて中小銀行の資本を補充する政策をしっかり実施し、銀行の貸出能力を増強する。

2.専門家・企業家座談会(4月7日)

北京で開催され、経済情勢を分析し、今後の経済政策をしっかり実施することについて意見・建議を聴取した(新華社北京電2022年4月8日)。李克強総理の発言の概要は、以下のとおりである。

今年に入り、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、各地方・各部門は党中央・国務院の手配を貫徹し、困難・試練に積極的に対応し、経済運営は総体として合理的区間にある。

現在、世界情勢は複雑に変化し、国内ではコロナが最近多発し、いくらかの突発要因は予想を超えており、経済の平穏な運営に対して更に大きな不確定性・試練をもたらしている。自身を確固とするのみならず、困難を正視しなければならない。

新発展理念を貫徹し、質の高い発展を推進し、疫病防御と経済社会の発展を統一し、改革開放を深化させ、主動的に行動して変化に対応し、難関を克服して、成長の安定に力を入れ、経済運営を合理的区間に維持し、主として雇用・物価を安定させなければならない

政策措置は前倒しで力を発揮させ、適時強化し、既に打ち出したものはできるだけ速やかに完全実施し、打ち出すことが明確になっているものはできる限り前倒しで打ち出し、同時に新たな事前対応策を検討・準備しなければならない。

市場主体は経済の基盤を安定させる重要な基礎である

現在、いくらかの市場主体とりわけ中小・零細企業、個人工商事業者は困難が多く、プレッシャーが大きく、彼らの難関克服の支援に力を入れなければならない。上下が協同して増値税の控除留保分還付の進度を加速し、資金をできるだけ早く市場主体に届けなければならない。

雇用が安定してこそ、民生は保障され、成長の安定もサポートされる

企業の雇用を安定させる政策をしっかりきめ細かく実施し、大学卒業生の就職サービスを強化し、起業による雇用の牽引を支援しなければならない。

物価を安定させるには、食糧生産・エネルギーの供給保障・物流の円滑化等のカギとなる課題にしっかり取り組まなければならない

農期を誤ることなく春季耕作・生産にしっかり取り組み、農業資材産品とりわけ特殊物品の供給保障・価格安定政策をしっかり実施し、年間の食糧豊作を確保しなければならない。

石炭の先進的生産能力を一層活用し、石炭火力発電企業の多くの発電を支援する政策を実施し、エネルギーの安定供給を保障する。

協調を強化し、交通主幹線・港湾等の基幹ネットワークの秩序立った運行を保障し、トラックドライバーのサポート、貨物輸送経営者の困難緩和、物流コスト引下げ等の方面で的確な措置を検討・採用し、国際・国内物流の円滑化を促進し、産業チェーン・サプライチェーンの安定を擁護する。

改革を深化させ、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げなければならない

「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を引き続き推進し、管理すべきものは法に基づき監督管理を透明化し、市場主体の活力を不断に奮い立たせる。

政策を制定・実施する際には各種(所有制)企業を同一視し、市場主体の意見を真剣に聴取し、市場の(将来)予想を安定させる。プラットフォーム経済の健全で持続的な発展を推進し、雇用を安定・牽引させる

改革の措置・イノベーションの方法を用いて、消費と有効な投資の拡大を促進しなければならない

小売・飲食・観光等の消費と密接に関連する業種について、困難緩和を一層強化しなければならない。耐久消費財の消費、疫病の影響を受けローン返済が困難な消費者について、相応の支援政策を検討しなければならない。

投資の審査・認可を最適化し、プロジェクト建設の進度を加速する。地方政府特別債の呼び水作用を発揮させ、更に多くの民間投資を牽引する。

ハイレベルの対外開放を拡大し、対外貿易・外資の安定政策をしっかり実施し、人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を維持し、外部環境の不確定性に有効に対応しなければならない

3.一部地方政府主要責任者座談会(4月11日)

江西省南昌で開催され、江西省の書記・省長、遼寧省・浙江省・広東省・四川省の省長が発言して、管轄地の経済運営情況と今後の動向の見方を報告し、実際と結びつけて国家政策等について建議を提出した(新華社南昌電2022年4月11日)。李克強総理の発言の概要は、以下のとおりである。

今年に入り、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、各地方・各部門は党中央・国務院の手配を貫徹し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)政策を着実にしっかり実施してきた。

わが国経済が総体として合理的区間で運営され、高い強靭性を擁し、自信を確固としていることを見て取るだけでなく、国際・国内環境がいくらか予想を超えて変化し、経済の下振れ圧力が一層増大していることを高度に警戒し、新たな試練を正視し、これに果断に対応しなければならない

疫病防御と経済社会の発展を統一し、「穏」(安定・穏健)の字を第一として、安定の中で前進を求めることを堅持し、政策の主動性・展望性を増強し、新発展理念を貫徹し、質の高い発展を推進し、マクロ政策の実施を強化し、経済基盤をしっかり安定させ、基本民生を保障し、改革開放を深化させ、雇用・物価を安定させることにより合理的区間での経済運営をサポートしなければならない

緊迫感を増強し、中央経済工作会議精神と「政府活動報告」措置の実施に早急に取り組み、税還付・減税・費用引下げ、実体経済への金融支援、特別債の発行・使用、重点プロジェクトの建設着工、企業の雇用安定支援等の政策の実施は、いずれも前倒しで手配し、テンポを加速し、1-6月に大部分を実施し、更に多くの実物成果量を形成し、市場主体の難関克服を支援する上で更に大きな政策効果を生み出さなければならない

カギとなる部分にしっかり取り組み、経済運営が直面する際立った矛盾に有力・有効に対応しなければならない。

春季耕作・生産に着実にしっかり取り組み、農業資材の供給保障・価格安定と末端への配送をしっかり行い、決して農期を見逃してはならず、年間の食糧豊作を確保し、物価安定の基礎を打ち固める。

各関係方面は大局に着眼し、協調を強化して、電力・石炭等のエネルギーの安定供給を保障し、国内の先進的石炭生産能力の活用を加速しなければならない。

現在物流が円滑でないことが経済循環に与える影響を高度に重視し、地域間・部門間の結びつきを強化し、交通基幹ネットワーク・港湾等の秩序立った運行を確保し、国際・国内物流を円滑にして、産業チェーン・サプライチェーンの安定を擁護する。

疫病の影響が深刻なカギとなる部分、重点企業については、「点対点」の支援措置を採用しなければならない

外部環境と国内経済運営に対するフォローアップ・検討・判断を強化し、事前対応案を適時検討・制定し、市場の予想を安定させなければならない。必要に応じ、更に強力な政策措置を検討・採用する。

地方とりわけ末端は市場主体との距離が近く、最新の情況を掌握し、自身の政策の潜在力を発掘し、困難が大きい業種、企業とりわけ中小・零細企業と個人工商事業者に対し、土地の事情に応じて的確性の強い支援措置を実施しなければならない

困難が多いほど、市場主体のために益々良好なビジネス環境を提供しなければならない

改革を深化させ、「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を引き続き推進し、市場化・法治化の方法により安定して透明で、公平な競争の市場環境を作り上げ、市場の予想に不利な政策を打ち出すことを防止し是正しなければならない

雇用・基本民生の保障の責任を担わなければならない。雇用の促進・サポートにしっかり取り組み、失業者補助金を適時満額給付する。疫病の影響を受けた大衆への生活必需の供給をしっかり行い、医療ニーズを保障し、困難に遭遇している大衆に救済を与え、民生の最低ラインをしっかり保障する

4.国務院常務会議(4月13日)
(1)消費の促進

消費は経済に対して持続的な牽引力を有しており、民生の保障・改善に関わるものである。党中央・国務院の手配を貫徹し、協同で力を発揮し、長期・短期を併せ考慮して当面の消費安定に努力し、施策を総合して消費の潜在力を発揮させなければならない。

①コロナの影響に対応し、消費の回復・発展を促進しなければならない。

既に打ち出した飲食、小売、観光、民間航空、道路・水運・鉄道輸送等の特殊困難業種の困難緩和政策の完全実施に早急に取り組み、地方が支援を強化するよう奨励し、更に多くの消費サービス市場主体をしっかり安定させる。

②新しいタイプの消費を促進しなければならない。

オンライン・オフライン消費の融合を加速し、スマート製品・サービス等の「スマート+」消費を壮大に育成する。

③重点分野の消費を拡大しなければならない。

医療・ヘルスケア、高齢者介護、託児保育等のサービス消費を促進し、社会(民間)パワーによるサービス消費の不足補完を支援する。

自動車・家電等の大口消費を奨励し、各地方は自動車購入制限措置を新たに増やしてはならず、既に実施している購入制限については自動車増加指標を段階的に引き上げる。新エネルギー自動車消費と充電スタンド建設を支援する。

④県・郷消費の潜在力を発掘しなければならない。

商品取引流通企業、Eコマースプラットフォーム等を農村に向けて延伸し、ブランド・高品質消費の農村普及を推進する。

⑤保障を強化しなければならない。

改革を深化させ、消費を制約する障礙を除去する。消費プラットフォームの健全で持続的な発展を推進する。金融機関が大口消費金融商品を豊富にするよう誘導する。

重点プロジェクトの建設進度を加速し、消費関連インフラ建設を特別債の支援範囲に組み入れ、投資により消費を牽引する。

法に基づき偽物・粗悪品製造販売、価格操作、虚偽宣伝等の行為を取り締まる。

(2)対外貿易の平穏な発展の促進

対外貿易企業の困難緩和に助力し、輸出入の平穏な発展を促進するため、輸出税還付という包摂的・公平で国際ルールに合致した政策の効用を更にしっかり発揮させ、多方面から対外貿易ビジネス環境を最適化しなければならない。

①加工貿易企業については、国家が輸出製品の課税・還付税率を一致させる政策を実行して後、還付すべきもので未だ還付していない税額を、仕入税額控除留保分の増値税に編入して控除することを認める。

対外貿易企業が取得した輸出信用保険金を受取り外貨と見なし、税還付処理を行う。出国する旅行者の税還付政策のカバー範囲を拡大し、「買えばすぐ還付する」等の便宜措置を推進する。

②税還付の進度を加速する。

部門のデータ共有を強化し、税還付に必要な書類を簡素化し、届出・審査・回答の全プロセスのオンライン処理を実施し、今年は正常な税還付の処理期間を平均7営業日から6営業日内に一層圧縮する。

対外貿易総合サービス企業が税還付を一括代行処理することを支援する。

③対外貿易ビジネス環境を引き続き最適化する。

積戻し輸出貨物の通関効率を高める。海外倉庫の発展を支援し、越境Eコマースの返品・交換を簡便にする政策を検討・制定する。

通関・税還付等の方面で信用を順守する企業に更に多くの便宜を図り、輸出偽装・税不正還付等の行為について法に基づき厳しく懲罰する。

(3)実体経済への金融支援

当面の情勢変化に対し、引当水準のかなり高い大型銀行が引当カバー率を秩序立てて引き下げることを奨励し、預金準備率引下げ等の金融政策手段を適時運用して、銀行の貸出能力増強を推進し、実体経済とりわけ疫病の影響が深刻な業種と中小・零細企業、個人工商事業者への金融支援を一層増やし、実体経済に向けて合理的に利潤を移譲し、企業の総合資金調達コストを引き下げる