田中 修

中国経済レポート

2022年経済・財政報告のポイント(1)

新領域研究センター 田中 修

2022年4月11日


3月5日、国家発展・改革委員会から全人代に対し、「2022年度国民経済・社会発展計画」(経済報告)が、財政部から全人代に対し、「2022年度中央・地方予算」(財政報告)が、それぞれ書面で報告された。また、4月7日には財政部が予算の具体的なデータを公表した。そのポイントは以下のとおりである。なお、重要な部分は太字で示している1

1.経済目標

主要な経済目標は、以下のとおりである。

経済目標(予期目標を含む)(失業率以外は前年比)

経済目標(予期目標を含む)(失業率以外は前年比)

2.2021年度予算の全体像

2021年度予算の全体像

(注)括弧書きは、予算執行見込額に対する伸び率。

3.2021年財政政策の執行情況

主なもののみ紹介する。

(1)景気対策

①新規地方政府特別債額:3.65兆元

②新規減税・費用引下げ:1兆元超

③2013年以降新しく増えた納税市場主体の21年の納税額:4.76兆元

④常態化した財政資金直接交付資金:2.8兆元

(2)イノベーション

①21年中央一般公共予算の基礎研究支出:15.3%増

②製造業企業のR&D費用割増控除比率:75%から100%に引上げ

(3)民生

①退職者基本年金:4.5%前後引上げ

②企業従業員基本年金基金の中央調整割合:4.5%

③各地方の都市老朽化小住宅団地改造の着工支援件数:5.6万カ所

(4)債務リスクの防止・解消

①潜在債務リスクの防止・解消

部門の協同監督管理を強化し、新たに増えた地方政府の隠れ債務問題を断固調査・処分し、関係地方・部門の厳格な処理・問責を督促した。

一部の条件を備えた地方で、全域隠れ債務解消テストを率先して展開し、隠れ債務ゼロ化を着実に推進し、地方政府債務の長期有効な監督管理制度の枠組の確立を模索した。

潜在債務リスクは一層緩和され、リスクは総体としてコントロール可能である。

②地方政府の債務管理整備

地方政府特別債の発行・使用・管理・償還の全プロセスの管理を引き続き強化し、特別債プロジェクトに対する透明度の高い監視作業案、特別債資金投入禁止プロジェクトリスト、特別債用途調整操作ガイドライン等の制度を制定し、債券資金の安全・規範的で効率の高い使用を促進した。

特別債による中小銀行の資本金補充を着実に推進し、中小銀行のリスク制御能力を増強した。

(5)財政の困難・問題点

①一部の地方とりわけ市・県の財政収支の矛盾が際立っており、「基本民生・賃金・運営保障」支出圧力が増大している。

②一部地方の減税・費用引下げ・企業の困難緩和支援政策が有効に実施されておらず、不当な罰金徴収・費用徴収・強要といった現象が禁止しても止まっていない。

③一部地方特別債プロジェクトのストックが不足し、債券資金が放置され、投下分野が規定に合致していない。

④新たな隠れ債務の増加情況が依然として存在し、一部の地方政府の債務負担がかなり重く、一部の地方の債務償還圧力がかなり大きい。

⑤一部の予算編成は精確さ・細分化が十分でなく、予算執行の厳格性の一層の増強が必要である。

⑥一部のプロジェクトの実績の目標設定が非科学的で、実績の自己評価が客観性を欠き、資金の使用効率の向上が必要である。

⑦一部の地方は規定に違反して事務棟・公会堂・記念館・招待所を建設しており、一部の企業の不正経理がしばしば発生し、財政経済紀律と財務会計監督の一層の強化が必要である。

⑧一部の地方・部門の倹約関連措置が、なお完全実施されていない。

我々は、これらの問題を高度に重視しており、積極的に措置を採用して解決する。

4.2022年の財政収支情勢

現在、世界の疫病はなお続いており、世界経済の回復動力は不足し、大口取引商品価格は高水準で変動しており、外部環境は更に複雑・峻厳・不確定化の傾向にある。わが国の経済発展は、需要の収縮・供給へのダメージ・(市場の将来)予想の弱気化の三重の圧力に直面しており、経済の平穏な運営の難度が増大し、財政収支の矛盾が依然として際立っている。

財政収入から見ると、減税・費用引下げ政策の効果が引き続き発揮され、市場主体の活力・動力がある程度増強され、経済の安定・回復の態勢が不断に強固となり、財政収入の増加のために堅実な基礎を打ち固めている。同時に、新たな経済下振れ圧力が財政収入の伸びに制約を形成しており、企業の生産・経営の困難緩和には新たな減税・費用引下げ政策を必要としており、疫病情勢の変化も財政収入の不確定性を大きくしている

財政支出から見ると、各分野の財政資金ニーズがかなり大きく、基本民生、科学技術の難関攻略、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大することと農村振興の有効なリンク、生態環境保護、国防等の支出の保障強化が必要であり、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル政策をしっかり実施し、地域協調発展を促進することにも新たな支出増加が必要となる。

総体として見ると、2022年の財政収支情勢は依然として峻厳であり、財政資源の統一を強化し、保障するものと圧縮するものを区別し、重点を際立たせ、力を尽くして実行し、力量を慮って実行して、科学的・合理的に予算をしっかり編成し、党中央・国務院の政策決定・手配の実施を確実に保障しなければならない。

我々は困難を正視するだけでなく、自信を確固としなければならない。わが国の経済は強靭性が高く、長期に好い方へ向かうファンダメンタルズに変わりはなく、マクロ政策には余地・手段があり、経済社会の持続的で健全な発展を推進する基礎・条件を完全に有している。

5.2022年の予算編成・財政政策への総体要求
(1)予算編成

2022年の予算編成・財政政策をしっかり行うには、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、第19回党大会・党19期各全会精神を全面的に貫徹実施し、偉大な建党精神を発揚しなければならない。安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹し、新たな発展の枠組を早急に構築し、改革開放を全面的に深化させ、イノベーション駆動の発展を堅持し、質の高い発展を推進し、刻苦奮闘・勤倹節約の思想を牢固に樹立しなければならない。

積極的財政政策は効果を高め、精確性・持続可能性を更に重視し、マクロ経済の安定のために力を発揮し、新たなパッケージ式の税・費用引下げ政策を実施し、国家重大戦略任務への財政力保障を増強し、財政支出の強度を保証しなければならない。支出の重点・構造を最適化し、財政力の下方移転を推進し、党・政府機関は倹約堅持の要求を実施し、財政経済紀律を厳格化し、地方政府の債務リスクを秩序立てて解消し、財政・税制改革を深化させ、資金の使用効率を高めなければならない。「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)政策を引き続きしっかり実施し、引き続き民生を改善し、マクロ経済の大基盤の安定に力を入れ、経済運営を合理的区間に維持し、社会の大局の安定を維持して、第20回党大会の勝利の開催を迎えなければならない。

(2)財政政策

2022年の積極的財政政策は効果を高め、精確性・持続可能性を更に重視しなければならない。

政策効果を高め、「マクロ政策は穏健・有効でなければならない」という要求に基づき、財政資源を統一し、予算編成・査定・支出・実績の管理を強化し、実績評価結果と予算計上の有機的なリンクを推進し、金融・雇用・産業等の政策協調を強化しなければならない。

精確さの要求を実施し、製造業の質の高い発展、中小・零細企業の負担軽減・困難緩和、科学技術イノベーションに焦点を絞り、新たな減税・費用引下げを実施し、増値税の控除留保分の還付制度改善に力を入れなければならない。財政支出の構造を一層最適化し、倹約の要求を実施し、基本民生・重点分野への保障、地方とりわけ末端への財政力保障を強化する。

持続可能性を増強し、必要性と可能性を統一して財政支出を計上し、発展の中で民生を保障・改善することを堅持し、高望みをせず、欲張らずに、発展段階からの逸脱を回避しなければならない。財政赤字の対GDP比を適切に引き下げ、債務規模を合理的に計上し、リスクを有効に防止しなければならない。

重点として6方面を把握しなければならない。

①負担軽減・困難緩和を強化し、市場主体の活力を増強する

一時的措置と制度的手配を結びつけることを堅持し、減税と税還付を併せ打ち出す。

一部の2021年に期限が到来する一時的な減税・費用引下げ政策を継続実施し、減税・費用引下げ政策の成果を強固にして拡大する。新たな政策措置を検討して打ち出し、中小・零細企業、個人工商事業者への減税・費用引下げを精確に実施する。

増値税の控除留保分の還付を顕著に強化し、製造業と小型・零細企業のキャッシュフロー増加を精確に支援する。

政策の実施効果をフォローし、企業が不満をもつ際立った問題を適時解決する。年間の税還付・減税は約2.5兆元と予想され、うち控除留保分税還付は約1.5兆元であり、資金を直接企業に交付する。中央財政は地方財政力支援を増やし、補助金を直接市・県に交付する

②適切に支出の強度を維持し、財政支出の構造を最適化する

2022年の財政赤字の対GDP比率を2.8%前後とし、21年よりある程度引き下げる。22年の財政収入は引き続き増加し、これに特定国有金融機関と専売機関が法に基づき上納する近年の利潤留保分、予算安定調節基金からの繰入を加えると、全国一般公共予算支出を26.71兆元計上し、21年より2兆元以上拡大し、8.4%増とし、使用可能な財政力が顕著に増加する。

財政支出の構造を最適化し2既に国家第14次5カ年計画要綱・重点特別計画等に組み入れた重点プロジェクトを優先的に支援し、インフラ投資を適度に前倒しで展開し、科学技術の難関攻略・生態環境保護・基本民生・現代農業等の分野及び地域重大戦略への支援を強化する。

③地方政府特別債を合理的に計上し、重点プロジェクトの建設を保障する

政府のレバレッジ率(政府債務総額の対GDP比)総体の基本的安定を維持するという要求に基づき、2022年は新規地方政府特別債の限度額を3.65兆元計上し、21年と同額とする。全人代常務委員会への届出を経て、既に新規地方政府特別債金額1.46兆元を前倒しで下達している。

「資金はプロジェクト次第」を堅持し、特別債プロジェクトのストックを深くきめ細かに実施し、特別債を重大プロジェクトの資本金とする政策をうまく十分に用いて、特別債の投下分野を最適化し、資金使用の監督管理を厳格にし、バラマキを行わず、建設中・できるだけ速やかに着工が可能なプロジェクトを重点支援し、有効な投資を拡大する。

④財政力の下方移転を推進し、末端が「基本民生・賃金・運営保障」政策をしっかり実施することを支援する

中央の地方への移転支出とりわけ一般性移転支出の規模をかなり大幅に増やし、困窮地域・未発達地域に傾斜させる。中央一般公共予算の地方への移転支出を9.8兆元近く計上し、約1.5兆元、18%増とし、これまでより大幅に高め、地方財政支出の伸びは8.9%に達する

省レベル財政も最大限度財政力を下方移転し、末端の企業困難緩和支援政策の実施と基本民生・賃金・運営の保障を支援しなければならない。

常態化した財政資金の直接交付メカニズムを整備し、一層範囲を拡大して、資金の迅速・精確な下達・使用を推進する。

⑤党・政府機関の倹約を堅持し、節約型機関・節約型社会を建設する

中央部門は倹約を牽引し、義務的支出・急を要する支出を重点的に保障し、一般性支出を厳しく抑制し、「公費海外出張、公費接待、公用車の購入・維持管理」経費予算の管理を強化し、行政運営コストの引下げに努力し、2022年は中央部門支出を2.1%削減する。

地方各レベル政府も厳しく精査・倹約して、更に多くの財政資源を捻出し、基本民生の改善と市場主体の発展支援に用いて、国民のための使用節約を確実に成し遂げなければならない。

財政支出の健全な制約メカニズムを整備し、財政の遊休資金・資産を活用して、行政事業体の資産共有・共用を推進し、倹約の制度体系を不断に整備し、実施情況の評価を強化する。

全社会を誘導して刻苦奮闘・勤倹節約の伝統・美徳を発揚し、すべての事業を節倹して実施する。

⑥財政経済紀律を厳格にし、規定に違反した財政資金の使用、脱税、不正経理等の行為を断固止めさせる

財政経済法律・法規と管理規定を厳格に執行し、制度という檻の抜け穴をなくし、制度の厳格性を断固擁護する。財政資金をしっかり管理し、うまく用いて、収支行為を規範化し、規定に違反して庁舎・公会堂・記念館・招待所を建設してはならず、政治業績プロジェクト・イメージ作りプロジェクトを行ってはならない。

税の徴収管理制度を整備し、法に基づき脱税・税騙取行為を厳しく取り締まる。会計検査の秩序を一層規範化し、不正経理行為に歯止めをかける。地方財政経済秩序特別取締キャンペーンを組織的に展開し、規定に違反した行為を厳格に調査し重く処分して、財政経済紀律を抵触できない「高圧線」とする。(つづく)

  1. 報告の文章は、全人代承認後公表された新華社北京電2022年3月13日版をベースにしている。
  2. 全人代の修正で盛り込まれた。