田中 修

中国経済レポート

増値税の還付

新領域研究センター 田中 修

2022年4月8日


はじめに

3月21日、国務院常務会議は大規模な仕入増値税控除留保分還付政策の実施を確定し、マクロ経済の大基盤の安定のために強力なサポートを提供した。23日は、この内容につき、財政部・国家税務総局が記者会見を行った。本稿では、会議の概要と財政部説明の概要を紹介する。

1.国務院常務会議(3月21日)

党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹し、「政府活動報告」の手配に基づき、当面の内外情勢の新たな変化に対し、経済運営を安定させる政策を早急に打ち出して実施しなければならない。

2022年、(仕入に係る)増値税控除留保分還付の規模を約1.5兆元とする。これは、「2つのいささかも揺るぐことなく」1を堅持し、各種市場主体に対する直接的で効率の高い困難緩和措置であり、成長・市場主体を安定させ雇用を保障するカギとなる措置であり、税源を涵養し、増値税制度の改善に力を入れる改革でもある。

①すべての業種の小型・零細企業、一般的な税額計算方式に基づき納税している個人工商事業者に対し、1兆元近い税を還付する。

うち、既存の控除留保税額を6月末前に一括全額還付し、零細企業には4月に集中還付し、小型企業には5・6月に還付する。

新規控除留保税額は4月1日から月ごとに全額還付し、「連続6カ月新規控除留保税額が0より大きく、最後の1カ月の新規控除留保税額が50万元より大きい」等の税還付条件を一時的に廃止する。

②製造業、科学研究・技術サービス業、電力・熱力・ガス及び水生産・供給業、ソフトウエア・情報技術サービス業、生態保護・環境対策業、交通運輸・倉庫・郵政業の6業種の企業の既存の控除留保税額について、7月1日全額税還付処理を開始し、年末前に完成する。新規控除留保税額は、4月1日から月ごとに全額税還付しなければならない。

③中央財政が現行税制の50%の税還付資金を負担する基礎の上に、さらに1.2兆元の移転支出資金の3つの特別枠を設けることを通じて、末端の税還付・減税・費用引下げと雇用・基本民生保障等の実施を支援する。

うち、新規控除留保分の税還付の地方負担部分について、中央財政は平均82%超を補助し、中西部に傾斜させる。

資金事前交付メカニズムを確立し、月ごとに事前交付し、順次清算させ、地方の国庫に常時半月分の税還付に必要な資金を確保する。

資金の監督管理・国庫管理を強化し、税還付資金の市場主体への直接交付、対地方補助の市・県末端への直接交付を確保し、脱税・税騙取・補助金騙取等の行為を断固取り締まり、厳しく懲罰する。

2. 財政部・国家税務総局記者会見(3月23日)
(1)財政部の概説

税還付・減税は、2022年にマクロ経済の大基盤を安定させるためのカギとなる措置である。

習近平総書記は中央経済工作会議で「新たな減税・費用引下げ政策を実施し、中小・零細企業、個人工商事業者、製造業、リスク解消等への支援を強化する」と強調した。李克強総理は2022年「政府活動報告」において「新たな組合せ式の税・費用支援政策を実施し、増値税の税制設計による『先に徴収し、後で還付する』式の(仕入れに係る)増値税税額控除留保分の還付制度の改善に力を入れ、2022年は控除留保分の大規模還付を前倒しで実行する」と指摘した。3月21日、国務院常務会議は2022年の大規模な控除留保分還付の具体的政策を審議・承認した。

財政部・国家税務総局は党中央・国務院の政策決定・手配を断固貫徹し、国務院常務会議精神に基づき、3月22日「増値税の期末控除留保分の税還付政策実施の一層強化に関する公告」を公布し、この政策の具体的措置と操作方法を明確にし、還付すべき税をできるだけ速やかに企業に還付することを確保した、同時に、財政部は第1回の小型・零細企業控除留保分税還付特別移転支出4000億元を下達した。

以下、関係政策の情況を紹介する。

①増値税の控除留保分還付政策の実施情況
近年、複雑・峻厳な内外情勢と多くのリスク・試練に直面し、党中央・国務院は全局に着眼して増値税改革を深化させる重大戦略手配を行い、改革を通じて現代増値税制度を基本的に確立してきた。

2018年以前の主要な処理方式は、次の期に繰り越して控除し、2019年以降は先進製造業の新規控除留保税額を全部還付し、その他業種については一定の条件を設け、条件を満足する新規控除留保税額は一定割合を還付していたが、2022年は控除留保税額の大規模還付を前倒しで実行する。

②2022年、増値税控除留保分還付政策を実施する

今年の「政府活動報告」の手配・要求に基づき、新たな組合せ式の税・費用支援政策を実施し、年間の税還付・減税は約2.5兆元となる。うち、大規模な税還付の実行が主要な措置であり、年間の控除留保分の税還付は1.5兆元であり、2.5兆元のうち1.5兆元は増値税の控除留保分の還付である。

主要な内容は、以下のものが含まれる。

1)小型・零細企業を優先支援し、小型・零細企業増値税控除留保分還付政策を強化する。

すべての条件に合致する小型・零細企業について既存控除留保税額を一括還付し、新規控除留保分の税還付条件を緩和して、新規控除留保税額の還付割合を60%から100%に高め、全部還付する。

同時に、税還付の進度面では小型・零細企業を優先的に手配し、小型・零細企業既存控除留保税額について6月末前に一括で全部還付する。

2)製造業等の業種を重点的に支援し、製造業等の業種の控除留保税額の問題を全面的に解決する。

製造業等の業種の増値税控除留保分の還付政策を強化する。これまで、先進製造業に月ごとの新規控除留保税額を全額還付していたのに対して、今回は範囲を全部の製造業、及び科学研究・技術サービス業、電力・熱力・ガスと水生産・供給業、ソフトウエア・情報技術サービス業、生態保護・環境対策業、交通運輸・倉庫・郵政業等の業種に拡大し、22年末までにこれらの業種の既存控除留保税額を一括還付する。

3)中央は財政力保障を提供し、税の適時還付を確保し、「基本民生・賃金・運営の保障」を全額保証する。

財政部は現行税制に基づき50%の税還付資金を負担する基礎の上で、さらに1.2兆元の移転支出資金計上を通じて、末端が税還付・減税・費用引下げと雇用・基本民生保障等を実施することを支援する。

具体的に言えば、我々は3つの特別枠を通じて計上する。うち、新規控除留保分の還付のうち地方負担部分について、中央財政の補助割合は平均82%を超え、中西部地域に傾斜させる。

財政部は特別資金の分配案、予算下達、資金調整交付等の管理要求を明確にし、特別資金を直接交付の範囲に組み入れ、動態的な監視・コントロールを実行し、控除留保分の還付資金の適時全額還付を確保するだけでなく、特別資金の放置・流用を防止する。

省レベル財政部門は特別資金を分配する際、各県・区の実際情況を十分考慮して、的確なプランを制定し、県・区の財政力保障を増強し、「基本民生・賃金・運営の保障」の最低ラインをしっかり保障する。

上述の政策を実施した後は、条件の合致するすべての小型・零細企業及び製造業等の6業種の新規・既存控除留保税額問題を徹底解決でき、県・区が実施する新規控除留保分の還付とその他減税・費用引下げによる実際の減収予想を補填でき、県・区財政の平穏な運営を有力に保障する。

2022年の大規模な控除留保分の還付政策は、組合せ式の税・費用支援政策実施の重要な内容であり、企業への実際の資金還付を通じて、直接企業のためにキャッシュフローを提供し、その速やかな技術改造・設備更新を促進でき、市場主体の自信を有効に奮い立たせ、発展の内生的動力を増強し、経済の平穏で健全な発展を推進できる。

これから、財政部・税務総局は関係部門と、組織的な実施に早急に取り組み、各政策をしっかりきめ細かく実施する。形式が多用な政策の宣伝・解説と研修・補導を展開し、企業が政策を十分しっかりと用いることを支援する。同時に、関係部門と政策メカニズムを確立し、税還付の監督管理を一層強化し、財政経済紀律を厳格にして、脱税・税騙取・補助金騙取等の行為を断固防止し、取り締まり、控除留保分の還付政策の効用を確実にしっかり発揮させ、党中央・国務院の政策決定・手配の完全実施を確保する。

(2)政策を打ち出した理由

主として2方面から考慮した。

①当面の経済下振れ圧力に対応する必要性

現在、我々は新たな経済下振れ圧力に直面しており、経済の平穏な運営の維持の難度が増大し、控除留保分の税還付は組合せ式の税・費用支援政策の重要な手段であり、市場主体のために約1.5兆元のキャッシュフローを提供する。この数字は大きなものである。

企業に還付した後、企業は更に多くの資金を得て、技術改造あるいは科学技術への投入を進めることになり、1.5兆元を得たことで、企業の発展への自信・期待を高めることができ、マクロ経済の大基盤の安定のために強力なサポートを提供することになる。

②現代増値税制度の整備に有益である。

22年に大規模な控除留保分の税還付を実施し、既存の控除留保税額を大幅に解消し、増値税控除留保分還付制度の改善に力を入れることは、これまでの増値税改革を深化させ、引き続き推進するものである。我々が経済の下振れ圧力に対応して採用した措置は、増値税改革にとっても推進・整備である。

22年の1.5兆元は、必ずや効果があり、期末の控除留保税額を翌期に繰り越して控除することを当期の税還付に転換することは、控除サイクルを短縮し、企業のコストを減らし、企業が市場の情況に応じて合理的な政策決定を行うよう誘導することに有益であり、現代増値税の税制要求に更に合致するものである。

目下打ち出したこの政策は、短期的な経済下振れ圧力に対応できるだけでなく、経済の持続的で安定した発展に有益である。企業に恩恵を与え支援するだけでなく、税制ガバナンスシステムの現代化を推進することもできる。言うならば、一挙多得の成果を備えている。

(3)2022年の組合せ式の税・費用支援政策の特徴

①税還付・減税の総量が歴史最高である。

2022年の税還付・減税の総量は約2.5兆元であり、うち主要な措置は控除留保分の還付で規模は約1.5兆元であり、直接市場主体のためにキャッシュフローを提供し、企業の資金圧力を有効に緩和する。

②精確性を強化している。

一面で、政策の連続性・安定性を維持し、製造業の質の高い発展、小型・零細企業と個人工商事業者の発展活力増強に、引き続き精確に焦点を絞っている。

他方で、的確な政策措置を採用して、特殊困難業種・企業を精確に支援する。

③組合せ式を際立たせている。

22年の政策は一時的措置があるだけでなく、制度的手配もある。包摂的な政策があるだけでなく、特定分野への支援措置もある。中央が統一して政策を打ち出すだけでなく、地方が法に基づき行う自主的な施策もある。税還付があるだけでなく、減税・免税・税納付猶予等の多様な支援方式もある。

このような多様な政策手段の協同・組合せが更に大きな合成力を形成し、政策の効果を高める。例えば、企業に対する増値税控除留保分還付の強化と、R&D費用割増控除割合の引上げ政策は双方向に力を発揮し、製造業企業の設備更新と技術改造を促進し、産業の転換・グレードアップを推進する。

④政策の力発揮を適切に前倒ししている。

一面において、前倒しで公布・実施し、年初以降既に20項目余りの税・費用支援政策を迅速に打ち出し、できるだけ早く市場主体に政策ボーナスを享受させ、自信を奮い立たせている。

他方で、まだ控除していない税額を前倒しで還付し、控除留保分還付の進度を加速し、還付すべき税で速く還付できるものはすべて速く還付し、企業の難関克服・元気回復を適時支援する。

(4)これまでの増値税還付との違い

以下の特徴がある。

①前倒しで税を還付する

以前、増値税についてはいくらかの控除留保分を税還付していたが、採用していた方式は繰り越して翌期に控除するものであり、前倒しで還付するものではなく、繰越後の納税の際に控除するものであった。

22年に実施する控除留保分税還付政策は、仕入れの段階で還付することに改め、企業が生産・販売するのを待ってから控除するものではなく、つまり、設備購入の際、購入後販売を待つことなく、税務部門は先に購入した仕入れに係る増値税の還付処理を行うのである。これが前倒しの税還付であり、時間的な前倒しと言える。

②既存分の税を還付する

2019年4月以降、企業が新規購入した設備あるいは投資が形成した増値税を、我々は控除留保分の税還付の範囲に組み入れてきた。

22年はそうではなく、新規の控除留保税額を還付するだけでなく、以前の年度の残余の仕入れに係る増値税も還付しなければならない。つまり、若干年、売上の際に控除していなかった仕入れに係る増値税を全部還付することを認める。

このため、22年は以前と比べ、新規分の還付のみならず、既存分も還付しなければならない。

③範囲を拡大する

元々は、主として先進製造業起業で新規控除留保分の全額税還付を実施していた。今は、すべての製造業と小型・零細企業等の業種・企業に拡大している。

還付割合は小型・零細企業は以前60%還付にすぎなかったが、現在は制限をせず、100%還付とする。

④実施を保障する

元々、増値税の控除留保分還付は、現行の中央・地方財政体制に基づき分担してきた。つまり、中央50%負担、地方50%負担であり、これは増値税のシェア方法が50%ずつであったため、税還付の負担も50%だったのである。

22年実施する控除留保分の税還付は、中央が特別移転支出支援を計上する。つまり、中央が中央の分と地方の負担部分を引き受け、中央は特別移転支出を通じて支援を与え、地方の財政力要因の影響を受けて税還付政策が割り引かれないことを確保しているのである。

  1. ①いささかも揺るぐことなく公有制経済を強固にして発展させ、②いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導しなければならない。