田中 修

中国経済レポート

2022年政府活動報告のポイント(4)

新領域研究センター 田中 修

2022年3月29日


4.2022年の政府活動任務
4.7 ハイレベルの対外開放を拡大し、対外貿易・外資の平穏な発展を推進する

「内外2つの市場・2つの資源を十分利用し、対外経済貿易協力を不断に拡大し、ハイレベルの開放により深層レベルの改革を促進し、質の高い発展を推進する。

李克強総理は会見において、「対外開放政策については、中国は変えていないし、変えない。しかも我々の外商投資法は明確な規定があり、変えるというなら、開放拡大に有益で、投資・貿易に有益な方向に発展させるだけである。外資は中国で自身を発展させ、我々に投資・販売ルートをもたらし、我々の必要な商品をもたらしてもおり、皆にとって有益であり、どうして制限しなければならないのか? 国際的な風雲がいかに変幻しても、中国は断固開放を拡大する」と対外開放の継続を強調している

(1)多くの措置を併せ打ち出して対外貿易を安定させる

輸出信用保険の中小・零細対外貿易企業へのカバー範囲を拡大し、輸出貸出支援を強化し、外貨サービスを最適化し、輸出税還付の進度を加速し、対外貿易の受注・生産の安定を支援する。

対外貿易の新業態・新モデルの発展を加速し、越境Eコマースの役割を十分発揮させ、いくらかの海外倉庫の建設を支援する。質の優れた財・サービスの輸入を積極的に拡大する。

サービス貿易・デジタル貿易を刷新・発展させ、クロスボーダーサービス貿易のネガティブリストの実施を推進する。通関の利便化改革を深化させ、国際物流システムの建設を加速し、対外貿易のコスト低下・効率向上に助力する」。

21年報告では輸出の安定が重視されていたが、今回は輸出・輸入双方の安定が重視されている。また、今回報告の特徴であるコスト低下が対外貿易でも言及されている。新たな項目としては、「海外倉庫」・「デジタル貿易」がある

(2)外資を積極的に利用する

外資参入のネガティブリストを深く実施し、外資企業への国民待遇をしっかり実施する。

外資の投資を奨励する範囲を拡大し、外資がミドル・ハイエンド製造、研究開発、現代サービス等の分野と、中西部・東北地方への投資を増やすことを支援する。

外資促進のサービスを最適化し、重大プロジェクトの早急な実施を推進する。

自由貿易試験区・海南自由貿易港の建設を着実に推進し、開発区の改革・イノベーションを推進し、総合保税区の発展水準を高め、サービス業開放拡大総合テスト地区を増設する。

開放された中国の大市場は、必ず各国企業の中国における発展のために更に多くのチャンスを提供する」。

外資の投資支援対象として、ミドル・ハイエンド製造、研究開発、現代サービス、中西部・東北地方が具体的に列挙されている

(3)質の高い「一帯一路」を共同建設する

「共に協議・建設・享受することを堅持し、相互連結協力の基礎を強固にし、協力の新分野を着実に拡大する。西部の陸海新ルート建設を推進する。対外投資協力を着実に展開し、海外リスクを有効に防止する」。

21年報告では「対外投資の質・効率を高める」としていたが、今回は対外投資協力と海外リスクの防止を強調しており、「中国の勢力圏拡張」「債務漬け」といった「一帯一路」に対する国際的批判に配慮する形となっている

(4)二国間・多国間の経済貿易協力を深化させる

「RCEPは世界最大の自由貿易地域を形成し、企業が優遇関税・原産地累積等のルールをうまく用いて、貿易・投資協力を拡大することを支援する。更に多くの国家・地域とのハイレベルの自由貿易協定締結を推進する。多国間貿易体制を断固擁護し、WTO改革に積極的に参加する。中国は世界各国と互恵協力を強化し、ウインウインを実現することを望んでいる」。

今年発効したRCEPが強調されている反面、昨年言及されていた「CPTPPへの加入」「米中の平等・互恵の経済貿易関係の前向きな発展」は言及されていない。いずれもそう容易なことではないと認識しているのであろう

4.8 生態環境を引き続き改善し、グリーン・低炭素発展を推進する1

「汚染対策と生態保護・修復を強化し、発展と排出削減の関係をうまく処理し、人と自然の調和・共生を促進する」。

21年に地方が炭素排出削減を急いだ結果、石炭・電力不足を招いた反省を踏まえ、発展と排出削減のバランスが重視されている

(1)生態環境の総合ガバナンスを強化する

汚染対策堅塁攻略戦を深くしっかり闘う。多種な大気汚染物の協同コントロールと地域の協同ガバナンスを強化し、重要河川・湖沼・海湾汚染対策を強化し、土壌汚染対策を引き続き推進する。固定廃棄物と新汚染物対策を強化し、ゴミの分類・減量化・資源化を推進する。

省エネ・節水、廃棄物リサイクル等の環境保護産業のへの支援政策を整備する。

地域を分けた生態環境の管理・コントロールを強化し、国土緑化を科学的に展開し、山地・河川・林地・平野・湖沼・草地・砂漠の系統的ガバナンスを統一し、生物の多様性を保護する。

21年報告は炭素排出削減の観点から「大規模な国土緑化キャンペーンを展開」としていたのを、今回は「国土緑化を科学的に展開」とするなど、全体に落ち着いたトーンとなっている

(2)炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラル政策を秩序立てて推進する

炭素排出ピークアウトアクションプランを実施する。エネルギー革命を推進し、エネルギー供給を確保し、資源の賦存状況に立脚し、「先に新しいモデルを確立し、後で旧いモデルを廃止する」・統一的計画を堅持し、エネルギーの低炭素転換を推進する。

石炭のクリーン・高効率利用を強化し、消費量削減・新エネルギー代替を秩序立てて進め、石炭火力発電ユニットの省エネ・炭素排出削減改造・フレキシブル運用に向けた改造・熱電供給改造を推進する。

鉄鋼・非鉄金属・石油化学・化学工業・建材等の業種の省エネ・炭素排出削減を推進し、交通・建築の省エネを強化する。エネルギー多消費・汚染物質高排出・低レベルのプロジェクトのやみくもな発展に断固歯止めをかける。生態システムの炭素吸収能力を高める2

エネルギー消費の「2つのコントロール」の、炭素排出総量・強度(GDP単位当たり排出量)の「2つのコントロール」への転換を推進し、汚染物質・炭素排出削減のインセンティブ・規制政策を整備し、グリーン金融を発展させ、グリーン・低炭素の生産・生活方式の形成を加速する。

21年の石炭・電力不足を踏まえ、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルを「秩序立てて」推進するとされた。内容も、「先に新しいモデルを確立し、後で旧いモデルを廃止する」という堅実な方式が強調されている

省エネ・炭素排出削減の対象としては、鉄鋼・非鉄金属・石油化学・化学工業・建材、交通・建築が具体的に列挙された

総量・強度のコントロールの対象は、従来の「エネルギー消費」から「炭素排出」に転換する旨が決定された。これにより、2022年の目標のエネルギー消費強度について、「適度な弾力性を残し」「新たに増えた再生エネルギーと原料用エネルギーをエネルギー消費総量コントロールに組み入れない」とされたのであろう

4.9 民生を確実に保障・改善し、社会ガバナンスを強化・刷新する3

「力を尽くして実行し、力量を慮って実行することを堅持し、公共サービス水準を不断に高め、人民大衆が普遍的に関心をもつ民生問題の解決に力を入れる」。

(1)教育の公平と質の向上を促進する

義務教育の質が優れバランスのとれた発展と都市・農村の一体化を推進し、常住人口の規模に依拠して教育資源を配分し、適齢児童の近場での入学を保障し、都市に入った労働者の子女の就学問題をしっかり解決する4

義務教育教師の給与・待遇を全面保障し、農村教師に方向を定めた育成、職業訓練・待遇面での保障を強化する。

義務教育段階の負担軽減政策を引き続きしっかり実施する。普遍的な就学前教育資源を多くのルートで増やす。共通言語・文字の普及程度と質を高める。

現代職業教育を発展させ5、職業教育の運営条件を改善し、産業・教育が融合した運営体制を整備し、職業教育の適応性を増強する6

大学教育の配置を最適化し7、一流大学と一流学科を学類ごとに整備し、理学・工学・農学・医学で不足する専門人材の育成を加速し、中西部の大学教育を支援する。大学生募集において、引き続き中西部・農村地域への傾斜を強化する。

オンライン教育を発展させる8終身学習システムを整備する9

「常住人口の規模に依拠して教育資源を配分」とあるのは、都市戸籍の児童数をベースに義務教育予算を積算すると、地方政府の教育予算が不足し、「都市に入った労働者の子女の就学問題をしっかり解決する」ことが不可能となる点を配慮したのであろう

これまでは、教育サービスを受ける側への政策が重視される傾向があったが、今回は教師、特に農村教師の待遇・質の向上が重視されている

(2)医療・衛生サービス能力を高める

住民医療保険と基本公共衛生サービス経費の1人当たり財政補助基準を、さらにそれぞれ30元・5元引き上げ、基本医療の省レベルでの統一を推進する。

医薬と高額医療用消耗品の数量ベースの集中調達を推進し、生産・供給を確保する。医薬・ワクチンの品質の安全監督管理を強化する。医療保険支払方式の改革を深化させ、医療保険基金の監督管理を強化する。保険加入登記地でない他省での医療保険即時適用方法を整備し、全国での医療保険医薬使用範囲の基本統一を実現する。

予防を主とすることを堅持し、健康教育と健康管理を強化し10、健康中国キャンペーンを深く推進する。重大感染症のモニタリング・事前警告、疫学調査・追跡、緊急処理能力を高める。

公立病院の総合改革と質の高い発展を推進する11。医療機関の料金徴収とサービスを規範化し、感染症で困難に遭遇した医療機関を引き続き支援する。

農村医師の待遇保障とインセンティブ政策を実施・整備する。質の優れた医療資源を市・県にまで延伸し、末端の病気予防・治療能力を高め、大衆が近場で更に好い医療・衛生サービスを受けられるようにする

年金に続き、基本医療の省レベル統一が掲げられた。また、省を跨る医療保険の適用も重視されている。さらに、末端の医療・衛生サービスの充実が強調されている

(3)社会保障・サービスを強化する

企業従業員基本年金保険の全国統一を着実に実施し、退職者基本年金と都市・農村住民基礎年金の基準を適切に引き上げ、期限どおりの全額支給を確保する。第3の支柱の(個人商業)年金保険を引き続き規範的に発展させる。

労災・失業保険の省レベル統一を早急に推進する。

人口高齢化に積極的に対応し、自宅とコミュニティ機関が協調し、医療・ヘルスケアが結びついた高齢者介護サービス体系を早急に構築する12。都市・農村の高齢者介護サービスの供給を最適化し、社会(民間)パワーがデイケア、食事・清掃介助、リハビリ等のサービスを提供することを支援し、長期介護保険制度テストを着実に推進13、農村の互助式高齢者介護サービスの発展を奨励し、高齢者教育を刷新・発展させ14、高齢者事業・産業の質の高い発展を推進する。

「三人っ子」政策の関連措置を整備し、3歳以下の乳幼児の保育費用を個人所得税特別付加控除に組み入れ、多くのルートで15包摂的な託児保育サービスを発展させ、家庭の出産・養育・教育負担16を軽減する。

民生の最低保障と困難に遭遇した大衆の救済を強化し、保障すべきものはすべて保障し、救済すべきものはすべて救済するよう努力する。

高齢者対策では、コミュニティと民間のサービスの役割が期待されている。また、「三人っ子」政策が導入されたことに伴い、保育費用の税制優遇策が盛り込まれた

(4)大衆の住宅ニーズを引き続きしっかり保障する

「『住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない』という位置づけを堅持し、新しい発展モデルを模索し、賃貸・分譲を併せ打ち出すことを堅持し、長期住宅賃貸市場の発展を加速し、社会保障的性格をもつ住宅建設を推進し、分譲住宅市場が住宅購入者の合理的な住宅ニーズを更にしっかり満足させるよう支援し、地価・住宅価格・(不動産市場の将来)予想を安定させ、土地の事情に応じて施策を講じ、不動産業の良性循環と健全な発展を促進する」。

恒大集団の経営危機で、住宅購入者に住宅が引き渡されない騒ぎが発生したことを踏まえ、分譲住宅市場が住宅購入者の合理的な住宅ニーズを更にしっかり満足させるよう支援する旨が盛り込まれた。また、「不動産市場」ではなく、「不動産業」の良性循環と健全な発展が重視されている

(5)人民大衆の精神・文化生活を豊かにする

社会主義核心価値観を育成・実践し、大衆的精神文明創造を深化させる。

インターネットコンテンツの製作を強化・刷新し、有害コンテンツ対策を深化させる。

公共文化のデジタル化建設を推進し、末端文化施設の配置の最適化と資源の共有を促進し、質の優れた文化作品とサービスの供給を拡大し、文化産業の発展を支援する17

大衆の身近にスポーツスポット・施設を建設し、全国民の健康増進ブームを促進する。

「有害コンテンツ対策を深化」は、直訳すると「インターネットの生態ガバナンスを深化させる」であるが、中国当局が発表した日本語訳はその真意を直接伝えている

(6)社会ガバナンスの共同建設・共同統治・共同享受を推進する

人民が安心して暮らし仕事に励み、社会が安定して秩序が保たれるよう促す。

末端の社会ガバナンスを刷新・整備し、コミュニティのサービス機能を強化し、社会の動員システムの建設を強化し、末端のガバナンス能力を高める。

健全な社会信用体系を整備する。女性・児童の人身売買の犯罪行為を厳しく取り締まり、女性・児童の合法権益を断固保障する。防災・減災・災害救助と緊急救援能力を高める。食品の全段階の品質安全の監督管理を厳格化する。安全生産の責任制と管理制度を実施し、安全生産特別対策3年行動を深く展開し、重大・特大事故の発生に有効に歯止めをかける。国家安全保障体系と能力の建設を推進する。

インターネットの安全・データの安全・個人情報の保護を強化する。社会治安の総合ガバナンスを強化し、暴力団・犯罪者一掃を常態化し、各種違法犯罪を断固防止・取り締まり、更にハイレベルの平安中国・法治中国を建設する。

江蘇省徐州市の農村で、女性の監禁事件が発覚し、地方政府の曖昧な対応にネットでの批判が広がったことを受け、「女性・児童の人身売買の犯罪行為を厳しく取り締まり、女性・児童の合法権益を断固保障する」が盛り込まれた

李克強総理も会見において、「最近、ある地方で女性の権益をひどく侵害する事件が発生した。我々は被害者のために心を痛めているだけでなく、この事に十分憤慨している」と事件にわざわざ言及している。(つづく)

  1. ここは、重要なものを紹介する。
  2. 全人代の修正で盛り込まれた。
  3. ここは、重要なものを紹介する。
  4. 全人代の修正で盛り込まれた。
  5. 全人代の修正で盛り込まれた。
  6. 全人代の修正で盛り込まれた。
  7. 全人代の修正で盛り込まれた。
  8. 全人代の修正で盛り込まれた。
  9. 全人代の修正で盛り込まれた。
  10. 全人代の修正で盛り込まれた。
  11. 「質の高い発展」は全人代の修正で盛り込まれた。
  12. 全人代の修正で盛り込まれた。
  13. 全人代の修正で盛り込まれた。
  14. 全人代の修正で盛り込まれた。
  15. 「多くのルートで」は全人代の修正で盛り込まれた。
  16. 「出産・教育」は全人代の修正で盛り込まれた。
  17. 全人代の修正で盛り込まれた。