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研究者のご紹介

田中 修

中国経済レポート

2022年政府活動報告のポイント(1)

 

新領域研究センター 田中 修

2022年3月22日


はじめに

3月5日、全人代が開催され、李克強総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。このうち、2022年の経済政策関連部分の主要なポイントは以下のとおりである1。なお、下線は、筆者のコメントないし補充事項である。また、太字は報告の中で注意すべきフレーズである。

1.構成

第1章は2021年の政策回顧、第2章は2022年の経済社会発展の総体要求と政策方向、第3章は2022年の政府活動任務であり、第2章で発展の主要目標と今後の総体手配、第3章で2022年の重点政策を個別に列挙している。

活動任務の比較

活動任務の比較

引き続きマクロ政策が筆頭となったが、内容が第1章総論部分と、第2章個別政策に分かれたため、全体が1章増えた。その他の順位は変動していない。

2.2021年の回顧
(1)成果の総括

報告は冒頭で「過去一年は、党・国家の歴史上一里塚の意義を有する一年であった。習近平同志を核心とする党中央は全党・全国各民族・人民を団結させ牽引して、中国共産党創立百周年を厳かに慶祝し、党19期6中全会を勝利のうちに開催し、党の3つ目の歴史決議を制定し、期限どおり脱貧困堅塁攻略戦に打ち勝ち、期限どおり小康社会を全面達成し、第1の百年奮闘目標を実現し、「社会主義現代国家を全面建設し、第2の百年奮闘目標に向け進軍する新たな征途を開いた。

この一年、複雑・峻厳な内外情勢と多くのリスク・試練に直面し、全国上下は共同で努力し、疫病防御と経済社会の発展を統一し、年間の主要目標・任務はかなり好く達成され、第14次5カ年計画は良好なスタートを実現し、わが国の発展はまた新しい重大な成果を収めた」と総括している。

そして、いくつかのデータを示した後、「過去一年、成績を得るのは殊に容易ではなかった。わが国経済はなお疫病の突発等の深刻なダメージ後の回復・発展のプロセスにあり、内外情勢も多くの新たな変化が出現し、経済の平穏な運営を維持する難度が増大している。我々は習近平同志を核心とする党中央の政策決定・手配を深く貫徹し、中央経済工作会議精神を貫徹実施し、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹し、『6つの安定』(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、『6つの保障』(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)政策を着実にしっかり実施し、マクロ政策のクロスシクリカル(周期を跨ぐ)・カウンターシクリカル(逆周期)な調節を重視し、各種リスク・試練に有効に対応した」とする。

そして政策の成果を列挙した後、「過去一年に収めた成果は、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の結果であり、習近平『新時代の中国の特色ある社会主義』思想の科学的な導きの結果であり、全党・全軍・全国各民族・人民の団結奮闘の結果である」とし、まずは、習近平指導部の功績としている

(2)経済の直面する問題と試練

報告は、次の点を指摘する。

①世界の疫病はなお続いており、世界経済の回復は動力が不足し、大口取引商品価格は高止まって変動しており、外部環境は更に複雑・峻厳・不確定化傾向にある

わが国の経済発展は、需要の収縮・供給へのダメージ・予想(市場の将来予測)の弱気化の三重の圧力に直面している

③局部的に疫病が度々発生している。

④消費と投資の回復は遅滞しており、輸出の安定の難度が増大し、エネルギー・原材料の供給は依然として逼迫気味で、輸入インフレの圧力が増大し2、中小・零細企業、個人工商事業者の生産・経営が困難で、雇用安定の任務は更に困難さを増している

⑤カギとなる分野のイノベーションによるサポート能力が弱い。

一部の地方の財政収支の矛盾が増大し、経済・金融分野の潜在リスクがかなり多い

⑦民生分野になお少なからぬ不足がある。

⑧政府の活動に不足が存在し、形式主義・官僚主義が依然際立っており、現実から乖離し、大衆の願望から離反する現象がしばしば発生し、政策執行において「一律処理」・キャンペーン式の方法が採用されている

⑨少数の幹部が無責任で、仕事をせず、職権を乱用し、大衆の権益を深刻に侵害する問題を軽視し、深刻な職務怠慢となっている。

⑩一部の分野では腐敗問題が依然として多発している。

これらの問題に対し報告は、「我々は、憂患意識を強め、問題・試練を直視し、全力で仕事にしっかり取組み、決して人民の期待に背いてはならない!」とする。

中央経済工作会議で示された、中国経済が①需要の収縮、②供給へのダメージ、③予想(市場の将来予測)の弱気化の三重の圧力に直面しているという認識が踏襲されている

政策執行における「一律処理」・キャンペーン式の方法とは、21年に地方政府が炭素排出削減をやみくもに行い、結果として石炭・電力不足を招いたことを指しているものと思われる

3.2022年の経済社会発展の総体要求と政策方向
3.1 2022年の総体要求

「2022年は、第20回党大会が開催され、党・国家事業の発展プロセスにおいて十分重要な一年である

政府活動をしっかり行うには、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、習近平『新時代の中国の特色ある社会主義』思想を導きとし、第19回党大会・19期各全会精神を全面的に貫徹実施し、偉大な建党精神を発揚し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹し、新たな発展の枠組みを早急に構築し、改革開放を全面深化させ、イノベーション駆動による発展を堅持し、質の高い発展を推進し、サプライサイド構造改革を主線とすることを堅持し、疫病防御と経済社会の発展を統一し、発展と安全を統一し、『6つの安定』『6つの保障』政策を引き続きしっかり実施し、民生を引き続き改善し、マクロ経済の大基盤の安定に力を入れ、経済運営を合理的区間に維持し、社会の大局の安定を維持し、第20回党大会の勝利の開催を迎えなければならない」3

21年前半は、「新発展理念の貫徹」と「新しい発展の枠組の構築」に加え、「新発展段階に立脚」が必ずセットになっていたが、7月末の党中央政治局会議で、突然削除された。12月の中央経済工作会議で「新発展段階」という呼称は復活したものの、3点セットしてはまだ復活していない

22年は第20回党大会という一大政治イベントがあるため、政策運営は、マクロ経済の大基盤と社会の大局の「安定」が最優先されている

3.2 内外情勢判断

「内外情勢を総合的に検討・判断すると、2022年のわが国の発展が直面しているリスク・試練は顕著に増大しており、坂を上り峠を越えなければならない。困難なときほど自信を確固とし、ますます実務に真剣に取り組まなければならない。

わが国経済が長期に好い方へ向かうというファンダメンタルズに変わりはなく、持続的な発展は多方面の有利な条件を備えており、とりわけ億万人の人民には、素晴らしい生活を追求する強烈な願望、起業・イノベーションの巨大な潜在能力、共に困難な時局を乗り越える確固たる意志があり、我々は重大リスク・試練に対応する豊富な経験を積み重ねてもいる。

中国経済は必ず下振れ圧力に耐え抜くことができ、必ず長期にわたり安定する」。

2022年のリスク・試練が21年より格段に深刻であることを認めている。これは、ロシアのウクライナ侵攻といった新たな情況も念頭にあろう

3.3 2022年の主要予期目標

(1)GDP成長率:5.5%前後(21年は6%以上、実績は8.1%)

報告は、「経済成長の予期目標の設定では、①主として雇用の安定・民生の保障・リスクの防止のニーズを考慮し、②かつここ2年間の平均経済成長率(5.1%)及び第14次5カ年計画の目標要求とリンクさせている。これは、高いベースの上での中高速成長であり、主動的な姿勢を体現し、艱難辛苦の努力を払ってこそ実現できるものである」としている。

国家発展・改革委員会の「2021年国民経済・社会発展計画執行情況及び2022年の国民経済・社会発展計画草案に関する報告」(以下「経済報告」)では、上記2つの考慮に加え、③この目標は各方面のわが国経済発展についての予想と合致している、としている

なお、国家発展・改革委員会の何立峰主任は、3月5日の記者会見で、この成長率目標につき、「2021年の1年間でGDPは13兆元(3兆ドル)増え、これは中華民族の歴史上初めてのことであり、G20のランキングで第6・7位の国家の経済総量の水準に相当し、これは世界経済発展の歴史上でも初めてのことである。これは、中国経済発展の持続力が強く、中国経済の強靭性が強く、市場主体の活力とリスク抵抗能力が強いことを説明している。このことも、22年のGDP成長率5.5%前後の目標の実現への我々の自信・基礎となっている」と述べ、この目標の実現に有利な要因として、次の3点を挙げている

①2年余りの疫病対応の実践を経て、各地方・各産業・各企業は、疫病に有力・有効に対応する基礎の上に、経済の回復・発展を促進するメカニズム・方法を既にますます成熟させている

②ここ数年、我々は新発展理念の貫徹・新たな発展の枠組の構築・質の高い発展の推進に力を入れ、需給両サイドにおいて大きな発展の余地を創造しており、これが市場主体の活力を奮い立たせ、困難・試練を引き続き克服するために、良好な条件を提供している

③22年の経済発展は少なからぬ問題・困難に直面しているが、党中央・国務院は展望性をもって透徹した分析を進め、具体的手配・案配を行い、引き続き大規模な減税・費用引下げを実施し、中小・零細企業、製造業企業に対して先行的に一連の政策措置を打ち出している

また、李克強総理は、全人代閉会直後の3月11日の内外記者会見(以下「会見」)で、「5.5%前後の成長を実現することは、ハイレベルでの安定であり、実質的には前進であり、容易ではなく、相応のマクロ政策のサポートがなければならない。例えば財政政策では、22年我々は財政赤字の対GDP比率を2.8%とし、赤字は21年より2000億元余り少ない。しかし、これと同時に、我々は財政支出を強化した。我々は2年間未使用で余った中央特定金融機関と専売機関の利潤、更に財政予算安定調節基金を加えて、新規支出規模が2兆元を下回らないようにし、増やした規模は主として減税・費用引下げとりわけ税還付に用いる。これは高山を登る人に酸素を送ることに相当する。当然我々はさらにこれに付帯させる金融・雇用等の多くの措置がある」と説明している

ところで、報告は「2年平均成長率を考慮した」としているが、21年の四半期別の2年平均成長率は1-3月期4.9%、4-6月期5.5%、7-9月期4.9%、10-12月5.2%となっており、21年4-6月期の勢いを回復できれば、5.5%前後の目標は達成可能と考えたのであろう

また、第14次5カ年計画には成長率目標は定められていないが、2035年に2020年のGDPを倍増するには年平均約4.7%の成長が必要であり、成長率が趨勢的に低下していることを考慮すると、最初の5年は5.5%程度の成長を確保しておきたいという願望もあるのだろう。しかし、その実現が決して容易でないことは、「艱難辛苦の努力を払ってこそ実現できる」という表現に示されている

(2)雇用

都市新規就業者増:1100万人以上(21年は1100万人以上、実績は1269万人)

経済報告は、「大学卒業生等の重点層、産業のグレードアップがもたらす従業員の転職等の雇用ニーズを総合的に考慮すれば、1100万人以上の都市新規就業者増の実現は雇用の基本要求である。同時に、経済の持続的回復とりわけ雇用促進の各政策が実施され実効を上げるに伴い、1100万人以降の都市新規就業者増の実現は、かなりしっかりとしたサポートを得ることになる」としている

李克強総理は会見において、「22年、雇用が必要な新規都市労働力の増加は約1600万人に達し、長年で最高である。大学卒業生は1076万人で史上最高である。また3億人近い出稼ぎ農民に仕事の機会が必要であり、退役軍人の雇用を保障しなければならない。さらにいくらかの企業は瀕死の情況で、再就職しなければならない人がいる」と雇用事情の厳しさを述べ、「我々は現在、毎年新規都市就業者増を1100万人以上としなければならないとしているが、最も好ましいのは1300万人以上である。私は、比較的十分な雇用が実現してこそ、中国経済の潜在成長率を実現できると思っている」としている

都市調査失業率:年間で5.5%以内に抑制(21年は5.5%前後、実績は5.1%)

経済報告は、「雇用は民生と社会の安定に関わることを考慮したものであり、雇用優先の政策方向を一層際立たせなければならず、雇用安定の決意を十分体現し、各方面とりわけ各地方の雇用保障の責任を徹底させれば、この目標は実現可能である」としている

21年に比べ、5.5%「前後」から「以内」と目標が厳しくなっているが、これは第20回党大会を控え、失業の増大を何としても抑えたいという指導部の強い意向の現れであろう

(3)消費者物価上昇率:3%前後(21年は3%前後、実績は0.9%)

経済報告は、「輸入インフレ圧力が継続する可能性、生産サイドのコストの上昇が消費サイドに徐々に伝達される可能性等の要因、加えて前年要因の今年への影響を総合すると、2022年の消費者物価の上昇圧力は、2021年より大きくなる可能性があると予想される。消費者物価上昇率を3%前後としたのは、生活必需品の供給保障・価格安定をしっかり行い、物価総水準の基本的安定を維持するという政策要求の体現であり、同時に余地を適度に残してもおり、市場予想の安定に有益である」と説明している

(4)その他

個人所得の伸びを経済成長率と同歩調にする(21年の実績は、全国住民1人当たり可処分所得の伸びが実質8.1%で、実質成長率と同じ)

経済報告は、「これは人民を中心とする発展思想を堅持するための必然的要求であり、消費を拡大し、経済をしっかり安定させるための重要な基礎である。雇用を促進し、雇用の質を高め、中等所得層を拡大し、低所得層の所得を増やし、再分配調節を強化する等の政策措置の推進に伴い、2022年の個人所得の伸びは、引き続き経済成長率と基本的に同歩調になるものと見込まれる」と説明している。成長によりパイを大きくするだけでなく、再分配によるパイの切り分けにも言及している

輸出入の安定を維持し、質を高め、国際収支を基本的に均衡させる

経済報告は、「これは、複雑・峻厳な外部環境の変化に対応するために必要であり、外資・対外貿易の基盤をしっかり安定させ、経済の平穏な運営を維持するための重要措置でもある。同時に、わが国の全産業チェーンの優位性が引き続き顕在化し、各対外貿易・外資安定政策が実効を上げ、新業態・新モデルが勢い盛んに発展し、貿易の質の高い発展の歩みが加速されることが、輸出入の安定を維持し、質を高め、国際収支を基本的に均衡させるために有力なサポートを提供することができる」と説明している

食糧生産量を6億5000万トン以上に維持する

経済報告は、「民は食をもって天となし、食糧が安定すれば天下は安らかとなり、食糧安全の確保は、しっかり守らなければならない安全の最低ラインである。わが国の食糧は連年豊作であるが、需給バランスはなお逼迫状態にあり、国内食糧消費需要・総合生産能力・世界食糧市場の変化等の要因を統一的に考慮すると、市場の供給と価格の安定を保障するためには、食糧生産量6億5000万トン以上を維持しなければならない」と説明している。ウクライナ情勢の変化もあり、食糧安全保障が重要となっている

生態環境の質を引き続き改善し、主要汚染物質の排出量を引き続き低下させる

エネルギー消費強度(GDP単位当たりエネルギー消費)を第14次5カ年計画期間内に統一的に考課し、適度な弾力性を残し、新たに増えた再生エネルギーと原料用エネルギーをエネルギー消費総量コントロールに組み入れない

経済報告は、「第14次5カ年計画のスケジュール・進度に基づき、生態環境の年度目標を設け、精確・科学的・法に基づいた汚染対策を推進し、汚染対策堅塁攻略戦を深くしっかり闘い、各重点排出削減プロジェクトの実施を加速する。同時に、現在の経済発展の実際、エネルギー供給の安全保障、省エネ・炭素排出削減目標の実現等の要因を総合し、エネルギー消費強度目標を第14次5カ年計画期間内に統一的に考課し、適度な弾力性を残し、経済の平穏な運営を保障するために合理的なエネルギー使用の余地を残すのみならず、地方が省エネ政策の程度を維持することを有効に推進でき、発展と排出削減、現在と長期を併せ考慮し、エネルギーの安全を保障する前提の下に、グリーン・低炭素発展を着実に推進し、第14次5カ年計画期間のエネルギー消費強度引下げ目標の実現のためにサポートを提供することができる」と説明している。21年の石炭・電力不足の反省を踏まえ、環境対策と経済発展のバランスが重視されている。(つづく)

  1. 本稿は、新華社北京電2022年3月12日で公表された、全人代修正後のバージョンを参考にしている。
  2. 全人代の修正で盛り込まれた。ウクライナ情勢を念頭に置いたものであろう。
  3. 「 」の部分は報告を全訳している。