田中 修

中国経済レポート

浙江省における共同富裕テストの現状(2)

新領域研究センター 田中 修

2022年3月11日


3.所得分配制度改革試験区建設(浙江省発展改革委)

所得分配制度改革試験区は、中央が浙江共同富裕モデル区に賦与した「4大戦略的位置づけ」の一つであり、現在我々が推進する質の高い発展・共同富裕モデル区建設の重点任務でもある。

2021年7月、わが省は「浙江省『中等所得層拡大』『低所得層引上げ』アクションプラン」の検討・起草を開始した。その目標は、中等所得層を主体とした橄欖型の社会構造の率先基本形成を推進することである。

この目標に焦点を絞り、我々はまた量的目標を提起した。核心指標は、2025年までに、浙江の世帯年可処分所得10~50万元の階層の割合が80%に達し、20~60万元の階層の割合が45%に達しなければならないというものである。

「アクションプラン」の核心内容は、「8+9」で概括できる。

「8」は、「中等所得層拡大」「低所得層引上げ」の8大実施ルートである。

我々は、「社会構造のシステミックな最適化」の全局から出発し、①雇用を促進し、②活力を奮い立たせ、③ルートを開拓し、④分配を最適化し、⑤能力を強め、⑥支援を重視し、⑦負担を減らし、⑧新しい気風を発揚する、8大方策を提起し、「中等所得層拡大」「低所得層引上げ」改革の共同富裕の各分野の改革への牽引・帯同作用を確実にしっかり発揮させる。

たとえば、雇用促進方面では、健全な雇用促進メカニズムを整備し、雇用の構造的矛盾の解決に力を入れ、公平な雇用環境を作り上げる等の措置を提起した。

分配最適化方面では、健全で科学的な賃金制度を確立し、所得格差調節に有益な財政・租税政策・制度を刷新・整備し、公平で持続可能な社会保障システムを整備し、新しいタイプの慈善システムを早急に構築する等の措置を提起した。

能力強化方面では、基礎教育の質の優れたバランスを推進し、職業教育の適応能力を増強し、高等教育の発展の質を高め、終身教育の開放・シェアシステムを整備する等の措置を提起した。

「9」は、現段階で我々が重点的に関心を払う9種類の階層集団である。

全面カバーと精確な施策を結びつけるという原則に基づき、8大方策の全面実施を推進する基礎の上に、所得増加の潜在力が大きく、牽引能力が強い「中等所得層拡大」の重点層と、所得水準が低く、発展能力が弱い「低所得層引上げ」の重点層に的を絞り、現段階で重点的に関心を払う必要のある9種類の階層集団を提起した。

この9種類の階層集団には、①技術者、②科学研究者、③中小企業主・個人工商事業主、④大学卒業生、⑤素質の高い農民、⑥新しい就労形態の就業者、⑦都市に入った出稼ぎ農民、⑧低所得農家、⑨困窮層が含まれ、いくらかの差別化した所得分配奨励政策を率先して打ち出した。

たとえば、技術者は、主として賃金制度・育成メカニズム等の方面から具体的な奨励措置を提起した。新しい就労形態の従業員は、主として雇用管理と権益保護、技能訓練、社会保障等の方面から具体的奨励措置を提起した。

これに続けて、我々はさらに「全面カバー+精確画像」の基礎データベースを構築し、重点階層集団への政策実施情況について効果の評価を展開し、重点階層集団の類別を不断に調整・整備し、更に多くの人の中等所得の列への参入を推進する。

浙江省「アクションプラン」は、1つの系統的な総合文件であり、次の政策において、我々はさらに「中等所得層拡大」「低所得層引上げ」の難点・目詰まりに焦点を絞り、政策サポートを一層強化し、とりわけ「中等所得層拡大」「低所得層引上げ」の8大方策と9種類の重点階層集団について、切り口・突破口を正確に探し、重点分野特別政策と重点階層集団奨励プランを制定し、「共通性+個性」の政策道具箱を構築し、共同富裕を真に見て触れることができる幸福の光景にする。

4.大学卒業生・出稼ぎ労働者・新しい就労形態の労働者等への雇用支援(浙江省人力資源・社会保障庁)

雇用は最大の民生である。党中央・国務院は雇用政策を高度に重視し、とりわけ大学卒業生・出稼ぎ農民・新しい就労形態の労働者等の階層集団の雇用に注意を払っている。

浙江は中央の政策決定・手配を真剣に貫徹し、重点階層集団の雇用の政策体系・施策措置を不断に整備し、比較的良好な成果を収めている。

(1)大学卒業生

大学卒業生は、貴重な人材資源であり、我々は常に大学卒業生の雇用政策を人材政策の掴みどころとすることを堅持し、常に彼らを質の優れた資源として、配分・取込み・使用・キープすることを堅持している。

2022年、全国大学卒業生は1000万人を超え、我々にとっては好いチャンスであり、我々はこのチャンスをしっかり掴み、大学卒業生の取込みに力を入れる。

浙江の大学卒業生の雇用政策は比較的豊富であり、杭州市区を除き、専科以上の学歴卒業生の戸籍取得制限を全面撤廃し、杭州の戸籍取得条件は本科以上の学歴としている。

大学卒業生が浙江で働く場合には、2万から10万元までの異なる生活補助あるいは住宅購入・住宅賃貸補助を享受できる。

大学生が起業しようと思えば、10万から50万元までの借入が可能で、もし起業が失敗し、借入が10万元以下の場合は政府が代理で償還し、借入が10万元以上の部分は政府が80%を代理償還する。

大学生が家事サービス・高齢者介護・現代農業の起業に従事する場合は、政府は10万元の起業補助を与える。大学生がこれらの分野で働く場合には、政府は1人当たり毎年1万元、連続3年の就業補助を与える。

大学生が浙江で実習する場合は、各地は生活補助を提供する。

家庭が困窮している卒業生については、1人当たり3000元の求職・起業補助を与える。
我々は、全国の大学卒業生が浙江で就業・起業することを歓迎する。

(2)出稼ぎ労働者

浙江は雇用大省であり、省外からの出稼ぎ労働者は浙江に2300万人おり、彼らは浙江経済・社会の発展のために重要な貢献を行っている。

浙江においては、省外からの出稼ぎ労働者は、現地戸籍をもつ労働者と同等の就業・起業サービス・政策を享受している。

このほか、我々は技能・学歴・年齢を問わない、思いやりポストを開発し、専ら脱貧困人口を雇用し、彼らの月額4500元以上の給与を保証しており、2021年全省には脱貧困人口が225万人いる。

(3)新しい就労形態の労働者

浙江省はプラットフォーム経済が比較的発達し、各種の新しい就労形態が急速に発展しており、我々は新しい就労形態の労働者への労働保障問題に非常に注意を払っている。

2021年、我々は「新しい就労形態の労働者の労働保障権益を擁護する実施弁法」を専門的に打ち出し、主としてフレキシブルな就労者が就労地で企業従業員基本年金保険・基本医療保険に参加する際の戸籍制限を撤廃し、新しい就労形態の労働者が労災保険に参加することを支援している。

我々はさらにプラットフォーム企業に、デジタル技術の優位性を発揮して、テレワークの時間を合理的に管理・コントロールし、連続した作業が4時間を超えた場合は休憩時間を設けるよう要求している。

現在、わが省は共同富裕型の質の高い就業・起業システムの構築を計画しており、「起業・就業は浙江で」ブランドの宣伝に努力しており、重点階層集団の雇用の質向上を支援し、共同富裕の実現を早急に推進している。

5. 共同富裕が怠け者を生み出す危険性(国家発展・改革委)

我々は、社会に確かにこのような曖昧な認識が存在することに注意しており、この機会に重点を2方面からはっきりさせておきたい。

一方で、我々が明確にしておかなければならないことは、共同富裕は共同奮闘だということである。幸福な生活はすべて奮闘から生まれるものであり、共同富裕は勤労・知恵によって創造されなければならない。

習近平総書記は、早くから「中国人民には昔から明らかなことであるが、世界に座して成果を享受するようなうまい話はなく、幸福になるには奮闘しなければならない」と諄々と我々に説いている。

共同富裕は待っても訪れず、叫んでも訪れず、懸命に働いて生み出さなければならない。共同富裕の目標を実現するには、まず全国人民の共同奮闘を通じてパイを大きく好いものにする必要があり、一人一人が参加して力を尽くしてこそ、一人一人が成果の享受を真に実現できるのである。

今後、我々は全社会で勤労により富裕に至る精神を大いに発揚し、労働者全体が誠実な労働、合法な経営、イノベーション・起業・創造を通じて幸福で素晴らしい生活に向けて踏み出すことを奨励する。

他方で、我々が堅持する必要があるのは、力を尽くして実行し、力量を慮って実行して、共同富裕を推進するということである。我々は、国情の実際から出発し、経済社会発展の法則を遵守し、地に足を着け、時間をかけて実績を上げ、民生保障の水準を着実に高めなければならない。

いわゆる「力を尽くして実行する」とは、発展の中で民生を保障・改善することを堅持し、精神・精力を用いて民生の実務にしっかり取り組み、更に強力で更にしっかりとした措置により、人民全体の獲得感・幸福感・安全感・一体感を高めなければならないということである。

いわゆる「力量を慮って実行する」とは、わが国の発展水準は先進国となお大きな格差があることをはっきり見て取り、我々は民生の保障・改善を、経済発展と財政力の持続可能な基礎の上に確立し、高望みをし、欲張って、実現できない約束をしてはならないということである。

将来発展が更に良好で、財政力が更に豊かになっても、高すぎる目標を掲げ、過度な保障を行ってはならず、「福祉主義」により怠け者を養う罠に陥ることを断固防止しなければならない。

各地方の党委員会・政府からいえば、共同富裕を推進するプロセスにおいて、すべき事とすべきでない事を区分することを堅持しなければならず、重点は基礎的・包摂的で最低ラインを保障する民生保障の建設を強化することであり、公共サービス水準の向上に重きをおき、とりわけ教育・医療・高齢者介護・住宅等の人民大衆が最も関心をもつ分野で基本公共サービスを精確に提供し、同時に困窮層の基本生活の最低ラインを確実にしっかり保障しなければならない。

この面で重要なことは、人民全体の教育程度を高め、自身の発展能力を増強するために、更に包摂的で公平な条件を創造することであり、同時に制度に依拠して公平・公正な事業・起業プラットフォームを構築し、各人にすべて弛まぬ奮闘を通じて人生で異彩を放つ機会を実現させなければならない。(つづく)