田中 修

中国経済レポート

財政部長記者会見

新領域研究センター 田中 修

2022年3月4日


はじめに

劉昆財政部長は2月22日、余蔚平・許宏才副部長と共に記者会見を開催した。全人代を前に、財政部としての財政政策への考え方を明らかにする目的と考えられる。本稿では、2022年の財政政策を中心に記者会見の概要を紹介する。

1.2022年の財政政策(劉昆)

積極的財政政策は効果を高め、精確・持続可能を更に重視しなければならないというのが、党中央・国務院が内外情勢を統一して行った重大政策決定・手配であり、新発展理念の要求を貫徹し、「穏」(安定・穏健)の字を第一に、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を体現してもいる。

「効果を高める」とは、財政資源を統一し、予算編成・査定・支出・業績効果管理と予算計上の有機的なリンクを強化し、金融政策との協調を強化し、マクロ政策の穏健・有効性を確保しなければならないということである。

「精確を重視する」とは、①製造業の質の高い発展、中小・零細企業の困難緩和、科学技術イノベーションに焦点を絞り、新しい更に強力な減税・費用引下げを実施し、②財政支出構造を一層最適化し、倹約の要求を実施し、同時に基本民生・重点分野・地方とりわけ末端への財政力保障を強化しなければならないということである。

「持続可能性を増強する」とは、①必要性と可能性を統一して財政支出を計上し、発展の中で民生を保障・改善することを堅持し、高望みせず、欲張らず、②財政赤字の対GDP比を適切に確定し、債務規模を適切に計上し、リスクを有効に防止・解消しなければならないということである。

2.財政政策の力発揮前倒し(劉昆)

実際のところ、政策の道具箱をうまく用いて、政策を早く打出し、早く実施して効果を上げなければならない。我々は、21年10―12月期から今年1月にかけて、既にいくらかの減税・費用引下げ方面の政策を続々と打ち出している。

重点は、6方面の政策をしっかり行わなければならない。

(1)更に強力な減税・費用引下げを実施する

21年の1.1兆元の基礎の上に、22年は更に大規模な減税・費用引下げを実施し、市場主体に更に多くの獲得感を感じさせる。

(2)適切な支出強度を維持する

科学技術の難関攻略、生態環境保護、基本民生、地域重大戦略、現代農業、国家第14次5カ年計画重大プロジェクトを重点的に支援し、支出の精確度を高め、バラマキを行わない。

(3)地方政府特別債を合理的に手配する

21年既に前倒しで1.46兆元を下達し、1月は4844億元の発行を達成したが、これは前倒し下達額の3分の1を占め、交通、都市インフラ、産業パークインフラ、社会保障的性格をもつ安住プロジェクト等の重点分野に全部用いた。

地方の実際の情況からみると、21年末の一部特別債資金は繰り越されて今年使用されており、各地方で多くのプロジェクトが着工され、相当多くのプロジェクトが特別債資金を利用している。

(4)中央の地方への移転支出を増やす

今年、中央の地方への移転支出とりわけ一般性移転支出の規模をかなり大幅に増やし、引き続き困難な地域と未発達地域に傾斜させ、末端の基本民生・賃金・運営保障の最低ラインを保障する。

(5)党・政府機関の倹約を堅持する

中央財政が牽引して、引き続き重点・裁量的支出を圧縮する。地方財政も厳しく引き締めて、一切の事業を節倹して行う。

(6)財経紀律を厳格にする

地方の財経秩序を強化・改善し、財経紀律を抵触できない「高圧線」とする。

3.中小・零細企業の困難緩和支援(余蔚平)

中小・零細企業は国民経済と社会の発展の重要なパワーであり、雇用拡大・技術革新促進・民生改善等の方面で、いずれも代替不可能な役割を有している。

新型コロナの影響を受け、一部の中小企業の生産・経営は困難に直面している。財政部は、党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、一連の困難緩和・発展政策を検討して打ち出し、中小企業が元気を回復し、さらにしっかり発展することを支援する。

(1)中小企業の税・費用負担を引き下げる

引き続き減税・費用引下げを実施し、製造業小型・零細企業の国内増値税・企業所得税を全部納税猶予し、製造業中型企業は50%を納税猶予する。

段階的な失業保険料率・労災保険料率等の引下げ実施を延長する。

2021年の減税・費用引下げは約1.1兆元であり、中小・零細企業は最大の受益者である。

(2)中小・零細企業の資金調達難・資金調達コスト高の問題を緩和する

2021年、中央財政は奨励・補助金30億元を計上し、小型・零細企業の債務保証規模拡大を支援し、保証料率を引き下げ、年間で市場資金調達主体のために債務保証料を100億元軽減した。

起業債務保証貸出の利息補填を引き続き強化し、2021年、中央財政は起業債務保証貸出の利息補填・奨励補助金63.36億元を交付し、前年比65.9%増となった。

インクルーシブファイナンスモデル区の設立を支援し、中小・零細企業の資金調達環境を最適化した。

(3)「専門的、精密な、特色ある、革新的な」質の高い行動を支援する

2018-22年、中央財政は約90億元を計上し、中小・零細企業の起業・イノベーション・グレードアップを推進した。

2021年、中小企業の「専門的、精密な、特色ある、革新的な」発展への奨励補助金を開始し、「小巨人」企業の全国カバーを実現した。

現在、上場した「小巨人」企業は300社余りであり、この2年間の平均の営業収入の伸びと純利潤の平均の伸びは25%を超え、全上場会社の平均値の2倍前後となっている。

今後、財政部は中小・零細企業の困難緩和・発展に精確に焦点を絞り、一層税・費用の優遇を強化し、債務保証・貸出利息補填・奨励補助等の方式を総合運用して、金融資源の流れが中小・零細企業に向かうようテコ入れし、中小企業の更に大きな活力を奮い立たせる。

4.減税・費用引下げ(許宏才)

減税・費用引下げは確かに市場主体が十分関心をもつ問題である。近年、財政部は減税・費用引下げを市場主体の活力を奮い立たせる重要な先手とし、政府収入の「引き算」を用いて、企業収益の「足し算」と市場活力の「掛け算」に取り換えており、減税・費用引下げを通じて経済成長を推進している。実際、減税・費用引下げは、表面的には収入が減少するが、実質的に経済成長と後続の財政収入増加に変換している。ここで、数組のデータを示したい。

①第1組のデータ:1.1兆元

これは、2021年の全国新規減税・費用引下げの規模であり、製造業のグレードアップ、中小・零細企業、個人工商事業者の発展を重点的に支援した。

1.1兆元の減税・費用引下げは、ここ数年減税・費用引下げを継続実施し、財政収支の圧力が比較的大きい情況の下で実現したものであり、実際の利益移譲を用いて、市場主体の困難緩和・活力発揮を有効に支援した。

②第2組のデータ:第13次5カ年計画以降6年間で、わが国の累計新規減税・費用引下げは8.6兆元を超えた。

この規模は、わが国の歴史上空前であり、世界から見ても程度は比較的大きい。

減税・費用引下げの継続を通じて、わが国税収の対GDP比も低下し、2016年の17.5%から21年の15.1%に低下した。

③第3組のデータ:現在、わが国の市場主体の総量は1.5億社(件)を超え、うち2021年に新たに納税した市場主体は1326万社(件)、前年比15.9%増である。

減税・費用引下げ等の政策の実施は、億を上回る市場主体の負担を軽減し、強靭性を増強し、困難・試練に対応し、経済の基盤をしっかり安定させるために、重要な役割を発揮した。

収入が鈍化し、支出圧力が大きいものの、我々の減税・費用引下げは経済成長を促進し、後続の財政収支の増加をもたらしている。

2022年、財政部門は党中央の政策決定・手配を断固貫徹実施し、組合せ式の減税・費用引下げを真剣にしっかり実施し、市場主体が更に大きな発展の活力を奮い立たせるよう助力する。

①力を更に大きくする。

科学技術、就業・起業、医療、教育等11項目の税・費用優遇政策を引き続き実施し、一部既にある政策の優遇を強化し、いくらかの新たな政策措置を速やかに打ち出さなければならない

②精確に力を発揮する。

製造業の質の高い発展、中小・零細企業の困難緩和、科学技術イノベーションに焦点を絞り、精確な支援措置を検討して打ち出す。

③施策を協同する。

減税・費用引下げ政策とその他積極財政政策・金融政策・産業政策等の協同・連動を重視し、困難緩和・発展の合成力を形成する。

5.財政の直接交付メカニズム(許宏才)

財政の直接交付メカニズムの確立は、党中央・国務院が行った重大政策決定・手配であり、財政管理政策の重大イノベーションでもある。

2021年、財政部は関係部門と財政資金直接交付メカニズムを常態化して、範囲を拡大した。いわゆる常態化とは、2020年の特定時期に実施した政策の基礎の上に、我々はこれを調整して実施を常態化し、範囲を拡大した。

21年年間運営した情況からみると、財政資金直接交付メカニズムは「末端まで貫く」優位性を発揮し、管理効率と資金効率の「2つの向上」を実現した。

これにはいくつかの特徴がある。

(1)下達が速い

資金下達は、「直通列車」に座って、直接末端に達し、直接企業を優遇し民を利するものであり、途中時間が大きく減少している。

直接交付メカニズムの21年の情況は20年の情況とは異なり、中央財政からすると、我々は年初予算を編成する時からこの作業を開始し、地方に対する時間の要求は20年より時間をいくらか長くし、我々は中央が下達した資金を受け取った後、省レベル財政は10~30日以内に分配・下達しなければならないと要求した。

21年の直接交付資金の監視・コントロールシステムのフィードバック情況からみると、大部分の地方は10日前後の時間を用いて資金の分配を完成した。速度は確実に速くなり、一般の資金あるいは中央のその他の非直接交付移転支出資金と比べても速いといえる。

21年末の直接交付資金支出の進度統計からみると、直接交付資金の年間の支出進度は一般予算資金より顕著に高い。このように、「速い」という特徴が体現されたのである。

(2)方向が精確である

21年の年間統計では、2.8兆元の直接交付資金は実際に支出2.67兆元を形成し、主として末端の住民雇用・基本民生・市場主体・賃金・運営等の保障方面への精確な支援に用いられた。

不完全な統計によれば、高齢者介護・義務教育・基本医療・基本住宅等の基本民生方面に用いた支出は2兆元近く、雇用方面に直接用いた支出は510億元を超え、直接企業優遇に関係する支出は累計で6000億元を超え、各種市場主体166万社(件)余りに恩恵が及び、精確な点滴灌漑効果は顕著である。

(3)監督管理を厳しくする

直接交付資金監視・コントロールシステムの役割を更にしっかり発揮させ、更にしっかりと直接交付資金を見張り、「ダイコンが良く売れるときは泥を落とさない」(物事がうまくいっているときは雑になりやすい)を回避した。

なぜなら、監視・コントロールシステムは、中央から省、市・県までに及び、中央では財政部門・会計検査部門のみならず、関係主管部門までもすべてがネットワーク化し、皆が1つのネットワークで資金の流れる方向、資金の交付・支出情況を見ることができたからである。その他財政資金と比べ、監視・コントロールは更に厳格であるといえる。

審計署が実施した国家重大政策実施フォローアップ会計検査情況から見ると、直接交付資金の規定違反問題は比較的少なく、規定違反金額の割合も比較的低く、資金使用は相対的に言えば更に規範的であった。なぜなら、この監視・コントロールシステムが、監視・コントロールにおいて問題を発見すると、速やかに是正したからである。

2022年、我々は既にある経験・方法を真剣に総括し、直接交付資金の範囲を一層拡大し、直接交付資金の管理制度を整備し、資金の監督管理を強化し、直接交付資金の規範的・安全で効率の高い使用を確保し、更にしっかりと役割を発揮させ、経済社会発展の大局を更にしっかりとサポートする。

6.地方政府特別債(許宏才)

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、全人代常務委員会の授権と国務院の同意を経て、財政部は各地方に2022年の一部の新規特別債金額1.46兆元を前倒しで下達した。

なぜ、前倒しで下達したのか? 主として地方政府特別債が積極的財政政策の重要手段であり、発行のテンポは経済情勢、マクロ・コントロールの需要等に基づき合理的に把握しなければならないことを考慮したものである。

現在、わが国の経済が直面する下振れ圧力は、財政政策の力発揮を適切に前倒し、特別債の金額を前倒しで下達し、特別債の発行・使用の進度を加速することを要求しており、主として有効な投資を牽引する役割をできるだけ早く発揮させるためである。

多くのプロジェクトが始動しており、我々が支出統計の情況から見ても、やはり少なからぬ支出を形成している。

1.46兆元の特別債が地方に下達され、1月、地方は既に新規特別債を4844億元組織的に発行しており、発行規模は前倒し下達額の33.2%を占め、基本的に3分の1を占める。

使用情況では、おおむね3割は都市インフラ・産業パークインフラの建設に用いられ、2割は交通インフラの建設に用いられ、2割は教育・衛生・高齢者介護等の社会事業建設に用いられ、おおむね3割はその他の方面に用いられている。

1月の進展情況は比較的良好である。2・3月、我々は地方がこの方面の政策をしっかり実施するよう引き続き督促する。続くものとしては、22年年間で我々は皆党中央・国務院の政策決定・手配の要求に基づき、地方が資金使用の進度を加速するよう指導・督促し、できるだけ速やかに実物成果量を形成し、経済に対する有効な牽引作用を更にしっかりと発揮させることが含まれる。

7.地方の年金財政悪化(余蔚平)

年金は庶民が国家に管理を託して預けた「命を養う金」である。社会各界は年金運営に十分関心をもっている。

初歩的な統計によれば、現在全国企業従業員年金保険基金の残高は4.8兆元であり、支払月数は14カ月以上である。基金は全体としては収入が支出より大きく、年金を期限どおり全額支給することは保障されている。

年金をしっかり管理し、うまく用いて、億万の高齢者を養うことは、財政部門が人民を中心とする発展思想を実践する具体的体現である。

近年、我々は一連の措置を積極的に採用し、各地方の年金が即時全額支払われることを確保している。

(1)中央財政の補助を強化する

1998年に統一した年金保険制度を実行して以降、中央財政は企業従業員基本年金保険基金への補助を引き続き強化し、2021年、補助金6000億元超を計上し、地方の資金収支圧力の緩和を支援した。

(2)調整割合を高める

2021年、企業従業員基本年金保険基金への中央調整割合を4.5%に高め、調整の総規模は9300億元余りに達した。

収支矛盾が際立った省を重点的に支援し、中西部地域と旧工業基地の省の純受益額は2100億元を超えた。

(3)国有資本を切り分けて社会保険基金を充実する

中央レベルで93社の中央企業と中央金融機関の国有資本総額1.68兆元を切り分けた。

企業従業員基本年金保険を全国統一し、資金を全国範囲で過不足を相互補填していることは、基金の規模の効果を発揮させ、サポート能力を増強することに有益である。

この政策は既に2022年1月正式に実施している。現在、我々は関係付帯文件を早急に検討・制定しており、資金の調整交付規模を試算し、地域間の基金の過不足を合理的に調整し、地方の政策実施へのフォローアップ・指導を強化し、政策措置を速やかに調整・整備し、心を込めて事務をしっかり処理する。

8.脱貧困堅塁攻略戦勝利後の後続政策(劉昆)

脱貧困堅塁攻略は、習近平総書記が最も心にかけている大事である。2021年は、脱貧困堅塁攻略戦に打ち勝った後の過渡期の第一年であり、財政部は習近平総書記の「脱貧困堅塁攻略の成果を強固にし、農村振興の全面推進とリンクさせる」という委託を胸に刻み、中央財政の支援政策を総体として安定させ、大規模な貧困逆戻りを発生させない最低ラインを断固しっかり守ることを支援し、脱貧困地域の経済社会の発展を引き続き推進した。

(1)投入を増やした

2021年、中央財政は農村振興推進接続補助金1561億元計上し、2020年の元の中央財政特別貧困支援資金より計上規模を100億元増やした。

事業支援資金による保障政策を積極的にしっかり実施し、堅塁攻略期間に傾斜支援した832の貧困県への関係移転支出について、過渡期は引き続き脱貧困地域に傾斜し、脱貧困地域が発展を加速する「糧秣軍需」の保障を支援した。

この方面の資金について、我々は引き続き計上を増やす。

(2)精確さを際立たせる

中央財政接続資金管理弁法を打ち出し、支援内容とネガティブリストを明確にする。これは即ち、ある方向にはこの金を用いてはならないということである。

我々は資金項目の審査・認可権限を引き続き県に下方移転する。

脱貧困県が「三農」関連資金の整理・合理化テストを展開することを引き続き支援し、税制優遇・政府調達等の政策を引き続き実施し、リンクをしっかり強固にするために制度保障を提供する。

(3)フォローアップして効果を問う

中央財政接続資金の業績評価・考課を強化し、各地方・各部門が接続資金をしっかり管理し、うまく用いるよう奨励する。

貧困逆戻り防止の健全な監視・支援メカニズムを整備することを支援し、脱貧困地域の特色ある優位な産業の発展を優先的に支援し、脱貧困大衆の持続した所得増加を支援する。

貧困対策で他の土地に移転させた後の支援を強化し、脱貧困地域の生産・生活条件を改善する。

各部門の共同努力の下、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大することを農村振興と有効にリンクさせる各政策は積極的な成果を収めており、大規模な貧困逆戻りを発生させない最低ラインをしっかり守った。

関係部門が観測したデータでは、脱貧困人口の所得は引き続き増加し、2021年の1人当たり純所得は1.25万元を超えると予想され、大衆の生活は更に大きな改善をみた。

習近平総書記は「農村振興の前提は、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にすることであり、引き続き早急にしっかり取り組まなければならない」と指摘している。中央財政は、一層投入保障を強化し、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にする任務が重く、農村振興推進の底が浅い地域に傾斜させ、引き続き脱貧困地域の「自分で富を生み出す」能力を増強し、農村の人々の生活をますます豊かにする。