田中 修

中国経済レポート

地方政府特別債の管理強化

新領域研究センター 田中 修

2022年1月21日


はじめに

12月16日、財政部の許宏才副部長、宋其超予算司責任者兼政府債務研究・評価センター主任は記者会見を開き、地方政府特別債管理の強化・整備の情況を説明した。本稿では、この会見内容を要約した中国財経報2021年12月21日の概要を紹介する。

(1)基本的考え方

財政部は、最近各地方に対し2022年の新規特別債務限度額1.46兆元を前倒しで下達し、かつ引き続き指導を強化し、前倒しで下達した額の22年1-3月期での発行・使用を推進し、マクロ経済の大基盤の安定のために有力なサポートを提供する。

今後、財政部は特別債の管理を引き続き強化・整備し、有効な投資を牽引する特別債の役割を更にしっかり発揮させ、国家重大地域発展戦略と重大計画の実施を保障し、マクロ経済の大基盤の安定に力を入れ、経済運営を合理的区間に維持し、第20回党大会の勝利の開催を迎える。

(2)2021年の実績

2021年、全人代は地方特別債限度額3.65兆元の計上を承認した。

12月15日までに、新規特別債3.42兆元を発行し、既に限度額の97%を下達し、年間発行作業は基本的に完成した。

資金は党中央・国務院が確定した重点分野に全部用いた。うち、約5割を交通インフラ・都市インフラ・産業パークインフラ分野に振り向け、約3割を社会保障的性格をもつ安住プロジェクトと衛生・ヘルスケア、教育、高齢者介護、文化・観光等の社会事業に振り向け、約2割を農林・水利、エネルギー、都市・農村コールドチェーン物流等に振り向け、有効な投資の拡大牽引、経済の平穏な運営の維持に対して重要な役割を発揮した。

同時に、各地方は既に1700億元を超える特別債資金を計上して、重大プロジェクトの資本金とし、政府投資の呼び水的なテコ入れ作用を有効に発揮した。

(3)特別債の管理強化

資金支援を引き続き強化すると同時に、財政部は特別債の全プロセス管理を不断に強化し、資金の安全・規範的で効率の高い使用を促進する。

①プロジェクトの備蓄をしっかり行うよう指導する。

党中央・国務院が確定した重点分野を軸に、地方がプロジェクトの備蓄をしっかり行うよう要求し、プロジェクトの立上げ、環境評価、土地使用の審査・認可等の事前作業を早急に推進する。

財政部は、国家発展・改革委員会と審査・認可・検査を強化し、プロジェクト備蓄の質向上を推進する

②ネガティブリスト管理を強化する。

特別債資金の振向け先で禁止されているプロジェクトのリストを制定し、全国に通用するものとハイリスク地方に適用するネガティブリストを明確にし、財経紀律を厳格にし、ハードな制約を強化する。

財政部の各地方監督管理局を組織して、特別債の使用管理情況について調査を展開し、地方が存在する問題を真剣に整頓・改善し、厳格に問責するよう督促する。

③発行のテンポを合理的に把握する。

2021年1-3月期、経済に安定・回復の態勢が現れ、GDPとインフラ投資の伸びがかなり高い水準を維持すると同時に、20年の特別債発行規模がかなり大きく、政策効果が21年になお引き続き発揮されることを考慮した。

関連要求に基づき、21年初、特別債の常態化した管理を実行し、地方が発行のテンポを合理的に把握し、債券資金の放置を有効に回避するよう要求した。

7月以降、マクロ経済情勢の変化と結びつけ、政策の事前調整・微調整を速やかに実施し、8月以降発行進度を顕著に加速し、毎月の発行規模はいずれも5000億元を超えた。

(4)資金配分

財政部は最近、既に各地方に向けて2022年の新規特別債限度額を1.46兆元前倒ししており、金額の分配においては、各地方のプロジェクト資金のニーズと施行条件を十分考慮し、プロジェクト資金のニーズが多く、施工条件が良好な地方に多く分け、そうでない地方には適切に少なく分けて、一律配分を行わない。

財政部は最近、国家発展・改革委員会とビデオ会議を開催し、地方が重点的に以下の施策をしっかり行うよう要求した。

①分配にしっかり取り組む。

原則として、省レベル政府は21年の年末前に、前倒し下達された限度額を全部市・県にまで分配し、金額の分配は、市・県が22年1-3月期に実施可能なプロジェクトと釣り合わせ、審査・認可で確認されたプロジェクトと対応させなければならず、実施条件を備えたプロジェクトが多い地方に、適切に多く分ける。

②適切に集中する。

金額は、中央と省レベル重点プロジェクトが多い省・市に傾斜させなければならず、決してばらまいてはならない。

③リスクの防止に注意する。

金額は重点的に、債務リスクが比較的低い地方に傾斜させなければならない。

④制約を強化する。

条件を備えた地方は、速やかに前倒しで下達した特別債収支を年初予算に組み入れ、予算制約を強化し、できるだけ早く実施する。

22年1-3月月期の成長安定圧力がかなり大きいことを考慮し、22年の特別債発行は「早・准(正確)・快」の3文字をしっかり把握しなければならない。

①準備作業は早くなければならない。

財政部は、地方ができるだけ速やかに前倒し下達額をプロジェクトに対応させ、21年末前に発行計画の編成に着手するよう指導し、22年1-3月期に相当な金額の特別債の発行・使用を確保する。

全人代が2022年の新規特別債限度額を承認した後、財政部は手続に従って残額を下達し、地方に「資金がプロジェクトを後追いする」の原則に基づき、発行進度を適切に加速し、できるだけ速やかに実物成果量を形成するよう要求する。

②発行のタイミングは正確でなければならない。

特別債の発行進度は資金使用の進度と釣り合っていなければならず、発行の頻度を適切に高め、発行の手配を最適化し、債券資金の放置を回避しなければならない。

③資金使用は速くなければならない。

財政部は省レベル財政部門に対し、月ごとに特別債の実際の使用進度の総計を報告するよう要求し、かつ使用進度がかなり遅い地方に対して事前警告を実施し、各レベルの責任徹底を通じて、主管部門とプロジェクト単位が債券資金の使用進度を加速するよう督促し、資金使用の効率を高める。

(5)プロジェクトの準備

財政部は、特別債プロジェクトの準備作業の推進をずっと高度に重視しており、国家発展・改革委員会と共に、地方が3方面の作業をしっかり行うよう指導する。

①部門の協調メカニズムを確立する。

プロジェクトの土地使用、計画許可、環境評価、施工許可等の審査・認可手続の早急な処理を推進し、土地収用・立退き、都市インフラ手配等の着工前の準備を早急に推進し、事前作業を深く、きめ細かく、しっかりと実施する。

②プロジェクト準備を前倒し手配する。

9月に地方からの2022年特別債プロジェクト資金ニーズの報告手配を開始し、時間をうまく使ってできるだけ前倒しし、地方に十分な時間を残すため、更に早く、更にしっかりとプロジェクト準備作業を行う。

同時に、2022年特別債の重点投下先とネガティブリストを明確にし、特別債の使用要求を細分化する。

③プロジェクトの審査・認可・検査を強化する。

地方から上がってきた特別債プロジェクト資金ニーズを、何回かに分けて審査・認可・検査を進め、重点的に投下分野・プロジェクトの成熟度、規則への合致性、資金調達コスト・収益がバランスしているかどうか等の観点から審査を進め、プロジェクト備蓄の質を高める。

(6)2022年の重点対象

2022年の特別債支援の重点は、主として3つの「焦点」に体現される。

①不足分野に焦点を絞る。

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、特別債は経済社会発展の不足分野に焦点を絞り、経済社会の収益性が顕著で、牽引効果が強い重大プロジェクトを重点的に支援する。

②重点方向に焦点を絞る。

最近、財政部は国家・改革委員会と「2022年新規特別債プロジェクト資金ニーズ申告の通知」を発して、2022年特別債を重点的に9大方向に用いることを明確にした。即ち、交通インフラ、エネルギー、農林・水利、生態環境保護、社会事業、都市・農村コールドチェーン等の物流インフラ、都市インフラ・産業パークインフラ、国家重大戦略プロジェクト、社会保障的性格をもつ安住プロジェクトである。

③重点プロジェクトに焦点を絞る。

9大重点方向に焦点を絞ると同時に、地方に要求してプロジェクト備蓄は、経済社会の収益性が顕著で、大衆が望み、早晩手を付けなければならない、実体のある政府投資プロジェクトに属さなければならない。

同時に、国家第14次5カ年計画要綱に組み入れたプロジェクト、及び国家重大地域発展戦略に組み入れた重点プロジェクトを優先的に支援し、特別債の重大計画・戦略へのサポートの役割を積極的に発揮させなければならない。

このほか、さらに水利・都市パイプライン網建設等の重大プロジェクトへの支援を強化しなければならない。

(7)特別債の資金調達コスト・収益バランスの確保

特別債は政府の赤字に計上せず、債務償還財源は主としてプロジェクト自身が生み出す収益である。資金調達コストと収益がバランスできるかどうかは、プロジェクトの債務償還能力と債務リスク防止の保障に直接関わるものである。

財政部は、主として3段階で厳格な検査を進める。

①プロジェクト選択の際、特別債を収益のある公益的プロジェクトの建設に用いることを明確にする。

プロジェクト主管部門とプロジェクト単位に、プロジェクト実施プランの中で、プロジェクト資金調達コスト・収益バランスの情況を詳細に分析するよう要求する。

各レベル財政部門も、資金調達コスト・収益のバランスを審査・検査の重点とし、条件を備えていないプロジェクトを特別債プロジェクトリストに入れてはならず、特別債資金を申請してもならない。

現在、特別債が重点支援している交通インフラ、都市インフラ・産業パークインフラ、及び職業教育、託児保育、医療、高齢者介護等の民生プロジェクトは、いずれもかなり安定した予想収益を備えている。

②発行手配の際、情報開示の強化を要求し、市場の制約を強化する。

プロジェクト情報、プロジェクトの収益と資金調達コストをバランスさせるプラン、債券に対応する政府基金収入あるいは特別収入の情況、及び専門機関から出された評価・意見等を全面公開する。

情報開示の基準化・規範化水準の向上を通じて、市場の制約を強化し、特別債プロジェクトの管理を規範化し、プロジェクト収益と資金調達コストの自動的なバランスを更にしっかり促進する。

③後続の監督管理の際、特別債プロジェクトの資金調達コスト・収益のバランス情況を動態的にフォロー・モニタリングする。

執行において、もし特別債に対応する政府基金収入が内外環境に変化が発生したことにより、元本償還・利払いに不足が生じた場合、速やかに動態的調整を進め、関係公益プロジェクト単位から特別収入を繰り入れて補填を進め、元本償還・利払いを保障し、特別債元本償還・利払いリスクを防止する。

(8)特別債のプロセス管理

近年、財政部は多くの措置を採用して特別債の「借入・使用・管理・償還」の全プロセスの管理を引き続き強化し、資金の安全・規範的で効率の高い使用を促進し、積極的成果を収めた。

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、財政部は特別債使用の管理・監督を一層強化する。

①投下先の管理を強化する。

明確な重点投下分野を除き、財政部は国家発展・改革委員会とネガティブリスト管理制度を確立し、特別債を各種事務棟・公会堂・記念館・招待所、イメージ作りのプロジェクト、政治業績プロジェクト、及び各種非公益的資本支出に用いることを厳禁し、ハイリスク地方・債務リスク指標が相対的に高い地方において、特別債を不要のプロジェクトに用いてはならないことを明確にする。

②日常の監督を強化する。

特別債プロジェクトにスキャン式のモニタリングを実行し、2022年1月1日から、資金の使用・プロジェクト建設の進度・運営管理等の情況を速やかに掌握し、問題を発見したら直ちに是正し、災いを未然に防ぐ。

2021年、財政部は、一部の債務が深刻な地方が規定に反して事務棟・公会堂・記念館・招待所を建設した問題について、特別調査を展開し、財政部各地方監督管理局を組織して、全国57の市・72の県に対して特別調査を展開し、調査で発見した問題について各地方に真剣な整頓・改善を要求した。

同時に、常態化した調査を引き続き展開し、発見した規定違反問題について処分・処罰措置を採用し、規定違反行為への規制を強化した。

③処罰メカニズムを確立する。

財政部は処分・処罰メカニズムを確立し、新規限度額の削減、発行・使用の一時停止、放置資金の回収、マイナスの典型例の通報等の措置を通じて、法・規定に違反するコストを高め、法・規定違反行為へのハードな規制を強化した。

このほか、特別債プロジェクト資金の業績効果管理を実施し、全ライフサイクルの業績効果管理を通じて、主管部門とプロジェクト単位の管理強化を推進する。

(9)地方政府の隠れ債務の防止・解消

近年、財政部は一連の政策措置を制定し打ち出し、地方政府の潜在債務リスクの防止・解消に力を入れ、積極的成果を収めた。

①常態化したモニタリングメカニズムを整備する。

部門間の情報共有・協同監督管理を強化し、認識・規格・監督管理を統一して、監督管理の合成力を形成する。

②隠れ債務の増加に断固歯止めをかける。

法・規定に違反した借入・資金調達の裏口を塞ぎ、リスクの根源の管理・コントロールの強化に力を入れ、予算制約をハードにし、地方がプロジェクト建設の審査・認可を厳格にするよう要求し、新規プロジェクトの資金調達の金融バルブを管理・コントロールして、国有企業・公益事業体単位の債務・資金調達の管理・コントロールを強化し、規定に違反して地方政府のために形を変えた借入を行うことを厳禁し、隠れ債務を新たに増やす新プロジェクトの立上げ・新たな大風呂敷を決して許さない。

③隠れ債務残高を穏当に解消する。

中央が救助しないという原則を堅持し、「自分の子どもは自分で面倒をみる」ようにさせる。

市場化・法治化された債務デフォルト処理メカニズムを確立し、隠れ債務残高を穏当に解消し、法に基づき債務者・債権者の合理的なリスク分担を実現し、「リスク処理のリスク」を防止する。

分類した慎重周到な処理を堅持し、政府投資基金、政府と民間資本の協力(PPP)、政府調達サービスにおける不規範な行為を是正する。

④プラットフォーム会社の市場化した転換を推進する。

融資プラットフォーム会社の資金調達管理を規範化し、融資プラットフォーム会社の新設を厳禁する。

融資プラットフォーム会社の資金調達の情報開示を規範化し、地方政府の信用と結びつけることを厳禁する。

融資プラットフォーム会社の市場化した転換、債務・資産の適切な処理、政府の資金調達機能の分離を分類して推進する。

地方国有企業・公益事業体単位の「プラットフォーム化」を防止する。

⑤健全な監督管理・問責メカニズムを整備する。

終身問責・遡及責任調査の制度・方法を打ち出して推進し、法・規定違反行為を断固調査・処分・問責する。

省レベル政府が健全な責任追及メカニズムを整備するよう督促し、継続する法・規定に違反する借入行為については、発見するたびに調査・処分・問責し、終身問責・遡及責任調査を行う。

このほか、国務院の批准を経て、上海市・広東省等の経済の容量が大きく、財政実力が強い地方は、全域隠れ債務解消テストを率先して展開し、隠れ債務ゼロを実現し、全国のその他地方の隠れ債務全面解消のために有益な模索を提供した。

財政部は上海・広東等の地方の地域・段階を分けた統一推進を引き続き支援し、法・規定に基づき既存隠れ債務を全面的に整理し、期限どおりのテスト任務の完成を確保し、テストの進展情況に応じて経験を総括し、後続施策の手配を計画する。

今後、財政部は関係部門と、法に基づき隠れ債務の新たな増加に厳しく歯止めをかけ、既存隠れ債務を穏当に解消する健全な体制メカニズムを整備し、重大リスクを有効に防止・解消し、断固後顧の憂いを無くし、システミックリスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。