田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(80)

新領域研究センター 田中 修

2022年1月14日


はじめに

本稿では、12月29日・1月4日・10日の国務院常務会議、5日の減税・費用引下げ座談会の概要を紹介する

12月29日 国務院常務会議
(1)春節輸送・疫病防御

現在、世界の疫病情勢は、依然として峻厳・複雑であり、わが国の一部地域で疫病が点状に暴発している。

2022年の春節輸送は1月中旬に開始し、2月下旬に終了するが、党中央・国務院の要求に基づき、科学的で精確な疫病防御を強化し、春節輸送期間の人員流動が密集している情況に対し、春節輸送・疫病防御を完備してしっかり取り組まなければならない。

①地方の主体責任を徹底させる

疫病リスクの情況に応じて科学的で秩序立った移動を誘導し、一律対策を防止する。

企業・大学が、ピークをずらし、ピークを避けて休暇と人員の職場・学校帰還を手配するよう誘導し、適時「点対点」輸送を組織する。

観光・景勝地の人員数を絞った予約を実施し、ピークをずらして接待する。

②駅・空港ターミナルの消毒を強化する

体温検査・マスク着用等の要求を厳格に実施し、オンライン切符購入、安全検査場の増加等の方式を採用して人員の密集を回避する。農村地域の交通輸送の疫病防御を強化する。

③春節輸送期間の重点物資輸送保障を強化する

民生物資の供給を保障し、劣悪な天候への対応策をあらかじめ準備する。

④春節輸送の安全を確保し、安全事故の発生を厳しく防止する

(2)個人所得税優遇政策の継続

個人所得税の納税者負担を引き続き軽減し、中低所得層の圧力を緩和するため、以下を決定した。

①年間の一時ボーナスを当月の賃金・給与所得に算入せず、月割換算税率により単独で税額を計算する政策の実施を、2023年末まで延長する。

②年間所得が12万元を超えず、税追納分があり、あるいは年度総計で税追納分が400元を超えない場合の税追納免除につき、政策を2023年末まで延長する。

③上場会社のストックオプションの単独税額計算の政策を、2022年末まで延長する。

上述の3政策で、1年に1100億元の減税が可能を予測される。

(3)農村教師の育成・出稼ぎ農民の子女の就学

社会の公平を促進するために重要なことは、教育の公平を保障することである。更に多くの優秀な人材を引き入れて農村で教師に任じ、教員の質を高めるため、以下を決定した。

①農村教師の待遇保障を強化する

義務教育教師の平均給与所得が現地の公務員を下回らないようにする規定を厳格に実施する。教職経験年数補助基準を引き上げ、業績給与査定を農村小規模学校、困難な僻地の学校等に傾斜させる。

②中央予算内投資を計上する

困難な僻地における農村教師の独身寮の改善を支援し、農村教師のために地方の安定した住宅提供を推進する。

③農村教師の研修を強化する

研修と学歴教育のリンクを促進し、農村教師の速やかな学歴向上を支援する。

「優秀教師」計画を引き続き実施し、毎年脱貧困県と中西部陸地辺境県のために方向を定めて1万の師範コース本科生を育成する。

農村教師の職称審査の学歴条件を緩和し、教育実績のウエイトを高める。

④優秀な教師が農村学校へ輪番で移動するよう誘導する

教師を敬い、教育を重んじる社会の雰囲気を作り上げる。

⑤都市に入った出稼ぎ労働者に伴って移った子女が、平等に義務教育を受けることを確実に保障する

流入地政府が主となり、公立学校を主とすることを堅持し、現地の教育発展計画と財政保障に組み入れる。借読費1・賛助費の徴収を厳禁する。

条件を創造して、親に伴って入った子女が流入地において高校入試に参加する機会を更に多く提供する。

大学生募集は、引き続き中西部・農村地域への傾斜を強化する。

1月4日 国務院常務会議
(1)行政許可事項のリスト管理全面実行

党中央・国務院の手配に基づき、有効な市場と有効な政府の更にしっかりとした結びつきを推進し、「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を引き続き深化させ、全部の行政許可事項をリスト管理に組み入れることは、制度的コストを減らし、市場の自信を増強し、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げ、市場の活力と社会の創造力を更に大きく奮い立たせることに資するものである。

会議は「法律、行政法規、国務院が決定した行政許可事項リスト(2022年版)」を決定し、次のように要求した。

①省・市・県は、2022年末前に、各レベルの行政許可事項リストを編成・完成し、法に基づき設定した行政許可事項リストを全部その中に組み入れる。

各地方は、リストの基本要素を相対的に統一し、同一事項は、どの地方でも同要素管理・同基準管理の実現を推進しなければならない。

上級が設定し、現地が実施する事項及びその基本要素はすべて、各レベルのリストを編成する際、各地方は1つ上のレベルのリストの範囲を超えてはならない。

②各レベル政府及びその部門は、リストに厳格に基づいて行政許可を実施し、手続は公開・透明にし、企業に明確な予想を形成させなければならない。

リスト内の行政許可について項目ごとに実施規範を制定し、許可条件、申請資料、審査・許認可手続、手数料徴収基準等を明確にして社会に公表し、執行において条件あるいは規制を増やし付加してはならない。

リスト以外は一律に、行政許可を違法に設け実施してはならない。各種名義により形を変えて設けた行政許可を一律に整理し、関係責任者を厳格に問責する。

③法律・規定に基づき、監督管理を強化する。

リストに組み入れた事項は、項目ごとに監督管理主体、重点部分、監督管理規則・基準等を明確にする。

公共安全・大衆の健康に直接関わり、及び潜在リスクが大きい分野については、重点監督管理を実行する。

④サービスの効果を高める。

行政許可の実施において、告知・承諾、集中サービス、オンライン一括処理等の方式を推進し、企業・大衆の事務処理のために更に多くの便宜を提供する。

(2)企業の信用リスクの分類管理

信用は市場経済の基礎である。信義誠実を守り、公平な市場環境を作り上げるため、法・規定に基づき、企業の信用リスクの分類管理を推進し、「無作為に検査対象と検査要員を選び、検査結果を公表」等の科学的・精確な監督管理措置を相応に採用することにより、監督管理は信義誠実を守る経営者を「邪魔せず」、違法により信用を失墜した者は「居場所がない」ようにしなければならない。

①企業信用リスクの分類指標体系を科学的に構築しなければならない

企業の登記・登録、届出、行政許可、行政処罰、経営がまともでない経営者・深刻に信用を失墜した主体のリスト等の情報を速やかに収集し、この基礎の上に、同一視するという要求に基づき、各種所有制企業の信用リスクについて分類を進めなければならない。

②分類結果を運用して監督管理の効果を高め、勝手な行為・任意の法執行を防止しなければならない

低リスク企業については、法に基づき監督管理のサンプル抽出割合・頻度を合理的に引き下げ、ハイリスクあるいは記録が不良な企業については、法に基づきランダムなサンプル調査・現場検査等を強化する。

関係部門の協力を強化し、人民大衆の生命・健康と食品・薬品の安全、特殊設備等に関わる分野については、重点監督管理・全チェーン監督管理を実行する。

新産業・新業態・新モデルに対して科学的・有効な監督管理を実施し、安全の最低ラインを厳守する前提の下、発展の余地を留保する。

③リスクのモニタリング・事前警告を強化しなければならない

ビッグデータ分析・重点分野のモニタリング等を通じて、企業の異常な情況とリスクを速やかに発見し、適時企業に対して注意喚起し、監督管理のチェックを前倒しして、潜在リスクを解消する

1月5日 減税・費用引下げ座談会

李克強総理が主催し、ここ数年の減税・費用引下げの成果を総括し、更に市場主体のためになる減税・費用引下げについて意見・建議を聴取した。

座談会には、韓正・胡春華・劉鶴各副総理、王勇・肖捷・趙克志各国務委員、何立峰国家発展・改革委員会主任が参加した。

会議では、財政部・国家税務総局の責任者が報告し、劉尚希財政科学研究院院長、劉怡北京大学経済学院教授等の専門家が発言し、山西・遼寧・江蘇・安徽・山東・甘粛省政府の主要責任者がビデオを通じて管轄地域の減税・費用引下げの効果・建議を語った。

李克強総理の発言の概要は、以下のとおりである。

一定規模の減税・費用引下げは、マクロ・コントロールのカギとなる措置である。

習近平を核心とする党中央の堅固な指導の下、ここ数年、複雑・峻厳な内外環境とりわけ疫病等の巨大衝撃に直面し、我々は新発展理念を全面貫徹し、マクロ・コントロールの方式を刷新し、一定規模の減税・費用引下げの推進を「先手」とし、第13次5カ年計画以来累計で新たな減税・費用引下げは8.6兆元を超え、政府支出を圧縮すると同時に、市場主体のために困難を緩和し、「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」等の改革と同歩調で推進し、市場主体の活力を更に大きく奮い立たせ、消費の拡大・有効な投資を牽引し、成長の安定・雇用の保障・インフレの防止の実現を促進した。

実践は、減税・費用引下げは受益面が最大の企業優遇政策であり、困難・試練に対応し、経済運営を合理的区間に維持することにとって、カギとなる役割を発揮することを証明している。

減税・費用引下げは、製造業のグレードアップと、数が多く・範囲が広く・雇用吸収が多い中小・零細企業及び個人工商事業者を際立てて支援しており、マクロ政策とミクロ主体の緊密な連携を実現した。

増値税制度を改革・整備し、R&D費用の割増控除等の制度的減税を実施すると同時に、さらに段階的な社会保険料の減免等の措置を実行し、市場主体の負担軽減を支援するとともに、イノベーション・産業のグレードアップを促進する。

金融機関・一部の自然独占業種が、市場主体に向けて合理的に利潤を移譲するよう誘導する。

財政資金直接交付メカニズムを確立し、地方の減税・費用引下げ政策実施を支援する。

減税・費用引下げは大量の市場主体を生み出し、新たに増えた市場主体の納税は年々増加しており、税源の育成・課税ベースの拡大の役割を果たし、「水をやって魚を育てる」「水が増え、魚が増える」の良性循環を実現した。

現在、国際・国内の多重の要因の影響を受けて、わが国経済は新たな下振れ圧力が出現しており、周期を跨ぐ調節を強化し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)政策を引き続きしっかり行い、市場主体のニーズに対して、新しく更に強力な組合せ式の減税・費用引下げを早急に実施し、1-3月期の経済の平穏なスタート、マクロ経済の大基盤のしっかりとした安定を確保しなければならない。

2021年末に期限が到来した小型・零細企業と個人工商事業者への減税・費用引下げ措置を引き続き実施しなければならない。

R&D費用の割増控除政策を整備し、増値税の留保分の還付を強化し、製造業企業の科学技術イノベーションと更新・改造を促進する。

疫病の影響が重く、雇用の容量が大きいサービス業等の特集困難業種に対して、精確に支援する減税・費用引下げ措置を検討する。

政府が倹約を堅持することは、市場主体の総体としての安定、希望をもたらすことができる。

国家は引き続き地方に対する移転支出を強化し、財政力の市・県末端への下方移転を推進し、減税・費用引下げのために保障を提供する。各地方も、自身の措置を打ち出さなければならない。

同時に、脱税・課税漏れ・税の騙取を断固取り締まり、勝手な費用徴収を断固止めさせなければならない。

各地方・各部門は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党中央・国務院の手配を実施し、「穏」(安定・穏健)の字を第一とし、安定の中で前進を求め、各施策を着実にしっかり実施し、経済の持続的で健全な発展を促進しなければならない。

1月10日 国務院常務会議

(第14次5カ年計画要綱と特別計画が確定した重大プロジェクトの早急な推進)

党中央・国務院の手配を貫徹し、各関係部門は、第14次5カ年計画要綱が確定した重点をベンチマークとして、国家レベル特別計画編成作業を科学的・有効にしっかり行い、目標・任務を一層細分化し、操作可能な政策と具体的プロジェクトを提起した。

現在、44の特別計画が既に基本編成を完成し、続々と公表・実施されている。

現在に立脚し、長期に着眼し、第14次5カ年特別計画の実施を有力に秩序立てて推進しなければならない。

現在、経済運営は、坂を登り谷を越える要所にある。中央経済工作会議の要求に基づき、成長の安定を更に際立てて位置づけ、内需拡大戦略を断固実施し、「バラマキ」を行わないことを堅持し、最終消費と有効な投資を的確に拡大しなければならない。これは、経済の新たな下振れ圧力に耐え抜き、1-3月期と1-6月期の経済の平穏な運営を確保することにとって、重要な意義を有する。

①第14次5カ年計画要綱が確定した102の重大プロジェクトと特別計画重点プロジェクトの実施を早急に推進しなければならない。

食糧・エネルギーの安全、先進製造業・ハイテク産業、交通・物流、インターネット通信等のインフラ、都市の社会保障的性格をもつ住宅等の重点分野の建設を軸に、協調メカニズムを確立し、資金調達・土地使用・エネルギー使用等の要素保障をしっかり行う。

計画に組み込まれ、条件が備わったプロジェクトについては、関連手続を簡略化しなければならない。とりわけ、これまで長年論証されてきた重大水利プロジェクトの早急な実施を推進し、仕事を与えることで現金給付に代える等の方式を採用して、一部の暫時仕事につけないでいる出稼ぎ農民に、仕事・収入を与えなければならない。

プロジェクト新規着工投資が低下している地方に施策を強化するよう指導し、投資不振の状況を反転させる。

②資金がプロジェクトの後を追うという要求に基づき、2021年10-12月期に発行した1.2兆元の地方政府特別債資金を具体的プロジェクトにできるだけ速やかに交付しなければならない。

今年既に下達した特別債を早急に発行し、中央予算内投資をうまく用いて、建設中・できるだけ速やかに着工できるプロジェクトに重点的に手配し、更に多くの社会(民間)投資をテコ入れ動員して、1-3月期に更に多くの実物成果量を形成するよう努める。

③投資プロジェクトの審査・認可制度の改革を深化させ、承諾制・地域評価等の措置刷新を推進する

既存資産を活性化する政策措置を検討し、打ち出す。

  1. 公立学校に入学するために特別に払う金のこと(中国通信)。