田中 修

中国経済レポート

地方政府特別債の管理

新領域研究センター 田中 修

2021年12月2日


はじめに

李克強総理は11月24日、国務院常務会議を開催し、地方政府特別債管理の整備・資金使用の最適化・資金監督管理の厳格化を手配した。また、財政部はこれに先立ち11月11日に「地方政府特別債用途調整操作ガイドライン」を公布している。本稿では、国務院常務会議とガイドラインに関する中国財経報2021年11月16日の解説の概要を紹介する。

国務院常務会議(11月24日)

ここ数年、党中央・国務院の手配を貫徹し、地方債務管理は積極的な成果を収め、隠れ債務は減少し、政府全体のレバレッジ率は安定の中で低下している。

今年に入り、各地方は、全人代が批准した新規発行限度額に基づき、地方政府特別債を合理的に発行・運用し、重点プロジェクトと重大民生プロジェクトの建設を有力に支援している。

新たな経済の下振れ圧力に直面し、周期を跨ぐ調節を強化し、引き続き地方政府債務管理をしっかり行い、リスクを防止・解消すると同時に、今年・来年2年間の特別債管理政策を統一的にしっかりリンクさせ、特別債資金が社会(民間)資金を牽引する役割を更に好く発揮させ、有効な投資を拡大し、内需拡大・消費促進に利するようにしなければならない。

①今年度限度額の残りの発行を加速し、資金の交付・支出管理をしっかり行い、来年初めに更に多くの実物成果量を形成するよう努力する。

②「資金がプロジェクトを後追いする」という要求に基づき、来年の特別債プロジェクトと資金需要を整理する。
省レベル政府は統一的企画を強化し、経済社会発展のニーズに合致したプロジェクトの前段階作業・備蓄を強化し、機が熟したプロジェクトの着工を適時推進する。

③各地方の実際と地域の協調発展促進の要求を統一的に考慮し、来年の特別債発行限度額と分配プランを合理的に提出し、重点分野の建設を強化し、「バラマキ」を行わず、法・規定・手続に従って一部限度額を前倒しで下達することを検討する。

④資金使用は実効を重視し、投下先等への審査・認可と監督管理を強化し、資金を庁舎・公会堂・記念館・招待所、イメージ作りプロジェクト、不必要なライトアップ・美化プロジェクト等に用いることを厳禁する。

資金の横領・流用、規定に反した交付、長期の放置を断固止めさせる。

特別債資金の会計検査による監督と全面監査を強化し、問題を発見したら厳格に整頓・改善し、厳格に問責し、放置資金の回収・新規の限度額の割引・マイナスの典型例の通報等の措置を実行して処罰を与える。

中国財経報の解説(11月16日)

11月11日、財政部は「地方政府特別債用途調整操作ガイドライン」(以下「ガイドライン」)を公布し、地方が特別債の用途を規範化するよう指導した。

財政専門家によると、ガイドラインは、「特別債資金の使用は、調整しないことを常態とし、調整を例外とし、特別債券の用途を恣意的に調整することを厳禁し、先に流用して後で調整する等の行為を厳禁する」と強調している。これは、地方特別債の規範性を一層整備することによって財政資金の役割を更に好く発揮させるものである。

(1)特別債に確実に役割を発揮させる

今年1-9月、全国の地方は既に新規地方債を2兆8986億元発行し、うち特別債は2兆2167億元、特別債の発行進度は61%であり、うち8月以降の発行進度は顕著に加速している。

党中央・国務院が確定した重点投下対象分野に基づき、1-9月、全国地方が発行した新規特別債の約5割は交通インフラ・都市インフラ・産業パーク分野の重大プロジェクトに投下されており、約3割が社会保障的性格をもつ安住プロジェクト及び衛生・健康、教育、高齢者介護、文化・観光等の社会事業分野の重大プロジェクトに投下され、約2割が農林水利、エネルギー、都市・農村コールドチェーン物流等の分野の重大プロジェクトに投下されている。

これは、有効な投資の拡大を牽引し、経済の平穏な運営を維持することにとって、重要な役割を発揮している。

粤開証券研究院の副院長・首席マクロ研究員の羅志恒は、「しかし、現在一部の地方では、特別債資金の放置、規定に反した使用、使用の業績効果が高くない等の問題が存在する」と述べている。ガイドラインを打ち出したのは、正に特別債の使用業績効果を高め、債務リスクを防止し、周期を跨ぐ調節と不足部分を補充する役割を特別債に真に発揮させるためである。

各地方の「2020年度省レベル予算執行とその他財政収支の会計検査報告」によれば、ある省・一部の市・県は、プロジェクト資金の放置が1年を超えている。ある省の4市・20県は、29.04億元の債券資金を郷鎮・企業等に貸し出して転用しており、甚だしきは理財商品の購入あるいはその他のプロジェクトの建設等に用いている。

羅志恒は、「これらの問題は、地方政府の債務償還能力を低下させ、地方政府の債務リスクを高めている」と言う。審計署のデータでは、2020年末、55の地域の特別債残高1.27兆元のうち、413.21億元(全体の3.25%)が未だ厳格に用途に基づいて使用されておらず、うち5地域は204.67億元を、収益のない、あるいは収入が元本・利息支出に満たないプロジェクトに投下しており、債務償還能力が懸念されている。

羅志恒は、「今年に入り、財政部は継続して特別債資金の使用管理を強化し、制度による制約を一層強化している。しかし、一部の地方債の発行のテンポ・使用進度はかなり遅く、インフラ建設の伸びが低迷し、資金をかなり速くプロジェクトに十分届けることができず、特別債が形成する投資の経済を安定させる役割を一層発揮させる必要がある」としている。

国家金融・発展実験室中国政府債務研究センター執行主任、中国社会科学院大学教授の吉富星は、「ガイドラインの打出しは、これまでの一部特別債実施プロセスにおける、速やかに届かず、有効に使用できない等の問題を更に有効に解決できる。一面では、一部特別債プロジェクトの資金の滞留、資金の低効率の使用問題を更に好く解決できる。他方で、資金の流用・恣意的な調整問題を防止できる。このほか、規範に基づきその他の分野向けに調整することは、資金の高効率配分・有効投資の牽引作用を、更に好く地方に発揮させることができる」と述べている。

吉富星は、「ガイドラインは、調整プロセスにおいて、規定・手続を厳格に履行しなければならず、『先に流用、後で調整』してはならない。同時に、その他のプロジェクト向けに調整する際は、相応の条件・手続に合致し、資金調達と収益のバランスを確保し、できるだけ早く実物成果量を形成しなければならない、と要求している」と指摘する。

(2)特別債使用のネガティブリスト管理を厳格化する

ガイドラインは、特別債資金を既に計上したプロジェクトの調整規模が大きく、頻繁な地域あるいは部門、省レベル財政部門は、次年度の新規特別債発行限度額を適切に割り引くことができることを明確にしている。

特別債の用途調整は、特殊な情況に限られている。ガイドラインは、4種類を列記している。

①プロジェクト実施プロセスにおいて重大な変化が発生し、確実に特別債のニーズがなくなる、あるいはニーズが予想より少なくなる場合。

②プロジェクト竣工後、特別債資金に余剰が発生した場合。

③財政(監督検査)・会計検査等で、特別債使用に規定違反の問題が存在することを発見し、監督検査意見あるいは会見検査等の意見に基づき、確実に調整が必要な場合。

④その他調整の必要がある場合。

ガイドラインは、特別債の用途調整の4大原則を明確にした。

①調整して計上するプロジェクトは、一定の収益がある公益的プロジェクトに属し、予想収益と資金調達規模がバランスしており、プロジェクトの前段階作業の準備が十分で、できるだけ早く実物成果量を形成でき、プロジェクトサイクルが調整を申請した債券の残り期限と釣り合っていなければならない。

②調整して計上する特別債資金は、党中央・国務院が明確にした重点分野・重大プロジェクトを優先的に支援しなければならない。

③調整して計上する特別債資金は、元々計上したプロジェクトと同類型・分野に属するプロジェクトを優先的に選択し、確実にプロジェクトの類型を変更する必要がある場合は、必要な説明を行わなければならない。

④調整して計上する特別債資金は、既存債務の借換えに用いることを厳禁し、庁舎・公会堂・記念館・招待所、イメージ作りプロジェクト、政治業績プロジェクト及び非公益的資本支出プロジェクトに用いることを厳禁し、経常支出に用いてはならない。

吉富星は、「ガイドラインは、これまでの文件・政策の実践の基礎の上に、更に規範化・向上させたもので、特別債用途のルールに合致し効率の高い調整を強調している。

①プロジェクト調整の条件・調整手続・執行管理・情報公開等債券プロジェクトの全プロセスについて、かなり詳細に規定しており、ルールは更に明確になり、更に操作性を増している。

②省レベル政府に更に大きな自主権を賦与し、省レベル政府により統一的に計上され、財政部に届出がなされる。

③調整しないことを常態とし、調整を例外とすることを堅持し、監督管理を強化し、各地方がプロジェクト計上の精確性・規範性を高めるよう誘導し、インセンティブ・制約メカニズムを形成している。」と指摘する。

特別債は、地方政府の重要な資金調達手段として、投資を牽引する役割があるだけではなく、「正門を開き、裏口を塞いで」地方の隠れ債務を引き下げる機能ももっている。このため、ガイドラインを打ち出した趣旨は、地方特別債の使用における不規範なやり方を一層規範化して、特別債資金に果たすべき役割を体現させ、潜在リスクを防ぐことにある。

羅志恒は、「ガイドラインは、特別債資金の使用は、調整しないことを常態とし、調整を例外とすることを明確にし、特別債の用途調整の原則を示し、特別債使用のネガティブリスト管理を厳格にしている。確かに特殊情況により調整が必要な場合には、例えば調整して計上するプロジェクトは、一定の収益がある公益的プロジェクトに属さねばならず、既存債務の借換えに用いてはならないなど、若干の原則に合致しなければならない」と述べる。

(3)特別債資金の使用業績効果を高める

今年に入り、財政部は特別債資金の使用管理を引き続き強化し、関係部門と地方プロジェクトの備蓄と前段階作業への指導を強化すると同時に、地方が申請する特別債プロジェクトの審査・認可の関門を強化し、プロジェクト備蓄の質向上を推進している。

「地方政府特別債プロジェクト資金業績効果管理弁法」等の文件を公布し、特別債資金のスキャン式モニタリングテストを始動し、特別債のライフサイクル管理と強化している。

「地方政府特別債資金投下先分野禁止プロジェクトリスト」を公布し、特別債資金の使用情況の調査を常態的に展開し、制度的制約を一層強化し、財経紀律を厳格化している。

羅志恒は、「近年財政部は、特別債の用途調整を規範化し、資金の使用効率を高めるよう何度も要求しており、ガイドラインは、調整の細則を一層明確にし、特別債資金を肝心要の部分に用いることを督促し、特別債資金の使用業績効果を高め、地方政府の債務リスクを防止・解消する助けとなっている」とする。

2020年7月、財政部は「地方政府特別債発行・使用関連作業に関する通知」の中で、地方に一定の自主権を賦与し、準備不足により短期間で建設・実施困難なプロジェクトについては、省レベル政府が速やかに手続に従って用途を調整することを認める旨を明確にしている。

2021年6月、財政部は「地方政府特別債プロジェクト資金業績効果管理弁法」の中で、「特別債プロジェクトに対しスキャン式の監督管理を実行する」「プロジェクトが実施できない、あるいは深刻な問題が存在する場合は、速やかに特別債資金を取り戻し、手続に従って用途を調整しなければならない」としている。

吉富星は、「ガイドラインが、省レベル政府にかなり大きな自主権と明確な調整方法を賦与したことは、地方政府が主観的能動性を発揮することに資するものであり、資金の放置・資金の流用・低効率あるいは無効な使用等の現象を一層減らすことができるのみならず、資金を活用し、有効な投資を牽引する役割を更に好く発揮させることができる。これは、地方がプロジェクトの備蓄・使用・調整への管理を強化し、地方政府の債務リスクを防止し、特別債資金の使用業績効果を高めるよう誘導する助けとなる」と述べている。

財政の専門家は、「ガイドラインの趣旨は、地方政府が既に発行した特別債プロジェクトの潜在力を一層掘り起こし、既存資金の活性化を通じて、特別債資金支出のできるだけ速やかな実物成果量形成を推進することにある」と指摘する。