田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(78)

新領域研究センター 田中 修

2021年11月19日


はじめに

本稿では、11月8日の人民銀行の炭素排出削減への金融政策支援発表、16日の「世界経済フォーラムグローバル企業家特別対話会」における李克強総理の発言、17日の国務院常務会議の概要を紹介する。

11月8日 炭素排出削減への金融政策支援(人民銀行)

炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルに関する党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹実施し、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹するため、人民銀行は炭素排出削減推進を支援する手段としてこの構造的金融政策手段を創設し、着実に秩序立てて、精確に直接到達する方式により、クリーンエネルギー、省エネ・環境保護、炭素排出削減技術等の重点分野の発展を支援し、かつ更に多くの社会(民間)資金を動員して炭素排出削減を促進する。

人民銀行は、炭素排出削減支援手段を通じて、金融機関に向けて低コスト資金を提供し、自主的な政策決定・リスクの自己負担の前提の下、金融機関が炭素排出削減の重点分野内の各種企業を同一視し、これに向けて炭素排出削減貸出を提供するよう誘導し、貸出金利は同期間・同ランクの貸出プライムレートと概ね同水準でなければならない。

炭素排出削減支援手段の貸出対象は、暫定的に全国性金融機関とし、人民銀行は「まず貸し出した後、借り入れる」の直接到達メカニズムを通じて、炭素排出削減の重点分野内の関係企業に向けて金融機関が実施した、条件の合致する炭素排出削減貸出について、貸出元本の60%相当の資金支援を提供し、金利は1.75%とする。

炭素排出削減支援手段の精確性と直接到達性を保障するため、人民銀行は金融機関が炭素排出削減貸出の実施情況及び貸出が牽引する炭素排出削減数量等の情報を公開・披露するよう要求し、かつ第三者専門機関がこの情報について調査・検証を進め、社会大衆の監督を受けさせる。

炭素排出削減支援手段の推進は、政策の模範効果を発揮させ、金融機関と企業が更に十分にグリーン転換の重要意義を認識するよう誘導し、社会(民間)資金が更に多くグリーン転換分野に投下されるよう奨励し、企業と大衆に向けてグリーン生産・生活方式、循環経済等の理念を唱導し、炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルの目標実現に助力する。

11月16日 世界経済フォーラムグローバル企業家特別対話会

40余りの国家から400名近い企業家が参加した。李克強総理の発言の概要は以下のとおりである。

現在、世界の疫病はなお起伏があり反復しており、世界経済の回復の動力はかなり弱く、不安定・不確定要因が増大している。

習近平国家主席は、人類運命共同体の構築を提起した。中国は、各方面と手を携え協力して疫病対策を行い、経済回復を推進し、産業チェーン・サプライチェーンの安定・円滑を維持する。

国連憲章を基礎とした国際関係の基本準則を断固擁護し、WTOを核心とした多国間貿易体制を擁護し、貿易・投資の自由化・円滑化水準を高める。

国際マクロ政策の協調を強化し、グローバル金融の安定的な運営を擁護し、世界経済の安定・回復を促進する。

(中国経済について)

今年に入り、我々は疫病防御と経済社会の発展を統一的に推進し、経済は総体として回復・発展の態勢を継続しているが、同時に新たな下振れ圧力に直面してもいる。

中国は世界最大の発展途上国として、経済が長期に好い方へ向かうというファンダメンタルズに変わりはない。中国の市場主体は、既に1.5億にまで増え、7億人余りの雇用を牽引している。これが中国経済の強靭性・活力の所在であり、雇用の基盤を有力に支えてもいる。

我々は、マクロ経済運営を安定させ、「バラマキ」を行わないことを堅持し、引き続き市場主体のニーズに合わせてマクロ政策を制定・実施し、更に強力でセットになった減税・費用引下げ措置を適時打ち出し、「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、市場主体の活力と発展の内生的動力を更に大きく奮い立たせ、市場主体とりわけ数が多く範囲が広い中小・零細企業の難関克服を支援する。

我々は、「新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進する」という要求に基づき、周期を跨ぐ調節を強化し、経済運営を合理的区間に確保し、長期に安定させる。

中国経済は既に世界経済に深く融け入っており、対外開放は中国の基本国策である。我々は断固として対外開放を拡大し、多くの分野・多層レベルの国際協力を推進し、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げ、各種市場主体を同一視し、法に基づき知的財産権を保護する。

中国は常に世界の大市場、投資の重要な目的地であり、各国企業が引き続き中国で投資し、事業を興すことを歓迎する。

(質問に答えて)

最近の電力・石炭等のエネルギー供給の逼迫に対し、我々は一連の措置を採用しエネルギー供給の保障を強化し、現在既に有効に緩和され、将来も保障されている。

我々は国情の実際から出発することを堅持し、エネルギーの安定・安全な供給を保障する前提の下、バランスよく秩序立てて低炭素転換を推進する。

11月17日 国務院常務会議

 (1)デジタル政府の建設加速

行政の情報化は、政府の管理機能とサービス水準を向上させる重要措置である。

党中央・国務院の手配に基づき、第13次5カ年計画期間、「行政の簡素化・権限の委譲、規制緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革と結びつけて、わが国の行政情報システムの建設・応用は長足の進展を得、「最も多くて1回出向くだけ」「非対面の審査・許認可」「スマホ処理」等のサービスの新モデルが不断に湧き出て、企業・大衆の事務処理の利便は顕著に高まった。

第14次5カ年計画期間、企業のニーズと大衆の希望を更に好く満足させるため、行政情報のシェア推進・オンライン行政サービスの効率向上等のカギとなる部分にしっかり取り組み、デジタル政府の建設を推進し、政府機能の転換を加速し、市場の公平な競争を促進しなければならない。

①統一した国家電子行政ネットワーク体系を構築しなければならない
地方・部門の各種行政専門ネットワークを、統一した電子行政ネットワークに整合させ、情報の孤島を打破し、連結すべきものはすべて連結して、情報のシェアを実現しなければならない。

②全国一体化した行政サービスプラットフォーム機能を豊富にしなければならない

統一した電子証明データベースを構築し、電子契約・サイン等の応用を普及させ、社会保障・医療・教育・雇用等の方面で更に便利な公共サービス提供し、更に多くの事項をオンライン一括処理・全国一括処理しなければならない。

③国家の人口・法人・自然資源・経済データ等の基礎情報データベースを整備し、データ資源の開発利用能力を高めなければならない

公共衛生・自然災害・事故災難等の重大突発事件の応急措置におけるデジタル技術の応用を深化させる。

④行政データを行政公開ルール・法律・規定に基づいて、社会に開放しなければならない

企業の登記・監督、衛生、教育、交通、気象等のデータ開放を優先的に推進しなければならない。健全な制度を整備し、ビジネス機密と個人のプライバシーを厳格に保護する。

⑤市場監督管理の情報化を強化しなければならない

「検査の抽出対象を無作為に決め、検査要員を無作為に選び、検査結果を一般公開する」監督管理、「インターネット+監督管理」、信用の監督管理等のメカニズムを整備し、食品・薬品・農産品・特殊装置等の協同監督管理能力を高めなければならない。

⑥サイバーセキュリティを強化しなければならない

等級を分けた保護制度を厳格に実施し、行政情報化のインフラ・システム、データセキュリティ能力を増強しなければならない。

 (2)石炭クリーン・高効率利用特別再貸出の設立

わが国のエネルギー・資源の賦存は石炭を主としており、国情の実際から出発して、石炭のクリーン・高効率利用水準の向上に力を入れ、成熟した技術のビジネス化応用の普及を加速しなければならない。

これまでに設けた炭素排出削減金融支援手段の基礎の上に、更に2000億元の石炭クリーン・高効率利用支援特別再貸出を設け、一定の政策規模を形成し、グリーン・低炭素の発展を推進する。

今回設ける2000億元特別再貸出は、「重点を絞り込み、より操作可能にする」という要求と市場化原則に基づき、石炭の安全・高効率・グリーン・スマート採掘、石炭のクリーン・高効率加工、石炭火力発電のクリーン・高効率利用、工業のクリーン燃焼・クリーン熱供給、民生用のクリーン暖房、石炭資源の総合利用、炭層ガスの開発利用推進を特別支援する。

具体的方式は、全国性銀行は支援範囲が基準に合致したプロジェクトに向けて自主的に優遇貸出を行い、金利を同期間・同ランクの貸出プライムレートと概ね同水準にし、人民銀行は貸出元本等の額に応じて再貸出支援を提供する。

同時に、プロジェクトの自己資本比率の合理的な引下げ、適切な税制優遇、政府特別債資金による支援、加速度償却等の措置を統一的に検討し、石炭クリーン・高効率利用プロジェクトへの支援を強化しなければならない。