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研究者のご紹介

田中 修

中国経済レポート

共同富裕の着実な推進

 

新領域研究センター 田中 修

2021年11月11日


はじめに

『求是』10月は、習近平総書記が8月17日の中央財経委員会で行った重要講話の概要を公表した。本稿では、この概要を紹介する。


改革開放後、わが党はプラス・マイナス両方面の歴史経験を深刻に総括し、貧困に至るのは社会主義ではないと認識し、伝統体制の束縛を打破し、一部の人・一部の地域が先に豊かになることを認め、社会の生産力の解放・発展を推進してきた。


第18回党大会以降、党中央は、発展段階の新たな変化を把握し1、人民全体の共同富裕の段階的実現を更に重要と位置づけ、地域の協調発展を推進し、有力な措置を採用して民生を保障・改善し、脱貧困堅塁攻略戦に打ち勝ち、小康社会を全面実現し、共同富裕促進のために良好な条件を創造した。


現在、既に共同富裕を着実に推進するという歴史段階に達した。


現在我々は、正に第2の百年奮闘目標に向けて邁進している。


わが国社会の主要矛盾の変化に適応し、人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要を更に好く満足させるには、人民全体の共同富裕の促進を、人民のために幸福を謀る注力点として、党の長期執政の基礎を不断に打ち固めなければならない2


質の高い発展は質の高い労働者を必要とし、共同富裕を促進し、都市・農村住民の所得を高め、人的資本を向上させて初めて、全要素生産性を高め、質の高い発展のための動力の基礎を打ち固めることができる。


現在、世界の所得不平等の問題が際立っており、一部の国家は貧富が分化し、中産階層が没落し、社会の断裂・政治の極端化・ポピュリズムの横溢をもたらしており、教訓は十分深刻である! わが国は両極分化を断固防止し、共同富裕を促進し、社会の調和・安定を実現しなければならない。


同時に、わが国の発展がアンバランス・不十分という問題が依然際立っており、都市・農村、地域の発展と所得分配格差がかなり大きいことをはっきり認識しなければならない。新たな科学技術革命と産業革命は経済発展を有力に推進し、雇用と所得分配に対して、いくらかのマイナスの影響を含め深刻な影響をもたらしてもおり、有効に対応・解決する必要がある。


共同富裕は社会主義の本質的要求であり、中国式現代化の重要な特徴である。我々の言う共同富裕は、人民全体の富裕であり、人民大衆の物質生活・精神生活がいずれも富裕になることであり、少数の人の富裕ではないし、ばっさり画一的な平均主義でもない3


異なる段階の目標を深く検討し、段階を分けて共同富裕を促進しなければならない。


第14次5カ年計画末には、人民全体の共同富裕が堅実な歩みを踏み出し、個人所得と実質消費水準の格差が段階的に縮小する。


2035年には、人民全体の共同富裕が更に顕著な実質的進展を得て、基本公共サービスが均等化を実現する。


今世紀中葉には、人民全体の共同富裕が基本的に実現し、個人所得と実質消費水準の格差が合理的区間にまで縮小する。


共同富裕促進行動要綱の制定に早急に取り組み、科学的・実行可能で、国情に合致した指標体系と考課・評価方法を提起しなければならない。


共同富裕の促進は、以下の原則をしっかり把握しなければならない。


(1)勤労・イノベーションで富裕に至ることを奨励する

幸福な生活は全て奮闘から生まれるものであり、共同富裕は勤労・知恵に依拠して創造しなければならない。

発展の中での民生の保障・改善を堅持し、質の高い発展を首位に置き、「人民の教育程度を高め、発展能力を増強する」ために更に包摂的で公平な条件を創造し、全社会の人的資本と専門技能を高め、就業・起業能力を高め、富裕に至る腕前を増強しなければならない。

社会階層の固定化を防止し、上層への移動のルートを円滑にし、更に多くの人のために富裕に至るチャンスを創造し、人々が参加する発展環境を形成し、「内巻(インボリューション)4」「寝そべり5」を回避しなければならない。

(2)基本経済制度を堅持する

社会主義初級段階に立脚し6、「2つのいささかも揺るがない」7を堅持しなければならない。

「公有制を主体とし、多様な所有制経済の共同発展」を堅持し、共同富裕の促進における公有制経済の重要な役割を大いに発揮させなければならない。同時に非公有制経済の健全な発展、非公有制経済人士の健全な成長を促進しなければならない8

一部分の人が先に富むことを認めなければならない9。同時に、先に富んだ者が後の者の富裕化を牽引・援助し、「勤勉な労働、合法な経営、大胆な起業」で富んだ者が人々を牽引することを強調しなければならない。

不正な手段で富むことを提唱してはならず、法律・規定に違反した者は法によって処分しなければならない。

(3)力を尽くし、力量を慮って行う

科学的な公共政策体系を確立し、パイをうまく切り分け、人々が享有する合理的な分配構造を形成しなければならない。更に強力で、更に堅実な措置によって、人民大衆に更に多くの獲得感を得させなければならない。

同時に、わが国の発展水準は先進国とまだ大きな格差があることをも見て取らなければならない。必要性と可能性を統一し、民生の保障・改善を経済発展と財政力の持続可能性の基礎の上に確立し、高望みをしたり、欲をかきすぎたり、果たせない約束をしてはならない。

政府はすべてを引き受けることはできず、重点は基礎的・包摂的・底固め的な民生保障の建設を強化することである。将来の発展水準が更に高まり、財政力が更に豊かになっても、高過ぎる目標を掲げ、過度な保障を行ってはならず、怠け者を養う「福祉主義」の罠に陥ることを断固防止する。

(4)秩序立った漸進を堅持する

共同富裕は長期目標であり、1つのプロセスが必要であり、一足飛びにはできず、その長期性・困難性・複雑性を十分推し量り、この事にしっかり取り組み、立ち止まっても急いでもならない。

一部先進国の工業化は数百年経っているが、社会制度の原因により、現在でも共同富裕問題はなお未解決であり、貧富の格差が大きい問題はむしろ益々深刻になっている。我々は忍耐力をもち、堅実に1つ1つの事柄にしっかり取り組み、実効を上げなければならない。

浙江共同富裕モデル区の建設にしっかり取り組み、各地方が現地の事情に応じて有効な方途を模索するよう奨励し、経験を総括して、着実に推進しなければならない。

総じた考え方としては、人民を中心とした発展思想を堅持し、質の高い発展の中で共同富裕を促進し、効率と公平の関係を正確に処理し、第1次分配・再分配・第3次分配が協調し組み合わさった基礎的な制度手配を構築し、税制・社会保障・移転支出等の調節を強化し、かつ精確性を高め、中等所得層のウエイトを拡大し、低所得層の所得を増やし、高所得を合理的に調節し、違法所得を取り締まり、中間が大きく両端が小さい橄欖型の分配構造を形成し、社会の公平・正義を促進し、人の全面発展を促進して、人民全体を共同富裕の目標に向けて着実に邁進させるということである。

(1)発展のバランス性・協調性・包容性を高める

社会主義市場経済体制の整備を加速し、更にバランスがとれ、更に協調的で、更に包容的な発展を推進しなければならない。

地域発展のバランス性を増強し、地域重大戦略と地域協調発展戦略を実施し、健全な移転支出制度を整備し、地域の1人当たり財政支出の格差を縮小し、未発達地域への支援を強化しなければならない。

業種の発展の協調性を強化し、独占業種の改革を加速し、金融・不動産と実体経済の協調発展を推進しなければならない。

中小企業の発展を支援し、大中小企業が相互に依存し、相互に促進する企業発展環境を構築しなければならない。

(2)中等所得層の規模拡大に力を入れる

重点にしっかり取り組み、施策を精確にし、更に多くの低所得層の中等所得層への参入を推進しなければならない。

大学卒業生は中等所得層への参入が見込まれる重要方面であり、高等教育の質を高め、学びにより専門性・実用性を高め、彼らができるだけ速やかに社会発展のニーズに適応するよう支援しなければならない。

技術者も中等所得層の重要な構成部分であり、技能人材の育成を強化し、技術者の給与待遇を高め、更に多くの素質の高い人材を吸収し、技術者の陣容に加えなければならない。

中小企業者・個人工商事業者は起業により富裕に至る重要対象であり、ビジネス環境を改善し、税費用負担を軽減し、更に多くの市場化された金融サービスを提供して、彼らの経営の安定、持続的な増収を支援しなければならない。

都市に入った出稼ぎ農民は中等所得層の重要な源泉であり、戸籍制度改革を深化させ、農業からの移転人口に伴い移ってきた子女の教育等の問題をしっかり解決し、彼らが安心して都市に入り、雇用が安定するようにしなければならない。

公務員とりわけ末端第一線の公務員及び国有企業・公益事業体の末端従業員の給与待遇を、適切に高めなければならない。

都市・農村住民の住宅、農村の土地、金融資産等の各種資産所得を増やさなければならない。

(3)基本公共サービスの均等化を促進する

低所得層は、共同富裕促進の重点支援・保障対象である。

包摂的な人的資本への投入を増やし、困窮家庭の教育負担を有効に軽減し、低所得層の子女の教育水準を高めなければならない。

年金・医療保障体系を整備し、従業員と住民、都市と農村の資金調達と保障待遇の格差を早急に縮小し、都市・農村住民の基本年金水準を徐々に高めなければならない。
最低保障の救済体系を整備し、社会救済の都市・農村の基準格差を早急に縮小し、都市・農村最低生活保障水準を徐々に高め、基本生活の最低ラインをしっかり保障しなければならない。

住宅の供給・保障体系を整備し、「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、賃貸・分譲を並立させ、都市の事情に応じて施策を講じ、長期賃貸住宅政策を整備し、社会保障的性格をもつ賃貸住宅の供給を拡大し、新市民の住宅問題を重点的にしっかり解決しなければならない。

(4)高所得を規範化・調節する

法に基づき合法所得を保護すると同時に、両極分化を防止し、分配の不公平を解消しなければならない。

高すぎる所得を合理的に調節し、個人所得税制度を整備し、資本所得管理を規範化しなければならない。

不動産税の立法・改革を積極かつ穏当に推進し、テストをしっかり行わなければならない。

消費段階での税制調節を強化し、消費税の課税範囲の拡大を検討しなければならない。

公益慈善事業の規範化・管理を強化し、税制優遇政策を整備し、高所得層と企業が社会に更に多くリターンを行うことを奨励しなければならない。

不合理な所得を整理・規範化し、独占業種と国有企業への所得分配管理を強化し、所得分配秩序を整頓し、改革の名を借り、形を変えて幹部職員の所得を増やす等の分配の乱れた現象を整理しなければならない。

 違法所得を断固取り締まり、権力による利得行為に断固歯止めをかけ、インサイダー取引、株式市場操縦、財務虚偽報告、脱税・租税回避等の違法所得獲得行為を断固取り締まらなければならない。

多くの模索を経て、我々は貧困問題を解決することに完全な方法を得たが、いかに富むかの問題では、なお経験を模索・累積しなければならない。

財産権と知的財産権を保護し、合法的に富むことを保護しなければならない。

資本の無秩序な拡張に断固反対し、敏感な分野への参入についてはネガティブリストを区別し、反独占の監督管理を強化しなければならない。同時に、企業家の積極性を動員し、各種資本の規範的で健全な発展を促進しなければならない10

(5)人民の精神生活の共同富裕を促進する

共同富裕促進と人の全面発展促進は、高度に統一されたものである。

社会主義核心価値観によるリードを強化し、愛国主義・集団主義・社会主義教育を強化し、公共文化事業を発展させ、公共文化サービス体系を整備して、人民大衆の多様化・多層レベル・多方面の精神文化ニーズを不断に満足させなければならない。

共同富裕促進の輿論誘導を強化し、各種の曖昧な認識をはっきりさせ、成果を性急に求める、あるいは困難を恐れる感情を防ぎ、共同富裕促進のために良好な輿論環境を提供しなければならない。

(6)農民・農村の共同富裕を促進する

共同富裕の促進で、最も困難で最も繁雑で荷が重い任務は、依然として農村にある。

農村の共同富裕政策に早急に取り組まなければならないが、脱貧困堅塁攻略のように統一的な量的指標を提起すべきではない。

脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大し、貧困に戻り貧困に陥りやすい人口へのモニタリング・できるだけ早めの関与を強化し、脱貧困県についてはもう一段支援して、大規模な貧困逆戻り・新たな貧困化が発生しないことを確保しなければならない。

農村振興を全面推進し、農業の産業化を加速し、農村資産を活性化し、農民の資産所得を増やして、更に多くの農村住民を勤労により富ませなければならない。

農村インフラと公共サービス体系の建設を強化し、農村の居住環境を改善しなければならない。

総じて思うことは、小康社会の全面建設のように、人民全体の共同富裕は総体概念であり、全社会について言ったものであり、都市と農村に分け、あるいは東部・中部・西部地域に分け、バラバラに指標を掲げてはならず、全局から見なければならないということである。

我々が14億人の共同富裕を実現するには、地に足を着け、時間をかけて功績を上げなければならない。(14億人の共同富裕は、)すべての人が同時に富裕になることではないし、すべての地域が同時に1つの富裕水準に達することでもなく、人によって富裕になる程度が高い者もあれば低い者もあるだけでなく、時間的にも先の者もあれば後の者があり、地域によって富裕程度になお一定の差異があり、横一列に進むことは不可能である。

これは動態の中で前進する発展のプロセスであり、継続的に推進し、不断に成果を収めなければならない。

  1. この部分は、直後に発表された会議の概要からは削除されていた。
  2. 党が長期に執政を維持するためには、共同富裕の実現が必要だとしている。
  3. これは毛沢東時代の極端な平等主義への批判であろう。
  4. 元々は「内向きの発展」を意味する言葉であるが、ここでは、1つの社会あるいは文化モデルがある発展段階で一種の確定した形式に達した後、停滞して前進しなくなり、あるいは別の高級モデルに転換できなくなる現象を指す。
  5. 将来を悲観して無気力になること。若者の間で「寝そべり族」として流行している。
  6. 「新たな発展段階」ではなく、「社会主義初級段階」に立脚、としていることに注意。
  7. ①いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させなければならない。
    ②いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない。
  8. 共同富裕推進の過程で、民営企業の強制的国有化は行わない旨を明らかにしている。
  9. 「先富」政策を今後も維持することを明らかにしている。
  10. これからも民営企業のトップが、合法的に豊かになることは容認している。