田中 修

中国経済レポート

電力・石炭の供給保障

新領域研究センター 田中 修

2021年10月22日


はじめに

現在、電力・石炭の供給が逼迫しており、李克強総理は10月8日、国務院常務会議を開催して対応を検討するとともに、9日には国家エネルギー委員会(主任は李克強総理)を開催し、エネルギー改革・発展政策を手配した。これを受け、12日に国家発展・改革委員会が記者会見を行っている。本稿では、この概要を紹介する。

1.国務院常務会議(10月8日

今年に入り、国際市場のエネルギー価格は大幅に上昇し、国内電力・石炭の需給は引き続きかなり逼迫し、多様な要因が最近一部の地方で停電・電力制限の出現をもたらし、正常な経済運営と庶民の生活に影響をもたらしている。

関係方面は、党中央・国務院の手配に基づき、一連の措置を採用してエネルギー供給保障を強化している。

今年冬・来年春の電力・石炭の需給圧力が依然かなり大きな情況に直面し、エネルギーの安全保障、産業チェーン・サプライチェーンの安定を保障することは、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)の重要内容であり、石炭・石油・ガス・輸送の保障メカニズムの役割をしっかり発揮させ、市場化の手段と改革措置を有効に運用して、電力・石炭等の供給を保障しなければならない。

①民生優先を堅持し、大衆の生活と冬季の暖房のエネルギー使用をしっかり保障しなければならない。

発電・熱供給の石炭使用、とりわけ東北地方の冬季石炭・電力使用を確保しなければならない。

民生用のガス供給を強化し、「南方のガスの北方への輸送」を速やかに組織して、北方地域の暖房へのガス使用を増やす。

②安全生産保障の前提の下、増産潜在力を備えた炭鉱のできるだけ速い生産能力発揮を推進しなければならない。

既に審査・認可を受けて基本的に建設済みの露天掘り炭鉱の稼働・計画生産能力の達成を加速し、生産を停止し改善命令を受けた炭鉱の法・規定に基づく改善を促進し、できるだけ早く生産を回復しなければならない。

交通輸送部門は、石炭輸送を優先的に保障し、生産された石炭が速やかに必要としている地方に輸送されることを確保しなければならない。

③石炭火力発電企業が電力供給を増やすことを支援しなければならない。

石炭火力発電企業の困難に対しては、段階的な課税緩和政策を実施し、金融機関が石炭火力発電企業の石炭購入等の合理的な資金調達需要を保障するよう誘導・奨励する。

④石炭火力発電価格の市場による形成メカニズムを改革・整備しなければならない。

石炭火力発電の電力量の全部電力市場参入を秩序立てて推進し、庶民・農業・公益事業用の電力使用価格の安定を維持する前提の下、電力の市場取引価格の上下の変動範囲を「上は10%、下は15%を超えない」から「原則として20%を超えない」に調整し、かつ分類した調整をしっかり行って、エネルギー多消費業種については、市場取引による価格形成を認め、上方変動20%の制限を受けない。

小型・零細企業、個人工商事業者の電力使用に対して、地方が段階的優遇政策を実行することを奨励する。

⑤砂漠・荒地での大型風力発電、太陽光発電基地の建設を加速し、緊急の予備用・ピーク時調節の電源建設を加速しなければならない。

石炭・天然ガス・原油備蓄と備蓄能力の建設を積極的に推進する。

⑥「エネルギー多消費・高汚染」プロジェクトの盲目的発展に断固歯止めをかけなければならない。

地方のエネルギー消費の強度・総量コントロールメカニズムを整備し、新たに増やした再生可能エネルギー消費の、一定期間エネルギー消費総量不算入を推進する。

重点分野での省エネ・炭素排出削減改造実施を推進し、主要な石炭消費業種において石炭の利用節約を大いに推進する。

各方面のエネルギー供給保障と安全生産責任を徹底させなければならない。実際に基づいて正確な方法を決定することを堅持し、各方面を統一的に併せ考慮することを強化する。

各地方は、管轄地の管理責任を厳格に履行し、秩序立った電力使用管理をしっかり実施し、一部地方に見られる「一律」生産停止・生産制限、あるいは「キャンペーン式」の炭素排出削減を是正し、不作為・無秩序な作為を取り締まらなければならない。

主要な石炭生産省と重点石炭企業は、要求に基づいて増産・供給増加任務を実施しなければならない。

中央発電企業は、所属する火力家電設備で、発動すべきものはすべて発動を保障しなければならない。

電力網企業は、電力配送の調節と安全管理を強化しなければならない。

エネルギー供給保障責任を履行しなかった者に対しては、厳格に責任追及しなければならない。

2.国家エネルギー委員会(10月9日)

「第14次5カ年現代エネルギー体系計画」「エネルギー・炭素排出ピークアウト実施プラン」「エネルギーのグリーン・低炭素転換体制メカニズム・政策措置整備意見」を審議した。会議には副主任の韓正副総理も出席した。主任である李克強総理の発言の概要は以下のとおりである。

エネルギーは経済社会発展の全局に関わる大事である。

第13次5カ年計画期間、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、各方面が共同努力し、わが国のエネルギーの発展、構造の最適化、効率が高くクリーンな利用等は顕著な成果を収めた。

現在、国際環境とグローバルなエネルギー構造・体系には深刻な変革が発生し、わが国のエネルギーの発展・安全保障は新たな試練に直面している。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党中央・国務院の手配を実施し、新たな発展段階に立脚し1、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進するという要求に基づき、国情の実際から出発し、発展と汚染物質排出削減、当面と長期の関係をうまく処理し、成長安定と構造調整を統一的に企画し、エネルギー分野の市場化改革を深化させ、エネルギーのグリーン・低炭素転換を推進し、エネルギー安全保障能力を高め、現代化建設のために堅実なサポートを提供しなければならない。

エネルギー安全は発展の安全、国家の安全に関わる。

わが国はなお発展途上国であり、発展は一切の問題を解決する基礎・カギである。

現段階では工業化・都市化が深く推進され、エネルギー需要は引き続き拡大が不可避であり、供給不足は最大のエネルギーの不安全である。安全保障を前提に現代エネルギー体系を構築し、エネルギーの自主供給能力向上に力を入れなければならない。

石炭を主としたエネルギー資源の賦存に対し、石炭生産能力の配置を最適化し、発展の需要に基づき先進的な石炭火力発電所を合理的に建設し、引き続き落後した石炭火力発電を秩序立てて淘汰しなければならない。

国内石油・天然ガスの探査開発を増やし、シェールガス・炭層ガスを積極的に発展させ、国際石油・ガス協力を多元的に展開する。石炭・ガス・石油備蓄能力の建設を強化し、先進備蓄技術の大規模化実用を推進し、エネルギー安全供給の保険手段を不断に豊富にする。

炭素排出ピークアウト・カーボンニュートラルの実現は、わが国経済自身の転換・グレードアップの要求であり、気候変動への共同対応に必要でもある。

「炭素排出の強度・総量の削減」の目標を科学的に秩序立てて推進しなければならず、これは、長期に非常に困難で卓絶した努力を払わなければならない。

当面の電力対応、石炭需給の矛盾の情況と結びつけ、深く試算・論証し、炭素排出ピークアウトの段階的なスケジュール表・ロードマップを検討・提起しなければならない。

各地方・関係方面は、先にエネルギー供給を確保してから後で炭素排出を削減することを堅持し、全国一体化を堅持しなければならず、フライングしてはならない。

実際から出発し、一部地方に見られる「一律」電力・生産制限あるいはキャンペーン式「炭素排出削減」を是正し、北方大衆が温暖・安全に冬を越すことを確保し、産業チェーン・サプライチェーンの安定と経済の持続的で平穏な発展を保障する。

石炭のクリーン利用を大いに推進し、クリーンエネルギーのウエイトを高め、重点分野の省エネ・汚染物質排出削減改造を深く推進し、全社会においてエネルギー使用節約を唱導し、グリーン発展能力を不断に高める。

イノベーションは、エネルギーの質の高い発展のための重要な動力である。

エネルギー分野のカギ・コアとなる技術と装置の難関攻略を加速し、グリーン・低炭素の先端技術の研究開発を強化しなければならない。

電力網のスマート化水準を高め、新エネルギーの吸収消化・安全運営能力を増強する。(使用量に応じた)段階的電力価格を整備し、電力配送等の重点分野の改革を深化させ、更に多く市場メカニズムに依拠して省エネ・汚染物質排出削減・炭素排出削減を促進し、エネルギーサービス水準を高める。

3.国家発展・改革委員会記者会見(10月12日)

石炭火力発電電力卸価格の市場化改革関連情況について説明した。

近年、発改委は党中央・国務院の政策決定・手配を深く貫徹し、電力体制改革の「中間をしっかり管理し、両端を規制緩和する」という総体要求に基づき、電力価格の市場化改革を引き続き深化させ、競争性のある部分の電力価格を順序立てて緩和してきた。

2019年、発改委は「石炭火力発電網の電力価格形成メカニズム改革の深化に関する指導意見」を打ち出し、長年実施してきた石炭火力発電電力網の標準電力価格メカニズムを「基準価格+上下変動」の市場化した電力価格メカニズムに改め、各地方の石炭火力発電は電力市場取引への参加を通じて、市場により価格を形成している。

「基準価格+上下変動」の市場化した電力価格メカニズムの実施は、電力の市場化プロセスを有力に推進し、2020年は70%を超える石炭火力発電量が市場取引を通じて電力卸価格を形成している。

今年に入り、グローバルなエネルギー産業に新たな変化が出現し、国際市場エネルギー価格が持続的に上昇し、一部国家の電力価格が大幅に上昇している。国内の石炭・電力需給は引き続きかなり逼迫し、一部の地方では電力・生産制限が出現している。

党中央・国務院はこれについて高度に注意を払い、10月8日の国務院常務会議は専門手配を行い、安全生産保障の前提の下、炭鉱の増産、石炭輸送の優先保障、石炭火力発電企業の電力供給増加への税制・金融等の政策支援の実施、石炭火力発電価格の市場化形成メカニズムの改革・整備等の一連の措置を提起し、今年冬・来年春の電力・石炭供給保障政策をしっかり行うよう手配した。

発改委は、国務院常務会議精神を断固貫徹実施し、石炭火力発電網電力価格の市場化改革を一層深化させる措置を迅速に打ち出す。

今回の改革は4項目の重要な内容がある。

①全部の石炭火力発電の電力価格を秩序立てて規制緩和する

石炭火力発電の電力量は、原則として全部電力市場に参入し、市場取引を通じて「基準価格+上下変動」範囲内で電力価格を形成する。

②市場取引の電力価格の上下変動範囲を拡大する

石炭火力発電の市場取引価格の変動範囲を、現行の「上方変動は10%を超えず、下方変動は15%を超えない」から「上下の変動が20%を超えない」に拡大し、エネルギー多消費企業の市場取引価格は上方変動20%の制限を受けない。

③工業・商業ユーザーの市場参入を推進する

まだ市場に参入していない工業・商業ユーザー全部の電力市場参入を秩序立てて推進し、工業・商業目録に基づく電力販売価格を廃止する。暫時電力市場に参入せず直接電力を購入するユーザーについては、電力網企業が代わりに電力を購入する。

地方が小型・零細企業と個人工商事業者の電力使用に対し、段階的優遇政策を実行することを奨励する。

④庶民・農業・公益事業の電力使用価格の安定を維持する

庶民(庶民向け電力価格を執行している学校・社会福祉機関・コミュニティサービスセンター等の公益事業のユーザーを含む)、農業の電力使用については、電力網企業が供給を保障し、現行の電力販売価格水準を変えないことを維持する。

改革の平穏な実施を保障し、実効を上げるため、多くの保障措置を明確にした。

①電力市場の建設を全面推進する

各種電源の発電計画を秩序立てて緩和し、健全な電力市場システムを整備し、適格な電力販売主体を早急に育成する。

②時期を分けた電力価格政策とのリンクを強化する

時期を分けた電力価格政策を早急に実施し、ピーク時の電力価格メカニズムを打ち出し、市場取引と時期を分けた電力価格政策をしっかりリンクさせる。

③不合理な行政関与を回避する

各地方は、国家関連政策に厳格に基づいて電力市場建設を推進し、市場取引電力価格の合理的変動について関与してはならない。

④石炭火力発電の市場監督管理を強化する

法律・規定に違反した行為を速やかに調査・処分し、良好な市場秩序を擁護する。

発電企業とりわけ石炭火力発電の共同経営企業が、電力市場の価格オファーに合理的に参加するよう指導する。

今回の改革は発電サイドの電力卸価格、ユーザーサイドの電力購入価格方面の規制緩和で重要な進展をみており、電力の市場化改革で重要な一歩を踏み出したことを意味する。改革文件の公布後、我々は各地方が直ちに実施にしっかり取り組むよう指導し、市場メカニズムの役割を更に好く発揮させ、電力の安全・安定供給を保障し、新しいタイプの電力システムの建設を支援し、エネルギーのグリーン・低炭素転換をサポートする。

  1. 「新たな発展段階」が復活している。