田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(75)

新領域研究センター 田中 修

2021年10月1日


はじめに

本稿では、9月8・15・22日の国務院常務会議、16日の中国国際中小企業博覧会・中小企業国際協力サミットフォーラムにおける劉鶴副総理の挨拶の概要を紹介する。

9月8日 国務院常務会議

(一部都市でのビジネス環境刷新テストの展開)

党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹し、ビジネス環境の最適化を、市場主体の活力と社会の創造力を奮い立たせ、質の高い発展を推進する重要な掴みどころとすることを堅持し、市場の予想を安定させ、経済の平穏な運営を維持しなければならない。

「ビジネス環境最適化条例」をしっかり実施し、全国で市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げることを推進すると同時に、北京・上海・重慶・杭州・広州・深圳の6つの市場主体の数量が比較的多い都市を選択し、市場主体と大衆の関心事項に焦点を絞り、国際先進水準をベンチマークとして、「行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を一層深化させ、ビジネス環境刷新テストを展開する。

(1)地域分割・地方保護を一層打破し、統一・開放され、競争が秩序立った市場システムの建設を推進する。

企業の地域を跨ぐ経営への不合理な制限を廃止する。政府調達等の分野での外地企業に対する隠れた障壁を打破する。7種類の旅客・貨物輸送電子証明書・免許の地域を跨ぐ相互認定・チェックを推進する。

(2)市場主体の参入・退出を一層便利にする。

実体証明書・免許を発行すると同時に、同じタイミングで電子営業許可証を発行し、企業のオンライン処理の便宜を図る。銀行の口座開設手続を簡略化し、口座開設にかかる時間を圧縮する。市場監督管理・社会保険・税務等の年次報告書の「多数報告一本化」を推進する。新業態・新モデルに適応した参入・営業許可基準を模索する。

破産案件受理後、破産管理人が法に基づき関係機関が掌握している破産企業の情報を照会することを認め、封印された財産を処分する際は開封手続をとる必要はない。

(3)投資・建設の便利さを向上する。

土地の供給前に、政府部門により地質災害・水土保持等の包括的評価を展開し、責任を強化する。企業が土地を手にした後はすぐ着工を認め、重複検証を行わない。

水道・電気・ガス・暖房等の都市インフラとの接続工事の施工許可については、告知約束管理1 とオンライン処理を実施する。

(4)対外開放水準を高める。

一部の重要貿易パートナーと通関港での関係書類のオンライン確認を推進する。香港・マカオ投資家の商事登記手続を簡略化する。国際航行船舶への保税給油業務を支援する。

(5)監督管理を刷新・整備する。

食品・薬品・ワクチン・安全性等の人民大衆の生命・健康に関わる分野において、懲罰的賠償制度を実行する。みだりな費用徴収・罰金・大風呂敷に歯止めをかける健全で長期に有効なメカニズムを整備する。

仲介機関の独占経営・サービス強制等の行為を正し、企業の資格取得、入札・応札、権益保護等の方面での差別的待遇を整理・廃止し、公平な競争を擁護する。

(6)企業に係るサービスを最適化する。

政策の変化、計画の調整等により生み出された、企業の合法利益の損害への補償・救済メカニズムを確立する。動産と権利の担保を統一登記する制度を整備する。情報の孤島の打破を加速し、部門と地方間のシステム相互連結とデータ共有範囲を拡大し、市場主体が繰り返し多くの場所で資料を提出する問題の解決を推進する。更に多くの事項のオンライン処理・一括処理を促進する。

9月15日 国務院常務会議
(1)第14次5カ年全民医療保障計画

全民医療保障は人民の健康を保障する基本制度である。

党中央・国務院の手配を貫徹し、第1次医療改革以来、わが国は既に世界最大で、全国民をカバーする基本医療保障ネットワークを完成し、第13次5カ年計画期間、基本医療保険は13.6億人をカバーし、カバー率は95%以上で安定しており、医療保障事業の改革・発展も重要な進展をみて、大衆の医療難・医療費が高い問題を緩和し、民生福祉を増進し、社会の調和・安定を擁護するために、重要な役割を発揮した。

第14次5カ年計画期間、医療保障制度改革を深く推進し、力を尽くして行い、力量を慮って行う。医療保障は、保障の基本理念を常に貫徹することを堅持し、徐々に水準を高め、持続可能にしなければならない。

①健全な多層レベルの医療保険制度体系を整備し、医療保険支援政策を分類・最適化する

全国民保険加入計画を実施し、従業員と都市・農村住民の常住地・就業地での保険加入を推進し、フレキシブルな就労者の保険加入の戸籍制限を廃止する。

基本医療保険の外来診療適用を着実に引き上げ、都市・農村住民の高血圧・糖尿病の外来診療医薬使用保障を整備する。

大病保険と基本医療保険をリンクさせ、保障能力を高める。困窮大衆の重大疾病救済メカニズムを整備する。

突発重大疫病下での「先に救済・治療し、後で費用を徴収」と、特殊層・特定疾病に対する医療・医薬費用免除の健全なメカニズムを整備する。

商業健康保険の発展を支援し、高齢者向けの保険商品を豊富にする。長期介護保険制度を着実に確立する。出産保険政策を整備する。

②基本医療体系、基本医療保険制度が相互に適応したメカニズムを確立する

医療保険支払政策を整備し、クラスを分けた診療と医療連合体等の発展を推進する。

条件に合致した末端医療機関を医療保険指定範囲に組み入れ、末端医療機関のサービス水準向上を促進し、「軽い病に大がかりな治療」、過度な医療を減らし、医療保険資金の使用効率を高める。

③医療保険と医療・医薬の協同改革を推進する

国家の組織的な薬品集中大量調達を引き続き実施し、高額医療用消耗材の集中大量調達の範囲を拡大し、薬品・医療用消耗材価格の不当な高値に歯止めをかける。

臨床価値が高く、患者の利益獲得が顕著な薬品を速やかに医療保険支払範囲に組み入れ、来年全国医療保険医薬使用範囲の全国基本統一を実現する。

④医療保険の処理サービスの水準を高める

省・市・県・郷・村の医療保険サービスネットワークを確立する。

基本医療保険の保険加入登録と接続移転(ポータビリティ)の省を跨ぐ処理を推進し、全国で異なる土地での医療・入院、外来診療費のオンライン清算を実現する。

⑤医療保険基金の監督管理を強化する

責任制を厳格に実施し、部門の連動メカニズムを整備し、システミックな監視・コントロール、現場検査等の方式を総合運用し、監督管理の全面カバーを実現する。

商業保険機関等の第三者パワーを引き入れて、監督管理の専門性を高める。社会の監督作用を更に有効に発揮させる。医療保険の使用情況及び調査で発見した問題を速やかに公開・通報し、保険金を騙し取る行為を厳格に取り締まる。

(2)地下水の管理

会議が承認した「地下水管理条例(草案)」は、節水優先の堅持を強調し、地下水取水総量コントロール・水位コントロール制度の確立を明確にし、地下水水資源税・費用の基準を合理的に引き上げることを確定した。

草案は、部門・地方の監督管理職責を明確にした。採取禁止区と採取制限区の画定を要する。特殊な情況を除き、採取禁止区での地下水の採取・使用を禁止し、採取制限区での新たな地下水の採取・使用を禁止し、地下水を汚染しあるいは汚染する可能性のある行為を禁止すると規定している。草案は法律・規定に違反する行為の懲罰について明確に規定している。

9月16日 中国国際中小企業博覧会・中小企業国際協力サミットフォーラム

劉鶴副総理の挨拶の概要は以下のとおりである。

習近平総書記は中小企業の発展を高度に重視し、「中小企業は大事をなすことができる」と強調し、「中小企業のイノベーション・発展を支援する」と明確に提起している。我々は真剣に学習・理解し、断固貫徹実施しなければならない。

中小企業は、国家の富の重要な創造者であり、雇用を提供する主たるルートであり、科学技術イノベーションの主力軍であり、大企業を育成する貯水池である。

中小企業は大きな志をもち、企業家精神を大いに発揚し、イノベーション能力の育成を高度に重視し、「専門・精密・特別・革新」となるよう努力しなければならない。

各部門・各地方は中小企業の発展のために良好な環境を創造し、多くサポートし、役に立つことを行い、政策の透明度と予測可能性を増強し、財産権と知的財産権を保護し、公平な競争を促進しなければならない。

各種方式により、生産要素コストの急速な上昇が中小企業にもたらすプレッシャーを軽減することを積極的に模索し、資金調達難・資金調達コスト高の問題の解決に努力し、資本市場を更に多く更にうまく運用して優秀な中小企業の発展に助力する。

国際的な中小企業発展の最も優れた実践を学習し参考にして、長所を採用し短所を補い、独特な道を歩んで、共同繁栄を実現しなければならない。

中国政府は社会主義市場経済の改革方向を変えぬことを堅持し、対外開放の基本国策を変えぬことを堅持し、「2つのいささかも揺るがない」2 を変えぬことを堅持し、非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する大きな政策方針を変えぬことを堅持し、中小企業の健全な発展を引き続き大いに支援し、民営経済の健全な発展を断固支援する。

(留意点)

この挨拶の重点は太字部分であり、これは9月6日の中国国際デジタル経済博覧会における劉鶴副総理のビデオ挨拶に続く、民営企業の発展支援発言である。

このように劉鶴総理が機会あるごとに改革開放の堅持、民営企業支援の堅持を繰り返しているのは、それだけ改革開放批判・民営企業の退場を主張する左派の勢力が強まっていることの証左であろう。

9月22日 国務院常務会議
(1)経済の平穏な運営の維持

今年に入り、わが国経済は回復の態勢を維持し、雇用情勢は安定している。

しかし、最近国際環境の不確定性要因が増大し、国内の経済運営も疫病の散発、大口取引商品価格の高止まり等の試練に直面している。

各地方・各部門は、党中央・国務院の手配に基づき、常態化した疫病防御にしっかり取り組み、経済動向をフォロー・分析し、マクロ政策の連続性・安定性を維持し、有効性を増強し、事前調整・微調整と周期を跨ぐ調節をしっかり行い、財政・金融・雇用政策の連動を強化し、市場の合理的予想を安定させなければならない。

雇用・民生・市場主体の保障を軸にマクロ政策を実施し、改革開放を引き続き深化させ、ビジネス環境を最適化する。

市場化の方法を更に多く運用して大口取引商品価格を安定させ、冬季の電力・天然ガス等の供給を保障する。

消費を一層促進する措置を検討して打ち出し、社会(民間)投資の役割を更に好く発揮させて有効な投資を拡大し、対外貿易・外資の安定した伸びを維持し、経済運営を合理的区間に確保する。

(2)第14次5カ年新型インフラ建設計画

第14次5カ年計画期間に、情報ネットワークを基礎とし、技術革新を駆動とする新しいタイプのインフラを科学的に配置し、建設を推進することは、安定成長を促進し、構造を調整し、民生を優遇することに資するものである。

①情報インフラの建設を強化しなければならない

国家の基幹ネットワークと都市地域ネットワークの協同拡大を推進し、ギガビット級光ファイバー網のスピードアップ改造を展開する。

新世代モバイル通信ネットワークの商業化・大規模化応用を推進する。衛星通信、ナビゲーション、リモートセンシング等の宇宙情報インフラを整備する。ユビキタスコラボレーションのモノのインターネットを発展させる。

②コンバージドインフラ(CI)を着実に発展させなければならない

多層レベルの工業インターネット(産業用モノのインターネット)プラットフォームを作り上げ、相互協力によるイノベーションを促進する。

新しいタイプの都市化と結びつけ、交通・物流・エネルギー・都市インフラ等のインフラのスマート化改造を推進する。

農業のデジタル化水準を高める。遠隔医療・オンライン教育などの民生インフラを建設する。

③大学・科学研究院(所)とハイテク企業等の深い融合を推進し、ハイレベルで学際的な先端的研究能力を増強しなければならない

産業共通・基礎技術の研究開発を支援する。開放的で専門化した大衆のイノベーション空間を建設し、大衆による起業・万人によるイノベーションを深く推進する。

④多元的な投入を奨励し、開放・協力を推進しなければならない

新しいタイプのインフラへの投資・運営への、民営資本・国外資本の参加を支援する。

関係国際ルール・基準の制定に参加する。

⑤安全監督管理体系を確立・整備し、安全保障能力を増強しなければならない

(3)中小型危険ダムの危険除去・補強

ダムの安全は、人民大衆の生産・生活と生命・財産の安全に関わるものであり、脆弱部分への対策を強化し、2025年末前に現在の危険ダムの危険除去と補強を全部完成しなければならない。

①地方の管轄地責任を徹底する

各地方とりわけ北方地域は現在の施工有効期限をしっかり把握し、資金を統一・集中し、今年の危険除去・補強プロジェクトを早急に推進し、危険程度が比較的高く、洪水防止任務が比較的重いダムを優先的に手配・処理し、工程の質を確保しなければならない。

中央財政は必要な資金支援を与える。

②ダムの水供給・灌漑、洪水防止・洪水排出、生態等の要求を統一的に考慮する

ダム関連技術基準を改定・整備し、極端な災害・天候への対応能力を高める

③健全で科学的な管理・保護メカニズムを確立する

建設と管理・保護主体、責任と資金ルートを明確にし、小型ダムの雨水情況の観測・通報と安全監視等の施設を強化し、緊急情況下での洪水排出・人員移転などの緊急処置案の事前計画にしっかり取り組み、ダムの安全な運営を保障し、人民大衆を幸福にする。

  1. 行政機関が申請事務を処理する際、まず書面(電子テキストを含む)形式で法律・法規の定める証明義務や照明内容を告知し、申請者が告知された条件・基準・要件にかなうことを書面で約束し、約束違反の法的責任をとると表明すれば、所定の証明を求めず、書面での約束を基に関連事務を処理すること。(中国通信)
  2. ①いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させなければならない。 ②いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない。