文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス
研究者のご紹介

田中 修

中国経済レポート

中小・零細企業への金融支援

 

新領域研究センター 田中 修

2021年9月24日


はじめに

9月1日の国務院常務会議が中小・零細企業の困難緩和支援を決定したことを受け、人民銀行は9月7日、記者会見を開き支援策を説明した。本稿は、その概要を照会する。

1.概要

今年に入り、人民銀行は党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹実施し、銀行システムの流動性の合理的充足を維持した。2つの実体経済に直接到達する金融政策手段を引き続きしっかり実施し、引き続き商業銀行の中小・零細企業向けサービス能力を高め、銀行が内部の資源配分と考課・インセンティブメカニズムを一層整備するよう督促し、重点分野・業種の企業支援を強化した。

総じて見ると、金融サービス能力は引き続き高まり、中小・零細企業向け融資支援は不断に強化されている。ここで、5方面の進展情況を紹介する。

(1)マネー・貸出総量は合理的に伸びている

7月末、社会資金調達規模残高は302兆元、前年同期比10.7%である。M2残高は230兆元、8.3%増である。この2つの指標の伸びは疫病前に大体相当し、名目成長率と基本的に釣り合っている。

今年1-7月、人民元貸出は13.8兆元増え、昨年1-7月より7582億元伸びが増えている。

(2)小型・零細企業の資金調達は「量が増え、範囲が拡大し、金利が下がる」局面が現れている

7月末、中小・零細企業法人向け貸出残高は72.4兆元であり、全企業向け貸出の65.7%を占める。うち、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高は17.8兆元、前年同期比29.3%増であり、小型・零細経営主体3893万社を支援し、その数は29.5%増である。7月に新たに行った小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス金利は4.93%であり、前年同期比0.15ポイント低下した。

(3)2つの実体経済に直接到達する金融政策手段の効果が顕著である

この2つの実体経済に直接到達する金融政策手段は、主として昨年6月に人民銀行が打ち出し推進したものであり、1つ目は小型・零細企業の元本償還・利払い猶予政策手段であり、2つ目は小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援手段である。

昨年6月に2つの手段を打ち出し推進して以後、2020年から今年7月末までに、全国銀行業金融機関が元本償還・利払い猶予した貸出は累計12.5兆元であり、うち中小・零細企業の元本償還・利払い猶予支援は10.2兆元である。

昨年6月以降、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを累計6.1兆元実施し、同時期の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス累計の29%を占め、2つの政策実施前より8ポイント上昇した。

(4)中小・零細企業の資金調達の利便性が顕著に向上した

人民銀行はサプライチェーン金融の政策枠組・インフラを確立・整備し、売掛金担保融資サービスプラットフォームを整備し、サプライチェーン手形プラットフォームを建設し、中小・零細企業売掛金の流通効率を高めた。

今年1-6月、人民銀行売掛金担保融資サービスプラットフォームは、中小・零細企業融資を計2万件(前年同期比40%増)、6291億元(同10%増)を促進した。

国家外貨管理局は、対外貿易企業にサービスする、クロスボーダー金融ブロックチェーンサービスプラットフォームを設け、7月末までにプラットフォームがサービスした中小・零細対外貿易企業は8343社、累計で1000億ドル余りの融資を達成した。

(5)重点業種・地域への支援は不断に強化された

42万社の疫病の影響を受けた業種・企業とサプライチェーンコア企業名のデータベースを確立して、累計7.1兆元の貸出を実施し、3000万人を超える雇用を牽引した。

同時に、人民銀行は関係部門と共に、航空、文化・観光、旅館・レストラン、小売、対外貿易等の分野の企業に対する金融支援を増やした。

貸出構造の最適化・調整を強化し、グリーン発展、科学技術イノベーション、製造業等の分野の企業とりわけ中小・零細企業への無担保貸出を増やすよう誘導した。

同時に、東北3省等の10の貸出の伸びが緩慢な地域に対し、再貸出額を2000億元増やし、長期にわたりこれらの地域の貸出の伸びが減少する局面を初歩的に反転させた。

2.今後の政策

9月1日の国務院常務会議は特別テーマ検討を行い、人民銀行は会議に報告を行った。

これから、我々は既に打ち出した金融政策、とりわけ中小・零細企業支援の金融政策の基礎の上に、政策支援を一層強化する。主として、以下の方面がある。

(1)新たに3000億元小型・零細企業支援再貸出を増やす

今年の残る4カ月(9-12月)の貸出において、人民銀行が銀行に提供する再貸出金利は2.25%である。

商業銀行がこの貸出を受けた場合、その貸出対象は主として小型・零細企業であり、貸出の平均金利は5.5%前後となる。同時に、我々は「先に貸し出してから、後で借りる」方式を採用し、資金利用の精確性と直接到達性を保障する。

(2)小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援政策の実施を強化する

この政策は、昨年6月、人民銀行が疫病の中小企業への影響に対応するために打ち出し推進した政策手段であり、現在この政策は依然として使用されている。

我々は、昨年国務院が批准した小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援政策手段に基づき、再貸出資金を引き続きうまく用いて、銀行が更に多くの小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを実施するよう誘導する。

(3)金融機関と政府が協力し、地方政府債務保証機関の役割を好く発揮させる

地方政府は、既に少なからぬ債務保証機関を設立しており、この債務保証機関の主要な機能は、小型・零細企業の資金調達のために、信用強化・債務保証を提供するものである。

この方面での我々の政策方向は、政府債務保証のカバー範囲を高め、かつ債務保証料率を引き下げなければならない。

(4)サプライチェーン金融サービス方式を刷新し、中小・零細企業の売掛金が占用されることがもたらす資金回転難を解決する

我々が中小・零細企業で出現した問題を分析した際、問題の1つは、売掛金の過去一時期の伸びが比較的多く、小型・零細企業が大中型企業に資金を占用されるという問題をどのように解決するかであった。

マクロ面では、安定的な資金調達環境を維持し、人民銀行は関係部門と共に、大中型企業が未払い金清算を増やし、市場の支払紀律を遵守するよう引き続き督促しなければならない。

金融面では、我々は更に多くのサプライチェーン上のコア企業が、人民銀行の売掛金担保融資サービスプラットフォームとリンクすることを推進し、プラットフォームの権利確定機能を好く発揮させなければならない。

金融機関がサプライチェーンに与信を提供するよう誘導し、サプライチェーンにおける中小・零細企業の契約・物流等の情報に基づいて与信を展開し、「迅速支払実施推進条例」推進の基礎の上に、大型企業が商業手形を使用してその他の形式の資金を代替することを推進し、金融機関が手形割引・標準手形融資を展開するよう誘導し、人民銀行が再割引支援を提供し、中小・零細企業の資金占用圧力を緩和する。

(5)中小・零細企業への金融サービス能力建設を強化する

2年前、人民銀行は「中小・零細企業向け金融サービス能力向上プラン」を提起した。金融サプライサイド改革の観点から、中小・零細企業にサービスする金融機関の金融サービス能力をいかに高めるかが核心部分であり、これには商業銀行の内部資源の配分、業績効果の考課、リスク評価、職務を尽くした場合の免責、フィンテックの使用等が含まれる。

たとえば、商業銀行のインクルーシブファイナンスの考課、分店に対する商業銀行本店の考課、支店に対する分店の考課は、すべて1つの考課体系であり、この考課体系は、彼らにインクルーシブファイナンスが一定割合を占めなければならないと要求している。内部資金の移転金利決定では、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス資金の使用について、優遇金利を実行しなければならない。

3.共同富裕の推進

金融は貧困支援貸出を9.2兆元実施しており、これには貧困世帯へのマイクロファイナンス、産業により貧困を支援する貸出、貧困地域へのインフラ貸出が含まれる。

このほか、今後金融による共同富裕促進方面では、我々はさらに多くの政策を一層深く推進する必要がある。

例えば、我々は「バラマキ」を行わないことを堅持し、金融政策をしっかり執行し、人民元の市場価値の安定を維持する。これは共同富裕促進にとって非常に重要である。

地域発展への金融支援のバランス性を高め、貸出の伸びが鈍化している省への再貸出政策をしっかり実施する。

重点分野・脆弱部分への金融支援を増やす。これには、中小・零細企業支援融資の各措置が含まれ、最近我々が農業農村部、銀行保険監督管理委員会と一緒に開催したテレビ電話会議で、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大することと、農村振興政策の推進を手配したことも含まれる。

さらにインクルーシブファイナンスを大いに発展させ、引き続き農村信用体系の建設を推進し、農村支払決済サービス環境を改善し、金融知識の宣伝・教育と金融消費者の権益保護を強化し、大衆に平等・安全に現代金融サービスを享受させる。

不動産市場の平穏で健全な発展を促進し、「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、不動産金融のプルーデンス管理制度をしっかり実施し、住宅賃貸市場への金融支援を強化する。

各種資本の規範的で健全な発展を促進し、資本の無秩序な拡張を断固防止する。

このような例は、もっと多く挙げることができる。

つまり、人民銀行は質の高い発展の中で共同富裕を促進することに関する中央の重大政策決定を真剣に貫徹実施し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、マクロ政策の安定性を維持し、共同富裕促進のために有力な金融支援を提供し、システミック金融リスクを発生させない最低ラインを断固しっかり守る。

4.預金準備率引下げの効果

7月、中央銀行は1兆元の長期資金を解放し、金融機関が実体経済を支援するための長期資金源を有効に増やし、金融機関が預金準備率引下げで得た資金を積極的に運用し、小型・零細企業への支援を強化するよう誘導した。

同時に、預金準備率引下げは金融機関の資金コストを約130億元引き下げ、金融機関からの伝達を通じて、小型・零細企業の資金調達コストの安定の中での低下を促進し、7月の預金準備率引下げの効果は徐々に顕在化し、小型・零細企業向け貸出の「量が増え」「金利が低下」している。

原材料・労働力等生産要素コストと資本コストを含む小型・零細企業のコスト問題に関しては、最近生産要素コストの議論が比較的多く、大口取引商品価格の上昇は、一部の「労働力集約型で、原材料価格について敏感な」小型・零細企業にかなり大きな影響を与えており、高度に注意を払い、政策支援を強化する必要がある。

資金コストについて言えば、今年に入り、人民銀行は穏健な金融政策を堅持し、流動性の合理的以充足とマネー・貸出の合理的伸びを維持した。同時に、貸出プライムレート改革を引き続き推進し、預金金利の監督管理を強化し、預金金利の自律的な上限を預金基準金利に加点して確定することに改め、預金市場の競争秩序を顕著に改善した。

今年7月、金融機関の普通預金金利は0.32%、定期預金金利は2.26%であり、それぞれ自律的な上限調整前に比べ0.22ポイント低下した。うち3年物の下落幅は0.41ポイント、5年物は0.42ポイントと大きかった。

これらの改革措置の効果は引き続き現れ、貸出実質金利は安定の中の低下が促進された。今年1-7月、貸出加重平均金利は5.07%で、前年同期比0.08ポイント低下した。うち、企業向け貸出加重平均金利は4.63%で、前年同期比0.14ポイント低下した。小型・零細企業向け金利の低下幅は更に大きい。

総じて見れば、各措置の効果が徐々に現れ、小型・零細企業のコストは安定の中で低下し、小型・零細企業の経営発展を有効に支援した。

5.金融政策の方向性

昨年1-3月の疫病以降、主要先進経済体は強度の高い量的緩和の金融政策を実施し、中央銀行のB/Sを大幅に拡張した。1年半もたたぬうちに、FRBのB/Sは元々の4兆ドルから7月末に8.2兆ドルに拡張し、2倍になった。

今年に入り、米国のインフレ率は顕著に上昇し、雇用情況も好転している。FRBの官員は皆談話を出し、どのように量的緩和の金融政策から退出するかシグナルを発している。最近、世界中央銀行年次大会において、FRBのパウエル議長が行った演説は、米国金融政策の将来調整の道筋を明らかにした。

米国以外に、その他の経済体の金融政策も転換問題に直面している。中国について言えば、我々は穏健な金融政策の実施をずっと堅持し、中国は依然として常態化した金融政策の区間にあり、「バラマキ」を行っていない。我々の金融政策の余地は比較的大きい。

これが、2020年初以降、中国とFRB及びその他主要経済体の金融政策の主要な差異である。

今後、人民銀行は穏健な金融政策を実施し、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模を名目成長率と基本的に釣り合わせる。同時に、周期を跨ぐ政策設計を行い、今年と来年の金融政策のリンクを統一的に考慮する。同時に、我々は金融政策を考慮する際には自分を主とし、金融政策の自主性を増強する。

構造的金融政策の方面では、重点分野と脆弱部分への政策支援を増やす。たとえば、再貸出・再割引等の手段の方向を定めた支援作用、2つの実体経済に直接到達する金融政策手段の一層の使用、国務院常務会議が提起した3000億元の小型・零細企業支援再貸出制度をうまく用いることである。

同時に、人民銀行は炭素排出削減支援手段を設立し、金融が、中小・零細企業、グリーン発展、科学技術イノベーション等の重点分野・脆弱部分への支援を精確に強化するよう誘導する。

今年に入り、わが国の金融政策は周期を跨ぐ設計を行い、事前手配し、展望性をもって、世界経済体の金融政策調整がもたらす可能性のあるマイナスのスピルオーバーショックを低下させた。

①金融機関の外貨預金準備率の引上げと予想の管理の強化、企業・金融機関がリスク中立性の理念を樹立するよう誘導する等の措置を通じて、人民元の合理的均衡水準での基本的安定を維持し、先進経済体の金融政策調整がわが国レートにもたらす可能性のあるショックを低下させた。

②クロスボーダー資本流動のマクロ・プルーデンス管理を強化し、クロスボーダー金融のマクロ・プルーデンス調節の係数を引き下げ、先進経済体の金融政策調整が企業にもたらす可能性のある、将来の外債の集中償還圧力を軽減した。

③金融政策の自主性を増強した。

7月初、展望性のある預金準備率引下げで長期資金1兆元を解放し、流動性の合理的充足を維持し、今年下半期の経済運営の不確定性と先進経済体の金融政策調整に対応するため、あらかじめ下地を作った。

④国内LIBOR1の転換を積極的に推進し、順序立てて進め、金融機関が前倒しで転換をしっかり行うよう誘導し、LIBORの退出がもたらす金融市場の参考基準の変化と、FRB等先進経済体の金融政策調整の共振がもたらすリスクを回避した。

  1. ロンドン市場における銀行間取引金利。世界中の様々な金融取引の金利決定の参考指標として使用されてきたが、2021年末以降、恒久的な公表停止の可能性があるとされる。