田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(74)

新領域研究センター 田中 修

2021年9月10日


はじめに

本稿では、8月30日の中央改革全面深化委員会、9月1日の国務院常務会議、6日の中国国際デジタル経済博覧会における劉鶴副総理のビデオ挨拶の概要を紹介する。

8月30日 中央改革全面深化委員会
(1)習近平総書記の発言

反独占を強化し、公平競争政策の実施を深く推進することは、社会主義市場経済体制を整備するための内在的要求である。

新たな発展の枠組を構築し1、質の高い発展を推進し、共同富裕を促進する戦略的高みから出発し、公平競争の市場環境形成を促進し、各種市場主体とりわけ中小企業のために、広範な発展の空間を創造し、消費者権益を更に好く保護しなければならない。

国家備蓄は、国家ガバナンスの重要な物質的基礎であり、体制メカニズムのレベルから戦略と緊急物資備蓄の安全管理を強化し、戦略保障、マクロ・コントロール、緊急需要対応機能を強化し、重大リスクを防止・制御する能力を増強しなければならない。

汚染防止の堅塁攻略の成果を強固にし、「精確な汚染防止・科学的な汚染防止・法に基づく汚染防止」を堅持し、更に高い基準で「青い空・碧い水・清浄な土」防衛戦をしっかり闘い、高いレベルで保護することにより質の高い発展を推進し、高品質の生活を創造し、人と自然の調和がとれ共生する美しい中国の建設に努力しなければならない。

統計の監督機能を強化し、統計データの質を高め、システム的に完全で、効率高く協同し、制約が有力な統計監督体系の構築を加速しなければならない。

(2)反独占

第18回党大会以降、我々は反独占・反不当競争を軸に、一連の重大政策決定・手配を行い、公平競争制度を整備し、市場監督管理体制を改革し、反独占監督管理を強化し、ハイレベルの市場システムの建設を推進し、統一・開放され、競争が秩序立った市場システムの形成を推進してきた。

いくらかのプラットフォームに野蛮な生長・無秩序な拡張等の際立った問題が存在し、我々は反独占監督管理を強化し、関係プラットフォーム企業の独占と不当競争行為を法に基づき調査処分し、資本の無秩序な拡張防止で初めて成果を収め、市場の公平競争秩序は着実に好転している。

発展と安全、効率と公平、活力と秩序、国内と国際を統一的に企画し、監督管理・規範と発展促進の両手を共に重視し、両手を共にハードにして、ルールを明確にし、最低ラインを設定し、ストップ・ゴーの信号機をしっかり設置し、企業が党の指導に服従し、経済社会の発展の大局に服従し、これをサポートするよう誘導・督促し、科学技術の進歩促進・市場経済の繁栄・人民生活の利便・国際競争への参加において、企業が積極的役割を発揮するよう奨励・支援しなければならない。

健全な市場参入制度、公平競争の審査メカニズム、デジタル経済の公平競争監督管理制度、行政権力の濫用による競争の排除・制限を予防・制止する制度等の整備を加速しなければならない。

「2つのいささかも揺るがない」2を堅持し、大中小企業が相互に良性の影響を与え、協同で発展する良好な構造の形成を推進しなければならない。

ハイレベルの対外開放を断固推進し、財産権と知的財産権を保護し、政策の透明度と予期可能性を増強しなければならない。

競争の法律制度と政策宣伝・研修を強化し、企業の公平競争意識を強化し、全社会が公平競争を尊び、保護・促進する市場環境を形成するよう誘導しなければならない。

全方位・多層レベル・立体化した監督管理体系の確立を加速し、事前・実施中・事後の全チェーン・全分野への監督管理を実現し、監督管理の遺漏を塞ぎ、監督管理の効能を高めなければならない。

監督管理の法執行を強化し、プラットフォーム経済・科学技術イノベーション・情報の安全・民生の保障等の重点分野の法執行・司法を強化しなければならない。

反独占の体制メカニズムを整備し、反独占の監督管理パワーを充実しなければならない。

(3)国家備蓄

第18回党大会以降、我々は国家備蓄のトップダウン設計を強化し、備蓄管理体制メカニズムの改革を深化させ、中央政府の備蓄に対し集中統一管理を実行し、全国の物資備蓄保管と配送をカバーするインフラネットワークの建設を加速し、国家備蓄の基礎・実力は不断に増強され、重大リスクの防止・解消、新型コロナへの有効な対応において、重要な役割を発揮した。

わが国は大国であり、大国の地位に符合した国家備蓄実力と緊急対応能力を備えなければならない。

「何を備蓄するか」「誰が備蓄するか」「どのように備蓄するか」の問題を統一的にしっかり解決し、備蓄の品目・規模・構造を系統的に計画し、科学的に最適化して、カギとなる品目・物資の不足分を早急に補わなければならない。

健全で統一した戦略と緊急物資備蓄体系の整備を加速し、政府が主導し、社会が共同建設し、多元的に相互補完することを堅持し、中央と地方、実物と生産能力、政府と企業の備蓄が結びついた健全な備蓄メカニズムを整備し、重要物資の生産能力保障と地域の配置を最適化し、備蓄責任を分類しレベルを分けて履行し、備蓄方式を整備し、備蓄管理メカニズムを刷新しなければならない。

戦略備蓄の市場調節メカニズムを整備し、大口取引商品の備蓄・調節能力を増強し、戦略備蓄の市場安定化機能を更に好く発揮させなければならない。

国家備蓄の監督管理を強化し、専門的な監督管理・業種の監督管理・管轄地の監督管理の合成力を強めなければならない。

(4)汚染防止

近年、我々の汚染防止推進の実行、程度の大きさ、成果の顕著さは未曽有のものである。

第14次5カ年計画期間、わが国の生態文明建設は、炭素排出削減を重点戦略方向とし、協同による汚染物質排出削減・炭素排出削減の相乗効果を推進し、経済社会発展の全面的なグリーン転換を促進し、生態環境の質改善を量の変化から質の変化に変えることを実現するカギとなる時期に入ることになり、汚染防止に係る矛盾・問題は、層が更に深くなり、分野が更に広がり、要求も更に高くなる。

程度を維持し、深掘りし、範囲を広げて、汚染防止の重点分野・カギとなる部分に焦点を絞り、パワーを集中して庶民の身辺の際立った生態環境問題を攻略・克服し、多くの汚染物質の協同コントロール・地域協同対策を強化し、水資源・水環境・水生態の対策を統一し、土壌汚染防止を推進し、固体廃棄物・新汚染物質の対策を強化し、海外からのゴミ持ち込みを全面禁止し、重点地域・重点分野・カギとなる指標において、汚染防止の新たなブレークスルー実現を推進しなければならない。

生態システム全体から出発し、総合対策・系統的対策・根本対策を更に重視し、汚染物質排出削減・炭素排出削減を一体的に計画し、一体的に手配し、一体的に推進し、一体的に考課する制度メカニズムの構築を加速しなければならない。

生態保護と汚染防止を統一的に企画し、生態環境の地域を分けた管理・コントロールを強化し、重要生態システムの保護・修復を推進し、大規模な国土緑化キャンペーンを展開し、環境容量を拡大すると同時に、汚染物質排出量を引き下げなければならない。

産業構造・エネルギー構造・交通輸送構造・土地使用構造の調整を早急に推進し、「エネルギー多消費・汚染物質高排出」プロジェクトの参入関門を厳格に把握し、資源の節約・効率の高い利用を推進し、グリーン・低炭素の新たな動力エネルギーを育成しなければならない。

生態文明の体制改革を深く推進し、現代環境対策システムの構築を加速し、法治の保障を全面強化し、健全な環境経済政策を整備し、資金投入メカニズムを整備しなければならない。

システムの監督管理・全プロセスの監督管理を強化し、生態環境を破壊する行為に対して決して手を緩めてはならず、生態環境の違法な犯罪行為に対しては厳しく重罰を科さなければならない。

土地の事情に応じて施策を講じ、分類して施策を行い、差別化を体現しなければならず、一律に行ってはならない。

(5)統計の監督

統計の監督は、党・国家の監督体系の重要な構成部分である。

第18回党大会以降、我々は統計監督の整備について制度手配を行い、大きな統計の紀律・法律違反案件を調査処分し、統計監督で顕著な成果を収めてきた。

新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し3、質の高い発展を推進する情況についての統計監督を推進し、国家重大発展戦略の実施情況、重大リスク・試練への対応の成果、人民大衆の不満の際立つ問題の解決情況等を重点的にモニタリング・評価しなければならない。

統計の制度・方法の改革を加速し、現代ICTの運用を増やし、統計の末端・基礎を打ち固め、情況を探って明らかにし、データを正確にして、監督の結果に実践・歴史の検証を受けさせなければならない。統計監督と、紀律監督・組織監督・巡視監督・会計検査監督等との統一・リンクを推進し、政策の協調と統計監督結果の運用を強化し、監督機能を高めなければならない。

9月1日 国務院常務会議
(1)中小・零細企業の困難緩和支援

成長の安定・雇用の促進の重点は、市場主体とりわけ数が多く範囲が広い中小・零細企業の保障にある。

党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹し、中小・零細企業への支援を一層強化し、大口取引商品価格の高止まりがもたらしている生産・経営コストの上昇、売掛金の増加、疫病・災害の影響等の問題に対し、既に打ち出した企業優遇政策をうまく用いる基礎の上に、措置を更に採用して市場主体をしっかり安定させ、雇用をしっかり安定させて、経済運営を合理的区間に維持しなければならない。

①支援政策を強化する

今年、小型・零細企業支援再貸出額をさらに3000億元増やして、地方法人銀行が小型・零細企業と個人工商事業者向けに貸出を行うことを支援する。

疫病の影響が深刻な業種・企業に対する貸出・利息補助及び奨励・補助政策を整備する。

銀行の更に多くの無担保インクルーシブファイナンスを推進する。

国家債務保証基金のリスク補償メカニズムを確立し、保証機関が担保・信用記録の不足している小型・零細企業のために保証を提供することを支援する。

金融機関が手形割引と標準手形融資を展開するよう誘導し、人民銀行が再割引支援を提供して、中小・零細企業の資金圧力を緩和する。

②「行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化」改革を一層深化させる

ビジネス環境を最適化し、制度的取引コストを引き下げ、財産権・知的財産権を保護し、公平な競争を保護し、発展への自信を増強する。

起業・イノベーションへの支援を強化する。みだりに費用を徴収し、みだりに大風呂敷を広げることを厳禁する。中小・零細企業への未払い整理特別行動を引き続き展開する。

地方が支援措置を的確に打ち出して、中小・零細企業のコスト上昇圧力を軽減することを奨励する。

③周期を跨ぐ調節を統一的にしっかり行う

地方政府特別債の役割を発揮させ、有効な投資の拡大を牽引する。

国際環境の変化と実体経済発展の需要に基づき、政策備蓄を強化し、一部の企業優遇政策の期限到来後、これに接続する政策を検討し、速やかに打ち出し、困難・試練への対応能力を高め、経済の平穏で健全な発展と雇用の安定を維持する。

(2)家庭の経済が困窮している学生への就学支援

家庭の経済が困窮している学生の後顧の憂いを更に好く緩和し、彼らが安心して進学し、学業を成すことを助け、教育の公平を促進するため、国家奨学ローン政策を一層整備する。

①今年の秋学期から、貸出額を引き上げ、本科・専科生1人当たり年最高貸出額を8000元から1万2000元に引き上げ、大学院生は1万2000元から1万6000元に引き上げ、学生の在校期間の貸出利息について、財政が全額補助を実行する。

②奨学ローン業務を引き受けた銀行に対し、財政は引き続き一定割合のリスク補償を与え、補償割合を合理的に引き下げる。

③学生が勤倹・節約し、学業に励み実際に役立て、就労の能力と国家に報い社会に奉仕する能力を増強するよう誘導する。学校も、学生のために更に多くの学費を稼ぐ機会を提供するよう努力しなければならない。

(3)農産品の質の安全

農産品の質は人民大衆の身体の健康に関わる。会議が承認し、全人代常務委員会の審議に委ねた「中華人民共和国農産品品質安全法改正案」は、

①食品・薬品の安全についての「4つの最も厳しい」4の要求を全面実施し、農産品の生産・経営の全プロセスの管理・コントロールを一層強化する、

②生産・経営者の主体責任、地方政府の管轄地責任、関係部門の監督管理責任を明確にする、

③食用農産品の質の安全を遡って追及する制度を確立する、

④監督措置を整備し、問責・法執行を強化し、法律・規定に違反した行為への懲罰の程度を大幅に高める、 ものである。

9月6日 中国国際デジタル経済博覧会における劉鶴副総理のビデオ挨拶

劉鶴副総理の挨拶の概要は以下のとおりである(新華社石家荘電2021年9月6日、太字は筆者)。

習近平総書記はデジタル経済の発展を高度に重視し、一連の重要指示を行っており、これを深刻に学習・理解し、真剣に貫徹実施しなければならない。

デジタル経済を発展させるには、新発展理念を真剣に実施し、強烈なイノベーション・危機意識により、主動的に条件を創造し、発展のチャンスを把握し、経済社会の質の高い発展を実現しなければならない。

人材を重点中の重点とし、企業家精神を十分発揚し、人材の吸収・育成に努力し、人の想像力・創造力に依拠して、供給が需要を創造することを可能にしなければならない。

ソフトの環境をうまく創造して、引き続き法治環境を整備し、インフラ建設を適度に前倒しで進め、資源・サービスの供給を最適化し、公平な競争を保護し、独占に反対しなければならない。

比較優位性をうまく発見・利用し、異なる地域の産業の特色を結びつけ、イノベーションに努力し、差別化競争を進めなければならない。

民営経済の発展を大いに支援し、成長の安定・雇用の安定・構造の調整・イノベーションの促進の中で、民営経済に更に大きな役割を発揮させなければならない。

民営経済は、わが国のために、50%以上の税収、60%以上のGDP、70%以上の技術革新、80%以上の都市雇用、90%以上の市場主体の数で貢献している。

社会主義市場経済の改革方向を堅持し、ハイレベルの対外開放の推進を堅持し、社会主義初級段階の基本経済制度を堅持し、「2つのいささかも揺るがない」5を堅持し、財産権・知的財産権を断固保護しなければならない。

民営経済の発展を支援する方針・政策に変わりはなく、現在変わりはなく、将来も変わりはない!

(留意点)

劉鶴副総理が強調したかったのは、後段の太字部分であろう。2018年夏に民営企業退場論、混合所有制を利用した実質国有化論の議論が高まり、習近平総書記は11月に「民営企業座談会」を開催し、民営企業退場論・実質国有化論は理論的に誤りであるとし、民営企業の50%・60%・70%・80%・90%の貢献を指摘して、民営企業の発展支援を強調した。

これにより、民営企業発展支援策を正面から議論することが可能となったが、昨秋から指導部が「共同富裕」の推進を打ち出したことにより、再び民営企業叩きの機運が出ている。しかも、習近平総書記は1月の中央党校での重要講話で「新たな発展段階」を説明する際、2035年に社会主義現代化国家が基本的に実現した際には、「社会主義初級段階」が終了し、次のステップに進むことを示唆した。もし、2035年に社会主義初級段階が終了することになれば、基本経済制度も終了し、「いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない」という方針も見直されることになりかねない。

劉鶴副総理はこれを危惧し、民営企業座談会での習近平総書記の重要講話を再び持ち出すとともに、「社会主義初級段階の基本経済制度」と「2つのいささかも揺るがない」の堅持をわざわざ強調して、「民営経済の発展支援の方針・政策は、現在も将来も変わりはない」と宣言したのであろう。

習近平総書記の経済ブレーンと言われる劉鶴副総理が、この時期にわざわざこのような発言をしたことは、指導部の強いメッセージと考えるべきであろう。

  1. 「新たな発展段階」「新発展理念」は削除されている。
  2. ①いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させなければならない。 ②いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない。
  3. 「新たな発展段階」は削除されている。
  4. 最も厳密な基準、最も厳格な監督・規制、最も厳しい処罰、最も厳しい問責。
  5. ①いささかも揺るぐことなく公有制経済を打ち固め、発展させなければならない。 ②いささかも揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励し、支援し、導かなければならない。