田中 修

中国経済レポート

保障性賃貸住宅政策

新領域研究センター 田中 修

2021年8月26日


はじめに

これまでの住宅政策は持ち家が中心であったが、住宅価格の高騰のため、政府は持ち家から賃貸住宅の建設・供給に政策の軸足を移していた。さらに、低所得者向けに社会保障の一環として、社会保障的性格をもつ賃貸住宅(以下「保障性賃貸住宅」)の供給を強化することとし、国務院は、7月3日、「保障性賃貸住宅の発展加速に関する意見」を発表した(決定は6月24日)。本稿では、7月2日に発表された政策の概要説明(新華社北京電2021年7月2日)と、7月7日に行われた住宅・都市農村建設部の記者会見の概要を紹介する。

1.「保障性賃貸住宅の発展加速に関する意見」の概要

「意見」は次のように指摘する。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、住宅の民生の属性を際立たせ、保障性賃貸住宅の供給を拡大し、住宅賃貸市場の構造的供給不足を緩和し、多くの主体が供給し、多くのルートで保障し、賃貸・分譲が並立する住宅制度の確立を推進し、人を核心とした新しいタイプの都市化を推進し、人民全体に住む家があることの実現を促進する。

「意見」は次のことを明確にした。

保障性賃貸住宅は、主として条件に合致した新市民・青年等の層の住宅難問題を解決するものであり、建築面積が70㎡を超えない小型住宅を主とし、家賃は同じ区域・同じ品質の市場賃貸住宅の家賃より低く、政府より政策支援を与え、市場メカニズムの役割を十分発揮させ、多くの主体が投資し、多くのルートで供給するよう誘導し、主として既存の土地・家屋を利用して建設し、新たに供給された国有建設用地を適切に利用して建設する。

都市人民政府は需給のマッチングを堅持し、第14次5カ年計画の保障性賃貸住宅建設目標と政策措置を科学的に確定し、年度建設計画を制定して社会に公布し、保障性賃貸住宅の建設、賃貸・運営管理の全プロセスに対する監督を強化し、プロジェクトの質・安全の監督管理を強化する。

都市人民政府は、管轄地域の保障性賃貸住宅発展に対する主体責任を負い、省レベル人民政府は総責任を負う。

「意見」は以下の支援政策を提起した。

(1)土地支援政策を一層整備する

人口が純流入する大都市と省レベル人民政府が確定した都市は、集団経営性建設用地を利用した保障性賃貸住宅建設の模索を認める。

国有企業・公共事業体が自ら保有する土地を利用して保障性賃貸住宅を建設することを認め、土地用途を変更しても、追加土地代金を徴収しない。

産業パークが付帯用地面積のウエイトの上限を7%から15%に高め、高めた部分は主として宿舎タイプの保障性賃貸住宅の建設に用いることを認める。

保障性賃貸住宅用地を、譲渡・賃貸あるいは支給等の方式で供給することを認める。

非居住の既存土地・既存家屋を利用し保障性賃貸住宅を建設することを認め、更に土地使用の性質を変更せず、追加土地代金を徴収しない。

(2)審査・認可プロセスを簡略化する

非居住の既存土地・既存家屋を利用して保障性賃貸住宅を建設する場合には、市・県人民政府が関係部門を組織して連合で建設プランを審査することを認め、保障性賃貸住宅プロジェクトの認定書を出した後は、関係部門によりプロジェクト立上げ・土地使用・計画・施工・消防等の手続を処理する。

(3)中央補助金支援を与える

中央は、規定に合致した保障性賃貸住宅建設任務に対し、補助を与える。

(4)税・費用負担を引き下げ、民生用水道・電気・ガス価格を執行する

非居住の既存土地・既存家屋を利用して保障性賃貸住宅を建設する場合には、保障性賃貸住宅プロジェクト認定書取得後は、住宅賃貸増値税・不動産税等の税制優遇を適用し、水道・電気・ガス使用価格は庶民基準に基づいて執行する。

(5)金融支援を一層強化する

銀行業金融機関が、市場による方式で、保障性賃貸住宅を自ら保有する主体に対して、長期貸出を提供することを支援し、不動産融資の管理を実施する際には、差別化した待遇を与える。

「意見」は、各地方が政策をしっかりリンクし、各関係部門・単位が協力を強化し、各政策の完全実施を確保するよう要求している。

2.住宅・都市農村建設部記者会見
(1)概要説明

党中央・国務院は、住宅保障政策を高度に重視している。

党19期5中全会は、保障性賃貸住宅の供給拡大を提起した。

習近平総書記は、「大都市の住宅の際立った問題をしっかり解決するには、保障性賃貸住宅の建設を高度に重視し、土地供給を賃貸住宅の建設に傾斜させ、賃貸住宅土地使用計画を独自に策定して、集団建設用地と国有企業・公共事業体が自ら保有する遊休土地を利用して賃貸住宅を建設することを模索し、賃貸住宅の税・費用負担を引き下げ、家賃水準への合理的コントロールを進めなければならない」と指摘している。

李克強総理は、今年の「政府活動報告」の中で、「保障性賃貸住宅の供給を確実に強化し、最大の努力を尽くして、新市民・青年等の住宅難緩和を援助しなければならない」と強調した。

韓正副総理は、自ら住宅・都市農村建設部で座談会を開催し、保障性賃貸住宅の発展政策を手配した。

6月18日、国務院常務会議は「保障性賃貸住宅の発展加速に関する意見」を審議し、保障性賃貸住宅の発展を加速する政策を明確にし、保障性賃貸住宅の発展を加速することは、都市化プロセスの健全な発展を有力にサポートすると強調した。

6月24日、国務院弁公庁は「意見」を公布した。

以下、関係情況を簡単に説明する。

多年の発展を経て、とりわけ第18回党大会以降、わが国の住宅保障能力は引き続き増強され、累計で各種保障性住宅とバラック地域の住宅改造・安定供給8000万戸余りを建設し、2億余りの困窮大衆の住宅条件改善を援助し、人民大衆の獲得感・幸福感・安全感が不断に増強された。

同時に、都市化プロセスの加速と流動人口規模の拡大に伴い、都市に入った労働者、新たに就労した大学生等の新市民・青年の住宅難問題も比較的際立ち、公的賃貸住宅、保障性賃貸住宅と共有財産権住宅を主体とした住宅保障システムの整備を加速することが必要となった。

「意見」は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」という位置づけを堅持し、住宅の民生属性を際立たせ、保障性賃貸住宅の供給を拡大し、住宅賃貸市場の構造的供給不足を緩和し、多くの主体による供給、多くのルートによる保障、賃貸・分譲が並立する住宅制度の確立を推進し、人を核心とする新しいタイプの都市化を推進し、人民全体が住む家のあることの実現を促進することを強調している1

(2)現代の住宅保障体系の具体的内容に変化はあるか?

我々の住宅保障政策は長年進められてきたが、国家レベルで住宅保障体系へのトップダウン設計はずっと明確ではなかった。今回の国務院「意見」は、国家レベルで住宅保障体系へのトップダウン設計を初めて明確にした。

今後の国家の住宅保障体系は、公的賃貸住宅、保障性賃貸住宅と共有財産権住宅を主体とする。

①公的賃貸住宅

公的賃貸住宅は、我々は長年実施してきており、全国で既に1600万戸余りの公的賃貸住宅がある。公的賃貸住宅の主たる対象は、都市住宅・所得が困窮している家庭である。公的賃貸住宅を借りるには、2つのハードルがある。所得が低く、住宅条件も悪いことである。所得がどれくらいか、困窮がどの程度かについては、市・県人民政府が規定する。

公的賃貸住宅は、2つの方式がある。1つは、実物保障であり、1つは、貨幣補助である。この条件に合致した保障対象が政府に申請すると、政府は実物の公的賃貸住宅を提供してもよいし、貨幣補助を与えてもよい。実物の公的賃貸住宅は、一般に60㎡以下であり、貨幣補助の具体的基準は、各市・県の人民政府が規定する。

国家レベルの各地方に対する基本要求は、実際上現在、各地方が基本的に実施しており、都市戸籍低所得住宅難家庭で保障すべきものはすべて保障している。公的賃貸住宅は、国家基本公共サービス基準の内容に組み込まれており、各地方は引き続き公的賃貸住宅の政策規定をしっかり執行し、関係制度を一層整備し、合理的な待機期間内に公的賃貸住宅申請者の保障問題を解決しなければならない。

②保障性賃貸住宅

保障性賃貸住宅の対象は公的賃貸住宅と異なり、主として新市民・青年の住宅問題を解決するものである。これは新たな制度であり、以前はなかった。この新制度は、政府が政策支援を与え、多くの主体の投資、多くのルートでの供給を誘導する。

具体的方式は多種多様でよく、集団土地を利用した建設、国有企業・公共事業体の遊休土地を利用した建設、パーク付帯用地を利用した建設、非居住の既存家屋の利用が含まれ、放置された商業用ビル、工業の工場建物を改造することも含まれ、多様な方式で保障性賃貸住宅の供給を増やす。政府は政策支援を与え、提供者への要求は、小型住宅(70㎡以下)・低家賃である。

この新制度の重点は、人口が純流入する大都市である。なぜなら、我々の言う新市民・青年は、主としてこれらの大都市にいる。人口が純流入する大都市を重点とし、保障性賃貸住宅の建設目標を合理的に確定し、多様な方式を採用して供給を増やし、新市民・青年の住宅難を緩和する。

保障性賃貸住宅の1つの特徴は、主として既存の土地・既存の家屋を利用することである。なぜなら、庶民の住宅を借りる際、1つの重要な要因は、一定の区域にあることである。このため、我々が言う保障性賃貸住宅は、既存の土地・既存の家屋を重点的に利用し、主として都市の中の旧市街地・パークあるいは交通の便利な区域で、これらの小型・低家賃の保障性賃貸住宅を建設しなければならない。これが、保障性賃貸住宅の位置づけであり、これは公的賃貸住宅と相互補完する制度である。

保障性賃貸住宅は面積が小さいので、新市民・青年にとって、この住宅は主として段階的な住宅難を解決するものである。なぜなら、彼らは大学を卒業したばかりであり、一間の住宅で十分であろうが、以後結婚し子どもが生まれると、更に好い条件が必要となる可能性がある。このため、我々の保障システムには、共有財産権住宅もある。

保障性賃貸住宅を通じて段階的な住宅難を解決し、6年・8年過ぎれば、一定の蓄積・能力ができるが、分譲住宅は買えないので、政府は共有財産権住宅の供給を手配し、彼らが払えるかなり低い価格で共有財産権住宅を購入させなければならない。もし、同様な住宅の住宅価格が㎡当たり8万元であれば、共有財産権住宅は㎡当たり4万元となるだろうが、50%の財産権しか保有できない。このようにして、後の段階的な居住条件の改善問題を解決するのである。

国家レベルは、公的賃貸住宅、保障性賃貸住宅と共有財産権住宅を主体とした住宅保障システムの整備を加速しなければならない。各地方は、国家レベルのトップダウン設計に基づいて、実際と結びつけ、各地の具体的保障方式を確定しなければならない。

(3)国有企業・公共事業体が自ら保有する遊休土地の利用

保障性賃貸住宅を公的賃貸住宅と区別する重要な特徴は、第19回党大会が、多くの主体で供給し、多くのルートで保障し、賃貸と分譲が並立する住宅制度の確立を加速するよう要求していることである。

公的賃貸住宅は、主として政府の投資による建設と貨幣補助の支給であり、保障性賃貸住宅は、多くの主体の投資、多くのルートでの供給である。うち、国有企業・公共事業体の遊休土地を利用した建設は重要な方面である。

調査研究から見ると、多くの国有企業・公共事業体に相当数の自身が保有する遊休土地があり、同時に国有企業・公共事業体に新たに就職した従業員の住宅は比較的困難である。このため、今回の「意見」は、新政策を提起した。すなわち、人口純流入の大都市が、国有企業・公共事業体が自ら保有する遊休土地を利用して、保障性賃貸住宅を建設することを認めた。これは単位に就職した青年従業員に向けたものであり、彼らの段階的住宅難の解決を援助するものである。

(4)権限賦与・監督管理

主として3方面がある。

①都市の範囲を明確にし、都市に自主権を賦与した

「意見」は、人口純流入の大都市と省レベル人民政府が確定した都市で、国有企業・公共事業体が法に基づき使用権を取得した土地につき、都市人民政府の同意を経て、計画に合致し、権利の所属を変えず、安全要求を満足させ、大衆の希望を尊重する前提の下、保障性賃貸住宅を建設することを認めた。

このため実際上、この権利を都市に与え、都市がこの政策を用いるかどうかは、現地の需要に基づき確定しなければならず、需要のない地方は、盲目的に建設してはならない。

②土地、計画、審査・認可及び建設コストが高い等の問題について、方途・方法を提起した

保障性賃貸住宅の建設を支援するため、「意見」は国有企業・公共事業体が自ら保有する遊休土地を利用して建設することを明確にした。土地の用途を変更する必要があるが、土地代金を追加徴収せず、都市インフラ関連費用を免除する。

同時に、「意見」は審査・認可メカニズムを専門的に明確にし、市・県人民政府が審査メカニズムを確立し、迅速に審査・認可し、建設を支援することを認めた。

「意見」はさらに、国有企業・公共事業体が自ら建設することを認め、自身に資金・能力がない場合には、住宅賃貸企業・ディベロッパー企業等と協力して建設・運営することを認めている。

③「意見」は、国有企業・公共事業体が保障性賃貸住宅を建設することについて、監督管理を強化するよう要求している

国有企業・公共事業体が自ら保有する遊休土地を利用して保障性賃貸住宅を建設する場合には、必ず小型住宅でなければならず、主として新市民・青年の住宅難を解決するものでなければならない。

同時に、保障性賃貸住宅を市場で売り出し、あるいは形を変えて販売してはならず、保障性賃貸住宅の名のもとに、規定に違反して経営し、あるいは優遇政策を騙し取ってはならない。

このため、「意見」は数方面から都市に権力を与え、審査・認可と関連政策を明確にしたが、同時に国有企業・公共事業体が自ら保有する遊休土地を利用して保障性賃貸住宅を建設することについて、厳格な監督管理を要求し、新市民・青年の住宅難解決に真に用いることを確保している。

(5)都市、省レベル人民政府の責任

「意見」は、第1層で、都市人民政府は管轄地域の保障性賃貸住宅の発展、新市民・青年等の層の住宅難問題の解決を促進することに主体責任を負わなければならないとしている。第2層では、省レベル人民政府は、管轄地域の保障性賃貸住宅の発展政策に総責任を負い、組織的指導と監督検査を強化し、都市の保障性賃貸住宅の発展情況について、モニタリング・評価を実施しなければならないとしている。

このため、「意見」の要求に基づき、都市人民政府は重点的に、この数方面での政策をしっかり実施しなければならない。

①計画を定める

「意見」実施に際し、都市人民政府は、まず管轄地域、管轄都市の需給情況、新市民・青年の住宅需要と既存の土地・家屋資源の情況を探りはっきりさせなければならない。同時に、農村集団経済組織、国有企業・公共事業体等を含む、各種主体から意見・要望を聴取し、彼らが規定に基づき保障性賃貸住宅を建設することを支援しなければならない。

このため、需要を探り、調査を行い、情況をはっきりさせることを通じて、需給マッチングの原則を堅持し、管轄都市の第14次5カ年計画保障性賃貸住宅建設目標を科学的に確定し、年度建設計画を制定し、社会に公表しなければならない。

②方法を打ち出す

「意見」が打ち出されて以後、各都市人民政府は、具体的実施弁法を打ち出さなければならない。例えば、保障性賃貸住宅の異なる資金調達ルートに応じて、基本原則に基づき、参入・退出の具体的条件、さらに小型住宅の具体的面積といった管理面の要求を分類して制定しなければならない。

同時に、「意見」は土地、財政・税制、金融の支援政策を明確にしており、都市も実施弁法を作り、これらの政策を管轄都市で実施に移し、具体的実施方法を提起しなければならない。

③メカニズムを建設する

この面で最も重要なことは審査・認可メカニズムであり、これらのプロジェクト・各種実施主体がスムーズに動くように、連合審査メカニズムを構築しなければならない。同時に、これらのプロジェクトを工程の質・安全の監督管理に組み入れ、都市人民政府は税務・電力・金融の各方面をフォローする施策メカニズムを形成し、税制優遇政策、民生用水道・電気・ガス価格、さらに金融支援等の政策を実施に移さなければならない。

④監督管理を強化する

保障性賃貸住宅の建設・賃貸・運営管理の全プロセスに対する監督を強化し、市場への売却あるいは形を変えた売却等の法律・規定に違反した行為を防止しなければならない。

⑤引継ぎを行う

これは、国務院が保障性賃貸住宅制度で最初に明確にしたことである。各地方は、現行の政策支援を受けている賃貸住宅について整理を進め、規定に合致したものはすべて保障性賃貸住宅の規範・管理に組み入れ、組み入れないものについては、保障性賃貸住宅の専門支援政策を享受させてはならない。

省レベル人民政府の層では、一面では、組織的指導と督促・検査を強化し、都市ができるだけ速やかに有効な保障性賃貸住宅の供給を形成し、新市民・青年の住宅難を緩和するよう督促しなければならない。

他方で、モニタリング・評価をしっかり行い、都市が保障性賃貸住宅を発展させ、新市民・青年の住宅難を解決することで収めた成果について、モニタリング・評価を進めなければならない。

  1. 以下の「意見」の説明は、1.の内容と重複しているので、省略する。