田中 修

中国経済レポート

重点分野のリスクの防止・解消

新領域研究センター 田中 修

2021年8月17日


はじめに

7月30日の党中央政治局会議は、「重点分野のリスクを防止・解消し、地方党・政府の主要リーダーが責任を負う財政金融リスク処理メカニズムを実施しなければならない」と提起した、これを受け、経済日報2021年8月11日は、関係専門家を訪問し、取材を行った結果を掲載した。本稿では、記事の概要を紹介する。

(1)中銀証券グローバルチーフエコノミスト 管涛

金融は利を追うものであり、監督管理が不健全な情況下、金融が周期に従う行為は、過度にレバレッジを増す行為を誘発する可能性がある。金融リスクはいずれも債務と関係があり、一部分野のレバレッジがかなり高く、債務償還能力には相対的に限りがある。これは、主として3方面に集中している。

①地方政府の隠れ債務は、歴史的遺留問題に属する

過去、経済成長を追求し、資金調達能力に制限を受けている情況下、一部の地方政府は融資プラットホームを利用し、迂回して借入を行い、将来の余地を前借りした。

②不動産が金融化した

過去数年、不動産企業は「高いレバレッジ、高い債務、高い回転率」により稼ぐ方式を採用してきた。この方式は多方面の要因により生み出されたものである。例えば、土地財政、住宅価格が上昇しやすく下落しにくいこと、不動産企業が金融系統組織のためにかなり高く相対的に安定した収益を提供してきたこと等である。

③信用の階層分け現象が際立っている

一部の分野に不合理な高収益が存在することにより、信用は往々にしてこれらの分野に集中し、民営企業とりわけ中小・零細企業が一定程度資金調達難に直面する問題を生み出した。

(人民銀行下半期工作会議が、今年に入り、金融リスク防止・解消の各政策が順序立って推進され、包商銀行が法に基づき破産し、9つの「明天系」金融機関の清算・償却が全部完成し、遼寧省の都市商業銀行改革が進展をみて、一部大型民営企業の債務デフォルトリスクの秩序立った処理がなされ、国務院金融安全発展委員会が、重大金融リスクの防止・解消の問責弁法、債券市場での「債務逃れ、債務踏倒し」等重大な法律・規定違反事件の通報制度を実施した、と述べたことについて)

総体として見れば有効であり、「システミックリスクを発生させない最低リスク」の目標を実現し、同時に、金融市場に引き続き債務改革への期待を注入した。

今年上半期、海航・華夏幸福等のいくらかの企業のデフォルトが出現後、債務再編を進め、これに昨年の永煤・華晨のデフォルトを加えると、国有企業はデフォルトしないという期待は打破された。

これまでの監督管理層の予想誘導、一部地方政府の責任徹底、中央銀行による流動性の合理的充足の維持がよろしきを得て、市場は決してパニックには陥っていない。このほか、不動産企業への「3つのレッドライン」1が着実に推進され、資産管理業務の新たなルールの過渡期の期限が来たことは、シャドーバンキングのリスクに歯止めをかけることに成功している。

下半期、我々は引き続き、発展促進とリスク防止の関係をしっかりバランスさせなければならない。過去5年、中央経済工作会議は、成長の安定とリスクの防止を何度も同時提起し、両者が分割できないものであり、長期に共存する可能性があることを説明してきた。将来、更に多く必要なことは、制度整備と新旧の制度交代であり、系統的でインセンティブと相互に受容し合う、1つの処理メカニズムを確立することである。

(2)社会科学院財経戦略研究院財政研究室 何代欣主任

(今年に入り、中央は地方政府の債務管理について何度も手配を行い、関連リスク防止に的を絞っており、当面、わが国の地方政府債務リスクはコントロール可能であるとされていることに関し)

しかし、個別地方の規定に違反した借入行為はしばしば発生しており、潜在リスクは軽視できない。現在、地方政府の債務規模は上昇期にあり、債務の元本償還・利払圧力は比較的大きく、とりわけ政府の財政力が逼迫した地域で、債務のデフォルトリスクがなお存在する。

(近日、劉崑財政部長が、下半期の財政政策の重点として、リスクの防止・解消を推進し、国債・地方債の発行をしっかり統一し、地方政府債務の残高リスクの解消と増大リスクの防止を強化しなければならない、と述べたことに関して)

当面の情勢と結びつけて見ると、下半期は債務の顕在化を重点的に推進しなければならない。現在、融資プラットホーム債務は徐々に顕在化されているが、その他の隠れ負債、例えばプロジェクト内の債務の権利所属等の問題は、なお比較的複雑であり、方法を考えてはっきり整理してから処理しなければならない。

同時に、地方政府債務の管理について不断に規範化し、財政体制・税制、投融資体制、金融改革を深化させ、債務リスクを防止・解消する長期に有効なメカニズムを確立しなければならない。

財政金融リスクの処理メカニズムを確立から実施にもっていくことは、引き続き地方の党・政府の主要リーダーの問責を更に重視し、問責強化を通じて地方がリスクをしっかり防止するよう督促することを意味している。

この方面では、多層レベル・多くの角度からの監督体系を形成し、人民代表大会の監督、社会の監督等を強化し、「大監督管理」の枠組を構築しなければならない。他方で、法律・規定に違反したコストについては、問責・処罰の程度を引き上げ、政府借入の終身問責制度と債務問題のフィードバック調査のメカニズムを厳格に実施しなければならない。

(3)中国郵政貯蓄銀行 類飛鵬研究員

世界範囲で見ると疫病がもたらした不確定性が、主要経済体の金融政策を段階的に正常に回帰し難くしており、主要経済体の大規模に緩和した金融政策のスピルオーバーが、わが国の金融安定へのプレッシャーを増している。

国内で見ると、非金融分野の不動産価格バブル・地方政府の隠れ債務リスク・家計のレバレッジ水準が歴史的ハイレベルにあり、金融分野のハイリスク金融機関の処理・ハイリスクのシャドーバンキングの復活再燃・銀行の不良債権比率のリバウンドの圧力等が、現在直面している重点分野のリスクである。

マクロ政策が連続性・安定性を維持する等を通じて、かなり良好なマクロ経済環境を作り上げ、重大リスクの防止・解消においては、ハイリスク金融機関・債務デフォルト等の具体的情況に直面して的確な措置を採用して、かなり良好な成果を収めた。

続いては、疫病防御と経済社会発展をしっかり統一させることを堅持し、

①常に疫病防御の手綱を引き締め、

②政策の連続性・安定性を維持し、不動産融資への集中度に関する要求をしっかり実施し、地方政府債務を深くガバナンスし、家計のレバレッジ率を安定させ、

③ハイリスク金融機関の処理と、ハイリスク・シャドーバンキング業務の圧縮をしっかり行うことを堅持し、銀行が直面する不良債権リバウンド圧力に対し、事前に措置を採用して引当金取崩し増を誘導し、資産処分を早急に推進する必要がある。

(4)光大銀行 周茂華エコノミスト

(中央銀行が8月9日に公表した貨幣政策執行報告が、金融リスクの予防・事前警告・処理・問責の健全な制度体系を整備し、金融リスクを防止・解消する長期に有効なメカニズムを構築し、施策を分類して中小銀行の資本を補充し、システミック金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守る、としたことについて)

重点分野のリスクを防止・解消するプロセスにおいて、地方政府の責任を徹底させ、地方政府の金融監督管理の主体責任を強化することを通じて、地方中小金融機関のコーポレートガバナンスの不断の整備を推進する必要がある。

長期に有効なメカニズムは、財政金融システムの健全性を増強することにとって、重要な意義を有し、具体的実施プロセスにおいてリスク処理の主体責任を徹底させ、市場化・法治化されたリスク処理メカニズムを不断に整備する必要がある。

地方債を例にとると、近年、中央は不断に地方政府の主体責任を徹底させ、地方債について中央が救済しない原則を採用・堅持することを何度も強調しており、「自分の家の子どもは、自分が請け負う」ことを実施し、地方債は中央が清算してくれるという「幻覚」を打破してきた。

多くの地方も、政府債務管理領導小組を相次いで設立し、省長が組長に就任し、期限を切って健全で長期有効なメカニズムを確立している。

  1. 資産負債比率70%超、ネット負債資本比率100%超、手元資金の短期債務比率が100%を割り込む不動産企業に対しては、銀行からの融資が制限される規制。