田中 修

中国経済レポート

下半期の財政政策

新領域研究センター 田中 修

2021年8月5日


はじめに

7月30日、党中央政治局が下半期の経済政策の基本方針を決定したことを受け、財政部は記者会見を実施して、下半期の財政政策の考え方を明らかにした。会見には、劉崑財政部長、許宏才副部長、朱忠明副部長が出席した。本稿では、その概要を紹介する。

1.下半期の財政政策

今年に入り、財政部門は党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹実施し、積極的財政政策は、質・効率を高め、更に持続可能にし、経済運営が安定の中で強固になり、安定の中での好転を推進しなければならないと要求している。

上半期の予算執行情況から見ると、全国はいずれも良好な態勢を示しており、1-6月、全国一般公共予算収入は11兆7116億元であり、前年同期比21.8%増、2019年同期比8.6%増で、民生等の重点分野への支出は有力な保障を得た。

しかし、現在、内外環境は依然として錯綜し複雑であり、不確定性・不安定性の要因が比較的多く、下半期財政部門は引き続き「新たな発展段階を把握し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進する」という要求を執行し、疫病防御と経済社会発展を統一し、財政政策の連続性・安定性と持続可能性を維持し、経済が安定の中で好転する態勢を助力する。

我々の政策の重点は、「1つの維持、2つの向上、3つの重点」である。

(1)1つの維持

財政政策の連続性・安定性と持続可能性を維持し、急転換せず、経済回復に必要な支援の程度を維持することである。

内需拡大政策の実施を支援し、個人消費を安定・拡大し、投資の空間を積極的に開拓し、減税・費用引下げ政策をしっかりきめ細かく実施し、「過度な税・費用」を決して徴収しない。我々は各地方の「過度な税・費用」情況について検査を専門的に組織し、企業に対する費用徴収・個人に対する費用徴収を含め、厳格に調査する。

同時に、政策の展望性・精確性を増強し、現在に立脚し、長期に着眼して、今年と後年の財政政策をしっかりリンクさせ、カウンターシクリカルな調節を更に好く実施する。

今年下半期の財政収入と前年同期比の伸びは、今年上半期の21.8%のような高い伸びに達することはありえず、我々は政策上、展望性・精確性のある調整を行い、一定期間の財政政策の安定を維持する。

(2)2つの向上

①支出効率の向上

我々は、引き続き常態化した資金直接交付メカニズムをうまく用い、しっかり管理して、分配手続を一層最適化し、執行の分析を強化する。今年の特徴は、3点である。

1)資金を早く下達する

2020年は大部分の直接交付資金を10月前に下達したが、今年は、全人代の予算承認後、引き続き下達を加速し、下達時間を昨年よりさらに早め、地方の資金計上・使用のために更に多くの時間を確保する。

2)資金を正確に投下する

引き続き、届出審査、受益対象の実名制の確立等の措置を通じて、資金の供給と需要を有効にマッチさせ、精確に点滴灌漑を行う。資金分配の科学性を高め、直接交付資金の使用の重点を際立たせ、主として末端が雇用・基本民生・市場主体を保障し、給与・運営を保障する等の方面に用いる。

3)資金を厳しく監督管理する

審計署・人民銀行及び関係主管部門の協調を強化し、情報共有を推進し、監督の合成力を形成し、虚偽報告・横領・留保・横流し等の法律・法規に違反した行為については、1つ発見するごとに調査処分し、問責して、決して甘やかさない。

今後財政部は、関係部門と常態化した直接交付メカニズムを一層しっかり実施し、企業を優遇し民を利する資金の役割を更に好く発揮させ、1)残りの資金の下達を加速し、2)引き続き資金の監督管理を強化し、3)来年の直接交付メカニズムの手配をしっかり計画する。

②資金の使用業績効果の向上

すべての財政資金への業績効果管理カバーを推進し、「資金使用の場合は効果を問い、効果がない場合は問責する」を確実に実施する。

(3)3つの重点

①国家の重大戦略任務の実施を重点的に支援する

国の大事を軸に、カギ・コアとなる技術堅塁攻略戦を支援し、産業チェーン・サプライチェーンのグレードアップを推進し、農村振興戦略の全面実施を支援し、汚染対策と生態建設等の方面を強化する。

②基本民生を重点的に保障・改善する

1)雇用優先政策を実施する。

雇用補助金等の各種資金を統一的にうまく用いて、重点層への雇用支援を増やし、失業保険保障の範囲を拡大する政策を引き続き実施し、生活保障・失業防止・雇用促進の機能を発揮して、雇用の基盤をしっかり安定させる。

2)教育の質の高い発展を促進する。

教育財政方面への投入を増やし、支出構造を最適化し、一層中西部貧困地域へ傾斜させ、義務教育のバランスのとれた発展と都市・農村一体化を推進する。家庭の経済が苦しい学生への資金援助政策を実施する。

3)社会保障水準を着実に高める。

企業従業員基本年金保険の全国統一を早急に推進し、社会救済制度の改革・整備を支援し、引き続き困窮大衆の救済をしっかり行う。全国社会保障基金の管理を整備する。

4)健康中国の建設を推進する。

疫病防御に関係する政策を引き続きしっかり実施する。都市・農村住民医療保険の地区級市レベルの統一を全面推進し、省レベルの統一を推進する。

5)文化事業・文化産業の発展を支援する。

公共文化サービスの健全な財政保障メカニズムを整備し、関係資金の管理を整備し、更に多くの高級作品・力作が生まれるよう支援する。

基本民生の保障を強化すると同時に、我々は民生政策措置の有効性・持続可能性を更に重視しており、財政状況・実際の需要と結びつけて民生政策を合理的に確定し、民生支出のリスト管理を推進し、民生支出資金管理の科学性を高め、民生支出と経済発展の協調、財政力状況とのバランスを確保し、不断に民生のボーナス効果を実現し、民生保障を未来に延ばし、庶民の暮らしがより豊かになるようにする。

③リスクの防止・解消を重点的に推進する

国債・地方政府特別債の発行作業を軸に、地方政府債務の残高リスクの解消と増加リスクの防止を強化し、末端の「基本民生・給与・運営の保障」リスクを断固防止し、地域的・システミックなリスクが発生しないことを確保する。

2.減税・費用引下げ政策

今年に入り、減税・費用引下げ政策を一層最適化し、市場主体の元気回復を援助し、活力を増強した。主要な措置は、以下の方面を含み、留保したものもあれば、新規のものもある。

(1)制度的減税政策を引き続き実施する

たとえば、増値税の税率引き下げ、増値税の税額控除留保分の税額還付、個人所得税の特別付加控除等の制度的減税政策を引き続き実施し、政策の相乗効果を持続的に発揮させている。

(2)段階的減税・費用引下げ政策を分類調整する

疫病期間に打ち出した小規模納税者の増値税減税等の政策の執行期限を延長し、経済回復に必要な支援の程度を維持する。

(3)新たな構造的減税政策を打ち出す

小型・零細企業への税制優遇を強化し、小規模納税者の増値税の課税最低限を引き上げ、小型・零細企業、個人工商事業者の所得税優遇を一層強化し、小型・零細企業と個人工商事業者の年間納税額が100万元に達しない部分については、現行の優遇政策の基礎の上に、更に所得税を半減する。

製造業と科学技術イノベーションを支援し、製造業起業のR&D費用の割増控除の割合を100%に高め、企業が半年ごとに割増控除政策を享受することを認める。先進製造企業については、月ごとに増値税の増加分について控除を留保している税額分を全額還付する。

これが、今年新たに打ち出した構造的減税政策である。

(4)費用引下げ措置を引き続き実施する

失業保険・労災保険の料率を引き続き段階的に引き下げ、港湾建設料を廃止し、航空会社民間航空発展基金の徴収基準を引き下げ、各種の規定に反した企業に係る費用徴収への取締りを強化する。

第13次5カ年計画期間(2016-20年)、累計で減税・費用引下げは7.6兆元を超え、うち減税4.7兆元、費用引下げは2.9兆元であった。特に、2020年は2.6兆元超であった。

上述の政策措置で2021年は、年間に市場主体のために、7000億元を超える負担軽減が予想される。

3.個別省の年金財政収支赤字問題について

我々は、全国統一手配を通じて、これらの地方の年金が期日どおり全額支給されることを保証する能力がある、

(1)中央の調整規模を拡大する

2018年から年金保険基金の中央調整制度を確立した。2021年は、中央の基金調整の規模は9300億元に達し、中西部地域と旧工業基地の省の受益は2150億元を超えており、困難地域の収支バランス圧力を一定程度緩和した。

(2)全国統一を着実に順序立てて推進する

基本年金保険の省レベル統一の全面完成の基礎の上に、全国統一を着実に順序立てて推進し、中央と地方の年金保険責任分担メカニズムを整備し、各レベル財政の年金保険支払責任を明確にし、制度の持続可能性を不断に増強する。

(3)待遇水準を合理的に確定する

基本年金保険の健全な資金調達と待遇調整メカニズムを整備し、物価・賃金の伸び等の要因を総合的に考慮し、年金待遇水準の調整を合理的に確定し、億万の人民の年金を保障する。

4.共同富裕の推進について
(1)発展を推進し、パイを大きくする

発展はわが国の一切の問題を解決する基礎・カギである、パイが大きくなり、経済総量が上昇してこそ、共同富裕の基礎は堅実になる。我々は自覚的に財政資源の配分、財政・租税政策の実施、財政体制改革を、新たな発展の枠組の構築の中に置いて考察・計画し、質の高い発展を全力でサポートする。

内需拡大戦略を支援し、社会全体の消費意欲・能力を高め、経済発展に対する消費の基礎的役割を増強する。投資の空間を積極的に開拓し、投資の伸びの持続力を増強する。地域の協調発展戦略を実施し、発達地域と未発達地域、東部・中部・西部地域の共同発展を更に好く促進する。農村振興の全面推進を支援し、農業の質・効率を高め、農業・農村の現代化を加速する。国家イノベーション体系の整備を推進し、科学技術の投入構造と支援方向を最適化し、発展の新たな優位性を全面的に築き上げる。

(2)調節を強化し、公平促進に力を入れる

パイが大きくなったら、パイをうまく切り分けることに力を入れ、発展の成果の恩恵を更に多く、更に公平に人民全体に及ぼさなければならない。

我々は、市場を基礎とした第1次分配制度の整備を推進し、第1次分配における労働報酬のウエイトを高め、低所得層の所得を高めることに力を入れ、中等所得層を拡大する。

所得再分配調節機能をしっかり履行し、税制・社会保障・移転支出等の調節を強化し、精確性を高め、都市・農村、地域、異なる層の間の分配関係を合理的に調節し、所得分配格差を縮小し、社会のセーフティネットを綿密に編み上げる。

慈善組織が高齢者支援、孤児救済、病人見舞、障害者援助、貧困扶助、困窮救済、傷痍軍人・戦没者家族支援等の方面の役割を好く発揮するよう支援する。

同時に、所得分配秩序を一層規範化し、公平・合理的な所得分配の枠組形成を推進し、広範な人民大衆が更に多くの獲得感・幸福感・安全感を得るようにする。