田中 修

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(70)

新領域研究センター 田中 修

2021年7月9日


はじめに

本稿では、6月25日の人民銀行貨幣政策委員会第2四半期例会、30日の「中小・零細企業への金融サービス能力向上プログラムの深い展開に関する通知」、7月6日の李克強総理と英国商工会代表とのビデオ対話会、7日の国務院常務会議の概要を紹介する。

6月25日 人民銀行貨幣政策委員会第2四半期例会

今年に入り、わが国は疫病防御と経済社会発展政策を統一的に推進し、マクロ政策を有力に実施・実現し、国民経済は総体として安定・回復の態勢を継続している。

穏健な金融政策は、連続性・安定性・持続可能性を維持し、市場の予想を科学的に管理し、実体経済へのサービスに力を入れ、金融リスクを有効に防止・コントロールした。

貸出プライムレート改革のボーナス効果は引き続き発揮され、金融政策の伝達効率が増強され、貸出金利は安定の中で低下し、人民元レートの予想は平穏で、双方向に変動する弾力性が増強され、マクロ経済の安定器としての機能を発揮した。

現在、わが国の経済運営は安定の中で強固になり、安定の中で好転しているが、内外環境は依然として複雑・峻厳である。

内外経済情勢の検討・判断・分析を強化し、国際マクロ経済政策の協調を強化し、外部の衝撃を防止し、自身の事柄に集中・精力的にしっかり取り組み、周期を跨った政策設計をしっかり行い、経済の質の高い発展を支援しなければならない。

穏健な金融政策は、柔軟・精確、合理的・適度でなければならず、政策のタイミング・程度・効果をしっかり把握し、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを名目経済成長率と基本的に釣り合わせ、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持し、経済の大局の総体としての平穏を擁護し、経済発展の強靭性を増強しなければならない。

再貸出・再割引と実体経済に直接到達する金融政策手段等の措置の牽引・帯同作用を一層好く発揮させ、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払い猶予政策と無担保貸出支援計画の期間延長をしっかり実施し、施策を総合して地域の協調発展を支援し、インクルーシブファイナンスへの支援を強化し、金融機関が科学技術イノベーション、小型・零細企業、グリーン発展等の分野への支援を増やすよう誘導する。

金融サプライサイド構造改革を深化させ、大銀行がサービスの重心を下に移すよう誘導し、中小銀行が主たる責任・本業に焦点を絞ることを推進し、金融市場の活力・強靭性を増強し、高度な適応性・競争力・包摂性を備えた健全な現代金融システムを整備する。

市場化した健全な金利の形成・伝達メカニズムを整備し、中央銀行の政策金利体系を整備し、預金金利の監督管理を最適化し、預金金利の自律的な上限確定方式を調整し、貸出プライムレート改革の潜在力を引き続き発揮させ、実質貸出金利の一層の引下げを推進する。

為替レートの市場化改革を深化させ、人民元レートの弾力性を増強し、企業・金融機関が「リスク中立性」の理念を堅持するよう誘導し、予想の管理を強化し、内外のバランスを促進し、人民元レートの合理的水準での基本的安定を維持する。

実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを構築し、イノベーション体系への金融支援を整備し、金融機関が製造業向け中長期貸出を増やすよう誘導し、民営企業への金融支援が、経済社会の発展に対する民営企業の貢献と適応するよう努力し、温室効果ガス排出削減支援手段を検討・設立し、温室効果ガス排出のピークアウト・カーボンニュートラルを目標としてグリーン金融体系を整備する。

金融のハイレベル・双方の開放を推進し、開放条件下での経済金融管理能力とリスク防止・コントロール能力を高める。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、党18期5中全会、中央経済工作会議、「政府活動報告」精神を真剣に貫徹実施し、党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、「穏」(穏健・安定)の字を頭に置き、新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展の推進をテーマにし、サプライサイド構造改革の深化を主線としなければならない。内需拡大戦略を堅持し、疫病防御と経済社会発展の成果を強固にして拡大し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策を着実にしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)任務を全面実施し、金融政策を柔軟・精確に実施し、経済回復とリスク防止の関係をうまく処理し、経済運営を合理的区間に維持し、経済回復の中で更にハイレベルの均衡を推進し、卓越した成績をもって中国共産党創立100周年を慶祝しなければならない。

6月30日 「中小・零細企業への金融サービス能力向上プログラムの深い展開に関する通知」(公表は7月5日)

銀行業金融機関の中小・零細企業(個人工商事業者を含む)金融サービス能力を一層高め、「大胆に貸し、貸したいと望み、貸すことができ、実際に貸す」長期有効なメカニズムの建設を強化し、新たな発展段階において実体経済への更に好いサービスを推進するため、人民銀行は「中小・零細企業への金融サービス能力向上プログラムの深い展開に関する通知」(以下「通知」)を近日発した。

「通知」は、中小・零細企業の資金調達の量の増大、範囲の拡大、質・効率の向上を大いに推進し、銀行内部の政策手配を引き続き最適化し、科学技術手段を十分運用し、貸出金利決定能力を確実に高め、融資サービスと関連メカニズムの整備に力を入れる等の方面から、中小・零細企業への金融サービス能力向上について、具体的要求を提起した。

「通知」は、中小・零細企業への貸出しを増やし、個人工商事業者への貸出商品サービスを最適化し、インクルーシブファイナンスサービスのカバー範囲を拡大することを要求している。銀行業金融機関はインクルーシブなフィンテックの投入を増やし、特色ある貸出商品を刷新し、元本無償還継続貸出、随時借入・随時返済等の貸出商品を開発し、引き続き整備して、貸出利用の利便性を増し、中小・零細企業の資金調達の総合財務コストを引き下げなければならない。人民銀行情報収集センター売掛金(担保)融資サービスプラットホームに依拠して、サプライチェーン川上・川下の中小・零細企業のために融資支援を提供する。

「通知」は、次のように強調する。各銀行業金融機関は、貸出プライムレートを内部の金利決定・関連個所への伝達に組み入れ、貸出金利決定の差別化・精緻化水準を高め、負債コストの管理・コントロール能力を強化しなければならない。人民銀行各支分機構は、政府・銀行・企業の健全な連携メカニズムを確立し、中小・零細企業の信用情報の共有を早急に推進し、小型・零細企業向け貸出政策の誘導効果の評価を展開し、融資環境と評価システムを一層最適化し、地方の融資環境を引き続き改善しなければならない。

7月6日 李克強総理と英国商工会代表とのビデオ対話会

李克強総理の発言は、以下のとおりである。

現在、国際経済情勢は依然として多くの不確定・不安定要因が存在する。

中英は国連安全保障理事会常任理事国・世界の主要経済体として、世界平和を擁護し、共同発展を推進し、多角的貿易システムを守る重要なパワーである。安定した中英関係は、自由・公平な貿易を擁護し、世界経済の回復を促進し、グローバルな試練に対応し、双方の人民の福祉を増進することに有益である。

我々は英国と共に、相互信頼を強固にし、相互に尊重し、共通点を見つけ出して異なる点は残し、互恵・ウインウインの協力を深化させ、平等な対話を通じてコンセンサスを累積し、隔たりを解消し、中英関係の健全で安定した発展を推進したいと願っている。

人類は苦楽を共にする運命共同体であり、国際社会は団結・協力を強化してこそ、新型コロナ感染症に最終的に勝利することができる。

中英は、いずれも最も早くワクチン研究開発・生産に投入した国家である。中国はワクチンのグローバル公共財としての属性を堅持し、多くの国とワクチン関連協力を展開しており、各方面と引き続き交流を強化し、とりわけ変異株等の方面で科学研究の成果を共有して、世界的な疫病戦勝のペースを加速したいと願っている。

中国は気候変動への対応を高度に重視している。

習近平国家主席は、中国が2030年までに温室効果ガス排出をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現するよう努力すると宣言しており、これは我々が現代化プロセスで必ず通るべき道である。

世界最大の発展途上国として、中国は今世紀中葉に現代化を実現し、中国人民に幸福な生活を送らせるプロセスにおいて低炭素・グリーン発展を実現しなければならず、任務は十分非常に困難であり、我々はこのために艱難辛苦・卓絶した努力を払う。

双方がクリーンエネルギー等の分野の協力を一層強化し、知的財産権保護の基礎の上にグリーン技術協力を拡大し、気候変動に共同で対応することを希望する。

改革開放は中国の基本国策であり、引き続き断固推進する。

中国製造業は既に全面開放され、サービス業は順序立てて開放しているところであり、開放の大門はますます大きくなっていく。

我々は新たな発展の枠組を構築するプロセスにおいて、引き続き市場化・法治化・国際化したビジネス環境を作り上げることに力を入れ、外資企業を含む各種市場主体を同一と見なし、更に多くの外資が中国に参入することを歓迎する。また、中国企業が英国に投資し事業を興すために、英国が公平・公正・無差別のビジネス環境を提供することも希望している。

中英はいずれも悠久の歴史と絢爛たる文化を有しており、両国人民の交流の歴史は古く長い。

双方が引き続き相互に尊重し、開放が包摂的で、異なるものを受け容れる理念を堅持し、人類文明の多様性を共同で擁護し、多様多彩な世界文明の発展を促進することを希望する。

両国社会の各界が交流・意思疎通を強化し、人民の間の認知・理解を増進し、両国の関係発展のために積極要因を累積することを奨励する。

7月7日 国務院常務会議
(1)医療保険サービスの改善

党中央・国務院の手配に基づき、医療保険で国民の便宜を図るサービスを最適化することは、大衆の健康を更に好く保障し、獲得感を高めるのに有益である。

①重点的に数億の流動人口とりわけ出稼ぎ農民等の層に向けて、入院外来診療費用を他の地で清算するサービスを早急に推進する

2021年末までに各省の60%以上の県で、少なくとも1つの一般外来診療費用清算の省を跨いだインターネット機関を設け、22年末までに各県で少なくとも1つの指定医療機関が、外来診療費用を含む医療費を省を跨いで直接清算するサービスを提供できることを確保する。

②指定医療機関の総額予算管理を最適化し、現行のテストを推進して経験を形成し、普及に急ぎ取り組む

民間が運営する医療機関が指定医薬機関を申請する場合は、公立と同様に扱う。商業保険機関を引き入れて医療保険サービスに参加させ、保険の品揃えを豊富にし、医療保険の精算水準を高める。医療保険支払の自由裁量権を規範化・圧縮し、医療機関の年末駆込み「医療控除」を防止する。

③医療保険の処理手続を統一的に規範化・最適化し、処理段階・必要書類を簡素化し、医療保険清算の1回の通知、1つの書類での申請、1つの窓口での処理を推進する

「インターネット+」に依拠して、医療保険サービスのオンライン処理・スマホ処理を実現する。

④全プロセスの監督管理を強化する

法規を整備し、法に基づき保険金詐欺、入院への誘導、領収書偽造発行、医薬品濫用などの行為を厳しく取り締まり、大衆の生命維持のためのカネをしっかり守りしっかり用いる。

(2)新就労形態の労働者の権益保障

新就労形態の労働者をしっかり擁護して権益を保障することは、フレキシブルな就労、就労ポストと大衆の所得の増加に有益である。

①新就労形態に適応し、多様な形式の確立を推進することは、労働者の権益を保障する労使関係に有益である

労働者派遣、アウトソーシング等の雇用方式を採用することについて、関連企業は労働者の権益を合理的に保障しなければならない。

②企業は期日に全額の報酬を支払わねばならず、労働者の安全・健康を損なうような考課指標を制定してはならない

プラットホーム企業が、注文配分・手数料等の制度ルール・計算方法を制定・整備し、労働者の代表の意見を聴取して、結果を公示するよう督促する。労働者の多くのプラットホームでの就労を違法に制限してはならない。

③配車サービス・フードデリバリー・即時配送等の業種を重点に、フレキシブルな就労者の傷害保障テストを展開する

④新就労形態に適合した職業技能訓練モデルを確立し、条件に合致したものに規定に基づき補助を与える

⑤フレキシブルな就労者が就業地で基本年金・基本医療保険に加入する場合の戸籍制限を撤廃する

(3)実体経済への金融支援

大口取引商品価格の上昇が企業の生産形成に影響を与えていることに対して、「バラマキ」を行わないことを堅持する基礎の上に、金融政策の安定性を維持し、有効性を増強して、適時預金準備率引下げ等の金融政策手段を運用し、実体経済とりわけ中小・零細企業への金融支援を一層強化し、総合資金調達コストの安定の中での引下げを促進しなければならない。

同時に、グリーン・低炭素発展を推進し、二酸化炭素排出削減を支援する金融政策手段を設け、着実に順序立てて精確に直接到達する方式で、クリーンエネルギー、省エネ・環境保護、二酸化炭素排出削減技術の発展を支援し、更に多くの社会資金を動員して温室効果ガス排出削減を促進する。

テストの基礎の上に、2021年7月、時期を決めて発電業界の全国炭素排出権取引市場のオンライン取引を始動する。業種のカバー範囲を一層着実に拡大し、市場メカニズムにより温室効果ガスの排出を抑制・削減する。