田中 修

中国経済レポート

浙江省の共同富裕モデル(2)

新領域研究センター 田中 修

2021年7月8日


はじめに

党中央・国務院は5月20日、「浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区建設支援に関する意見」を決定し、6月10日に公表した。

本稿では、国家発展・改革委員会責任者の新華社2021年6月10日インタビューの概要を紹介する

1.意見を打ち出した背景

これは、習近平同志を核心とする党中央が、人民全体の共同富裕を推進することを更に重要と位置づけて行った重大政策決定であり、わが国の発展がアンバランス・不十分という問題解決に対する党中央の確固たる決意を十分体現したものであり、浙江の質の高い発展・共同富裕の促進のために強大な動力と根本準則を提供するものである。

共同富裕は社会主義の本質的要求であり、人民大衆の共同願望である。

改革開放とりわけ第18回党大会以降、習近平同志を核心とする党中央は全党・全国各民族人民を団結させリードし、常に共同富裕の目標実現に向けて弛まず努力し、小康社会の全面実現で偉大な歴史的成果を収め、新たな発展段階で共同富裕を推進するために堅実な基礎を打ち固めた。

党19期5中全会は、共同富裕について重要手配を行い、2035年までに人民全体の共同富裕で更に顕著な実質的進展を得ることを提起した。

社会主義現代化国家を全面建設する新たな征途を開くには、人民全体の共同富裕促進を更に重要と位置づけ、この目標に向けて更に積極果敢に努力し、人民大衆に「共同富裕は見ることができ、触れることができ、真に実感できるものである」と切実に感じさせなければならない。

現在、わが国の発展がアンバランス・不十分という問題は依然際立っており、都市・農村、地域の発展と所得分配格差がかなり大きく、発展の質・効率を高める必要があり、庶民の生活の質はなお改善が必要であり、精神文明・生態文明建設はなお大きな向上の余地があり、各地域が共同富裕を推進する基礎・条件もすべて同じというわけではない。

人民全体の共同富裕促進は、非常に困難で長期的な任務であり、現実的な任務でもあり、一部の条件が相対的に具備された地方先行モデルを選抜する切迫した需要がある。

改革を通じて浙江において、共同富裕を促進する目標体系・施策体系・政策体系・評価体系を率先して形成すれば、全国のその他の地方が共同富裕を促進するために、方法を模索し、経験を累積し、モデルを提供することができる。

2.なぜ浙江省を選抜して共同富裕モデル区としたのか
(1)浙江省の情況はモデル区建設を展開する代表性を具備している

浙江は面積・人口の一定の規模、「7割の山、1割の河川・湖沼、2割の平原」、2つの副省都レベルの都市、9つの地級市と53の県(市)があり、都市も農村もあって、農村戸籍人口が半分を占めている。

(2)浙江はモデル区建設を展開する基礎・優位性を具備している

①富裕程度が比較的高い

2020年の浙江の域内総生産は6.46兆元であり、1人当たり域内総生産は10万元を超えている。

住民1人当たり可処分所得は全国平均水準の1.63倍である。

都市住民の所得は連続20年、農村住民の所得は連続36年、全国各省区で第1位である。

②発展のバランスが比較的良好である

都市・農村住民の所得格差は1.96:1であり、全国よりはるかに低く、最高と最低の地級市住民の所得格差は1.67:1で、すべての区を設けている市の住民所得は全国平均水準を超えている。

③改革・イノベーションの意識が比較的濃厚・強烈である

浙江は、「各レベルの地方政府に1回出向けばすべて事務処理が完了する」等の多くの改革経験を模索・創造し、「大衆に依拠して現地で矛盾を解消する」という「楓橋経験」を創造して継続発展させており、比較的強い改革・イノベーション意識は、大胆に模索し、モデル区建設の成功経験と制度モデルを速やかに総括することに向いている。

(3)浙江はモデル区建設を展開する余地・潜在力が比較的大きい

浙江は、共同富裕をサポートするための経済構造を最適化し、都市・農村が融合し地域が協調する体制メカニズムを整備し、包摂的な成長を実現するための有効な方法の面で、なお比較的大掛かりに模索する余地がある。

いかに雇用の安定・拡大と技術進歩の関係を正確にうまく処理し、用地不足・資源制約等の矛盾を有効に解決し、先に富んだ者が後の者の富裕化を助け、低所得層の所得を有効に高める長期に効果的なメカニズムを確立し、独占に反対し資本の無秩序な拡充を防止するかについて、浙江は切迫性があり、イノベーションを一層模索する条件も備えている。

3.新たな発展段階において、浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区建設を支援する意義
(1)実践を通じて共同富裕の思想内容を一層豊富にすることに有益である

共同富裕モデル区の建設は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を貫徹実施する具体的な実践であり、党の理論刷新とりわけ共同富裕の思想内容のために、豊富な理論素材と生き生きとした実践の例証を提供するものである。

(2)新時代の社会の主要な矛盾を解決する有効な方法を模索することに有益である

共同富裕モデル区の建設は、人民大衆が最も関心をもち、最も直接的で、最も現実的な利益問題を的確に解決し、質の高い発展プロセスの中で人民大衆の素晴らしい生活への新たな期待を不断に満足させ、新時代の社会の主要な矛盾を解決するために、1つの成功方法を模索するものである。

(3)全国で共同富裕を推進するために省域の模範例を提供することに有益である

モデル区建設の展開を通じて、コピー・普及可能な経験・方法を速やかに形成することは、その他地域が人民全体の共同富裕を段階的に推進し、徐々に実現するためにモデルを作ることになる。

(4)新時代の中国の特色ある社会主義制度の優越性を全面的に示す重要な窓口を作ることに有益である

浙江は多年にわたり一貫して「八八戦略」を実践し、改革開放を持続的に深化させ、市場経済、現代法治、民の富裕化・優遇、グリーン発展などの方面において成果が顕著である。

共同富裕の地域的モデルを作ることを通じて、中国の特色ある社会主義制度の優位性のガバナンス機能・発展の優位性への転化推進に助力し、グローバルガバナンスのために中国の知恵を貢献する重要な窓口を形成する。

4.モデル区建設をどのように計画・手配するか

「意見」は共同富裕の推進と人の全面発展促進を念頭に、共同富裕に資する体制メカニズムと政策体系の構築を軸に、浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区について手配を行っている。

(1)目標志向から出発し、全方位で人を核心とした共同富裕に焦点を絞り、重点的に人の物質生活・精神生活・生態環境・社会環境・公共サービス等の方面から、計画・手配を進める

人民の物質生活水準を普遍的に高めると同時に、精神文明建設を強化し、生態文明建設の先行モデルを推進し、社会主義核心価値をリード役とし、中華の優秀な文化を継承し、時代精神を体現し、江南の特色を備えた文化強省を作り上げ、国民の素質と社会の文明程度の向上に力を入れ、経済社会発展の全面グリーン転換を促進し、人民の精神生活の豊かさ・社会の文明進歩・人と自然の調和共生を実現する。

(2)問題志向から出発し、共同富裕実現を阻害する最も脆弱な部分に焦点を絞り、都市・農村、地域の発展と異なる層の所得分配格差の縮小に力を入れる重点政策措置を提起する

先に富んだ者が後の者の富裕化を牽引するインセンティブ・支援メカニズムと制度設計を整備し、農村・末端・相対的未発達地域に傾斜させることを更に重視し、困窮大衆に傾斜させなければならない。都市・農村が融合し、陸・海が統一し、山と海が相互に助け合い、都市・農村、地域の協調発展を実現する方法を率先して模索する。多くのルートで都市・農村住民の所得を増やし、民生の不足を補充し、民生の最低ラインを保障し、一人一人が参加し、一人一人が尽力する基礎の上に、一人一人の享有を実現する。

(3)改革・イノベーションを根本動力とし、共同富裕体制メカニズムの刷新を引き続き推進する

これまでと同様、改革には動力が必要であり、イノベーションには活力が必要である。質の高い発展・高品質の生活を制約する体制メカニズムの障碍を打破し、全社会の積極性動員に有益な重大改革開放措置を強化し、共同富裕を推進する方面で率先して理論の刷新・実践の刷新・制度の刷新・文化の刷新を実現する。

5.モデル区の戦略的位置づけと重大措置

ブレークスルー・イノベーションが必要な重要方向・カギとなる分野に焦点を絞り、「意見」は、モデル区建設の戦略的位置づけは、①質の高い発展・高品質の生活先行地域、②都市・農村、地域の協調発展のリード地域、③所得分配制度改革のテスト地域、④文明的で調和がとれ美しい故郷の展示地域、であることを明確にしている。

同時に、意見は共同富裕の推進と人の全面発展を念頭に、6方面の措置を明確にした。

①質の高い発展の効率を高め、共同富裕の物質的基礎を打ち固める。

②所得分配制度改革を深化させ、多くのルートで都市・農村住民の所得を増やす。

③都市・農村の発展格差を縮小し、公共サービスが質が優れ共に享受されることを実現する。

④新時代の文化の高地を作り上げ、人民の精神文化・生活を豊かにする。

⑤「緑の水・青い山こそが金山・銀山である」という理念を実践し、美しく住みやすい生活環境を作り上げる。

⑥新時代の「楓橋経験」を堅持・発展させ、のんびり落ち着き安心できる社会環境を構築する。