田中 修

中国経済レポート

浙江省の共同富裕モデル(1)

新領域研究センター 田中 修

2021年7月2日


はじめに

党中央・国務院は5月20日、「浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区建設支援に関する意見」を決定し、6月10日に公表した。

本稿では、何立峰国家発展・改革委員会主任が人民日報2021年6月11日に発表した解説の概要を紹介する。

1.浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区建設を支援することの重大意義を深刻に認識する

貧困を無くし、民生を改善し、共同富裕を促進することは、わが党が志を変えぬことを誓った奮闘目標である。

第18回党大会以降、習近平同志を核心とする党中央は初心を忘れず、使命を胸に刻み、全党全国各民族・人民を団結させリードして、常に共同富裕の目標実現に向けて弛まず努力し、小康社会の全面実現で偉大な歴史的成果を収め、脱貧困堅塁攻略の決戦で全面勝利を収め、中華民族を数千年悩ませてきた絶対貧困問題で歴史的な解決をみて、新たな発展段階で共同富裕を推進するために堅実な基礎を打ち固めた。

党19期5中全会は、共同富裕を着実に推進することについて、重大な戦略手配を行った。浙江の質の高い発展・共同富裕モデル区建設を支援することは、重大な歴史的意義と現実的意義を有している。

(1)これは、共同富裕思想の内容を一層豊富にする重大な実践である

共同富裕は、マルクス主義の1つの基本目標であり、人類の未来社会についての基本理想である。

鄧小平理論は一部分の人・一部分の地域が先に富むことを認め、先に富んだ者が後の者が富むことを助け、最終的に共同富裕を実現することを強調した。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想は、共同富裕の理論内容を一層豊富にし発展させたものである。共同富裕モデル区を建設することは、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想の具体的実践であり、党の理論とりわけ共同富裕の思想の内容を刷新するために、豊富な理論素材と生き生きとした実践の例証を提供するものである。

(2)これは、新時代の社会の主要な矛盾の解決を模索する有効な方途である

現在、わが国の発展がアンバランス・不十分という問題が依然として際立っており、都市・農村、地域の発展と所得分配格差がかなり大きく、人民全体の共同富裕を促進することは、非常に困難で長期的な任務であり、現実的な任務でもある。

浙江は、発展がアンバランス・不十分という問題の解決を模索する方面で顕著な成果を収め、空間・発展を最適化する広範な潜在力も備えている。共同富裕モデル区を建設し、人民大衆が最も関心をもち、最も直接的で、最も現実的な利益問題を的確に解決し、質の高い発展のプロセスにおいて、人民大衆の素晴らしい生活への新たな期待を不断に満足させ、新時代の社会の主要な矛盾を解決するために、1つの成功ルートを模索する。

(3)これは、共同富裕を全国で推進するために提供する省域模範例である

各地方は、共同富裕を推進する方面の基盤・条件が全部同じというわけではなく、条件が備わったいくらかの地方先行モデルを選抜する必要がある。

浙江は、この方面の基盤・優位性があり、一方面では、富裕程度がかなり高く、1人当たり域内総生産は10万元を超え全国より60%高く、都市住民所得は連続20年、農村住民所得は連続36年、それぞれ全国各省・地域の第1位である。

他方では、発展のバランス性が比較的好く、都市・農村住民の所得格差は1.96であり、全国の2.56よりはるかに低く、最高・最低の市住民所得格差は1.67であり、区を設けている市の住民所得がすべて全国平均水準を超えている全国唯一の省である。

浙江におけるモデル区建設を通じて、コピー・普及可能な経験・方法を速やかに形成することは、その他地域が段階的に推進し、人民全体の共同富裕を徐々に実現するための模範となる。

(4)これは、新時代において中国の特色ある社会主義制度の優越性を全面的に展示する重要な窓口である

習近平総書記は2020年4月に浙江を視察したとき、「浙江は努力して新時代において中国の特色ある社会主義制度の優越性を全面的に展示する重要な窓口となるよう努力しなければならない」と提起した。

共同富裕は、中国の特色ある社会主義制度の優越性の新時代における集中的な体現である。浙江は、長年一貫して「八八戦略」1を実践し、改革開放を引き続き深化させ、市場経済、現代法治、人民の富裕化・人民優遇、グリーン発展等の方面で成果が顕著であり、共同富裕の地域的模範を作ることを通じて、中国の特色ある社会主義制度の優位性のガバナンス機能・発展の優位性への転化推進に助力し、グローバルガバナンスのために中国の知恵を貢献する重要な窓口とする。

2.質の高い発展・共同富裕モデル区建設を支援するための戦略方向を正確に把握する

第19回党大会が提起した、今世紀中葉までに「人民全体の共同富裕を基本的に実現する」という奮闘目標、及び党19期5中全会が提起した、2035年に「人民全体の共同富裕が更に顕著な実質的進展を得る」という長期目標に照準をあて、浙江の発展の基盤と先行モデルとしての要求を考慮し、「意見」は、2025年までに、浙江省は質の高い発展と共同富裕モデル区の建設について顕著な実質的進展を得て、2035年までに、浙江省は質の高い発展で重大な成果を収め、共同富裕を基本的に実現することを提起した。

「意見」は、浙江が①質の高い発展・高品質の生活先行地域、②都市・農村、地域の協調発展のリード地域、③所得分配制度改革のテスト地域、④文明的で調和がとれた美しい故郷の展示地域等の4つの戦略的位置づけを明確にした。

主要目標と戦略的位置づけを軸に、具体的な政策の中で以下の原則を重点的に把握しなければならない。

(1)党の全面指導を堅持する

中国共産党の指導は、中国の特色ある社会主義の最も本質的特徴であり、中国の特色ある社会主義制度の最大の優位性である。

共同富裕モデル区の建設では、全局を総覧し、各方面を協調させる党の指導の核心的役割を十分発揮させ、中国の特色ある社会主義制度を堅持・整備し、引き続き党の政治的優位性と制度の優位性を、共同富裕モデル区の建設を推進し、各方面のコンセンサスを広範に凝集するための強大な動力・堅固な保障に転化させなければならない。

(2)人民を中心とすることを堅持する

共同富裕を推進するという奮闘目標は、人民の素晴らしい生活への願望を満足させることであり、「発展は人民のために、発展は人民に依拠し、発展の成果は人民が共に享受する」ことを堅持し、人民大衆の憂い・苛立ち・期待に焦点を絞り、「幼児には保育があり、学びたい者には教育があり、労働には所得があり、病には医療があり、高齢者には介護があり、住む家があり、弱者には支援がある」ことを更にハイレベルで実現し、共同富裕が見て取ることができ、触れることができ、真に実感できるものであることを、人民大衆に切実に感じ取らせなければならない。

(3)共に建設し、共に享受することを堅持する

質の高い発展は、第14次5カ年計画さらにはより長期にわたり、わが国の経済社会発展のテーマであり、共同富裕実現の前提・基礎と必然的ルートである。

共同富裕モデル区の建設では、なお発展の質・効率を高めることを重視し、パイを不断に大きくし、発展の中で民生を保障・改善し、引き続きパイをうまく分け、怠け者は養わず、福祉主義の罠に陥らず、勤労により富裕に至ることの奨励を通じて、低所得層の内生的発展動力を十分発掘し、一人一人が参加して一人一人が力を尽くす基礎の上に、一人一人の享有を実現しなければならない。

(4)改革・イノベーションを堅持する

物は原因なしに生じることはなく、革新なくして事は成らない。浙江の各地は、比較的強烈な改革・イノベーション意識を普遍的に備えており、「各レベルの地方政府に1回出向けばすべて事務処理が完了する」等の多くの改革の先進経験を模索・創造し、「大衆に依拠して現地で矛盾を解決する」という「楓橋経験」2を創造して持続的に発展させてきた。

共同富裕モデル区の建設では、これまでどおり改革には動力が必要で、イノベーションには活力が必要であり、質の高い発展・高品質な生活を制約する体制メカニズムの障碍を打破することに力を入れ、全社会の積極性を動員することに有益な重大改革開放措置を強化し、共同富裕の推進方面で、率先して理論の刷新・実践の刷新・制度の刷新・文化の刷新を実現しなければならない。

(5)システムの概念を堅持する

共同富裕は段階的に共に豊かになるものであり、必要性と可能性を統一的に考慮し、経済社会の発展ルールに基づいて秩序立てて漸進し、欲をかいてはならず、度を越してはならず、力を尽くして実行し、力量を慮って実行し、一件一件処理し、一年一年実行し、地に足を着け、長期にわたって成果を上げなければならない。

重大リスクの防止・解消を重視し、モデル区建設を経済発展の段階と適応させ、現代化建設プロセスと協調させて、共同富裕推進の段階的・道標的な成果を不断に形成しなければならない。

3.共同富裕モデル区建設を着実に推進し、不断に新しい成果を収める

質の高い発展と共同富裕モデル区建設は、社会の全面進歩と人の全面発展を推進する総合的な系統プロジェクトであり、各方面のパワーを十分動員し、以下の4方面に焦点を絞り、有力に順序立てて有効に推進する必要がある。

(1)質の高い発展の中で共同富裕モデル区をしっかり建設する

自主的なイノベーション能力の向上に力を入れ、社会主義市場経済の条件下で新しいタイプの挙国体制を早急に模索し、科学技術イノベーションの浙江方式を展開しなければならない。

産業競争の新たな優位性を築き上げ、実体経済を強固・壮大にし、若干の世界レベルの先進製造業集積群を育成し、「メイドイン浙江」ブランドを喧伝して、共同富裕の産業基盤を打ち固める。

生産・分配・流通・消費の各段階を貫通させ、共同富裕を率先して実現するプロセスにおいて、経済の良性循環を円滑にする。

各種市場主体の活力を奮い立たせ、反独占と資本の無秩序な拡張防止を強化し、デジタルデバイドを解消する有効な方法を模索し、異なる層がデジタルボーナス効果を更に好く共に享受することを保障する。

(2)共同富裕に有益な体制メカニズムの刷新を推進し、不断に新たなブレークスルーを得  る

所得分配制度改革を深化させ、労働報酬と、それが第1次分配に占めるウエイトを合理的に高め、イノベーション要素を整備して分配メカニズムに参加させ、浙江が知識・技術・管理・データ等の要素価値の実現形式を早急に模索することを支援しなければならない。

農村集団資産株主権能の新たな形式の実現を模索し、集団経営性の建設用地が市場経済に参入して価値を増大させた際の収益分配メカニズムを率先して確立する。

再分配制度を整備し、所得分配の調節において主動的に成果を上げ、社会保障システムの整備を加速する。

先に富んだ者が後の富裕化を牽引するインセンティブ・支援メカニズムと制度設計を整備し、第3次分配の役割を十分発揮させ、慈善組織の持続的で健全な発展に資する体制メカニズムを整備し、企業家等の高所得者が公益事業に参加し、社会にフィードバックするよう誘導する。

(3)都市・農村、地域の発展格差と所得格差を引き続き縮小する

農村・末端・相対的に未発達な地域への傾斜を更に重視し、困窮大衆に傾斜する。

都市・農村、地域の基本公共サービスが包摂的・均等に及ぶことを率先して実現し、教育・医療・高齢者介護・保育等の保障基準とサービス水準を着実に引き上げ、都市・農村交通、水の供給、電力網、通信、天然ガス等のインフラの基準・ネットワークを同じにし、農業からの移転人口を市民化する健全で長期に有効なメカニズムを整備する。

住宅市場体系と住宅保障体系を整備し、都市・農村住民の居住条件を引き続き改善する。

更に充分で更に質の高い雇用の実現を推進し、中等所得層を拡大し、異なる層の発展機会の公平を保障する。

低所得層への支援を確実に強化し、都市・農村を統一した低所得層の健全・精確な識別メカニズムを整備する。

(4)人民が満足する幸福で素晴らしい故郷を建設する

人民の物質的生活水準を普遍的に高めると同時に、精神文明建設を強化し、国民の素質と社会の文明程度の向上に力を入れ、社会主義核心価値観をリード役とし、中華の優秀な文化を伝承し、時代精神を体現し、江南の特色を備えた文化強省を作り上げ、浙江文化の優位性を十分発掘し、末端の公共文化サービスネットワークを最適化し、人民大衆の文化需要を更に好く満足させる。

生態文明建設の先行モデルを推進し、新時代の「富春山居図」3をしっかり描き、生産・生活方式のグリーン転換を全面推進し、「緑の水・青い山こそが金山・銀山である」とする転換の道を開拓し、人と自然の調和・共生を推進する。

デジタル化改革によりガバナンス機能を高め、一人一人が責任を有し、一人一人が責任を尽くし、一人一人が享有する社会ガバナンス共同体を建設する。

「法治浙江・平安浙江」を全面建設し、重大リスク・試練を防止・解消する健全な体制メカニズムを整備し、システミックリスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。

浙江の質の高い発展と共同富裕モデル区建設の青写真は既に描かれた。これは、党中央・国務院が我々に賦与した重大政治任務であるのみならず、我々の面前に置かれた広範な人民大衆の願望に順応する歴史答案でもある。

組織的指導を強化し、政策保障と改革授権を強化し、中央が統一的に企画し、省が総責任を負い、市・県が実施に取り組む健全な実施メカニズムを整備し、評価システムとモデル普及メカニズムを確立しなければならない。

国家発展・改革委員会は統一・協調を強化し、関係部門と共に各任務・措置の実施を推進する。浙江省が主体責任を確実に負担し、大胆に邁進し大胆に試みて、真に実施に移し前列を歩むことを支援して、人民全体の共同富裕実現のために浙江モデルを提供する。

  1. 習近平が、浙江省党書記を務めていた2003年7月に打ち出した発展のガイドラインであり、「8つの優位性を発揮させ、8つの面で措置を取る」といった内容のもの。
  2. 毛沢東はかつて、蘇州市西部の楓橋を共産党支配の「大衆動員モデル」として称賛した。上級政府に頼らず、大衆の力で解決するモデルとされる。
  3. 元朝末期の画家黄公望(1269~1354年)の晩年の作品。中国の水墨画史上、高い評価を得ており、有名な画家達の手本とされた。