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研究者のご紹介

田中 修

中国経済レポート

金融リスクの防止

 

新領域研究センター 田中 修

2021年6月24日


はじめに

銀行保険監督管理委員会の郭樹清主席は6月10日、「2021年陸家嘴フォーラム」に出席し、「新たな発展の枠組の構築を加速し、金融リスクの再度の蔓延防止に努力する」と題する講演を行った。本稿では、その概要を紹介する。

2020年以降、百年一遇の疫病の大流行に対応するため、先進国はウルトラ級の経済刺激計画を次々に推進した。財政を猛烈に拡張すると同時に、金融政策は未曽有の緩和程度に達した。FRBの資産・負債は既に2倍近くにまで拡張し、欧州中央銀行は2.5倍にまで拡張し、日本銀行は1.25倍超にまで拡張した。

これらの異次元の措置は、短期的には確実に市場を安定させ、人心を安定させる作用を発揮する。しかし、これに伴うマイナス面の効果を、全世界各国は共同で負担する必要がある。

まず、先進国の金融資産・不動産価格には普遍的に大幅上昇が出現している。とりわけ、株式市場は急速に新記録の高水準に達している。よく登山をする人は皆知っているが、険しい山峰であるほど、登るのは難しく、下るのは更に難しい。

第二に、インフレが約束したかのように、時間どおりやってきている。しかも、米欧の同僚たちが予想した上昇率より一段上回っており、さらに持続する期間も、多くの専門家が予測していたような短期間ではない。

第三に、財政支出が既に大きな程度中央銀行の紙幣発行によって支えられており、あたかも飛行機が空中で自転する渦巻きの中に入ったように、自身でスムーズに方向を変えて抜け出すことが難しくなっている。

2008年以前、FRBの貸借対照表は、8000億ドル余りにすぎなかったが、今は既に8兆ドル近くになっており、しかも米国連邦債務の対GDP比は、既に第2次世界大戦時期が生み出した最高記録を超えている。

第四に、世界の疫病は、現段階でなお多くの不確定性があり、グローバル産業チェーン・サプライチェーンが局部的に塞がり、あるいは断裂するリスクが依然かなり大きい。

本来であれば、各国が同じ舟で助け合い、共に困難な局面を克服することが最も必要であるが、なお少数の先進国が不断に面倒を生み出し、いわゆる自国優先の単独主義を引き続き実行しており、事実上まずは自国民の利益を損なっている。たとえば、中国から来る製品への高関税を留保し、客観的にインフレを更に速めている。

第五に、米欧が水門を開き灌漑・放出を行うことが生み出すスピルオーバー効果に直面し、新興市場主体と発展途上国は苦痛の対応措置を採用せざるを得なくなっている。ロシア・トルコ・ブラジルの中央銀行は既に利上げを発動し、先進経済体でも引締めのシグナルを発し始めているところがある。

グローバルなマクロ経済から観察すると、これらの政策方向の利害得失は、現在なお結論を出すことが難しい。

中国は、マクロ政策対応を強化したとき、「バラマキ」を行わなかった。

一部の国家は、中国の政策対応は程度が不十分であり、世界経済回復への貢献が不足していると批判した。これは、明らかに偏見あるいは誤解から出ている。

事実上、我々の政策の程度は決して小さいとは言えなかった。

金融政策からみると、2020年、銀行貸出は新たに19.6兆元、12.8%増え、社会資金調達規模は35兆元、13.3%増えたが、これは世界では少ない例である。貸出金利の引下げとサービス手数料徴収の減少を通じて、2020年金融系統から実体経済に利潤1.5兆元を移譲した。

財政・租税政策からみると、2020年、わが国の企業・庶民への新たな減税・費用引下げは2.5兆元を超えた。公共予算財政赤字の対GDP比率は3.7%であり、これに疫病対策特別国債・地方政府特別債、政策性銀行の枠外投入増を加え、これらの数字を合計すると対GDP比は既に10%を超える。

さらに重要なことは、我々の政策対応は最も好い効果を収めたということである。

2020年の中国経済はプラス成長を実現し、周辺国と主要貿易パートナーの経済回復を促進し、世界経済が更に大きな収縮に陥るのを阻止した。中国は相当期間、世界の半分前後の最終製品を供給し、総体として輸出オフショア価格を引き上げず、世界の疫病防御と経済の回復のために堅実な基礎を打ち固めた。

もし、先進国が大量に印刷・発行した通貨が、グローバルなインフレを牽引する動力源を形成したと言うならば、中国の数億の労働者が生産した商品は、グローバルなインフレを安定させるアンカーであった。

なぜ、我々の財政金融支援政策はこれほど大きな程度であるのに、中央銀行の貸借対照表は不変を維持できたのであろうか?

まず、党中央の全局に着眼したマクロ政策が、各方面を統一して配慮し、科学的・合理的であり、国務院と国務院金融安定発展委員会の手配・指揮が実際と符合し、精確・有効であったからである。

次に金融系統組織が、実体から乖離しバーチャルに向かう現象を断固取り締まり、内部のレバレッジ率を断固引き下げ、同業同士の財テク・投資、委託貸出・信託業務を引き続き減らし、ハイリスクのシャドーバンキングを不断に収縮させたからである。

第三に、わが国の中央銀行の貸借対照表には特殊な優位性があり、長年穏健な金融政策を継続して預金準備率をかなり高い水準に維持し、これと同時に、金利・為替レートの市場化改革も重い負担を軽減したからである。

これにより、先進国の中央銀行が資産を購入して貸借対照表を拡張したのと異なり、わが国は預金準備率引下げを通じて、方向を定めた再貸出を適切に増やし、商業銀行が実体経済向けに更に多く貸出を行うことを推進したのであり、これと同時に、更に多くの社会貯蓄が直接投資・証券投資に転化するよう誘導し、中国と世界で需要が切迫した製品の生産・供給能力を顕著に拡大し、経済のグリーン転換プロセスを推進したのである。

中国は既に新たな発展段階に入っており、我々は新発展理念を深く貫徹し、サプライサイド構造改革を積極的に推進し、国内・国際2つの循環が相互に促進する枠組を不断に増強し向上させる。

金融の角度からみると、対外開放を一層拡大し、健全なコーポレートガバナンスを整備し、市場による合併再編を加速し、インターネットプラットフォームを規範化し、公平な競争を促進しなければならない。

伝統的な金融サービスのデジタル化転換推進に早急に取り組み、金融機関が実体経済に更に精確にサービスできるよう促し、金融リスクを更に精確に防止しなければならない。

インクルーシブファイナンスを発展させ、小型・零細企業と弱者層への金融サービスを強化し、共同富裕を確実に促進する。

グリーン金融を発展させ、温室効果ガス排出ピークアウト・カーボンニュートラル目標の期限どおりの実現を確保するため、有力な金融サポートを提供する。

科学技術金融を発展させ、多様な方式を通じて自主イノベーションと自立自強を支援する。

現段階で最も際立った任務は、直接金融のウエイトを一層大きくすることである。

2020年、新たに増えた社会資金調達規模のうち、債券・株式による資金調達のウエイトは既に37%前後に達し、更に大きな発展の余地があり、とりわけ債券市場にはなお大きな潜在力がある。

この健全な成長を妨げる主要な脆弱性は、債券市場法制の健全性がなお不十分だということである。各レベル政府・企業・仲介機関・投資家の皆に、債務逃れ・踏倒しが不道徳な行為であるだけでなく、法律・法規に違反し、甚だしきは犯罪行為であることを認識させる切迫した必要がある。

根本的な措置は、情報開示を核心とする登録制度の改革を加速し、投資家の適切性の管理を真に強化し、発行者・仲介機関・投資家が厳格に法に基づき各自の義務を履行し、各自の責任を負担することを確保することである。

重大金融リスク解消三年堅塁攻略戦を経て、過去我々が直面した多方面の金融リスクには皆収斂傾向が出現している。しかし、リスク防止は、金融行政の永遠のテーマである。我々は、安全の中で危機を思い、一刻も手を緩めてはならない。

当面について言えば、以下の数方面に重点的に関心を払う必要がある。

(1)不良債権のリバウンドに積極的に対応する

疫病の影響を受けた中小・零細企業のために貸出の元本・利息猶予を実施し、一定割合の最終劣後債権が不良債権に変わるものと予想される。

一部の地方の不動産のバブル化・金融化傾向が深刻であり、相当数の政府融資プラットフォームの債務償還圧力が大きく、一部の大中型企業の債務デフォルト割合が上昇しており、銀行機関の信用リスクを激化させている。

一部中小金融機関が直面する情勢は更に峻厳となっている。

銀行機関が資産分類をしっかり行うよう督促し、引当金の計上を強化し、不良債権を更に速く更に多く処理できることを確保しなければならない。

(2)シャドーバンキングの復活を厳密に防止する

わが国のハイリスクのシャドーバンキングは国外と異なり、典型的な「システム内」と「同類貸付」の特徴をもっている。

取締り後、わが国のシャドーバンキングの規模は既に歴史的なピーク値と比べ20兆元圧縮されたが、ストック規模は依然かなり大きく、少しでも油断すると極めて容易にリバウンドする。

金融機関の再び交差性の金融商品を通じた無秩序なレバレッジ上昇を防ぎ、各種「同類貸付」の新スタイルについて、初期の段階で歯止めをかけなければならない。

資産管理の新ルールを真剣に実施し、既存の資産管理商品への取締り任務の順調な達成を確保しなければならない。

(3)各種の違法な証券公開発行行為を断固取り締まる

金融市場は現在依然として、大量の名義は「私募」で実際は「公募」の各種商品が存在する。過去の違法な資金調達案件の多くは、実質的に違法な証券の公開発行に属する。

これらの商品に参加する投資家の数はいずれも200人の制限を突破しており、発行対象は実際上不特定の投資家に向けられ、市場・社会・人民大衆に深刻な損害を生み出している。

いったん「偽私募・本当は公募」を発見したら、法に基づき厳格に懲罰し、かつ詐欺による発行、財務の捏造、虚偽開示に応じて、発行者等の関係者の法律責任を追及しなければならない。

(4)金融デリバティブ商品への投資リスクを確実に防止する

これまでにリスクが発生した金融デリバティブ商品の事案では、大量の個人投資家が投資に参加している。成熟した金融市場からみると、金融デリバティブ商品への投資に参加しているのは主として機関投資家であり、個人の財テク投資には非常に不向きである。

道理からすれば、コントロール不可能、甚だしきは予測不可能の多様な要因の影響を受けて、金融デリバティブ商品の価格変動は大きく、投資家の専門水準とリスク受容能力について高い要求がある。普通の個人投資家がその中に参加すれば、間違いなくギャンブルに変化し、損失を被る結果は早々と既に決まっている。

このような外為・黄金その他商品先物に投機する者は、家を繁栄させ富貴に至る機会を得ることは難しい。それは、住宅価格が永遠に下がらない方に賭ける者が、最終的に深刻な代価を支払うのと同じである。

(5)常に各種のスタイルを変えた「ポンジスキーム」1を警戒する

現下、各種高利息・リターンを誘う餌として、いわゆるフィンテック・インターネット金融等の看板を掲げたペテンが後を絶たないが、その実質はいずれも爆弾ゲーム式2の違法な資金収集活動である。

皆さんは、この世に「棚からぼた餅」はなく、「元本保証・高収益」を宣伝するものは、金融詐欺にほかならないことを胸に刻まなければならない。

自覚的に警戒心を高め、リスク防止意識と識別能力を増強し、各種違法な金融活動を遠ざけなければならない。

  1. 出資金詐欺。後の出資者の出資金で、前の出資者の配当を払うことで出資者を拡大する仕組み。最後は破綻し、後の出資者ほど損失が大きくなる。
  2. 原文は「撃鼓伝花」。太鼓が鳴っている間、参加者は順に花を回し、太鼓が鳴りやんだときに花を持っている人が罰ゲームをするという、中国の伝統的遊び。