田中 修

中国経済レポート

「習近平経済思想」のバージョンアップ(2)

新領域研究センター 田中 修

2021年6月10日


第2の問題 新発展理念を深く貫徹する

わが党が人民を指導して国政を運営するにあたり、重要な一方面は、どのような発展を実現し、発展という重大問題をどのように実現するかを、しっかり回答しなければならないということである。

2015年10月29日、私は党18期5中全会において「理念は行動の先導であり、一定の発展の実践は、一定の発展理念によりリードされる。発展理念が正しいかどうかが、根本的に発展の成果ないし成否を決定づける。実践は我々に、発展は不断に変化するプロセスであり、発展環境はいったん成ったら変わらぬものではなく、発展条件はいったん成ったら変わらぬものではなく、発展理念も自ずといったん成ったら変わらぬものではないことを告げている」と述べた。

18回党大会以降、わが党は経済情勢について科学的判断を進め、発展の理念と考え方について適時調整を行い、わが国経済発展を誘導して歴史的成果を収め、歴史的変革を発生させてきた。

ここで、私はその主要な方面について、概要を述べたい。

①人民中心の発展思想を堅持する。

2012年11月15日、18期中央政治局常務委員が内外記者と会見したとき、私は人民の素晴らしい生活への願望が我々の奮闘目標であると強調し、断固として共同富裕の道を歩まなければならないと強調した。

2015年10月29日、党18期5中全会において、私は人民を中心とすることを堅持する発展思想を明確に提起した。

2020年10月29日、党19期5中全会において、私は「人民全体の共同富裕促進で更に顕著な実質的進展をみるよう努力しなければならない」と、明確に一層強調した。

②もはや簡単にGDP成長率をもって英雄を論じない。

2012年12月15日、中央経済工作会議において、私は「客観条件を顧みず、ルールに背いて高速度を盲目的に追求してはならない」と強調した。

2013年4月25日、中央政治局常務委員会会議において、私は「国家が確定したコントロール目標を各地方の経済成長の最低ラインとしてはならないし、まして相互に競い合い、甚だしきは幾層にも成長率をかさ上げしてはならない。質と効率の向上に立脚して、経済の持続的で健全な発展を推進し、実際の水増しのない域内生産値を追求し、効率・質が高く持続可能な経済発展を追求しなければならない」と述べた。

③わが国経済は、「3つのタイミングが重なる」時期にある。

2013年7月25日、中央政治局常務委員会会議において、私は「わが国経済は成長速度のギアチェンジの時期、構造調整の陣痛の時期、これまでの刺激政策の消化の時期が重なった段階にあり、加えて、世界経済も深く調整され、発展環境は十分複雑であり、わが国経済発展の段階的特徴を正確に認識して、実際に即して正確な方法を見出し、改革調整を進めなければならない」と述べた。

④経済発展は新常態に入っている。

2013年12月10日、中央経済工作会議において、私は「新常態」を提起した。

2014年12月9日も、中央経済工作会議において、私は9方面の趨勢的変化からわが国経済発展が新常態に入っている原因を分析し、「新常態を認識し、新常態に適応し、新常態をリードする」ことが当面と今後一時期、わが国経済発展の大ロジックであると強調した。

⑤資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、政府の役割を更に好く発揮させる。

2013年11月、党18期3中全会において、私は「市場による資源配分は、最も効率の高い形式であり、資源配分を市場が決定することは、市場経済の一般ルールである」と強調し、「資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、市場の役割について全く新しい位置づけを行わなければならない」と強調した。

⑥緑の水と青い山こそが金山・銀山である。

2013年9月7日、ナザルバエフ大学1で講演をした際、私は明確にこの観点を提起し、生態文明の建設、美しい中国の建設は、我々の戦略任務であり、天が青く、地が緑で、水がきれいな美しい故郷を子孫の代に残さなければならない」と強調した。

2014年3月7日、12期全人代第2回会議貴州代表団の審議の際、私はこの観点を一層強調した。

⑦新発展理念を堅持する。

2015年10月、党18期5中全会において、私は「イノベーション、協調、グリーン、開放、(発展の成果を)共に享受」の発展理念を提起し、「イノベーションによる発展を重視することは発展の動力の問題を解決し、協調による発展を重視することは発展のアンバランスの問題を解決し、グリーン発展を重視することは人と自然の調和の問題を解決し、開放による発展を重視することは内外の連動の問題を解決し、(発展の成果の)共に享受を重視することは社会の公平・正義の問題を解決する」と強調し、「新発展理念を堅持することは、わが国の発展の全局に関わる深刻な変革である」と強調した。

⑧サプライサイド構造改革を推進する。

2015年11月10日、中央財経領導小組会議において、私は「サプライサイド構造改革の強化に力を入れなければならない」と提起した。

2015年12月18日、中央経済工作会議において、私は「サプライサイド構造改革のカギは、『生産能力削減、在庫削減、脱レバレッジ、コスト引下げ、脆弱部分の補強』にしっかり取り組むことである」と強調した。

2018年12月19日、中央経済工作会議において、私は「強固、増強、向上、円滑」2の8字新要求を提起し、この8字方針は、当面と今後一時期のサプライサイド構造改革の深化、経済の質の高い発展の推進の全てを管理する要求である」と強調した。

⑨発展がアンバランス・不十分である。

2017年10月、第19回党大会において、私は「わが国社会の矛盾が、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展の間の矛盾に転化しており、これは全局に関わる歴史的変化である」と強調した。

⑩質の高い発展を推進する。

2017年10月、第19回党大会において、私は、わが国社会の矛盾が、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展の間の矛盾に転化しているという事実と、新発展理念の要求に基づき、「わが国経済は既に高速成長の段階から質の高い発展の段階に転換している」と強調した。

⑪現代化した経済システムを建設する。

2017年10月、第19回党大会において、私は「現代化した経済システムの建設は、関門を乗り越えるための切迫した要求、わが国の発展の戦略目標である」と強調した。

⑫国内の大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築する。

2020年4月10日、中央財経委員会会議において、私は「国内の大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互促進する新たな発展の枠組を構築しなければならない」と強調した。

⑬発展と安全を統一する。

2015年5月29日、中央政治局集団学習の際、私は「安全発展理念を牢固に樹立しなければならない」と強調した。

2016年1月18日、省部レベル主要指導幹部特別課検討班において、私は4方面から我々の行う開放・発展が直面するリスク・試練を分析した。

2018年1月5日、新任の中央委員会委員・候補委員と省部レベル指導幹部特別課題検討班において、私は8方面から16の高度に重視する必要があるリスクを列挙した。

2019年1月21日、我々は特別に「最低ライン思考を堅持し、重大リスクを防止・解消する省部レベル指導幹部特別課題検討班」を開催し、私は開幕式で政治・意識形態・経済・対米経済貿易闘争・科学技術・社会・対外政策・党自身等の8分野の重大リスクを防止・解消しなければならないと分析し、かつ明確な要求を提起し、「我々は常に高度な警戒を維持し、『ブラックスワン』3事件を高度に警戒するだけでなく、『灰色の犀』4事件をも防止しなければならない」と強調した。

私はこのプロセスを回顧し、18回党大会以降、我々は経済社会の発展について、多くの重大理論・理念を提起したが、このうち新発展理念は最重要であり、最も主要なものであると強調しなければならない。

新発展理念は、系統的な理論体系であり、発展の目的・動力・方式・道筋等に関する一連の理論・実践問題に回答し、わが党の発展に関する政治立場・価値方向5・発展モデル・発展の道等の重大政治問題を説明した。

全党は、新発展理念を完全・正確・全面的に貫徹しなければならない。

以下の数点をしっかり把握することに注意しなければならない。

(1)根本宗旨から新発展理念を把握する

古人は6、「天地は広大であるが、国家は庶民を根本とする」と述べた。

人民は、わが党の執政の最も厚みのある基礎・最大の気概である。人民のために幸福を謀り、民族のために復興を謀ることは、わが党が現代化建設を指導する出発点・帰着点であり、新発展理念の「根」「魂」である。人民を中心とする発展思想を堅持し、「発展は人民のために、発展は人民に依拠し、発展の成果は人民が共に享受する」を堅持してこそ、正確な発展観・現代化観をもつことができる。

ソ連は世界で初めての社会主義国家であり、輝かしい成果を収めたが、後に失敗して解体した。中でも重要な原因は、ソ連共産党は人民から乖離し、自身の利益を擁護するだけの特権官僚集団になってしまったことである。現代化した国家を実現しても、執政党が人民に背いて離れてしまえば、現代化の成果に損害を与えることになる。

共同富裕の実現は、経済問題のみならず、党の執政の基礎に関わる重大政治問題である。我々は、貧富の格差がますます大きくなり、貧しい者がますます貧しくなり、富める者がますます富むことを決して許してはならず、富める者・貧しい者の間に越えられない溝を決して出現させてはならない。

当然、共同富裕の実現には、必要性と可能性を統一して考慮し、経済社会発展のルールに基づいて秩序立てて漸進しなければならない。同時に、この政策を待っていてはならず、 地域格差、都市・農村格差、所得格差等の問題を自覚的・主動的に解決し、社会の全面進歩と人の全面発展を推進し、社会の公平・正義を促進し、発展の成果の恩恵を更に多く更に公平に人民全体に及ぼし、人民大衆の獲得感・幸福感・安全観を不断に増強し、人民大衆に共同富裕が単なるスローガンではなく、目に見え、触れることができ、実感できるものだという事実を切実に感じさせなければならない。

(2)問題志向から新発展理念を把握する

わが国の発展は、既に新たな歴史の起点の上に立っており、新たな発展段階の新要求に基づき、問題志向を堅持し、新発展理念を更に精確に貫徹し、発展がアンバランス・不十分である問題を確実にしっかり解決し、質の高い発展を推進しなければならない。

たとえば、科学技術の自立自強はわが国の生存と発展の基礎能力を決定づけるものであるが、多くのボトルネックの問題が存在する。

たとえば、わが国の都市・農村、地域の発展格差はかなり大きく、この問題をいったいどのように解決するかは、多くの新たな問題について深く研究する必要があり、とりわけ地域ブロックの分化・再編、人口の地域を越えた移転の加速、農民の都市戸籍転換意欲の低下等の問題の研究に急いで取り組み、考え方を明確にしなければならない。

たとえば、経済社会発展の全面グリーン転換を早急に推進することは、既に高度なコンセンサスを形成しているが、わが国のエネルギー体系は高度に石炭等の化石エネルギーに依存しており、生産・生活体系をグリーン低炭素へと転換する圧力は大きく、2030年前に温室効果ガス排出をピークアウトし、2060年前にカーボンニュートラルにするという目標・任務の実現は極めて困難である。

たとえば、経済のグローバル化に逆流が出現するに伴い、外部環境はますます複雑で変化に富み、皆が自立自強と開放協力の関係をうまく処理し、積極参加と国際分業・国家安全保障との関係をうまく処理し、外資利用と安全審査の関係をうまく処理し、安全確保の前提の下で開放を拡大しなければならないと認識するに至った。

つまり、新たな発展段階に入り、新発展理念の理解について不断に深化させ、措置を更に精確・実務的にし、質の高い発展を真に実現しなければならない。

(3)憂患意識から新発展理念を把握する

「早く考慮すれば困ることはなく、早く予想すれば窮することはない」7。わが国社会の主要矛盾の変化と国際パワーバランスの深刻な調整に伴い、わが国の発展が直面する内外のリスクは空前の上昇をみせており、憂患意識を増強し、(最悪事態を想定して)最低ラインを守る思考を堅持し、更に複雑・困難な局面への対応を随時準備しなければならない。

第14次5カ年計画「建議」は、安全問題を非常に際立てて位置づけ、安全な発展を国家発展の各分野・全プロセスに貫徹しなければならないと強調した。もし安全の基礎が堅固でなければ、発展というビルは大揺れとなってしまう。

政治の安全・人民の安全・国家の利益至上を有機的に統一することを堅持し、大胆に闘争するだけでなく、上手に闘争し、自己を全面的に強化し、とりわけ威嚇の実力を増強しなければならない。

マクロ経済方面では乱高下を防止し、資本市場では外資の大量流出入を防止し、食糧・エネルギー・重要資源では供給の安全を確保し、産業チェーン・サプライチェーンの安定・安全を確保しなければならない。資本の無秩序な拡張・野蛮な成長を防止し、さらに生態環境の安全を確保し、断固安全生産にしっかり取り組まなければならない。

社会分野では、大規模な失業リスクを防止し、公共衛生の安全を強化し、各種集団的事件を有効に解消しなければならない。

国家安全を保障する制度の建設を強化し、その他国家の経験を参考にして、必要な「ガラスの門」をいかに設置するかを研究し、異なる段階で異なるチェーンを加えて、各種の国家の安全に係る問題を有効に処理しなければならない。

  1. カザフスタンのヌルスルタンに本部を置く、カザフスタンの公立大学。2010年設置。
  2. 意味は、「過剰生産能力の削減、過剰住宅在庫の削減、脱レバレッジ、企業コストの引下げ、脆弱部分の補強」の成果を強固にし、ミクロ主体の活力を増強し、産業チェーンの水準を向上させ、国民経済の循環を円滑にすることである。
  3. 起こる確率は低いが被害が大きいリスク。
  4. 高い確率で起こり被害は大きいが軽視されがちなリスク。
  5. value orientation、善悪判断の原則(中国通信)。
  6. 唐の太宗李世民の言。原文は「天地之大、黎元為本」。民を根本とする治国思想。
  7. 唐の則天武后の言とされる。