田中 修

中国経済レポート

人民銀行第1四半期貨幣政策執行報告

新領域研究センター 田中 修

2021年5月20日


はじめに

本稿では、5月11日に公表された「人民銀行2021年第1四半期(1-3月期)貨幣政策執行報告」の概要を紹介する。なお、前報告から変化したポイントは太字で示している。

1.マクロ経済の展望
1.1 概況

2021年に入り、わが国経済は安定・回復の態勢を示しており、安定の中で強固になり、安定の中で好転し、1-3月期GDP成長率は18.3%、2年平均で5.0%であり、経済運営は良好なスタートを切り、質の高い発展は新たな成果を収めた。

第14次5カ年計画期間は、社会主義現代化国家全面建設の新たな征途を開く最初の5年であり、わが国の発展は依然として重要な戦略的チャンスの時期にあり、経済が長期に好い方に向かうというファンダメンタルズに変わりはない1

1.1 経済の現状

わが国経済の発展動力は不断に増強され、経済運営における積極要因は増大している2

1-3月期の工業生産は着実に回復・上昇し、輸出は外需の回復の牽引下でかなり速い成長を維持しており、投資・消費は安定・回復の態勢を継続し、雇用・民生はかなり好く保障され、市場の予想は安定を維持している。

実体経済への金融サービスの質・効率は不断に高まり、金融機関の貸出のテンポは適度にグリップされ、1-3月期のマクロレバレッジ率は276.8%と、2020年10-12月期の1.6ポイント低下に続いて、再び2.6ポイント低下し、質の高い発展へのサービスの持続力を増強した。

金融リスクは総体として収斂に向かっており、システミック金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守った。

人民元レートは合理的均衡水準で基本的安定を維持し、外貨準備は3兆ドル以上を維持し、経済の外部衝撃への対応能力が増強された。

1.2 リスク・試練

外部環境は依然として複雑・峻厳であり、わが国の経済回復はアンバランスで、基礎は堅固でなく、経済社会の発展はなお少なからぬリスク・試練に直面していることをも見て取らねばならない3

(1)国際環境

新型コロナ感染症はなお世界に蔓延し、多くの地域で最近リバウンドが出現しており、世界経済の回復のアンバランス・不安定が日増しに際立っており、緩和した金融政策のスピルオーバー効果が引き続き顕在化している。

同時に、主要経済体のインフレ期待が上昇し、国債収益率が上昇して、一部新興経済体の通貨切下げ・資本の外部流出圧力の増大をもたらしており、債務償還・再調達リスクが上昇している4

(2)国内経済

国内経済の回復の基礎はなお牢固でなく、個人消費はなお制約を受け、投資の伸びは持続力が不足しており、中小・零細企業と個人工商事業者の困難はかなり多く、雇用安定の圧力はかなり大きい。

一部の地方財政収支の矛盾が際立っており5、地域的な金融潜在リスクが依然存在する。

カギとなる分野のイノベーション能力を高める必要があり、グリーン転換の任務はことのほか緊迫しており、人口高齢化が加速する等中長期の試練も軽視できない。

これについて、チャンスの意識とリスク意識を増強し、改革とコントロール、短期と長期、内部均衡と外部均衡とを結びつけ、精力を集中して自身の事柄にしっかり取り組み、質の高い発展の実現に努力しなければならない。

(3)物価

物価動向は総体として安定しており、長期にインフレあるいはデフレの基礎は存在しない6

2021年1-3月期、一部地域での冬・春の疫病リバウンドは、一定程度個人のサービス業消費の回復に影響を与えた。これに加え、高いベースと春節のピークのずれ等の短期的要因による攪乱があり、わが国のCPI上昇率はゼロ付近を維持し、3月はマイナスからプラスに転換して0.4%になり、4月は0.9%となった。将来のCPIは総体として平穏であり、合理的区間を維持する。

これと同時に、内需の安定・回復、国際原油価格等の大口取引商品価格の上昇が、工業品価格の上昇をもたらし、PPIの前年同期比上昇率が拡大している。これに低いベースの影響が重なり、年内のPPIは段階的に高まり、将来ベース効果が解消され、供給が徐々に回復するに伴い、PPIの安定化が見込まれる。

中長期で見ると、わが国の経済運営は平穏・好転しており、総需給は基本的にバランスし、金融政策は穏健を維持し、マネー条件は合理的・適度であり、長期にインフレあるいはデフレの基礎は存在しない。

2.今後の主要な政策の考え方

今後、人民銀行は、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとすることを堅持し、党19期5中全会・中央経済工作会議精神を貫徹し、「政府活動報告」の要求を実施し、党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、「穏」(穏健・安定)を頭におき、重点にしっかり掴み、最低ラインをしっかり守り、大胆に責任を担う。

サイクルを跨いだ政策設計をしっかり行い、当面と長期を併せ考慮し、マクロ政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、経済に必要な支援の程度を維持し、予想を安定させ、マクロ政策を精確に実施し、疫病防御と経済社会発展の成果を強固にして拡大し、経済運営を合理的区間に維持し、経済を回復の中で更にハイレベルの均衡に到達させて7、卓越した成績で中国共産党創立100周年を慶祝する。

穏健な金融政策を更に柔軟・精確、合理的・適度とし、実体経済へのサービスを更に際立たせて位置づけ8、正常な金融政策の余地を大事にし、経済回復とリスク防止の関係をうまく処理する。

現代中央銀行制度を建設し、健全で現代的な金融政策の枠組を整備し、マネーサプライのコントロールメカニズムを整備し、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを名目成長率と基本的に釣り合わせ、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持する。

再貸出・再割引と実体経済に直接到達する金融政策手段の牽引作用を一層好く発揮させ、実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを構築し、実体経済・重点分野・脆弱部分への支援を強化する。

健全な市場化した金利形成と伝達メカニズムを整備し、中央銀行の政策金利体系を整備し、預金金利の監督管理を最適化し9、貸出金利引下げを促進する改革の潜在力を引き続き発揮させ、実質貸出金利の一層の引下げを推進する。

為替レートの形成における市場の需給の決定的役割を発揮させ、人民元レートの弾力性を増強し、マクロプルーデンス管理を強化し、市場の予想を安定させ、企業と金融機関が「リスク中立性」の理念を堅持するよう誘導し、人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を維持し、人民元の国際信用の基礎を打ち固める10

モニタリング・分析と予想の管理を強化し、物価水準の基本的安定を維持する。

金融リスクの健全な予防・事前警告・処理・問責の制度体系を整備し、金融リスクを防止・解消する長期有効なメカニズムを構築し、金融の安全を擁護し築き上げ11、各方面の責任を一層徹底させ、施策を分けて中小銀行の資本を補充し、システミック金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守る12

(1)マネー・貸出と社会資金調達規模の合理的な伸びを維持する13

マネーサプライのコントロールメカニズムを整備し、サイクルを跨ぐ設計をしっかり行い、マネーの総バルブをしっかり管理し、マネーサプライと社会資金調達規模を名目成長率と基本的に釣り合わせ、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持する14

内外の金融情勢の変化に密接に注意を払い、流動性の需給情勢と金融市場へのモニタリング・分析を強化し15、中期貸借ファシリティー、公開市場操作、再貸出・再割引等の多様な金融政策手段を総合的に運用して、流動性の合理的充足を維持し、市場金利が、政策金利を軸として変動するよう誘導する。

健全で持続可能な銀行の資本補充のメカニズムを整備し、中小銀行の永久債発行等の資本補充手段への支援を強化し、銀行の実体経済へのサービス、金融リスク防止・解消能力を高める。

マクロ経済ガバナンスを整備し、金融政策と財政・雇用・産業・投資・消費・環境保護・地域等の政策との目標の最適化・合理的な分業・効率の高い協同を促進する。

(2)再貸出・再割引と実体経済に直接到達する金融政策手段の牽引作用をしっかり実施・発揮させる。

再貸出・再割引政策の安定性を維持し、農業関連、小型・零細企業、民営企業に引き続き包摂的・持続的な資金支援を提供する。

小型・零細企業のへの金融支援の程度を減じないことを維持し、個人工商事業者への支援を一層強化し16、実体経済に直接到達する構造的金融政策手段の精確な点滴灌漑作用を発揮させ、2つの実体経済に直接到達する金融政策手段17を、さらに2021年末まで延長する18

中央銀行の温室効果ガス排出削減支援政策を検討・推進し、条件の合致した金融機関が、顕著な温室効果ガス排出削減効果のあるプロジェクトのために、優遇金利融資を提供することを支援し、市場化原則に基づきグリーン・低炭素発展を支援し、温室効果ガス排出ピークアウト・カーボンニュートラル目標の実現を推進する。

(3)実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを構築する。

イノベーションへの金融支援の体系を整備し、イノベーションチェーン・産業チェーンを軸に資金チェーンを作り上げ、金融・科学技術・産業の良性循環と三角の相互連動を形成する。

地域金融の政策体系を整備し、国家重大地域発展戦略への金融支援を積極的に推進し、地域への金融支援の程度をバランスさせ、地域の協調発展を支援する19

金融支援政策の総体としての安定を引き続き維持し、脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大することを支援する。

農業・農村の現代化への金融支援を増やし、農家への無担保マイクロファイナンスを大いに発展させ、食糧安全、種業の発展、ハイレベルの農地・水田建設等20の重点分野への金融支援を強化する。

商業銀行の金融サービス能力向上を引き続き推進し、商業銀行の「三農」、小型・零細企業、製造業向け貸出拡大を支援する。

「住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない」という位置づけをしっかり堅持し、「不動産を短期的経済刺激の手段としない」ことを堅持し、地価・住宅価格・予想の安定を堅持し、不動産金融政策の連続性・一致性・安定性を維持し、不動産金融のプルーデンス管理制度をしっかり実施し、住宅賃貸への金融支援を強化する。

(4)金利・為替レートの市場化改革を深化させ、金融政策の伝達ルートを円滑にする。

健全な市場化された金利の形成・伝達のメカニズムを整備し、中央銀行の政策金利体系を整備し、引き続きLPR(貸出プライムレート)改革を深化させ、貸出金利引下げを促進する改革の潜在力を発揮させ、預金金利の監督管理を最適化し、実質貸出金利の一層の低下を推進し、金融システムの実体経済の利潤移譲を引き続き誘導する。

人民元レートの市場化改革を着実に深化させ、市場需給を基礎とし、通貨バスケットを参考として調節を進め、管理された変動為替レート制度を整備し、人民元レートの弾力性を維持し、マクロ経済と国際収支の調節における為替レートの自動安定器としての作用を発揮させる。

市場の予想を誘導し、合理的な均衡水準における人民元レートの基本的安定を維持する。外為市場の発展を加速し、企業・金融機関が「リスク中立性」の理念を堅持し、実需原則の基づく輸出企業のために為替レートリスク管理サービスを提供するよう誘導する。

人民元の資本項目の兌換化を着実に推進し、人民元のクロスボーダー使用の政策枠組とインフラを整備し、クロスボーダーの貿易・投資における人民元使用の利便化の程度を高める。

(5)金融市場の基礎制度建設を強化し、実体経済にサービスし、市場リスクを防止する。

債券市場制度の建設を強化し、債券市場の実体経済へのサービス能力を増強する。

仲介機関の職責を徹底させ、公司信用類債券(社債)の情報開示要求を実施し、信用格付制度を整備する。

市場化・法治化の原則を堅持し、債券のデフォルトリスクの防止・処理メカニズムを整備し、債務逃れ・債務踏倒しを断固取り締まる。

関連政策・制度の手配を整備し、債券市場の対外開放を引き続き推進する。

引き続き資本市場の基礎制度建設を強化し、投資家の利益を更に好く保護し、資本市場 の平穏で健全な発展を促進する21

(6)金融機関改革を一層推進し、コーポレートガバナンスを不断に整備し、金融供給を最適化する。

コーポレートガバナンスの強化を核心とすることを堅持し、大型商業銀行改革を深化させ、中国の特色ある現代金融企業制度を確立する。大型銀行がサービスの重心を下に移し、効率を高め、小型・零細企業、民営企業に更に好くサービスするよう誘導する。

マネー・監督管理・税制などの制度から着手し、中小銀行と農村信用社が主たる責任・本業に集中し、現地に回帰し、原点に回帰することを促進し、有効なガバナンスのチェックアンドバランスメカニズムを確立する。

開発性・政策性金融を改革・最適化し、職能の位置づけを強化し、業務の分類・勘定の分類改革を推進し、国家戦略・計画をサポートする能力を高め、経済社会発展の重点分野・脆弱部分とカギとなる時期のために金融支援を提供する。

(7)金融リスクの予防・事前警告・処理・問責の健全な制度体系を整備し、金融リスクを防止・解消する長期有効なメカニズムを構築する。

既存のリスク解消に全力でしっかり取り組み、各種リスクの再拡大・再上昇に断固歯止めをかける。各方面の責任を一層明確にして徹底させ、リスク処理の合成力を形成する。銀行システムの不良債権処理を強化し、施策を分けて中小銀行の資本を補充する。

監督管理制度の不足部分を早急に補強し、現代的な金融監督管理システムの整備を加速し、監督管理の協調を強化する。

金融リスクの健全な問責メカニズムを整備し、地方の党・政府の主要なリーダーが責任を負う財政金融リスク処理メカニズムを確立し、重大な金融リスクへの厳格な責任追及・問責を行い、モラルハザードを有効に防止する22

預金保険制度の役割を有効に発揮させ、早期是正に焦点を絞り、預金保険の専門化・市場化されたリスク処理メカニズムを一層整備し、金融リスク防止・コントロールの展望性・全局性・主動性を高め、システミック金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。

3.不動産融資の状況

3月末、主要金融機関(外資を含む)の不動産融資残高は50.0兆元、前年同期比10.9%増であり、伸びは前年末より0.6ポイント鈍化した。

うち、個人住宅ローン残高は35.7兆元、同14.5%増であり、伸びは前年末より0.1ポイント鈍化した。住宅開発融資残高は9.5兆元、同5.8%増であり、伸びは前年末より2.4ポイント鈍化した。

  1. これは、報告自身が太字にしている。以下、ことわりのない太字は筆者。
  2. これは、報告自身が太字にしている。
  3. これは、報告自身が太字にしている。
  4. 表現が大きく改められた。
  5. 地方財政の問題が追加された。
  6. これは、報告自身が太字にしている。
  7. 新たに盛り込まれた。
  8. 新たに盛り込まれた。
  9. 新たに盛り込まれた。
  10. 新たに盛り込まれた。
  11. 新たに盛り込まれた。
  12. 「2つの循環」の記述が削除された。
  13. 「穏健な金融政策柔軟・精確、合理的・適度にする」から表現が変更された。
  14. 「政府活動報告」の表現が盛り込まれた。
  15. 新たに盛り込まれた。
  16. 新たに盛り込まれた。
  17. 小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払い猶予と、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援計画
  18. 2021年末までの延長が明記された。
  19. 新たに盛り込まれた。
  20. 食糧安全以外に、「種業の発展、ハイレベルの農地・水田建設」が盛り込まれた。
  21. 資本市場の記述が追加された。
  22. 新たに盛り込まれた。