研究者の紹介

中国経済レポート

当面のマクロ政策

新領域研究センター 田中 修

2021年5月14日


はじめに

新華社北京電2021年5月9日は、4月26日に開催された国務院廉潔政治工作会議における李克強総理の重要講話の全文を公表した。この講話は3章で構成されているが、第2章「全面的に厳しい党内統治の牽引・保障作用を十分発揮させ、経済社会発展の重点任務実施を確保する」は、当面のマクロ政策について詳述している。おそらく、1-3月期のGDP発表を受けて、この会議を利用して当面のマクロ政策について自分の考えを披露したのであろう。

本稿では、この経済政策関連部分の概要を紹介する。

(冒頭省略)安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進しなければならない。全面的に厳しい党内統治の要求を深く実施し、廉潔政府の建設を強化し、「敢えて腐敗せず、腐敗できず、腐敗しようと思わない」ことを一体的に推進し、権力運用への制約・監督を強化し、活動の作風を改善し、責任を果たすことを奨励し、常態化した疫病防御に引き続きしっかり取り組まなければならない。「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策を着実にしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)任務を全面実施し、経済運営を合理的区間に維持し、社会の調和・安定を維持し、第14次5カ年計画の良好なスタートを実現しなければならない。

2020年に開催した中央経済工作会議と21年の全人代が批准した「政府活動報告」「第14次5カ年計画要綱」は、経済社会発展政策について手配を行った、各地方・各部門は、確実に責任を肩に担い、目標に焦点を定めて、全面的に厳しい党内統治の要求を職責履行の行動の中で実施し、政府の人民に対する約束を実現しなければならない。

1.市場主体の元気回復・活力増強を軸に、各政策をできるだけ速やかに実施し、効果を上げなければならない

現在、市場主体の数は既に1.4億社に達し、活躍度は大体70%前後であり、少なくとも1億社は実際の運営状態にある。この億を上回る市場主体は経済発展の根本基盤である1

2020年に巨大な衝撃に直面し、我々はあらゆる手を尽くして市場主体をしっかり保障し、さらに雇用をしっかり保障して、経済の基盤をしっかり安定させ、民営保障もサポートした。

2021年は、経済を安定の中で強固にし、経済運営を合理的区間に維持することを促すために、我々は引き続き市場主体に焦点を絞ってマクロ政策を実施し、政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、急転換せず、20年の一部の段階的な緊急政策を調整すると同時に、新たなヘッジ措置を採用し、市場主体に対する必要な支援の程度を維持し、市場のために予想を安定させる。

地方政府も、市場主体をめぐる政策の制定・実施に力を入れなければならない。これは大局である。なぜなら、発展はわが国の一切の問題を解決する基礎・カギであり、発展は広範な市場主体に依拠しなければならず、我々の政策はこの大局に奉仕しなければならないからである。

各方面は責任を強化し、監督を強化し、政策実施に着実にしっかり取り組み、政策の恩恵を適時浸透させ、完全に及ぼさなければならない。

(1)財政資金を確実にしっかり管理し、うまく用いなければならない

地方の雇用・民生・市場主体への保障を引き続き支援するため、2021年は引き続き中央レベルの支出を圧縮し、地方への移転支出を相応に増やす。同時に、常態化した直接資金交付メカニズムを確立し、範囲を拡大する。

財政資金の業績効果管理を強化し、政策規定に基づき貴重な資金を緊要な部分・キーポイントに用いなければならない。

2020年、我々は1.7兆元の新たに増やした財政資金について、直接交付メカニズムを確立したが、21年に直接交付メカニズムに組み入れる2.8兆元は既存の資金であり、国務院関係部門は自身の虎の子資金を交付することになる。これは利益調整と重要な改革である。

皆さんは大局意識をもって、主動的に取り組み、手にした資金を直接地方に移転し、中間段階を減らし、効率を高めてほしい。現在、中央財政直接交付資金の絶大な部分は既に下達されており、省レベル政府も土地の事情に応じて地方財政資金の直接交付の範囲を拡大し、財政力の下方移転を強化しなければならない。

直接交付資金について、財政部門は健全な資金監視・コントロールシステムを整備し、全プロセス・全チェーン・全方位の監視・コントロールを強化しなければならない。地方政府、とりわけ末端は健全な実名台帳を整備し、資金の流れを明確にし、帳簿と実際を突合しなければならない。資金の会計検査・監督とフォロー・効果確認を強化し、わずかなおカネも適所に用い、留保・流用、虚偽支出・横領等の行為を断固として調査・処分しなければならない。

これは、マクロ政策の連続性・安定性・持続可能性を維持する重大措置であり、財政制度・税制の「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革である。もし、21年の実施が良好であれば、22年は引き続き政策実施を強化し、直接交付資金の規模を増やさなければならない。

(2)減税・費用引下げ政策の完全実施を確保しなければならない

営業税の増値税転換を実施して以降、とりわけここ数年大規模な減税・費用引下げが継続しており、市場主体の負担を有効に軽減し、活力を奮い立たせ、発展に有利な環境づくりは税源を育成し、発展の持続力を増強した。

2021年は、さらに新たな減税・費用引下げ措置を打ち出し、小型・零細企業、製造業企業、科学技術イノベーション企業等への税制支援を強化し、年間の新たな減税額は5500億元を超えると予想される。うち、製造業企業のR&D費用割増控除の割合引上げは減税の 程度が最大な政策である。

減税政策の完全実現を確保し、オープン・透明に実施しなければならず、割り引いたり悪知恵を働かせたりしてはならない。さもなくば、企業は政策の実際の恩恵を速やかに享受することが難しくなり、これがうまくいかないと腐敗を生み出すことになる。

減税政策の執行の中で、申請・認定を要するものについて、税収の安全を保障するだけでなく、手続を過度に複雑にしてはならない。

減税政策の実施は、人民のために奉仕するという良好な作風をもち、政策の宣伝・紹介を強化し、政策を知らずよく理解できない小型・零細企業については政策をじかに送り届けると同時に、審査・認可手続を簡素化し、享受すべき者にはすべて享受させ、好い事はしっかり取り組まなければならない。

(3)各種の規定に違反した費用徴収を断固整理し取り締まらなければならない

現在、むやみな費用徴収・罰金・大風呂敷を広げる等の問題が依然存在しており、これは市場主体の負担を増やし、減税・費用引下げ政策の効果を侵蝕するのみならず、腐敗に至るものである。

系統の組織で年間の罰金収入の金額が大きいものについては、罰金を科すことが正当かどうか、関係部門は1つ1つ真剣に調査しなければならない。

企業に係る規定に違反した費用徴収の特別対策を深く展開し、断固厳正に処分して病・弊害を取り除き、決意をもってこの宿弊を取り締まり、1件発見するごとに厳しく処分して、顕著な成果を収めなければならない。

各地方・各部門は企業に恩恵を与え民を利する大局を考え、決して民をわずらわせて利をあさり、小利のために大局を害してはならない。

(4)金融による企業優遇政策を精確・有効に実施しなければならない

2021年は、小型・零細企業向け貸出の元本償還・利払猶予、無担保貸出支援等のインクルーシブファイナンス政策を引き続き実施し、小型・零細企業への支援を増やす。

金融系統組織は貫徹実施にしっかり取り組み、金融政策の直接到達手段を引き続き模索・運用し、金融機関の内部考課を最適化し、金融政策の伝達メカニズムを一層円滑化し、「小型・零細企業の資金調達を更に便利にし、総合資金調達コストを安定の中で引き下げる」ことを確保しなければならない。

同時に、金融監督管理を強化し、金融リスクを有効に防止し、地方の管轄地責任と金融機関の主体責任を徹底させなければならない。

金融リスクの背後にある腐敗問題について、深掘りして厳しく調査し、犯罪嫌疑のあるものは法により処分しなければならない。

金融機関のガバナンス整備・経営規範化を促進し、内外の結託、法・規定に違反した利鞘稼ぎ等の行為を厳しく懲罰しなければならない。

これらは、2021年のマクロ政策のカギとなる措置であり、経済の安定・回復の基礎を一層強固にし、経済運営を合理的区間に維持することにとって、極めて重要である。党風の廉潔政治建設と反腐敗活動を保障として、これらの政策の歪みない執行を確保しなければならない。

2.社会民生分野への投入の監督管理を強化し、資金の安全で効率の高い使用を確保しなければならない

近年、財政収支の伸びが鈍化しているものの、各レベル政府は民生への投入を増やすのみで減らしてはならない。2021年は、雇用・教育・医療保障・社会保障的性格をもつ住宅等の民生資金の直接到達を強化した。総体として見ると、現在民生分野への投入規模はいずれも比較的大きく、使用の業績効果を一層高め、民生資金の侵蝕・蚕食を厳しく防がなければならない。

(1)厳しく堅実で深くきめ細かい作風により雇用優先政策を実施しなければならない

2021年の大学卒業生数はまた新記録を更新して909万人に達し、さらに少なからぬ過去の年度の卒業生、海外留学帰国者、出稼ぎ農民も去年より増加しており、一部企業にはかなり大きな雇用安定のプレッシャーが存在し、今年の雇用目標の実現難度は小さくない。

雇用優先政策をしっかり実施し、堅実にきめ細かく仕事に取り組み、あらゆる手を尽くして市場による雇用ルートを開拓しなければならない。

雇用補助金・職業訓練資金・失業保険基金等について、使用の精確性を高め、虚偽の訓練、水増し申請による横領、親族優遇・友人厚遇等の規定に違反した行為を断固調査・処分し、就職市場の公平さ・秩序を擁護しなければならない。

(2)教育投入の効率を高めなければならない

財政資金は義務教育の質が優れバランスのとれた発展を重点支援し、農村の就学条件を早急に改善しなければならない。

関連した体制メカニズムを整備し、支出構造を調整し、教師陣の養成を更に多く支援し、義務教育の教師の平均給与所得水準が現地公務員の平均給与所得水準より低くならないことを確保し、農村・僻地の教師の在職研修を強化しなければならない。

(3)医療保険基金使用の監督管理を強化しなければならない

近年、医療保険基金の詐欺騙取問題がしばしば発生している。病気でない人を連れてきて無理やりベッドに寝かせ入院させるケース、多くの薬品を違法に転売するケース、医療保険カードで生活用品を購入するケースなどがあり、昨年関係部門は医療保険基金220億元余りを取り戻した。引き続き監督管理を強化し、これらの「命を守る金」を騙し取る卑劣な行為を厳しく取り締まらなければならない。

2021年は既に外来診療の共済保障の推進、外来診療代の省を跨ぐ直接清算の推進を手配した。これらの改革は、更に多くの大衆を受益させ、医療保険基金に対しては更に高い要求を提起するものでもある。入念・組織的に実施し、医療機関の診療行為と診療代の徴収行為を一層規範化し、法律・規定に違反した医療保険資金の支出について厳格に処理しなければならない。

制度化・常態化した薬品・高額医療用消耗品の集中大量調達を実施し、患者の医薬負担を引き下げ、薬品の品質を確保し、医療保険基金の使用効能を高めなければならない。薬品の流通段階のリベート、薬品の裏口搬入等の法・規定に違反した行為について、断固取り締まらなければならない。

(4)年金の期日通り全額支給を確保しなければならない

年金支給は総体としては保障されているが、個別地方の基金収支の赤字がかなり大きく、2021年は中央の調整を強化すると同時に、退職者基本年金の水準を引き上げた。

年金は、個々の家庭、老人の幸福な晩年、若者が期待をもてる未来に関わるものである。年金支給をいささかも滞らせてはならず、各地方は責任を徹底させ、赤字があれば即時補填し、調整すべきものは調整し、期日通りの全額支給を完全確保し、決して未払いがあってはならない。

また、高齢者ケア・幼児保育サービスの不足を補充し、政府は、基本を保障し最低ラインを保障する職責をしっかり履行するのみならず、政策支援を増やさなければならない。社会のパワーを誘導してサービス供給を増やし、とりわけコミュニティによる高齢者介護・幼児保育サービスを発展させなければならない。

これは多くの部門に関わるものであり、政府関係者は国民のために厚情をもって政策促進にしっかり取り組まなければならない。

(5)基本住宅を保障しなければならない

こ数年、我々はバラック地区の改造、社会保障的性格をもつ住宅の建設を進め、この方面では大きな改善をみており、引き続き推進しなければならない。これについて、2021年の中央財政は直接交付資金を計上しており、地方も投入を増やして、補充すべき不足部分を補充しなければならない。

3.政府の倹約を堅持し、国民のための使用節約を確実にしっかり実施しなければならない

2021年は経済成長が安定・回復し、1-3月期の財政収入の伸びも比較的高かったが、財政収入の回復がかなり速いことを理由に政府の倹約の手綱を緩めてはならない。政府がしっかり倹約してこそ減税費用引下げ等の政策を更に好く実施できるのであり、減税・費用引下げが実際に発展のための環境整備となるのである。

2020年、我々の減税・費用引下げは2.6兆元を超えたが、これと同時に、第13次5カ年計画期間に新たに増えた納税市場主体は、2020年に2.6兆元近い税を納めた。市場主体が増大し活躍し始めることは、更に多くの税源を創造し、更に多くの税収を貢献することになる。

2021年は、疫病対策特別国債を再び発行せず、財政赤字の対GDP比率もある程度引き下げた。各レベル財政は、予算管理を厳格にし、予算超過・予算のない支出を厳禁し、不要不急の裁量的支出の圧縮・支出構造の最適化等の措置を実施に移し、雇用・民生・市場主体保障への支援を強化し、末端の給与・運営等の重点支出を保障しなければならない。

現在、一部の地方政府に教師の給与未払い、プロジェクト代金未払いから来る出稼ぎ農民の賃金未払い等の問題が存在しており、これを決して許してはならない。

また、各種の遊休資金を活性化させ、節約型機関の建設を深く推進し、浪費行為に反対しなければならない。

4.「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、市場主体の活力と社会の創造力を更に大きく奮い立たせ、行政権力を根本から規範化しなければならない

ここ数年、「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を継続して推進し、ビジネス環境は不断に最適化され、市場主体は第13次5カ年計画期間に80%増えた。わが国は市場主体に依拠して雇用を保障し、民生を保障し、税収を増やしており、億を上回る市場主体は、わが国経済の強靭性の拠り所であり、将来の発展の基礎でもある。

政府機能の転換は一足飛びにはできず、「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、行政簡素化の道を力行し、公平・公正な監督管理を堅持し、市場の活力を不断に奮い立たせ、発展の動力を増強しなければならない。これにより不合理な審査・許認可段階を減らし、制度的な取引コストを引き下げ、腐敗を醸成する土壌を一層取り除くこともできる。

(1)引き続き権限を減らし、権限を制限し、審査・許認可事項を圧縮・削減しなければならない

簡潔に言えば、権限は恣意的であってはならず、行政は簡素で執行しやすく、分かりやすく、透明化しやすく、監督管理しやすいものでなければならない。

2021年は、企業に係る審査・許認可の段階・提出資料・期間・手数料の削減推進に力を入れ、更に多くの審査・許認可事項の「オンライン処理」「一括処理」化を推進し、基準・規範化、オープン・透明化に取り組み、制度・技術の方法を用いて企業の事業が担当者の裁量任せにならないようにし、見返りとしての金品の要求を防がなければならない。

ここ数年一連のビジネス環境の最適化措置を打ち出しており、各地方・各部門は実施情況の問題点を真剣に整理、自身の足らざるところを探り当て、一流の水準に照準を合わせ、脆弱項目の補強と先進を競うことを併せ打ち出し、人民の願望に合致し、合理的で便利な改革措置でさえあれば、推進に努力して更に多くの実効を上げなければならない。

(2)市場経済は、公平・公正な監督管理がなければならない。さもなくば、市場は役割を十分発揮し難く、容易に腐敗を生み出す

有効な監督管理を、行政の簡素化・権限の委譲のために必要な保障とし、廃止ないし下方委譲した審査・許認可事項は適時フォローの監督管理を進め、食品・薬品、安全生産、金融等の分野については、完全カバーの監督管理を実行し、偽物・粗悪品の製造・販売、知的財産権の侵害等の違法行為については、厳しく管理し重罰を科さなければならない。

公平・公正な監督管理を行政の法執行の中で直接体現する。法執行の監督管理は厳格に規範化し、公の立場で正義を守り、文明的に丁寧に対応し、恣意的に法を執行してはならない。市場主体の生産経営をわずらわしてはならないし、ましてや私情にとらわれて不正行為をはたらいてはならない。さもなくば、党と政府のイメージを損なうばかりか、党の執政の根本基盤を侵蝕することになる。このことについて、法執行の監督管理者は、謹んで心に刻み、行いで示さなければならない。

  1. 太字は筆者。