研究者の紹介

中国経済レポート

新型肺炎とマクロ政策(64)

新領域研究センター 田中 修

2021年4月27日


はじめに

本稿では、4月14・21日の国務院常務会議との概要と金融政策の動向を紹介する。

3月30日 人民銀行2021年金融安定工作ビデオ会議

2020年、重大な試練・チャレンジに直面し、人民銀行金融安定系統組織は党委員会の正確な指導の下、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹実施し、国務院金融安定発展委員会の具体的要求に基づき、「大局の安定、統一・協調、施策の分類、精確な爆弾処理」の基本方針を堅持し、困難に立ち向かい、責任を担って成果を上げ、重点分野の金融リスクを適切に処理し、金融リスク防止の長期有効なメカニズムを引き続き整備し、各方面の施策は新たな成果を得て、重大金融リスク防止・解消堅塁攻略戦は重大な段階的成果を得て、新型コロナの衝撃に有効に対応し、小康社会を全面実現するために、良好な金融環境を作り上げた。

現在、金融リスクは全体として収斂しており、総体としてコントロール可能であるが、外部リスクの情勢は依然として峻厳・複雑で、潜在リスク・試練は依然として存在し、金融リスクの防止・コントロールをいささかも怠ることはできない。

金融安定政策への党の全面指導を一層強化し、「2つの大局」を胸中に抱き、「国の大事」を心にかけ、政治判断力・政治理解力・政治執行力を不断に増強し、党の指導を活動の全プロセス・各方面に自覚的に貫徹し、党建設と業務の深い融合を推進し、政治的・専門的に極めてハードな金融安定政策の陣容を作り上げ、常態化した金融安定政策を着実にしっかり実施しなければならない。

今後、人民銀行金融安定系統組織は、リスク処理の基本原則を正確に把握し、安定の中で前進を求めることを堅持し、市場化・法治化を堅持し、各方面の責任を徹底させることを堅持しなければならない。

リスク処理の主動性・協同性を不断に増強し、適時経験を総括し、各方面のパワーを積極・協調的に動員し、金融安定発展委員会弁公室の地方協調メカニズムの役割を好く発揮させなければならない。

預金保険制度の役割を有効に発揮させ、的を絞って早期に是正し、預金保険の専門化・市場化したリスク処理メカニズムを一層整備しなければならない。

金融リスクの防止・コントロールの展望性・全局性・主動性を高め、リスク・試練への対応能力の水準を引き続き高め、システミック金融リスクを発生させない最低ラインをしっかり守り、卓越した成績をもって建党100周年を迎えなければならない。

4月12日 人民銀行記者会見(1-3月期の金融)

以下は、中国政府網2021年4月13日の要約である。

(1)概況

3月末、M2残高は227.65兆元、前年同期比9.4%増である。1-3月期、社会資金調達規模のフローは累計10.24兆元である。1-3月期、人民元貸出は7.67兆元増、前年同期より伸びが5741億元増えた。

今年に入り、金融機関の実体経済への貸出支援の程度は安定の中で強固になり、総量方面では、金融機関の貸出は平穏・合理的に伸び、実体経済の借入需要を有効に満足させた。

1-3月期、金融機関の新規貸出は、前年のベースが高い基礎の上に伸びが5741億元増え、金融機関の貸出のテンポの把握は適度であり、実体経済支援の連続性・安定性・持続可能性を維持し、質の高い発展をサポートする持続力を高めた。

1-3月期の社会資金調達規模のフローの伸びは前年同期より少ないが、依然として四半期のフローとしては2番目に高い水準にある。金融機関の貸出は「穏」(穏健・安定)の字を頭に、資本市場の資金調達を大幅に増やし、債券市場は前年のベースが比較的高い情況下、伸びが少なく、総体として社会資金調達規模の伸びは平穏を維持している。

(2)小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス

今年に入り、貸出構造は引き続き最適化され。金融機関は小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス、製造業向け中長期貸出の支援を増やした。2月末の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスは35.5%増、製造業向け中長期貸出は38.8%増である。最近、小型・零細企業向けに直接到達する2つの金融政策手段-小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援の期限延長手段と無担保貸出支援計画は、既に2021年12月末まで延長された。

2つの直接到達する金融政策手段は、小型・零細企業の難関克服、雇用保障、民生保障、経済基盤をしっかり安定させることに、重要な役割を発揮した。2020年から21年2月末にかけて、中央銀行は支援期限延長手段を通じて奨励資金96億元を提供し、地方法人銀行が小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本9628億元の猶予を支援し、全国銀行業金融機関による各種企業貸出元本・利息累計8.4兆元の猶予を推進した。無担保貸出支援計画を通じて優遇資金1686億元を提供し、地方法人銀行の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス4765億元実施を支援し、全国銀行業金融機関の小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス累計4.7兆元実施を誘導した。

(3)実体経済支援

政策の支援に段差がないことを維持すると同時に、小型・零細企業の総合資金調達コストは安定の中で低下している。2021年2月、企業貸出金利は4.56%で、2019年7月より0.76ポイント低下し、統計開始以来最低水準となり、実体経済を有力に支援した。

2020年10-12月期、わが国のマクロレバレッジ率は、上昇から下降に転じし、マクロレバレッジ率は1.6ポイント低下し、実体経済の活力は既に極めて大きく回復し、金融資金の使用効率は顕著に上昇している。

(4)不動産市場

最近、一部のホットスポットの都市で経営貸出資金が不動産市場に流れ込むという問題が出現しており、3月26日、銀行保険監督管理委員会、住宅・都市農村建設部、人民銀行等の部門が連合で「経営用途貸出の規定に反する不動産分野への流入防止に関する通知」を公布した。

一部の住宅価格の上昇予想がかなり強く、投機ムードがかなり濃厚なホットスポット都市で、銀行経営貸出が騙し取られ、実際には住宅購入に用いられる現象が出現し、はなはだしきは組織的な違法活動が生じている。もしこれに速やかな歯止めがかけられなければ、不動産コントロール政策の実施効果に影響を与えるだけでなく、実体経済とりわけ小型・零細企業の発展を支援する貸出資源を独り占めすることになる。この問題を解決するプロセスにおいて、商業銀行が小型・零細企業へのサービスの質に影響を及ぼさないことを希望する。

(5)脱炭素

我々は温室効果ガス排出削減支援手段の設立に関する政策を早急に検討しており、できるだけ速やかに打ち出すよう努力する。温室効果ガス排出削減支援手段は、実体経済に直接到達する構造的金融政策手段であり、条件の備わった金融機関を通じて低コスト資金を提供し、温室効果ガス排出削減に顕著な効果がある重点プロジェクトのために、金融機関が優遇金利融資を提供することを支援する。

(6)金融政策の方向性

今後、周期を跨ぐ設計理念を堅持し、当面と長期を併せ考慮し、マクロ政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、金融政策を柔軟・精確、合理的・適度にし、マネーサプライと社会資金調達規模を名目成長率と基本的に釣り合わせなければならない。

国民経済の重点分野と脆弱部分への支援を強化し、小型・零細企業の総合資金調達コストを安定の中で引き下げ、経済の平穏で健全な運営を促進し、経済の質の高い発展を推進する。

4月14日 国務院常務会議

(市場主体登記管理条例の決定)

草案は既に打ち出した市場主体の登記・管理に関する行政法規と整合させ、国内で営利を目的に事業活動に従事する企業、個人工商事業者、農民専業合作社などの登記・管理について統一規定を設けている。ポイントは、以下のとおり。

①登記の利便性向上

その場で、1回で、期限を切って、ネットでも行い、省を越えて手続できるようにする。その場で登記できないときは、通常3営業日以内に登記する。

②申請書類と登記手続の簡略化

登記機関が、行政情報プラットホームで取得できる関連情報については、申請者に重ねてその提供を求めてはならない。補充・訂正の必要な書類は1回で通知する。

③「抹消難」の解消

市場主体に債権債務、未払いの賃金・社会保険料・税金が発生していないか既に弁済しており、関連の法的責任を負う旨を書面で約束・公示している場合は、簡略手続で抹消できる。

④維持経費の引下げ・休眠会社制度の設置

自然災害・事故・公衆衛生上の緊急事態等により事業継続が難しくなった場合は、一定期間(3年間を超えない)休眠会社となることを自主決定し、登記機関に届出できる。

⑤信義誠実と監督(規制)要件の明確化

市場主体は実名登記制をとり、提出書類の真実性・合法性・有効性に責任を負い、規定に従い年次報告書と登記関連情報を公示する。虚偽書類の提出等その他の詐欺行為をした場合は、登記は取り消され、直接責任者は3年間登記申請できない。

登記機関は、市場主体の信用状態に基づいて、重層・分類監督を実施し、「抜き取り検査の対象を無作為に決め、検査要員を無作為に選び、検査結果を一般公開する」方式で、登記事項の監督・検査を行う。

⑥違法行為の法的責任と処罰措置の明確化

処罰の的を絞り、情状が重いときには営業免許を取り上げる。

4月21日 国務院常務会議
(1)常態化した財政資金直接交付メカニズム

財政資金直接交付メカニズムは、マクロ・コントロール刷新の重大措置である。

党中央・国務院手配に基づき、2020年、中央財政は直接交付資金1.7兆元を下達し、市・県の末端に減税・費用引下げの「雪中に炭を送る」役割を発揮し、経済基盤をしっかり安定させるために重要なサポートを提供した。

「政府活動報告」の要求に基づき、2021年は直接交付資金メカニズムを常態化し、20年は直接交付資金を全部フロー(臨時追加交付)としたのと異なり、21年は主としてストック資金(当初計上)とし、資金分配の利益構造の改革・調整を通じて、各中央財政民生補助金全部を直接交付範囲に組み入れ、資金総量は2.8兆元に達する。現在、中央財政は既に直接交付資金2.6兆元を下達し、うち2.2兆元超を既に資金使用単位に下達した。

今後は、

①直接交付資金の使用の重点を際立たせなければならない

経済を安定の中でより強固にすることに着眼し、直接交付資金を段階的な政策「撤退」の影響を一部ヘッジする重要措置の1つとし、引き続き主として雇用・民生・市場主体の保障に用い、大衆が希望し企業が期待する方向・分野、及び末端の給与・運営保障に資金を流し、更に多くの財政力を義務教育・基本医療・基本住宅等基本民生への投入を増やすことに集中し、農地・水田の水利建設を支援する。

②地方が剰余直接交付資金を下達・使用するよう督促し、関連政策が速やかに実施され効果を上げることを保障しなければならない

地方が中央直接交付資金の基礎の上に、現地の事情に応じて地方財政資金の直接交付範囲を拡大するよう誘導する。省レベル政府は、引き続き資金の仲介役を務め、何もしない責任者であってはならず、更に多くの財政力を下方移転し、末端が政策実施に取り組む能力を増強しなければならない。

③直接交付資金の監督管理を厳格化しなければならない

財政部・審計署及び関係部門はいずれも監督を強化し、地方資金の分配、交付・使用情況を動態的にフォローし、存在する問題を速やかに発見して是正し、関係地方と責任者に対して情況に応じて通報・行政指導し、虚偽報告・横領、一部留保・流用等の法・規定に反した行為については、発見しだい徹底的に調査し、厳格に責任追及・問責し、直接交付資金を肝心な部分に用いることを確保し、企業に恩恵を与え国民を利する実際の効果を更に好く発揮しなければならない。

(李克強総理の発言)

2020年、疫病が経済に生み出した深刻な衝撃に直面し、我々は大規模な困難緩和政策を実施し、過去の慣例にとらわれず、財政資金を各部門に1つ1つ分け与え、直接交付メカニズムを採用し、中央財政が下達した1.7兆元の「救命ライン」を、末端に直接下達し、最も速くて7日で交付し、これにより大規模な減税・費用引下げをサポートした。

現在、経済は引き続き回復しているが、市場主体の実感は様々である。引き続き「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)、とりわけ雇用・民生・市場主体を保障しなければならない。資金を実際に末端に降ろし、大衆に実際に効果を感じさせなければならない。

21年は、直接交付資金の規模を更に大きくし、使用範囲を更に拡大するので、直接交付メカニズムの難度も20年より大きい。

(2)土地管理法実施条例改正の決定

土地管理法実施条例改正案は、耕地とりわけ永久基本農地・水田の管理・保護を強化し、耕地保護のレッドラインを厳守し、農用地とりわけ耕地の建設用地への転換を厳格に抑制すると同時に、耕地を林地・草地等のその他農用地への転換を抑制することを一層明確にし、耕地の「占用・補充をバランスさせる」制度を厳格に執行することとした。

改正案は、土地収用手続を細分化し、土地収用の事前公告制度を設け、収用補償を規範化し、関連費用が全額確保されていない場合には土地収用を認めない旨を規定し、収用対象の農民の知る権利・参加権・監督権を保障した。

改正案は、農民の合理的な住宅地需要を明確に保障し、住宅地の管理を規範化し、農民が法に基づき得た住宅地の権益の保障を強調した。

改正案は、さらに土地監察制度を細分化し、監督・検査措置を強化し、動態的な巡回調査等のメカニズムを確立し、耕地の破壊・違法な土地占用・土地回復開墾義務の不履行等の違法行為に対する処罰を強化し、耕地の「非食糧化」に対する処罰規定を増やした。

(李克強総理の発言)

わが国は、人が多く土地が少なく、1人当たり耕地面積は世界平均水準の半分に満たない。耕地とりわけ永久基本農地・水田の管理・保護を強化し、耕地保護のレッドラインを厳守し、国家食糧安全の基盤をしっかり築かなければならない。

2日前に訪れた四川の村民は、「日雇い収入は既に我々の収入の主要な資金源となっているが、耕作収入は依然一定割合を占めている。我々は限りある土地を十分利用して、きめ細かく耕作しており、日雇い労働をしても耕作を忘れてはいない」と言っていた。条例実施後、耕地保護のレッドラインをしっかり守ることを確保しなければならない。