研究者の紹介

中国経済レポート

経済情勢専門家・企業家座談会

新領域研究センター 田中 修

2021年4月13日


はじめに

李克強総理は、1-3月期GDP公表を控えた4月9日、経済情勢専門家・企業家座談会を開催し、当面の経済運営情況を分析・検討するとともに、今後の経済政策をしっかり行うことについて意見を聴取した。本稿では、座談会における李克強総理の発言の概要を紹介する。

今年に入り、習近平同志を核心とする党中央の堅固な指導の下、各地方・各部門は党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹実施し、広範な市場主体が粘り強く頑張って、経済は安定・回復の態勢を示し、安定の中で強固さを増し、安定の中で好転している。

しかし、前年同期のベースが低いことが比較不可能な要因をもたらし1、現在複雑・峻厳な国際環境は新たな不確定性を増し、国内経済の回復もアンバランスであることを見て取らねばならない。経済情勢の分析は全面的・客観的であらねばならず、①前年同期比を見るだけでなく、前期比をも見なければならず、②マクロ経済データを見るだけでなく、市場主体の切実な実感をも見なければならず、③経済運営の総体としての態勢を見るだけでなく、新たな情況・新たな問題に密接に注意を払わなければならない。自信を確固とし、困難を正視し、自身の事柄に着実にしっかり取り組まなければならない。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築して、常態化した疫病防御を引き続きしっかり行うと同時に、現在と長期を併せ考慮して、マクロ政策の連続性・安定性・持続可能性を維持し、政策は急転換せず、市場の合理的な予想の形成を誘導し、改革開放を推進し、経済運営を合理的な区間に維持し、質の高い発展を推進し、今後の発展のために堅実な基礎を打ち立てなければならない。

内外情勢の変化をフォロー・分析し、マクロ・コントロールを科学的・精確に実施し、構造的減税等の政策を引き続き的確にしっかり実施しなければならず、雇用・民生・市場主体を保障する政策の程度を減じてはならない

小型・零細企業、個人工商事業者を支援する各措置を実施し、R&D投入の企業所得税割増控除比率引上げ等の政策をうまく用いて製造業のイノベーション・グレードアップを促進し、市場主体が一層活気を回復し、持続力を増強するよう助力する。

市場主体とりわけ小型・零細企業、個人工商事業者への金融サービスを引き続き強化し、更に多くの資金が実体経済に流れるよう誘導し、リスクを有効に防止する。

不動産市場の平穏で健全な発展を維持する。

原材料等の市場調節を強化し、企業のコスト圧力を緩和する。

雇用の保障は経済基盤を堅固にするための基礎であり、常に際立てて位置づけなければならない。市場化・社会化の方法を用いて、大学卒業生等重点層の雇用ルートを拡大し、フレキシブルな就労を促進し、比較的十分な雇用と個人所得の増加の実現に努力する。

改革開放を推進し、ビジネス環境を最適化し、市場主体の活力を更に大きく奮い立たせなければならない。

「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、企業の発展を制約する不合理な束縛を排除し、公正な監督管理を通じて公平な競争を督促し、企業の期待に対応して政務サービスを強化し、更に多くの市場主体を育成し、かつ活躍度を高める。

対外開放を拡大し、対外貿易・外資を安定し、人民元レートの合理的均衡水準での基本的安定を維持し、産業チェーン・サプライチェーンの安定・安全を維持する。

留意点

中国の四半期GDP成長率は、先進国が採用する前期比成長率ではなく前年同期比成長率である。これは同時期を比較するため、季節的な変動要因を考慮する必要がなく、成長率を安定させる。普段の中国の四半期成長率が先進国と比べ、変化が小さいのはこのためである。

しかしながら、この前年同期比成長率は、成長率が前年の経済のベースの高低に左右されるため、1年の間で経済が大きく変動した場合には、大きなバイアスを生み出すことになる。今回は、まさにそうであり、2020年1-3月期の成長率はコロナ禍で-6.8%と大きく落ち込み、その後4-6月期3.2%、7-9月期4.9%、10-12月期6.5%と急速に回復した。これは、昨年1-3月期のベースが極端に低く、その後ベースが急上昇することを意味する。

したがって、今年の1-3月期のGDP成長率は昨年同期のベースの低さの反動で、極端に高い数値が出てくる可能性が高い。すでに1-2月期のデータをみても、消費は前年同期比33.8%増、投資は35.0%増という異常な数値が発表されている。このため、国家統計局は、あわせて2019年1-2月から2年の平均の成長率を公表している。それによれば、消費は3.2%増、投資は1.7%増とかなり低くなる。

これに対し、4-6月期以降は、昨年のベースがどんどん上がってくるので、四半期成長率は急減速することになる。特に、22年1-3月期の成長率は、21年1-3月期のベースが高いため、大きく落ち込む可能性が高い。

多くの地方政府・企業・個人事業者・個人は、この中国の四半期成長率の特徴を十分に認識していないので(国外のメディアも、これを十分認識せずに、中国の四半期GDP成長率を評していることが多い)、この数値を見た多くの者は、中国経済は20年1-3月期にコロナ禍で大きく落ち込んだあと、政府の対策で急激に回復したものの、21年1-3月期をピークに再び本格的な景気後退が始まった、と解釈する可能性がある。

これは、市場の景気予想を大きく混乱させ、地方政府の政策判断、市場主体の経営判断・投資決定を誤らせ、市場の大きな混乱を招く可能性がある。このため、李克強総理は「①前年同期比を見るだけでなく、前期比をも見なければならず、②マクロ経済データを見るだけでなく、市場主体の切実な実感をも見なければならず、③経済運営の総体としての態勢を見るだけでなく、新たな情況・新たな問題に密接に注意を払わなければならない」と強調しているのである。

四半期GDP成長率については、日本ではほとんど報道されることはないが、国家統計局は前年同期比成長率とあわせて、参考値として前期比成長率も公表している。たとえば、21年1月に公表された20年10-12月期成長率は2.6%であり、これを4倍すれば年率換算となる。

ただし、この数値はあくまでの試算値であるので、2点留意が必要である。

①2.6%は、小数点2ケタを四捨五入したものであるので、範囲は2.55~2.64%の間となる。したがって、これを4倍すると、成長率には10.2%~10.56%とかなりの幅がある。

②これはあくまでも試算値であり、四半期ごとに遡って改定されている。改定幅も、かなり大きい。したがって、これを4倍すると誤差は更に大きくなる。今示している数値も、まもなく21年1-3月期のGDPが発表される際に、変更される可能性がある。

前期比成長率は、このようなものだと理解したうえで、前年同期比・前期比のデータを見比べながら、中国経済の動向を慎重に見極める必要がある。

  1. 太字は筆者。