研究者の紹介

中国経済レポート

2021年経済・財政報告のポイント(2)

新領域研究センター 田中 修

2021年4月9日


6.主要な支出

以下は、重要な部分のみを掲載する。

(1)イノベーション・産業のグレードアップ

基礎研究への投入を増やし、中央レベルの基礎研究支出を10.6%増とする。

企業R&D費用の75%割増控除政策を引き続き執行し、製造業企業の割増控除割合をさらに100%まで引き上げ、税制優遇メカニズムを用いて企業が研究開発投入を増やすことを奨励する。

国有資本経営予算の資本性支出を強化し、国有企業の自主イノベーション能力向上を支援し、先端・戦略産業の発展を推進する。

インクルーシブファイナンスの発展を推進し、小型・零細企業の債務保証料補助政策を延長し、政府系債務保証機関の役割を発揮させ、小型・零細企業等の資金調達難・資金調達コスト高の緩和を支援する。

(2)内需拡大戦略

①消費

税制・社会保障・移転支出等の調節を強化し、所得分配構造の最適化に力を入れ、低所得層の所得を引き上げ、中等所得層を拡大し、都市・農村、地域、異なる層の分配関係を段階的に改善する。

教育・高齢者介護・医療・幼児保育等の健全な政策体系を支援し、個人消費の後顧の憂い解決を促進し、社会全体の消費能力・意欲を高める。

新エネルギー自動車購入補助政策を整備し、充電インフラ建設と新エネルギー路線バスの運営を支援する。

②投資

地方政府特別債をうまく用いて、「プロジェクト進行を資金がフォローする」の原則に基づき発行時期の制限を適切に緩和し、使用範囲を合理的に拡大し、建設中のプロジェクトを優先的に支援し、盲目的に起債し大風呂敷を広げてはならない。

中央予算内投資を6100億元(100億元増)計上し、地域の協調発展促進を支援する重大プロジェクトを引き続き支援し、「新しいタイプのインフラ、新しいタイプの都市化、交通・水利等の重大プロジェクト」等の建設を推進する。

政府投資の手配方式を最適化し、資本金注入等を通じて政府投資の「呼び水」作用を発揮させ、民間投資の活力を奮い立たせ、市場主導による投資の内生的成長メカニズムを形成し、投資増加の持続力を増強する。

③外需

関税構造・輸入税制政策を調整・最適化し、質の優れた製品の輸入を増やし、国内供給の必要な補充として、国内消費のグレードアップと経済発展の需要を満足させる。越境Eコマースの輸入税制政策を整備し、越境Eコマースの新業態の健全な発展を誘導する。

対外経済貿易発展資金を117億元(10.2%増)計上し、貿易の刷新・発展を促進する。

(3)地域の協調発展・新しいタイプの都市化

地方に対する中央の一般性移転支出の規模を引き続き増やし、未発達地域への支援を重点的に強化する。うち、中央財政均衡性移転支出を1兆9087億元(11%増)計上する。県レベル基本財政力保障メカニズム奨励補助金を3379億元(13.4%増)計上し、旧革命根拠地、民族地域、辺境地域への移転支出を1466億元(10.1%増)計上する。

中央財政は農業からの移転人口市民化補助金350億元を計上し、健全な費用分担メカニズムを整備し、農業からの移転人口の基本公共サービス需要を保障する。都市再開発の実施を支援し、都市の老朽化した住宅団地の改造と住宅賃貸市場の発展を推進し、賃貸住宅の税・費用負担を引き下げる。

(4)農村振興戦略

①食糧安全保障、農業の質・効率向上

種子事業の自主イノベーションを早急に推進し、農業の優良品種の育成と種子業の発展を支援する。食糧生産農家への補助を安定させ、籾米・小麦買付価格を適度に引き上げる。

先進・ハイエンド・スマート農機具購入補助を強化する。

②脱貧困の成果の定着・拡大

財政支援政策と資金規模の総体としての安定を維持し、中央財政は農村振興連携補助金(元は中央財政特定貧困支援資金)を1561億元(100億元増)計上し、重点的に脱貧困堅塁攻略の成果を強固にし拡大することが難しく、農村振興の基盤が弱い地域に傾斜させる。

過渡期の最初の3年は、引き続き脱貧困県を支援し、農業関連財政資金を統一・整合的に使用する。

村レベルの集団経済を大がかりに支援し、村レベル組織の運営経費の保障を強化する。

(5)汚染対策・生態保護

①汚染対策・生態保護

大気汚染対策資金を275億元(10%増)計上し、北方の冬季クリーン暖房と青空防衛戦を重点支援する。水質汚染対策資金を217億元(10.2%増)計上し、主として長江等の重点流域の水質汚染対策に用いる。土壌汚染対策特別資金を44億元(10%増)計上し、土壌汚染対策と修復を支援する。

重点生態機能区への移転支出を882億元(11%増)計上する。

②温室効果ガスピークアウト、カーボンニュートラル

風力発電・太陽光発電等再生可能エネルギーの発展と非在来型天然ガスの開発・利用を一層支援し、再生可能・クリーンエネルギーの供給を増やす。大規模な国土緑化キャンペーンの展開を支援し、生態システムのカーボンシンク(炭素吸収源)の能力を高める。

環境保護、省エネ・節水等の企業所得税優遇目録の範囲を拡大し、省エネ・環境保護産業を壮大に育成する。

(6)基本民生の保障

①雇用

あらゆる手を尽くして雇用を安定・拡大し、重点層の雇用の支援体系を整備する。

中央財政は、雇用補助金559億元(20億元増)計上し、地方が実施する各雇用・起業援助政策を支援する。

職業技能向上キャンペーン資金の使用を加速し、職業技能訓練を大いに展開し、構造的な雇用矛盾を緩和し、更に十分で更に質の高い雇用を実現する。

失業保険の保障範囲拡大政策を引き続き実施し、生活保障・失業防止・雇用促進の役割を発揮させる。

②教育

都市・農村義務教育補助経費を1770億元(4.3%増)計上し、都市と農村の統一を強固に整備し、重点を農村の義務教育経費の保障メカニズムに置く。

中央財政は、地方への移転支出を増やすと同時に、地方が教育投入を増やすよう督促し、国家財政による教育経費の対GDP比が基本的に4%を下回らないようにする。

③社会保障

企業従業員基本年金保険基金の中央調整割合を4.5%に高め、省レベルの収支統一の基礎の上に、全国統一を早急に推進し、年金の期日どおり全額支給を確保する。

困窮大衆救済補助金1473億元を計上し、地方が困窮大衆の最低ライン保障をしっかり行うことを支援する。

社会保険基金の投資の運営管理体制メカニズム改革を深化させ、戦略備蓄基金を引き続き大きく強くする。

④公共衛生

医療保険基金が負担する新型コロナウイルスワクチンの調達・接種費用について、住民が無料で接種する政策を支援する。

住民医療保険の1人当たり財政補助基準を30元引き上げて各人毎年580元とし、同歩調で個人からの保険料徴収基準を40元引き上げて 1人当たり毎年320元とし、個人の保険料負担分は規定に基づいて所得課税から控除する。基本公共衛生サービス経費の1人当たり財政補助基準を5元引き上げて1人当たり毎年79元とする。

基本医療保険の市・地区レベルの統一を全面実施し、省レベルの統一を推進する。 長期介護保険制度のテストを着実に推進する。

⑤防災・災害救助

農業保険の保険料補助を284億元(10.2%増)計上し、3大穀物(稲・小麦・トウモロコシ)のフルコスト(種子代・肥料代・農薬代・地代・人件費等)保険と収入保険のテスト範囲を拡大し、地方の優位性・特色のある農産品保険への「補償金の代わりに生産高に応じた奨励金支給」方式のテスト範囲を徐々に拡大する。

自然災害対策体系建設補助金を93億元計上する。中央自然災害救済資金を130億元計上する。

7.財政の改革・発展

ここでは、一部を紹介する。

(1)財政資金直接交付メカニズムを常態化して実施する

「範囲を拡大、メカニズムを整備、厳格な監督管理、サポートの強化」の原則に基づき、現行の財政体制・資金管理権限を維持し、担うべき主体責任の基本的安定を保障する前提の下で、中央財政直接交付資金の範囲を拡大し、直接末端の財政力の保障に用いる一般性移転支出、年初に直接分配可能な中央・地方共同財政権限移転支出、条件を備えた特別移転支出を、直接交付メカニズムの範囲に組み入れ、これに係る中央財政資金を2.8兆元とし、中央財政民生補助資金による100%カバーを基本的に実現1する。

直接交付資金の管理水準を一層高め、分配手続を最適化し、執行の分析を強化し、直接交付資金の監督・コントロールシステムを整備し、事前警告・分析機能を増強し、問題を発見したら直ちに是正し、資金の速やかな完全交付、規範的で安全な使用を促進する。

(2)民生政策の持続可能性を一層増強する

基本年金・基本医療保険の健全な資金調達・保険金給付調整メカニズムを整備し、全国民をカバーし、都市・農村を統一し、公平かつ統一的で、持続可能な多層レベルの社会保障システムを引き続き整備する。

基本・最低ラインの保障を際立たせ、民生支出と経済発展の協調を確保し、財政力の状況と釣り合わせ、「実際からの乖離、借金頼みでツケを後に回す」ことを防止する。民生政策の財政支出に対する短期・長期の影響を全面的に分析し、財政の受容能力の評価を強化し、財政の持続可能性を確保2する。

民生支出のリスト管理制度の確立を推進し、地方が自ら打ち出した民生支出政策は所定の手続により届け出なければならず、民生支出管理の規範性・透明度を高める。

公共サービスの提供方式を刷新し、社会(民間)パワーが非基本公共サービス3の供給を増やすことを奨励し、人民大衆の多層レベル・多様化した需要を満足させる。

(3)末端の「基本民生・給与・運営の保障」の最低ラインを守る

(最悪の事態を想定して)最低ラインを保障する考え方を牢固に樹立し、各レベルの責任履行を強化し、末端の「基本民生・給与・運営の保障」に問題が生じないことを確保する。

中央財政は、地方の財政力支援をかなり大幅に増やす基礎の上に、各レベルの国庫水準を適時フォロー・モニタリングし、県レベルの給与保障のモニタリング・事前警告を日々実施し、毎月地方末端財政国庫金の保管情況を報告する。各地方の財政収支の運営、国庫金の保管能力等と結びつけ、詳細に推計して個別に資金を調整し、困難な地域への支援を強化する。

省レベル政府が主体責任を確実に履行するよう督促し、省以下の財政体制を健全化し、財政力の分配構造を最適化し、財政力の下方移転を強化し、県レベルの「基本民生・給与・運営の保障」進展状況のモニタリングを強化して、資金を精確に効率よく配分・使用4する。

県レベルの財政保障責任を厳格に履行し、法律・法規に違反した「基本民生・給与・運営の保障」資金の流用については、厳格に問責し、関係者を処分する。

(4)地方政府の潜在的債務リスクの解消にしっかり取り組む

国家の総体としての安全と経済財政の持続可能な発展から出発し、地方政府の潜在的債務リスクの防止・解消を動揺させないことを堅持する。

強いプレッシャーの監督管理姿勢を維持し、新たな潜在的債務リスクの増加を厳禁することをレッドラインとする。法律・法規違反の起債型資金調達行為は、1つ発見するごとに摘発・問責し、潜在債務の増加に断固として歯止めをかける5

各レベルの党委員会・政府は管轄地の債務リスクについて総責任を負うという要求を徹底し、施策を強化し、地方が市場化・法治化した債務不履行の処理メカニズムを確立するよう指導・督促し、既存の潜在的債務を積極的かつ適切に解消する。

部門間の情報シェアと協同での監督管理を強化し、データの比較検証作業を推進し、リスクを速やかに発見して有効に処理し、長期に有効な監督管理制度の枠組を整備する。

(5)現代的な財政・税制を早急に確立する

改革のブレークスルー・先導の作用を十分発揮し、全局の観念と系統的思考により財政・税制改革を不断に深化させ、改革の調査研究・評価を強化する。

予算管理制度改革を一層深化させ、予算管理の各制度のシステムインテグレーション・協同による高い効率の運営を強化する。中期財政計画による管理を強化する。

中央と地方の財政権限と支出責任の区分改革方案を実施する。健全な地方税体系を整備し、一部品目の消費税徴収を取引の段階へシフトする改革を早急に推進し、着実に地方税に切り換える。

租税法的主義の原則を実施し、印紙税・関税等の税目の立法化を積極的に推進する。税法上の授権を通じて、省レベルの租税管理権限を適切に拡大する。

国有資本・国有企業改革の深化を推進し、国有企業改革3年行動に関連する政策を実施する。金融リスクを有効に防止・コントロールする健全な財政・財務監督管理体系を徐々に整備する。国有金融資本の健全な経営授権体制とインセンティブ・制約メカニズムを整備し、国有重点金融機関の改革を推進する。国有資産の監督管理情況報告のメカニズムと成果の運用を不断に整備する。

表1.2020年度中央一般公共予算収入

表1.2020年度中央一般公共予算収入


表2.2021年度の中央一般公共予算

表2.2021年度の中央一般公共予算

表3.中央から地方への移転支出

表3.中央から地方への移転支出

(注)共同財政権限移転支出の内訳は500億元以上、その他の移転支出は原則100億元以上のものを記載。特殊移転支出の項目が廃止された。

表4.中央財政の国債残高情況

表4.中央財政の国債残高情況

表5.地方政府の一般債務残高情況

表5.地方政府の一般債務残高情況

表6.中央の調節により企業従業員基本年金基金を補填している地域

表6.中央の調節により企業従業員基本年金基金を補填している地域

(注)中央への納付と中央からの交付の差額。新疆は生産建設兵団の統計が別になっている。
  1. コロナ対策として導入された特殊移転支出が廃止された代わりに、末端に直接資金を交付するメカニズムが規模を拡大して制度化された。
  2. 社会保障と財政の持続可能性の問題が本格的に検討されることとなった。
  3. 基本的需要より高次の公共的な需要を満たすためのサービス。
  4. 中央からの直接交付資金の強化と併せ、末端財政の強化を図っている。
  5. 潜在的債務リスクの防止・解消は、これまでも言及されてきたが、今回は極めてトーンが強くなっている。