新型肺炎とマクロ政策(63)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2021年4月1日


はじめに

本稿では、3月15・24・31日の国務院常務会議と、24日の人民銀行貨幣政策委員会第1四半期例会の概要を紹介する。

3月15日国務院常務会議

(「政府活動報告」の任務分担)

閉幕したばかりの全人代で承認された「政府活動報告」は、2021年の重点政策について手配した。

習近平「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を導きとし、新たな発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、質の高い発展を推進し、疫病防御と経済発展の成果を強固にして発展させ、責任を肩に担い、政策実施にしっかり取り組み、政府が人民に行った約束を発展の促進・民生優遇の新たな成果に変えなければならない。

2021年1-2月の経済運営は引き続き回復しており、発展の動力が不断に増強されているが、回復プロセスはなおアンバランスであり、サービス業、小型・零細企業といくらかの地方経済の回復がなお少なからぬ困難に直面している。

「政府活動報告」が確定した年間発展の目標・任務の実施にしっかり取り組み、経済運営を合理的区間に維持しなければならない。

①世界経済情勢の変化及びわが国への影響を密接にフォローし、国内経済運営の前年同期比・前期比の態勢を科学的に把握し、新たな情況・新たな問題を深く分析し、適時政策の事前調整・微調整を実施する。

とりわけ、雇用を促し、物価を安定させる等の政策をしっかり実施し、市場の予想を安定させなければならない。潜在リスクを防止・解消し、経済の安定・回復の基礎を強固にする。

②既に確定した財政・金融・雇用等のマクロ政策の実施にしっかり取り組む。

範囲を拡大した財政直接交付資金の末端への交付を加速し、雇用・民生・市場主体の保障に際立たせて用いる。各レベル政府は倹約を堅持し、末端の運営支出を保障しなければならない。

小型・零細企業に対する減税・費用引下げ政策、とりわけ新たな構造的減税措置の実施にきめ細かくしっかり取り組む。製造業企業のR&D費用の割増控除率引上げ政策をできるだけ速やかに実施し、所得税額計算期間を短縮し、企業がその年に実感を得られるようにする。

マクロレバレッジ率の基本的安定を維持し、政府のレバレッジ率をある程度引き下げなければならない。金融機関が早急に具体的措置を打ち出すよう誘導し、小型・零細企業資金調達の円滑度を高め、総合資金調達コストを安定の中で引き下げる。

財政・金融等の政策は、雇用増加を軸に協同して力を発揮しなければならない。大学卒業生・退役軍人・出稼ぎ農民等の重点層の雇用促進・サービスを強化する。労働力・人材・日雇いの「3つの市場」の役割を発揮し、雇用ルートを拡大する。

③重点政策を分解・細分化する

「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させ、行政許可事項のリスト管理を早急に推進し、企業に係る審査・許認可の段階・材料・時間・費用等を減らす具体的措置を推進する。

中央予算内の投資・移転支出・地方政府特別債等の資金を早急に下達してしっかり用い、義務教育・基本医療等の分野の不足補充への支援を強化する。県・郷の末端教師の育成と在職しながらの学歴向上を支援する政策を打ち出す。外来診療の省を跨った清算、外来診療の医療保険適用・常用薬への適用拡大等の措置を早急に打ち出す。

税・費用減免等の政策を整備し、社会(民間)のパワーによるコミュニティの高齢者介護・幼児保育・生活サービス業等の発展を支援する。

④実施取組みへの督促・検査を強化する

各地方・各部門は「政府活動報告」の要求に照らし、当該地方・自部門の実施方案をできるだけ速やかに制定し、各政策を前進させなければならない。分野・部門・地域を跨ぐ事項について、協同・協調を強化し、経済の持続的・健全な発展を維持し、第14次5カ年計画の良好なスタート・歩み出しを確保しなければならない。

3月24日国務院常務会議
(1)企業の研究開発費用の割増控除率引上げ

企業のイノベーションの主体としての役割を更に好く発揮させ、更に多く市場化され公平で包摂的な奨励政策を運用し、企業と全社会がR&D投入を増やすよう牽引し、経済発展の持続力を増強し、経済構造の最適化を促進しなければならない。

近年、R&D費用の割増控除の税制優遇政策は不断に強化されており、企業のイノベーションを有力に促進した。「政府活動報告」の企業のイノベーション支援に関する措置を実施するため、次のことを決定した。

①2021年1月1日から、製造業企業のR&D費用の割増控除率を75%から100%に高め、企業が100万元のR&D費用を投入するごとに、課税所得額から200万元を控除する。

この政策実施で、昨年の減税が3600億元を超えた基礎の上に、今年は更に企業のために800億元減税する。この制度手配は、今年の構造性減税において最大の政策である。

②R&D費用割増控除の納税額計算方式を改革し、企業が半年ごとに割増控除優遇を享受することを認め、1-6月のR&D費用を次年度の所得税額計算の際に控除するのを、本年10月の事前納付の際に控除できるようにし、企業にできるだけ早く恩恵を受けさせる。

同時に、科学技術研究開発サービス企業、「起業・イノベーション」を行う企業に対する税制支援政策を検討しなければならない。政策の宣伝・紹介・説明を強化し、税務サービスを最適化し、審査手続を簡素化し、企業の政策享受の円滑さを高め、事務処理をしっかり行わなければならない。

(2)小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払猶予政策と無担保貸出支援計画の21年末までの延長

20年以降実施している小型・零細企業に直接到達する金融政策手段(地方法人銀行が小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払猶予をした場合、奨励を与え、小型・零細企業向け無担保貸出に優遇資金支援を提供する)は、小型・零細企業の難関克服、雇用保障・民生保障、経済基盤のしっかりとした安定に重要な役割を発揮してきた。

小型・零細企業への金融支援の程度を減じないことを維持し、小型・零細企業の資金調達が更に円滑で、綜合資金調達コストが安定の中で低下することを確保するため、これまでの2つの直接到達金融政策手段を今年1-3月期まで継続実施する基礎の上に、さらに実施期限を今年末まで延長し、小型・零細企業をもうひと支えし、雇用安定における小型・零細企業の重要な役割を更に好く発揮させることを決定した。

①2021年末までに期限が到来した小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスについては、企業と銀行の自主的な協議により元本償還・利払を猶予し、かつ元本償還・利払猶予の処理を行った地方法人銀行に対して引き続き規定に基づき奨励を与え、奨励割合は貸出元本の1%とする。

②条件に合致した地方法人銀行が小型・零細企業向け無担保貸出を行った場合、引き続き元本の40%につき優遇資金支援を提供する。

同時に、個人工商事業者に対する政策支援を増やすことを検討しなければならない。

3月24日人民銀行貨幣政策委員会第1四半期例会

国内経済発展の動力は不断に増強され、積極要因が顕著に増大しているが、経済回復のプロセスはなおアンバランスであり、海外の疫病と世界経済は好転傾向にあるものの、情勢は依然として複雑峻厳である。内外経済情勢を研究・判断・分析し、国際マクロ経済政策の協調を強化し、精力を集中して自身の事柄にしっかり取り組み、周期を跨った政策設計をしっかり行い、経済の質の高い発展を支援しなければならない。

穏健な金融政策は柔軟・精確、合理的・適度で、政策のタイミング・程度・効果をしっかり把握し、流動性の合理的充足を維持し、マネーサプライと社会資金調達規模の伸びを名目成長率と基本的に釣り合わせ、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持しなければならない。

再貸出・再割引と実体経済に直接到達する金融政策手段の牽引作用を一層好く発揮し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの元本償還・利払猶予政策と無担保貸出支援計画を継続し、再貸出・再割引によるインクルーシブファイナンス支援を強化し、金融機関が科学技術イノベーション、小型・零細企業、グリーン発展等の分野への支援を増やすよう誘導する。

金融サプライサイド構造改革を深化させ、大銀行がサービスの重心を下方に移すよう誘導し、中小銀行が主たる責務・本業に専念することを推進し、金融市場の活力・強靭性を増強し、高度な適応性・競争力・包摂性を備えた健全な現代金融システムを整備する。

市場による健全な金利形成・伝達メカニズムを整備し、中央銀行の政策金利体系を整備し、引き続き貸出金利の引下げを促進する改革の潜在力を発揮させ、預金金利の監督管理を最適化し、実質貸出金利の一層の低下を推進する。

為替レートの市場化改革を深化させ、人民元レートの弾力性を増強し、企業と金融機関が「リスク中立性」の理念を堅持するよう誘導し、予想の管理を強化し、人民元レートの合理的な均衡水準での基本的安定を維持する。

実体経済を金融が有効に支援する体制メカニズムを構築し、イノベーションを金融支援する体系を整備し、イノベーションチェーン・産業チェーンをめぐる資金チェーンを作り上げ、金融・科学技術・産業の良性循環と三角形の相互連動を形成し、金融機関が製造業向け中長期貸出を増やすよう誘導し、民営企業に対する金融支援を経済社会発展に対する民営企業の貢献にしっかり適応させるよう努力し、地域の協調発展を支援し、温室効果ガス排出のピークアウト・カーボンニュートラルの実現促進を目標としてグリーン金融システムを整備する。

ハイレベルの双方向の金融開放を推進し、開放条件下での経済金融の管理能力とリスク防止・コントロール能力を高める。

3月31日国務院常務会議
(1)市場主体の活力

市場主体の活力を更に大きく奮い立たせ、雇用の安定により民生保障を促進することをめぐり、「行政の簡素化・権限の委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深化させる具体的措置を確定した。

①雇用環境を改善する

参入許可関係の職業資格の数を圧縮し、社会化された(民間による)職業技能の等級認定を推進する。新しい就労形態の健全な発展を支援する。フレキシブルな就労の職業傷害保障テストを推進する。労災保険のカバー範囲を拡大し、フレキシブルな就労者の合法権益を擁護する。

②企業に係る審査・許認可の段階・提出資料・時間的制限・手数料の削減を推進する

商標・特許登録申請の全プロセスを電子化する。法規に則った企業・低リスク商品の通関検査割合を引き下げる。港湾手数料を削減・統合する。

③内需拡大を支援する

ルールに反して設けた中古車搬入制限を整理し、観光・民宿等の市場参入を合理的に緩和する。

④民生サービスの供給を最適化する

更に多くの民生に係るサービス事項の「全国どこでも処理」を推進する。高齢者介護機関の発展を推進する。社会(民間)のパワーを導入して能力を拡大し、運営・サービスの質を高める。

⑤公正な監督管理を一層推進する

緩和と管理の結合を堅持し、公正な監督管理を行政の簡素化・権限の委譲に必要な保障とし、部門の監督管理責任を実施し、監督管理の規則・基準を整備し、行政裁量権の基準制度を確立し、実施中・事後の監督管理を刷新・強化し、大衆の生命・健康と公共安全に関わる事項について監督管理を厳格にしなければならない。

改革の深化を通じて、活力を解き放ち、管理を公平にし、サービスを効率的にする。

(2)減税・費用引下げ

2021年は段階的に政策を調整すると同時に、急転換を行わず、ヘッジ措置を採用して市場主体の元気回復を援助し、経済回復の基礎を強固にする。

小型・零細企業、個人工商事業者を一層支援するための税制優遇政策を確定した。

①小型・零細企業の所得税優遇を強化し、個人工商事業者を優遇政策の範囲に組み入れ、2021年2月1日から22年末まで、小型・零細企業、個人工商事業者の課税所得額が100万元に至らない部分については、現行の優遇政策の基礎の上に、さらに所得税を半減し、一層実際の税負担を引き下げる。

②21年4月1日から22年末まで、小型・零細企業、個人工商事業者等小規模納税者の増値税の課税最低限を、現行の月売上額10万元から15万元に引き上げる。

③21年4月1日から、輸送設備・電気機械・機器計器・医薬品・化学繊維等の製造業企業を、先進製造業企業増値税控除留保(仕入税額が売上税額から控除されていないことを指す)税額還付政策の範囲に組み入れ、月ごとに留保税額の増分を全額還付する。

上述の政策は、既に打ち出した税制優遇政策への追加であり、年鑑で新たな減税額は5500億元を超えると予想される。

減税政策を実施すると同時に、税外収入を秩序立てて合理化・圧縮し、各種名目でみだりに費用を徴収し、企業の負担を増やすことを断固防止する。

公平・包摂的な政策・改革を多用して、市場主体を更に大きく受益させ、活躍度を高めなければならない。同時に、地方が財政収入の伸び回復を利用して、政府のレバレッジ率を合理的に引き下げるよう誘導し、盲目的な大風呂敷を防止し、財政の持続可能性を増強するよう誘導する。