2021年政府活動報告のポイント(3)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2021年3月19日


4.2 重点分野の改革を深く推進し、市場主体の活力を更に大きく奮い立たせる

報告は、「企業の困難緩和を援助する政策を実施すると同時に、関連改革を強力に推進し、更に活躍し、更に創造力のある市場主体を育成する」としている。

(1)政府機能を一層転換する

報告は、「資源配分における市場の決定的役割を十分発揮させ、政府の役割を更に好く発揮させて、効率的な市場と機能的な政府を更に好く結びつける」との大原則を示している。

主な施策は以下のものである。

①市場参入を引き続き緩和し、(生産)要素の市場による配分総合改革テストを展開し、法に基づき各種市場主体の財産権を平等に保護する。

②「行政の簡素化・権限委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化」改革を深く推進し、市場化・法治化・国際化したビジネス環境を早急に作り上げる。

③行政許可事項を全部リスト管理に組み入れる。「証照分離改革」1を深化させ、企業に係る審査・許認可の段階・材料・期限・費用2を減らす。

④市場主体の退出メカニズムを整備し3中小・零細企業の簡易登録抹消制度を実行する。

⑤工業製品の参入制度改革を実施し、自動車、電子・電器等の産業への生産参入と流通管理の全プロセスの改革を推進する。

⑥有効な監督管理を行政の簡素化・権限の緩和に必要な保障とし、監督管理責任を全面実施し、審査・許認可事項の廃止・下方委譲について、事業実施中・事後監督管理を強化する。

⑦レベルを分け分類した監督管理政策を整備し、部門を跨った健全な総合監督管理制度を整備する。

「インターネット+監督管理」の推進に力を入れ、監督管理能力を高め、信用失墜行為への懲罰・処分を強化し、公正な監督管理により優勝劣敗を促進する。

デジタル政府の建設を強化し、政務データのシェア協調の健全なメカニズムを確立し、電子証明書の応用分野拡大と全国相互認証を推進し、更に多くの政務サービス事項のオンライン化・アプリ化・ワンストップ化を実現する。

企業・大衆の日常的な処理事務について、今年は「全国どこでも処理可能」を基本的に実現しなければならない。

なお、李克強総理は、会見において「競争は、公平な競争であるべきで、監督管理がなければならない。公平・公正を管理してこそ、市場主体は真の創造力を示すことができる。このため、我々は緩和と管理を共に重んじており、監督管理方式を刷新し、事業遂行中・事後の監督管理を強化する。これも改革である。我々は『インターネット+』、モノのインターネットといった新業態を支援するが、脅しやごまかし、偽造、背任、あるいは新業態を旗印とした詐欺や違法資金集めについては、断固取り締まらなければならない。市場が攪乱され、公平でなければ、競争は持続不可能であり、更に強い活力を現すことは不可能である」と述べている。

(2)改革の方法を用いて企業の生産経営コストの低下を推進する

「エネルギー・交通・電信等の基礎的産業の改革を推進し、サービス効率を高め、料金徴収水準を引き下げる」とする。主な施策は以下のものである。

①電力料金の不合理な加算を一層整理し、工業・商業電力価格の引下げを引き続き推進する。

中小企業向けブロードバンド・専用回線の平均使用料をさらに10%引き下げる。

高速道路の差別化した料金徴収を全面的に普及する。

港湾整備費を廃止し、民間航空発展基金の航空会社への徴収基準を20%引き下げる。

疫病の影響がかなり大きい地方が、小型・零細企業、個人工商事業者への国有建物賃貸料を減免することを奨励する。

税外収入の不合理な伸びを厳格に抑制し、不当な費用徴収・罰金・強要を厳格に取り締まり、人民を煩わせて不正な利益を得てはならない。

(3)多様な所有制経済の共同発展を促進する

「社会主義基本経済制度を堅持・整備する。いささかも動揺することなく公有制経済を強固にして発展させ、いささかも動揺することなく非公有制経済の発展を奨励・支援・誘導する」という原則を述べ、「各種市場主体は、いずれも国家現代化の建設者であり同等と見なし、平等に扱わなければならない」とする。主な施策は、以下のものである。

①「国有企業改革3年行動」を深く実施し、国有資本と国有企業を強く・優れた・大きいものとする。国有企業の混合所有制改革を深化させる。

②親しみがあり、清廉な政府と民営企業の関係を構築し、民営企業の発展を制約する各種障壁を打破する。中小企業への未払いを防止・解消する健全で長期有効なメカニズムを整備する4。企業家精神を発揚させる。

国家はプラットフォーム企業のイノベーション・発展を支援し、国際競争力を増強すると同時に、法に基づき規範的に発展させ、健全なデジタルルールを整備する5。反独占・資本の無秩序な拡張の防止を強化し、公平な競争市場環境を断固擁護する。

国有企業改革・民営経済発展は記述が減少し、国有資本のみならず、国有企業の強大化の記述が復活した。また、プラットフォーム企業への監督強化の記述が盛り込まれた。

(4)財政・税制・金融体制改革を深化させる

主な施策は、次のものである。

①予算の制約と業績効果管理を強化し、予算の公開を強化し、税・費用優遇政策を享受するための処理プロセス・手続を簡素化する。

②中央と地方の財政権限と支出責任区分改革方案を実施する。健全な地方税体系を整備する6

引き続き多くのルートで中小銀行の資本を補充し、コーポレートガバナンスを強化し、農村信用社の改革を深化させ7、政策性銀行の業務別管理・会計の改革を推進し、保険の保障・サービス機能を高める。

④株式発行登録制改革を着実に推進し、常態化した上場廃止メカニズムを整備し、債券市場建設を強化し、多層レベルの資本市場の役割を更に好く発揮させ、市場主体の資金調達ルートを拡大する。

金融持ち株会社とフィンテックへの監督管理を強化し、金融イノベーションをプルーデンス監督管理の前提の下で進めることを確保する。

金融リスク処理メカニズムを整備し、各方面の責任を徹底させ、システミックリスクを発生させない最低ラインを断固しっかり守る。

金融機関は実体経済をサポートするという本分を堅守しなければならない。

21年には不良債権の増大により、中小銀行の経営悪化が懸念されるため、自己資本強化が必要となる。また企業の経営悪化も予想されるため、上場廃止制度の整備も必要となるのである。

また、プラットフォーム企業への監督強化と連動し、イノベーション・フィンテックの進展による、他業種からの金融分野への参入への監督強化も図られている。

4.3 イノベーションに依拠して実体経済の質の高い発展を推進し、新たな動力エネルギーを壮大に育成する
(1)科学技術イノベーション能力を高める

主要なものは、以下のとおりである。

①国家戦略科学技術パワーを強化し、国家実験室の建設を推進し、科学技術プロジェクトとイノベーション基地の配置を整備する。

②カギ・コアとなる技術の難関攻略プロジェクトをしっかり実施し、「科学技術イノベーション2030-重大プロジェクト」を深く計画・推進し、科学技術重大特別プロジェクトの実施方式を改革し、「イノベーション牽引者公募」等のメカニズムを普及させる。

③条件の整った地方が国際・地域科学技術イノベーションセンターを建設することを支援し、国家自主イノベーションモデル区等の牽引作用を増強する。

④科学技術の開放・協力を促進する。知的財産権の保護を強化する。

中央レベルの基礎研究の支出を10.6%増やす。

⑥経費使用の自主権拡大政策を実施し、プロジェクト申請、評価・審査、人材評価、奨励メカニズムを最適化し8、科学研究者の不合理な負担の解消に努力する。

(2)市場化メカニズムを運用して企業のイノベーションを奨励する

企業のイノベーション主体としての地位を強化し、リーディングカンパニーがイノベーション連合体を組織することを奨励する。

科学技術成果の健全な財産権インセンティブメカニズムを整備し、ベンチャー投資の監督管理体制と発展政策を整備する。

75%の企業研究開発費用割増控除政策を引き続き執行し、製造業企業の割増控除比率を100%に高める。

(3)産業チェーン・サプライチェーンを安定・最適化する

引き続き、「過剰生産能力削減、過剰在庫削減、過剰債務解消、コスト引下げ、脆弱部分の補強」の重要任務を完成させる。

先進的製造業企業を対象に増値税の増加留保税額(2019年3月末の残価と比較した場合の当期増加分)を月ごとに還付し、製造業向け貸出のウエイトを高め、製造業の設備更新・技術改造投資を拡大する。

産業チェーン・サプライチェーンを自主的にコントロール可能とする能力を増強し、産業の基盤再建プロジェクトをしっかり実施し、大企業のリード・サポートと中小・零細企業の協力・統合の役割を発揮させる。

インダストリアルインターネットを発展させ、産業チェーン・イノベーションチェーンの融合を促進し、更に多くの共生技術研究開発プラットフォームを建設し、中小・零細企業のイノベーション能力と専門化水準を高める。

5Gネットワークとギガビット級光ファイバーの建設を強化し、応用場面を豊富にする。

インターネットの安全・データの安全と個人情報の保護を強化する9

新興産業の配置を統一的に企画する。品質インフラ(NQI)の建設を強化し、品質向上キャンペーンを深く実施し、基準体系を整備し10、産業チェーンの川上・川下の基準の有効な連携を促進し、匠の精神を発揚し、職人技によってメイドインチャイナの品質を高める。

新型コロナの影響で、産業チェーン・サプライチェーンが寸断されたことから、その安定・最適化が盛り込まれた。なお、「中国製造2025」は、20年に続き言及されていない。

4.4 内需拡大戦略という戦略的基点を堅持し、国内市場の潜在力を十分に発掘する
(1)消費を拡大・安定する

次の施策が列挙されている。

多くのルートで個人所得を増やす。

②健全な都市・農村流通システムを整備し、Eコマース・宅配の農村浸透を加速し、県・郷の消費を拡大する。

自動車・家電等の大口消費を安定的に増やし、中古車取引の不合理な制限を廃止し、駐車場・充電スタンド・電池交換ステーション等の施設を増やし、カーバッテリーのリサイクルシステムの建設を加速する。

ヘルスケア・文化・観光・スポーツ等のサービス消費を発展させる。

企業の製品・サービスのイノベーションを奨励し、新製品の市場参入を円滑にし、内外取引製品の「同一ライン・同一基準・同一品質」を推進する。

小規模店舗等の利民サービス業の秩序立った運営を保障する。

「インターネット+」をしっかり運用し、オンライン・オフラインの更に広範で深い融合を推進し、新業態・新モデルを発展させ、消費者のために更に多くの便利で快適なサービス・製品を提供する。

プラットフォーム企業がサービス手数料を合理的に引き下げるよう誘導する。

⑨消費能力を着実に高め、消費環境を改善し、庶民が消費でき、消費を望むようにすることで、民生改善と経済発展を促進する。

都市住民の可処分所得が伸び悩んでいるため、個人所得の増大が課題となっている。また、農村の消費意欲が比較的高いため、Eコマース・宅配の浸透による農村の消費拡大をねらっている。製品としては自動車(中古・新エネルギー車を含む)・家電、サービスとしてはヘルスケア・文化・観光・スポーツに焦点が当てられている。

小規模店舗の利民サービス業については、20年報告で李克強総理が高く評価した「露店経済」を受けたものであろう。

プラットフォーム企業のサービス手数料引下げは、反独占政策の一環と考えられる。

(2)有効な投資を拡大する

次の施策が列挙されている。

①今年は地方政府特別債を3.65兆元計上し、債券資金の使用を最適化11、建設中のプロジェクトの支援を優先し、使用範囲を合理的に拡大する。

中央予算内投資は6100億元を計上する。

③地域の協調発展を促進する重大プロジェクトを引き続き支援し、「新しいタイプのインフラ、新しいタイプの都市化、水利・交通等の重大プロジェクト」を推進し、いくらかの交通・エネルギー・水利等の重大プロジェクトを実施し、情報ネットワーク等の新しいタイプのインフラを建設し、現代物流システムを発展させる。

政府の投資を更に多くの恩恵が広範に及ぶ民生プロジェクトに傾斜させ、新たに都市の老朽化した住宅団地5.3万カ所の改造に着工し、県都の公共サービス水準を高める。

⑤投資の審査・認可手続を簡素化し、企業の投資プロジェクトの誓約制の実施を推進する。プロジェクト審査・認可制度改革を深化させる12

社会(民間)資本の参加支援政策を整備し、民間投資を妨げる各種の垣根を取り除き、更に多くの分野に社会資本が参入でき、発展でき、成果を上げるようにする。

地方特別債は、20年の3.75兆元から3.65兆元に削減された。地方特別債は、収益性のあるプロジェクトの資金に充てられることになっており、対象が絞り込まれているのであろう。中央予算内投資は、20年の6000億元から6100億元に微増した。

インフラの重点は、民生プロジェクト、交通・エネルギー・水利、情報ネットワーク、現代物流システム、都市の老朽化した住宅団地の改造(20年の3.9万カ所から5.3万カ所に拡大)である。

政府の債務増加を抑制するため、民間資本の参加が期待されている。

なお、20年報告では、内需拡大に「新しいタイプの都市化」「地域発展戦略」の項目が盛り込まれていたが、今回は簡略化されている。

4.5 農村振興戦略を全面実施し、農業の安定的発展・農民の増収を促進する

報告は、「脱貧困地域の発展を引き続き推進し、農業生産にしっかり取り組み、農村の生産生活条件を改善する」とする。

(1)脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大することと農村振興をしっかりと有効にリンクさせる

次の施策が列挙されている。

脱貧困県について、脱貧困の日から5年の過渡期を設け、主要な支援政策の総体としての安定を維持する。

②貧困への逆戻りを防止する健全なモニタリング・支援メカニズムを整備し、脱貧困人口の雇用安定を促進し、技能訓練を強化し、脱貧困地域の産業を壮大に発展させ、他の土地に移転・移住させた者の後続支援をしっかり行い、レベルを分け分類して農村低所得人口への常態化した支援を強化し、大規模な貧困逆戻りが発生しないことを確保する。

③西部地域の脱貧困県で、いくらかの農村振興重点支援県を集中支援する。

④東部・西部の協力と対口支援メカニズムを堅持・整備し、中央の単位と社会のパワーの支援作用を発揮させ、脱貧困地域の内生的発展能力増強を引き続き支援する。

5年間の過渡期を設けて支援を継続するとしており、農村の脱貧困の基礎が不安定で、特に西部地域を中心に大規模な貧困逆戻りが発生する危険性があることを認めている。

(2)食糧と重要農産品の供給保障能力を高める

「食糧安全の要害は、種子と耕地である」とし、「食の問題をしっかり解決することは常に最も大事であり、我々は14億人の食糧安全をしっかり保障するよう努力しなければならないし、その能力を完全に有している」としており、中央経済工作会議で強調された種子イノベーションと耕地保護が再度強調された。主な施策は次のものである。

遺伝資源の保護・利用と優良品種の選別・育成・普及を強化し、農業のカギ・コアとなる技術の難関攻略を展開しなければならない。

ハイレベルの農地・水田の建設基準と質を高め、耕地保護を強化し、耕地の「非農地化」・「非穀物化(穀物以外の栽培)」に断固歯止めをかける。

農業の機械化・スマート化を推進する13。国家食糧安全産業ベルトと農業現代化モデル地区14を建設する。

食糧生産農家への補助を安定させ、籾米・小麦の最低買付価格を適度に引き上げる。家畜・家禽・水産養殖を発展させ、豚の生産を安定・発展させる。農産品の市場供給と価格の基本的安定を保障する。食糧節約キャンペーンを展開する。

食糧安全保障は「発展と安全の統一」政策の一環であり、種子のイノベーションと耕地保護がその中心となっている。また昨年来、習近平総書記は「食事の食べ残しをしない」食料節約運動を強化している。

(3)農村改革と農村建設を着実に推進する

主として、次の施策が挙げられている。

農村基本経営制度を強固にして整備し、土地請負関係の安定・長期不変を維持し、多様な形式で適度な規模化経営を着実に推進する。農村宅地制度の改革テストを穏当・慎重に推進する15新しいタイプの農村集団経済を発展させる16

土地譲渡収入を農業・農村に用いる割合を高める。農村基本公共サービス・公共インフラ建設を強化し、県域内の都市・農村融合発展を促進する。「農村居住環境整備・向上5年行動」を始動する。農村精神文明建設を強化する17

出稼ぎ農民の賃金が期日通り全額支給されることを保障する。帰郷して起業する者への支援を強化し、農民の就業ルートを拡大する。あらゆる手を尽くして農村の所得を増やし、前途により希望をもてるようにする。

農村での雇用拡大・所得向上は、農村の消費を安定させる重要な手段でもある。

  1. 経営許可証取得(審査・認可)が先で、営業執照(商業登記)が後という強制順序をなくし、後者さえ済めばとりあえず営業できるようにすること。
  2. 費用は、全人代の修正で盛り込まれた。
  3. 全人代の修正で盛り込まれた。
  4. 全人代の修正で盛り込まれた。
  5. 全人代の修正で盛り込まれた。
  6. 全人代の修正で盛り込まれた。
  7. 全人代の修正で盛り込まれた。
  8. 全人代の修正により「プロジェクトの評価・審査、人材評価メカニズムの整備」が、より詳細になった。
  9. 全人代の修正で盛り込まれた。
  10. 全人代の修正で盛り込まれた。
  11. 全人代の修正で盛り込まれた。
  12. 全人代の修正で盛り込まれた。
  13. 全人代の修正で盛り込まれた。
  14. 農業現代化モデル地区は、全人代の修正で盛り込まれた。
  15. 全人代の修正で盛り込まれた。
  16. 全人代の修正で盛り込まれた。
  17. 全人代の修正で盛り込まれた。