財政部長インタビュー

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2021年1月12日


はじめに

劉昆財政部長は、1月5日新華社、6日人民日報・経済日報のインタビューに答えている。財政部長が短期間にこれだけ精力的にインタビューを受けることは珍しく、財政の持続可能性に対する危機感の現れとも考えられる。本稿では、インタビューの概要を、重複部分を除いて整理し、紹介する。

1.中央経済工作会議の「積極的財政政策は質・効率を高め、更に持続可能にする」をどう理解するか?

財政政策の「質・効率を高める」とは、主として構造調整を最適化し、管理を強化することに着眼し、一層政策実施メカニズムを整備し、内に向けて潜在力を発掘し、政策の効能と資金の効率を確実に高めることである。

一方面で、常態化した財政資金の直接交付メカニズムを確立・実施し、他方で、使用を節約して人民を豊かにすることを重視する。新たな一年は、倹約して、人民に好い暮らしを送らせねばならない。一般支出の圧縮に力を入れ、減らすべきものは減らさなければならない。同時に、業績効果志向を更に際立たせ、全方位・全プロセス・全カバーの予算業績効果管理システムを早急に確立し、支出についてその効果を問い、効果がなければ問責することを確実に実施しなければならない。

「更に持続可能」とは、主として支出の規模と政策の程度が基本的安定を維持し、今後の新たなリスク・試練に対応するために政策余地を残しておかなければならないということである。財政赤字の対GDP比率と地方政府特別債の規模を合理的に確定し、適度な支出強度を維持し、マクロレバレッジ率の基本的安定を維持する。

同時に、予算の統一を強化し、国家重大戦略任務への財政力保障を強化し、地方が「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策を着実にしっかり行い、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)任務を全面実施することを支援する。

現在、世界経済情勢は依然として複雑・峻厳で、回復は不安定・アンバランスであり、疫病の衝撃がもたらした各種の波及リスクは軽視できない。これは、マクロ政策を急転換してはならないことを要求しており、時勢を推し量り、時機を把握し、精確に施策を行い、一定の力の入れ具合を維持し、疫病防御と経済社会の発展の成果を強固にして拡大し、新たな発展の枠組の構築を推進するための良好な第一歩を踏み出し、新たな気風を示さなければならない。

2.末端の「3つの保障」

疫病の影響を受けて、いくらかの末端の市・県は、基本民生・賃金・運営を保障するプレッシャーが増大している。末端の「3つの保障」の最低ラインを保障するため、財政部門は2020年に多くの有力措置を打ち出した。

2021年の予算は、これまでと同様に地方の財政力保障を強化する。中央財政は「3つの保障」支出を優先的に計上し、省レベル財政部門は、市・県の予算への審査を強化しなければならない。同時に、「3つの保障」執行のモニタリングを強化し、末端の執行情況を動態的に掌握し、「3つの保障」支出の横領・流用を厳禁する。

各地方は(最悪事態を想定して)最低ラインを守る考え方を牢固に樹立し、末端財政の健全・持続可能な運営を確保しなければならない。

3.2021年の減税・費用引下げ

2020年、財政収支がかなり困難な情況下、7種類28項目の減税・費用引下げ政策を連続して公布・実施し、年間の規模は2.5兆元を超えると予想される。第13次5カ年計画期間の減税・費用引下げ規模は、累計で7.6兆元前後に達する。

2021年、財政部門は、眼前の収支圧力を克服し、断固減らすべき税は減税を実現し、引き下げるべき費用は引下げを実現し、企業が身軽に出陣し、更に好く発展するよう助力する。一定の減税・費用引下げの程度を維持する基礎の上に、関連政策の整備に力を入れる。

一方面では、減税・費用引下げ政策を引き続き推進する。財政の受容能力と企業の困難緩和支援政策実施の需要を総合的に考慮し、一定の減税・費用引下げの程度を維持し、引き続き制度的な減税・費用引下げ政策を実施し、企業を支援し、もう一区切り面倒をみる。

他方で、監督管理を厳格にし、税外収入の不合理な伸びを厳しく抑制し、各種規定に反しした企業に係る費用徴収への対策を強化し、減税・費用引下げ政策のボーナス効果を弱化させることを断固防止する。

近年、我々が実施した多くの減税・費用引下げ政策は、一回限り・臨時のものではなく、制度的・持続的なものであり、何年も実施した相乗・累積効果はますます大きくなっており、企業の負担減もますます顕著になっている。

4.財政資金の直接交付

財政資金の直接交付は、党中央・国務院が行った重大政策決定・手配であり、財政マクロ・コントロールの重大な刷新でもある。2020年、財政直接資金交付予算の下達は既に達成し、12月29日までに1.52億元は既に投入・使用され、効果は明白である。

各地方・各部門の共同努力の下、わずか20日の時間を用いて、9割以上の中央直接交付資金が市・県・末端に下達され、省レベル財政が細分化して下達した時間は平均して1週間に過ぎない。資金は精確に点滴灌漑され、わずかの金もすべて末端の早急な需要と企業・人民に恩恵を与える分野に用いられた。

2021年、財政部は財政資金直接交付メカニズムの経験・方法を真剣に総括・整備し、常態化・制度化した手配を形成し、資金の「管理が厳しく、放出が活発で、使用が正確」を推進する。

(1)範囲を拡大する

直接末端の財政力保障に用いる一般性移転支出、年初に直接分配が可能な中央から地方への共同財政権限移転支出、及び条件の備わった特別移転支出を、いずれも直接交付の範囲に組み入れる。2021年の直接交付資金の総量は昨年と比べてある程度増える。

(2)メカニズムを整備する

事業部門の業務指導と監督の職責を強化し、財政監督管理と会計検査の監督を強化する。直接交付資金の監督・コントロール系統のグレードアップを加速し、データの開放・シェアを推進する。全プロセス・全チェーン・全方位の直接交付資金への監督・コントロールを推進する。

(3)サポートを強化する

財政資金直接交付メカニズムを予算管理制度改革の重要内容とし、直接交付メカニズムの予算管理プロセスへの組入れを推進し、財政資金の使用効率を確実に高める。

5.基本民生の最低ラインの保障

民生は小事ではない。財政収支のプレッシャーが更に大きくなっても、民生支出を断固しっかり保障しなければならない。2021年、財政部は引き続き「力を尽くして成果を出し、力量を量って行動する」ことを堅持し、基本民生の最低ラインをしっかり保障し、人民大衆の獲得感の実感が更に十分で、幸福感が更に持続可能で、安全観が更に保障されるよう努力する。

2021年、財政部門は、引き続き基本民生の最低ラインをしっかり保障する。

①雇用優先政策を実施し、雇用補助金等の各種資金を統一的にうまく用いる。重点層への雇用支援を増やし、雇用の基盤をしっかり安定させることを推進し、「労働すれば所得がある」ことを更に保障する。

②教育の質の高い発展を促進し、教育への財政投入を増やす。支援構造を最適化し、「学びたければ教育の機会がある」状況が更に質の高い発展を得るようにする。

③社会保障水準を着実に引き上げ、企業従業員基本年金保険の全国統一を推進する。全国社会保障基金の管理を整備し、投資の運営・管理体制メカニズム改革を深化させる。「老いればケアを受けられる」ことに更に力を入れる。

④都市・農村住民医療保険の1人当たり財政補助基準を適切に引き上げ、突発重大伝染病への対応・処置能力を増強し、「病気になれば医療がある」状況をさらに上の段階に進める。

⑤健康中国の建設を推進する。

⑥文化事業・産業の発展を支援する。

基本民生保障を強化すると同時に、我々は民生政策措置の有効性・持続可能性を更に重視する。民生支出を経済発展と協調させることを確保し、財政力の状況と釣り合わせ、不断に民生のボーナス効果を発現させ、民生保障を未来へと延伸させる。

6.発展と安全の統一

我々は、発展と安全を統一し、(最悪事態を想定して)最低ラインを守る考え方を樹立し、困難を更に十分推し量り、リスクを更に深く思考し、遺漏を塞ぎ、うまく先手を打ち、主動的に激戦をたたかい、システミックリスクを発生させない最低ラインを断固としてしっかり守る。

一方面では、国家の経済安全を擁護し、経済の安全に影響を与える脆弱部分と不足部分に対して、財政・租税政策による支援を強化し、重要産業・重大科学技術等のカギとなる分野の「安全・コントロール可能」を実現する。

他方で、財政自身の安全を保障する。発展促進とリスク防止の関係をうまくバランスさせ、合理的に赤字・債務・支出政策を計上し、地方政府の隠れ債務の解消にしっかり取り組む。

7.地方政府債務の管理

2021年11月末、地方政府債務残高は25兆5595億元であり、全人代が批准した限度額内であり、地方政府債務のリスクは総体としてコントロール可能である。

同時に、地域によってはなお新たに隠れ債務が増えており、個別地域の債務償還リスクがある程度上昇している。これについて、密接に注意を払い、高度に警戒している。財政部は、さらに厳しくリスクを防止し、積極的に対応し、債務リスクを籠の中に確実に封じ込める。

①前門(正規ルート)をしっかり開ける。

マクロレバレッジ率の基本的安定を維持し、政府債務規模を合理的に確定し、地域ごとに地方政府債務限度額を分けて、財政政策のカウンターシクリカルな調節と財政の持続可能性の需要を満足させる。

②後門(裏口)をしっかり塞ぐ。

地方政府が、各種名目で法律・法規に反し、あるいは形を変えて借入れを行うことを厳禁し、地方政府の隠れ債務リスクの解消にしっかり取り組み、リスク防止・コントロールの関門を有効に前面に移して、法律・法規に反した借入行為に断固ブレーキをかける。

③管理を整備する。

「プロジェクトを資金がフォローする」原則に基づき、地方が重点分野に精確に焦点を絞るよう誘導し、債券資金の使用業績効果を高め、経済に対する牽引作用を更に好く発揮させる。

④監督管理を強化する。

地方政府・金融機関の法律・法規に反した資金調達・融資行為に対して、発見するごとに直ちに調査・処分、問責を行い、終身問責とし、遡って責任を調査する。

⑤公開を推進する

地方が地方政府債務を白日のもとに曝すことを着実に推進するよう督促し、社会大衆の監督作用を更に好く発揮させ、市場化・法治化した資金調達の自律的な制約メカニズムの形成を促進する。

地方政府債務に「緊箍児」(孫悟空の頭にはまっている輪)をかぶせ、経済社会の発展に多くの安全弁を取り付ける。これについて、我々は必ず一貫した態度を持続し、後顧の憂いを残さない。

8.脱貧困堅塁攻略の成果と農村振興のリンク

習近平総書記は、「脱貧困・貧困解消は終点ではなく、新たな生活・新たな奮闘の起点である」と指摘している。2021年、財政部門は、緩めることなく、弛むことなく、「安定・強固・引上げ」の三編の文章をうまく綴るよう努力する。

(1)安定

過渡期においては、財政政策と資金規模の総体としての安定を維持し、この基礎の上に財政投入の規模を合理的に計上し、支出構造を最適化し、リンクをしっかり行うための保障を提供する。

(2)強固

脱貧困堅塁攻略の成果を強固にして拡大する任務に重点を置き、農村振興の基盤が弱い地域に重点的に傾斜し、西部地域が脱貧困の成果を強固にすることを重点的に支援し、中央が確定した国家農村振興重点支援県に対し、適切な傾斜支援を与える。

(3)引上げ

農業関連の財政資金を産業プロジェクトに用いる投入比率を徐々に引き上げ、農民大衆が自発的に発展する内生動力を奮い立たせる。