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新5カ年計画党中央建議の注目点(1)

中国経済レポート

 

新領域研究センター 田中 修

2020年12月22日


はじめに

中国共産党19期5中全会は、2020年10月29日、「第14次5カ年計画および2035年長期目標制定に関する党中央建議」(以下「建議」)を決定した。本稿では、今回の「建議」の特徴について、留意すべき点を指摘することとしたい。

1.背景としての経済情勢(第1章2.)

今回の「建議」の起草作業は4月13日にスタートしているが、この時期は、武漢市の封鎖が解除されて間もないタイミングであり、新型コロナの流行による国内経済・世界経済の落込みは大きかった。このため、4月15日の党中央政治局会議は、これまでの「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)に加え、新たに「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)を打ち出し、財政赤字の大幅拡大・金融緩和を含む内需拡大策を決定した。

また、米中経済摩擦は米国の大統領選を控え、再び激化する傾向にあり、「建議」起草は内憂外患の中で進んだのである。「建議」では、「わが国の発展環境は、深刻・複雑な変化に直面している」とし、国際情勢については「現在、世界は百年未曾有の大変局を経て、新たな科学技術革命と産業の変革が深く発展し、国際パワーバランスは深刻に調整されている」とする。国内情勢については、中国の持続的発展には多くの方面で優位性・条件があるとしながらも、「わが国の発展がアンバランス・不十分という問題が依然際立っており、重点分野・カギとなる部分の改革任務は依然として非常に困難で、イノベーション能力が質の高い発展の要求に適応せず、農業の基礎は堅固ではなく、都市・農村、地域の発展と所得分配格差はかなり大きく、生態環境保護は任重くして道遠しで、民生保障は不足部分が存在し、社会ガバナンスはなお脆弱部分がある」とし、多くの矛盾を抱えていることを認めている。

そのうえで、「変化を正確に認識し、変化に科学的に対応し、変化を主動的に求め、危機の中で機先を制し、変局の中で新たな局面を開き、チャンスをしっかり掴み、試練に対応し、利に赴き害を避け、勇気を奮って前進しなければならない」としている。

2.起草過程
(1)文件起草グループの構成

胡錦濤指導部の時代には、「建議」文件起草グループの組長は温家宝総理が担当し、胡錦濤総書記は大所・高所から指導を行うという形式を採用していた。しかし、2015年の第13次5カ年計画建議の起草プロセスでは、習近平総書記が自ら文件起草グループの組長を担当し、李克強総理と張高麗筆頭副総理が副組長として支える体制に変更された。

今回は、習近平総書記が引き続き「建議」文件起草グループの組長を担当しただけでなく、副組長が3人に増やされ、李克強総理・韓正筆頭副総理に、新たに王滬寧党書記処書記が加わっており、王滬寧の役割が高まっているのみならず、より党の集中・統一的な指導の色合いが強まっている。

(2)「建議」の構成

2015年建議は、指導思想として「新発展理念」が新たに提起されたこともあり、この新発展理念の重要性をどうプレイアップするかが重視された。

このため、第13次5カ年計画は3部構成となり、第1部(第1章・第2章)は「総論」部分、第3部(第8章)「結語」は、これまで通りであったが、各論の第2部は、第3章~第7章の5章構成に大きくまとめられ、新発展理念の5項目「イノベーション、協調、グリーン、開放、(発展の成果を)共に享受」に、すべての政策各論が振り分けられることになった。

しかし、要綱の段階になると、この構成は全面的に見直され、全体は20編・80章に戻った。やはり全ての政策を5つに大括りすることには無理があったのであろう。

今回の起草過程では、最終的に、多数のメンバーが賛成する個別章立てで、案を策定することとされた。

(3)座談会・ネットの活用

7月~9月、習近平総書記は、自ら7回の特定テーマ座談会を開催した。具体的には、 ①企業家座談会、②長江デルタ一体化発展座談会、③経済社会分野専門家座談会、④科学者座談会、⑤末端(基層)代表座談会、⑥教育・衛生・スポーツ専門家代表座談会、⑦党外人士座談会、である。

今回の特徴は、単に地域ブロック別に座談会を開催するのでなく、テーマ別に専門家を集めていることであり、特に末端の代表から意見を聴取していることである。

また、8月16日には、人民日報、新華社、中央ラジオ・テレビ総台に所属する官のネット、ニュースアプリ及び学習プラットホーム「学習強国」に、それぞれ第14次5カ年計画建言専門欄を開設し意見を募った。

今回は、インターネットという新たな手段を活用して、国民から幅広く意見を聴取するという試みが行われた。また、党内部では、一部老同志から意見を聴取したことが特記されている。

3.指導方針(第2章4.)

前半は、これまでの歴代の指導思想・スローガンが羅列されている。後半は、

「質の高い発展をテーマとし、サプライサイド構造改革を主線とし、改革・イノベーションを根本動力とし、人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要を満足させることを根本目的とし、発展と安全を統一し、現代化した経済システムの建設を加速し、『国内大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組』の構築を加速し、国家のガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化を推進し、経済運営の長期安定、社会の安定・調和を実現し、社会主義現代国家の全面建設のために好いスタートを切り、好い歩みを踏み出す」。

となっている。ここには、次の特徴がみられる。

(1)「質の高い」発展がテーマ

5中全会で習近平総書記が行った「建議」の説明(以下「説明」)では、質の高い発展をテーマとすることは、「わが国の発展段階・発展環境・発展条件の変化に基づいて行った科学的判断である」とし、「現在、わが国社会の主要矛盾は、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展との間の矛盾に転化しており、発展における矛盾・問題は発展の質に集中的に体現されている。これは我々に、発展の質の問題を更に際立てて位置づけ、発展の質・効率を高めることに力を入れなければならないと要求している」としている。

(2)発展と安全の統一

習近平総書記の「説明」は、「安全は発展の前提であり、発展は安全の保障」であるとしている。

これまでは、政策の考え方としては、「発展・改革・安定の関係を正しく処理する」という表現が一般であった。2019年は建国70周年と米中経済摩擦が重なり、「6つの安定」が強調されている。

しかし20年にはいり、新型コロナによる国内・国際経済の後退と、米中経済摩擦の激化・長期化により、指導部は新たに「安全」の要素を考慮せざるを得なくなったのである。「6つの保障」は、正に安全の観点を重視している。

「建議」は、第13章「発展と安全を統一し、更にハイレベルな平安中国を建設する」を特に設け、次のような内容を盛り込んだ(経済以外は要点のみ)。

①国家安全のシステム・能力の建設を強化する

ネットワークの安全保障のシステムと能力の建設を全面強化する。敵対勢力の浸透・破壊・転覆・分裂活動を厳密に防止し、厳格に取り締まる。

②国家経済の安全を確保する

経済安全リスクの事前警告・防止・コントロールのメカニズム・能力の建設を強化し、重要産業・インフラ・戦略資源・重大科学技術等のカギとなる分野の安全・コントロール可能を実現する。食糧の安全を確保し、エネルギー・戦略的鉱産資源の安全を保障する。

水利、電力、水供給、石油・ガス、交通、通信、ネットワーク、金融等の重要インフラの安全を擁護し、水資源を集約し安全利用する水準を高める。金融の安全を擁護し、システミックリスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。

生態の安全を確保し、核の安全の監督管理を強化し、新しいタイプの分野の安全を擁護する。海外利益の保護とリスクの事前警告・防止システムを構築する。

③人民の生命の安全を保障する

危険化学品・鉱山・建築施工・交通の重大・特大安全事故に有効な歯止めをかける。生物の安全保護を強化し、食品・薬品等の人民の健康に関わる製品・サービスの安全保障水準を高める。

洪水・冠水・干ばつ、森林・草原火災、地質災害、地震等の自然災害防御プロジェクトの基準を高める。国家緊急管理システムを整備し、緊急物資保障システムの建設を強化し、巨大災害保険を発展させ、防災・減災・災害対策・災害救助の能力を高める。

④社会の安定と安全を擁護する

新情勢下の人民の内部矛盾を正確に処理する。

また、習近平総書記は、12月11日の党中央政治局集団学習会でも国家安全政策を取り上げ、「発展と安全を併せ重んじることを堅持し、質の高い発展とハイレベルな安全の良性の相互作用を実現し、発展を通じて国家安全の実力を高めるのみならず、国家安全の考え方・体制・手段の刷新を深く推進し、経済社会の発展に有益な安全環境を作り上げ、発展の中で更に多く安全要因を考慮し、発展と安全の動態的バランスの実現に努力し、国家安全政策の能力・水準を全面的に高めなければならない」と要求している。

(3)「2つの循環」

新型コロナの影響で、グローバル産業チェーン・サプライチェーンが寸断され、国内市場を基盤としたチェーンの再構築が必要となっている。これに加え、米中経済摩擦の激化の中で、米国は国際大循環の中から中国企業・中国経済の切離しを図っているようにみえる。このような情況下では、発展の中心を国内市場・内需に置くことが必要となってくるのである。

「建議」「第5章16.国内大循環を円滑にする」では、「強大な国内市場に依拠して、生産・分配・流通・消費の各段階を貫通させ、業種の独占と地方保護を打破し、国民経済の良性の循環を形成する。供給構造を最適化し、供給の質を改善し、供給システムと内需の適合性を高める。金融・不動産と実体経済のバランスのとれた発展を推進し、川上・川下、生産・供給・販売が有効にリンクし、農業・製造業・サービス業・エネルギー資源等の産業の連携・協調を促進する。生産要素の市場による配分と商品・サービスの流通を妨げる体制メカニズムの障碍を打破し、全社会の取引コストを引き下げる。内需拡大の政策サポート体系を整備し、需要が供給を牽引し、供給が需要を創造する更にハイレベルの動態的バランスを形成する」としている。

ただ、この内需中心主義は、海外からは、中国が国際大循環から離脱し、対外開放政策を放棄して、過去の「自力更生」に回帰するものと受け取られかねない。このため、習近平総書記は「説明」で、「新たな発展の枠組は、決して閉鎖的な国内循環ではなく、開放的な国内・国際2つの循環である」と強調している。「建議」「第5章17.国内・国際2つの循環を促進する」でも、「国内大循環により世界の資源・要素を吸収し、国内・国際2つの市場の2つの資源を十分利用し、内需と外需、輸入と輸出、外資導入と対外投資の協調発展を積極的に促進し、国際収支の基本的バランスを促進する」としている。

4.「計画期間」に遵守すべき原則(第2章5.)
(1)党の全面指導を堅持する

「経済社会の発展を党が指導する体制メカニズムを堅持・整備し、中国の特色ある社会主義制度を堅持・整備し、新発展理念を貫徹し、新たな発展の構造を構築する能力・水準を不断に高め、質の高い発展を実現するために根本保証を提供する」。

(2)人民を中心とすることを堅持する

「人民の主体的地位を堅持する。共同富裕の方向を堅持し、『発展は人民のため、発展は人民に依拠し、発展の成果を人民と共に享受する』ことを常にやり遂げ、人民の根本利益を擁護し、人民全体の積極性・主動性・創造性を奮い立たせ、社会の公平を促進し、民生福祉を増進し、人民の素晴らしい生活への願いを不断に実現する」。

(3)新発展理念(イノベーション・協調・グリーン・開放・共に享受)を堅持する

「発展の全プロセス・各分野に新発展理念を貫徹し、新たな発展の枠組を構築し、発展方式を確実に転換し、『質の変革、効率の変革、動力の変革』を推進し、『更に質が高く、更に効率が高く、更に公平で、更に持続可能で、更に安全な』発展を推進する」。

(4)改革開放の深化を堅持する

「断固改革を推進し、断固開放を拡大し、国家のガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化建設を強化し、質の高い発展・高品質の生活を制約する体制メカニズムの障碍を打破し、『資源配分の効率を高めることに有利で、全社会の積極性を動員することに有利な』重大改革開放措置を強化し、発展の動力・活力を引き続き増強する」。

第13次5カ年計画の指導思想である「新発展理念」の5項目には、「開放」は挙げられていたが、「改革」は入っていなかった。今回、原則に改革が盛り込まれたことは、前進である。「建議」は第6章「改革を全面深化し、ハイレベルの社会主義市場経済体制を構築する」を設けており、その冒頭では、「資源配分における市場の決定的役割を十分発揮させ、政府の役割を更に好く発揮させる」と、2013年党18期3中全会の表現を再掲している。

(5)システムの概念を堅持する

「『展望性のある思考、全局的な計画、戦略的な手配、全体的な推進』を堅持し、国内・国際の2つの大局を統一し、発展・安全の2つの大事にしっかり取り組み、全国を一つとすることを堅持し、中央・地方と各方面の積極性を更に好く発揮させ、根底基盤を固め、優位性を発揚させ、不足部分を補充し、脆弱部分を強化し、重大リスク・試練の防止・解消を重視し、発展の質・構造・規模・速度・効率・安全の統一を実現する」。

習近平総書記の「説明」は、「中国の発展環境は深刻・複雑な変化に直面しており、発展がアンバランス・不十分の問題が依然際立ち、経済社会の発展における矛盾は錯綜し複雑である」とし、システムの概念から出発して計画・解決し、各分野の政策と社会主義現代化建設を全面協調させて推進しなければならないとする。

5.主要目標
(1)第14次5カ計画期間(以下「計画期間」)(第2章6.)

以下の項目が掲げられている。

①経済発展が新たな成果を得る

「発展は一切の問題を解決する基礎・カギである。発展は新発展理念を堅持し、質・効率を顕著に向上させる基礎の上に、経済の持続的で健全な発展を実現しなければならない。成長の潜在力が十分に発揮され、国内市場は更に強大となり、経済構造は更に最適化され、イノベーション能力が顕著に向上し、産業の基礎がハイレベル化し、産業チェーンの現代化水準が顕著に向上し、農業の基礎が更に堅固になり、都市・農村・地域の発展の協調性が顕著に増強され、現代化した経済システムの建設が重大な進展を得る」。

②改革開放が新たな歩みを踏み出す

「社会主義市場経済体制を更に整備され、ハイレベルの市場システムが基本的に実現される。市場主体は更に活力が充満し、財産権制度改革と(生産)要素の市場による配分改革が重大な進展を得て、公平な競争制度が更に健全となり、更にハイレベルの開放型経済新体制が基本的に形成される」。

③社会の文明程度が新たな向上を得る

「社会主義核心価値観が人心に深く入る。人民の思想・道徳の素質、科学・文化の素質、心身健康の素質が顕著に向上し、公共文化サービス体系と文化産業体系が更に健全となり、人民の精神文化生活が日増しに豊富となり、中華文化の影響力が一層向上し、中華民族の凝集力が一層増強される」。

④生態文明建設は新たな進歩を実現する

「国土空間の開発・保護の枠組が最適化され、生産生活方式のグリーン転換は顕著な成果を得る。エネルギー・資源配分は更に合理的になり、利用効率が大幅に引き上げられ、主要汚染物質の排出総量は持続的に減少し、生態環境が持続的に改善され、生態安全の壁が更に堅固となり、都市・農村の居住環境が顕著に改善される」。

⑤民生・福祉が新たな水準に達する

「更に十分で更に質の高い雇用を実現し、個人所得の伸びが経済成長と基本的に同歩調で、分配構造が顕著に改善され、基本公共サービスの均等化が顕著に向上する。全国民の教育程度が不断に上昇し、多層レベルの社会保障システムが更に健全となり、衛生・健康システムが更に整備され、脱貧困堅塁攻略の成果が強固に拡大し、農村振興戦略が全面推進される」。

⑥国家ガバナンス機能が新たな向上を得る

「社会主義民主法治が更に健全となり、社会の公平・正義が一層顕彰され、国家行政システムが更に整備され、政府の役割が更に好く発揮される。行政の効率・公信力が顕著に上昇し、社会ガバナンスとりわけ末端のガバナンス水準が顕著に向上し、重大リスクを防止・解消する体制メカニズムが不断に健全となり、突発的公共事件への緊急対応能力が顕著に増強され、自然災害の防御水準が顕著に向上し、発展・安全の保障が更に有力となり、国防・軍隊の現代化が重大な歩みを踏み出す」。

(2)2035年までの長期目標(第1章3.)

社会主義現代化を基本的に実現し、「中国の経済実力・科学技術実力・総合国力が大幅に飛躍し、経済総量と1人当たり個人所得が更に新しく大きな段階に上がり、カギとなる技術・コア技術は重大なブレークスルーを実現し、イノベーション型国家の前列に入る」とした。具体的には、以下の項目が挙げられている。

①新たなタイプの工業化・情報化・都市化・農業現代化を基本的に実現し、現代化した経済システムを実現する。

②国家のガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化を基本的に実現し、人民が平等に参加し、平等に発展する権利が十分保障され、法治国家・法治政府・法治社会が基本的に実現される。

③文化強国・教育強国・人材強国・スポーツ強国・健康中国を実現し、国民の素質と社会の文明程度が新たな高みに達し、国家の文化・ソフトパワーが顕著に増強される。

④グリーン生産生活方式が広範に形成され、CO2排出はピークに達した後、安定の中で下降し、生態環境は根本的に好転し、美しい中国の建設目標が基本的に実現される。

⑤対外開放の新たな枠組が形成され、国際協力・競争へ参加するための新たな優位性が顕著に増強される。

⑥1人当たりGDPが中等先進国水準に達し、中等所得層が顕著に拡大し、基本公共サービスは均等化を実現し、都市・農村、地域間の発展格差と国民生活水準の格差が顕著に縮小する。

⑦平安な中国建設が更にハイレベルに達し、国防・軍隊の現代化を基本的に実現する。

⑧人民の生活が更に素晴らしくなり、人民の全面発展・人民全体の共同富裕が更に顕著な実質的進展を得る。

習近平総書記の「説明」によれば、「建議」起草プロセスでは、2035年までの経済総量あるいは1人当たり所得の倍増目標を明確に提起すべきとの意見もあった。しかし、習近平総書記は、そのような目標の実現は可能としながらも、将来の不安定・不確定要因を考慮し定量的表現を避けている。第14次5カ年計画のテーマは「質の高い発展の推進」であり、ここで計画期間や2035年までの成長率にこだわるならば、21年以降のマクロ政策の議論が過去の成長率至上主義に逆戻りしかねない。このため、表現を慎重にしたのであろう。

6.人民全体の共同富裕の促進

習近平総書記の「説明」では、「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、人民大衆の共同願望である。我々が経済社会の発展を推進するのは、結局人民全体の共同富裕を実現することに帰する」とされる。

中国は、農村貧困人口5575万人の2020年までの全部脱貧困を実現した。しかしながら、農村貧困人口の脱貧困が実現したとしても、李克強総理が20年5月の全人代直後の記者会見で指摘したように、中国にはまだ相当数の相対的貧困層があり、都市・農村、地域間の発展と所得分配格差はかなり大きく、「説明」は「人民全体の共同富裕の促進は長期の任務」であり、人民全体の共同富裕の促進を更に重要と位置づけ、この目標が更に積極的な成果を上げるよう努力しなければならない、としている。

このため「建議」は、2035年までの長期目標において、「人民全体の共同富裕が、更に顕著な実質的進展を得る」ことを提起し、第12章「人民生活の質の改善」では、「共同富裕を着実に推進する」ことを強調した。「説明」は、「このような記述は、党の全会文件では初めてである」とし、「人民全体の共同富裕を促進する道を不断に前へと邁進することに資するものである」としている。

具体的に「建議」は、「第12章42.人民の所得水準を高める」で、次の施策を列挙している。

①「労働分配を主体とし、多様な分配方式が併存する」ことを堅持し、第1次分配における労働報酬のウエイトを高め、賃金制度を整備し、賃金が合理的に伸びる健全なメカニズムを整備し、低所得層の所得の引上げに力を入れ、中等所得層を拡大する。

②各種要素を分配する政策・制度を整備し、各種生産要素の報酬を市場により決定する健全なメカニズムを整備し、土地・資本等の要素の使用権・収益権を通じて中低所得層の要素所得を増やすことを模索する。

③再分配メカニズムを整備し、税制・社会保障・移転支出等の調節の程度・精確性を高め、高すぎる所得を合理的に調節し、違法所得を取り締まる。

④第3次分配の役割を発揮させ、慈善事業を発展させ、所得と富の分配構造を改善する。

(以下、「新5カ年計画党中央建議の注目点(2)」に続く)