新型肺炎とマクロ政策(57)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年11月12日


はじめに

本稿では、11月6日の国務院常務会議、金融当局記者会見、11日の国務院常務会議の概要を紹介する。

11月6日 国務院常務会議
(1)財政の民生支出への保障強化

今年に入り、疫病は、出稼ぎ農民・貧困家庭・非正規雇用者等を含む低所得層の雇用・所得・生活にかなり大きな影響を生み出した。

各地方・各部門は党中央・国務院の手配を真剣に実施し、政府支出を大幅に縮減し、基本民生保障を増やした。1-9月期、年金と離退職金は1人当たり前年同期比8.7%増え、社会救済・補助は1人当たり12.9%増え、疫病による打撃の特殊困難な情況下において、基本民生はしっかり保障され、民心を安定させた。

今後、「力を尽くして実行し、力量に応じて実行する」ことを堅持し、民生の保障・改善の水準を徐々に高めなければならない。

①予算計上において民生支出を優先的に保障し、国家が打ち出す統一的な民生政策に対し、保障すべきものはすべて保障する。

中央と地方の財政権限と支出責任の区分改革要求を実施し、教育・老人ケア・医療・最低生活保障・住宅保障等の民生事項について、支出責任に応じて全額保障する。

②民生分野の制度を整備する。

民生資金が直接到達する長期有効なメカニズムを確立し、資金が精確に受益対象に直接到達することを確保する。

国家基本公共サービスリストの基礎の上に、実際と結びつけて民生支出のリスト管理制度の確立を模索し、教育・医療保障分野におけるテストを先行させ、徐々に範囲を拡大する。

③民生優遇政策の獲得感と持続可能性を増強する。

主動的に成果を出し、民生の不足部分の補充を加速するのみならず、民生支出と経済発展との協調、財政力状況との適合性を確保し、現実からの乖離・収入が支出に追いつかなくなることを防止する。

計画・財政力を超えたプロジェクトの実施を厳禁する。

④監督を強化する。

民生政策の実施が不十分あるいは持続不可能な場合には、即時是正を督促しなければならない。

民生資金を留保・流用、横領した場合には、厳格に調査処分・問責しなければならない。

⑤政府へ倹約を堅持し、一般性支出を断固圧縮し、節約した資金を民生とりわけ民生の困難事項の解決、困窮大衆の最低ラインの保障増加に、重点的に用いる。

(2)愛国衛生運動

愛国衛生運動は人民の健康促進・保護にとって重要な役割を発揮しており、常にたゆまず取り組まなければならない。冬季は、愛国衛生運動展開の重要な時点であり、関係部門は関連政策をしっかり推進しなければならない。当面、愛国衛生運動を冬季疫病防御、インフルエンザ等その他感染症対策と結びつけなければならない。

①冬季の常態化した疫病防御をしっかり行う。

まめな手洗い、室内の換気、食事取り分け・取り箸等の好い方法を維持し、防御の必要に応じ、マスク着用・ソーシャルディスタンスの維持等の要求をしっかり実施する。

防御の経験を総括し、疫病情勢を科学的に検討・判断し、防御に集中した疫病の応急事前対策案を整備し、防疫物資の保障を強化し、流動調整・検査・救済等の防御の力の入れ具合を合理的に配分調整し、実際に応じて正確な方法を見出し、情報を公開透明に発表する。

同時に、インフルエンザ等多くの病気の共同防御をしっかり行う。

②都市・農村の環境衛生総合対策を全面推進する。

農産物取引市場、小レストラン、老朽化した住宅団地、都市・農村の結合部分等の重点場所と脆弱部分に焦点を絞り、引き続き環境衛生管理にしっかり取り組み、病気をもたらす生物の繁殖環境を除去する。

③公共衛生施設とゴミ・汚水等の処理施設の建設を強化し、乱排出による汚染を厳格に取り締まる。

医療廃棄物と汚水処理を整備する。

④大衆を誘導して、良好な衛生習慣を養成し、健康な生活方式を唱導し、「禁煙・飲酒制限、適量の運動、合理的な食膳」を提唱し、健康知識の科学的普及を展開し、健康教育を国民教育体系に組み入れ、大衆の健康素養と全人民の健康水準を高め、「健康中国」の建設を推進する。

11月6日 金融当局記者会見
(1)金融政策による実体経済支援

①穏健な金融政策を更に柔軟・適度にした。

預金準備率引下げ、中期貸借ファシリティー、公開市場操作、再貸出、再割引等の金融政策手段を総合的に運用し、流動性の合理的充足を維持し、市場の全体金利の安定の中での低下を促進した。

②貸出プライムレート改革のボーナス効果を引き続き発揮させた。

中期貸借ファシリティーと公開市場操作の落札金利は0.3ポイント低下し、貸出プライムレートの同歩調の低下をもたらし、企業向け貸出金利の顕著な低下を推進した。

期限どおり、2020年8月末に既存変動金利決定基準の集中転換を順調に完成し、企業の既存借入金利の利息支出を引き下げた。

③構造的金融政策を運用して、精確に点滴灌漑を行った。

3回に分けて1.8兆元の再貸出・再割引を増やし、段階的に完全実施した。

中小・零細企業向け貸出の段階的な元本償還・利払猶予政策、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス支援政策の2つの実体経済に直接到達する金融政策手段の実施を加速し、小型・零細企業への直接支援を一層強化した。

④銀行の手数料削減・利益移譲を督促した。

貸出・支援貸出・貸出増・審査段階の手数料徴収行為を規範化し、銀行が各手数料引下げ・利益移譲政策要求を実施し、主動的に実体経済に利益移譲するよう督促した。

⑤企業が再編と債務の株式転換を進めることを支援した。

相当多くの大型企業と企業グループが銀行・保険・信託機関と協議して、債務の猶予・再編を請求し、一部の元本・利息を猶予・減免してもらい、一部の特殊困難企業には破産・再編を実施した。

総じて見ると、各措置の成果は顕著であり、実体経済への金融サービスの質・効率は引き続き向上した。

マネー・貸出は合理的に伸びた。9月末、M2は10.9%増で、前年同期より2.5ポイント高く、社会資金調達規模は13.5%増で、同2.8ポイント高く、昨年より顕著に高かった。

資金調達コストは顕著に低下し、9月の企業向け貸出金利は4.63%で、前年同期より0.61ポイント低下し、歴史的にかなり低水準にある。

9月末、小型・零細企業向け融資は新たに3兆元増え、前年同期より1.2兆元多い。小型・零細経営主体3128万社を支援し、前年同期比21.8%増えた。9月に新たに行った小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの平均金利は4.92%であり、昨年12月より0.96ポイント低下した。

人民銀行と銀行保険監督管理委員会のデータ試算によると、今年1-10月の金融系統機関は、金利引下げ、「中小・零細企業への元本償還・利払猶予、小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンス」の2つの直接到達手段、手数料徴収削減、企業の再編と債務株式転換への支援等のルートを通じて、既に実体経済に利益を約1.25兆元移譲しており、年間で利益移譲1.5兆元の目標を実現できると見込まれる。

(2)銀行・保険業の現状

①資産・負債は平穏な伸びの態勢を示した。

9月末、銀行業の総資産は314.7兆元で、前年同期比10.5%増であった。うち、各貸出が178.6兆元、同12.6%増である。総負債は238.7兆元で、同10.7%増である。

保険会社の総資産は22.4兆元で、同12.4%増である。

②実体経済へのサービスの質・効率は引き続き向上した。

1-9月、人民元貸出は16.3兆元増え、前年同期比2.6兆元増となった。銀行・保険機関の新規債券投資は8兆元を超えた。

民営企業向け貸出は5.4兆元増えた。製造業向け貸出は2兆元増え、昨年1年間の3.6倍となった。保険業の支払は9989億元であった。

③リスク制御能力はかなり高水準を維持した。

1-9月、銀行業は新たに貸倒引当金1.5兆元を取り崩し、前年同期より2068億元多かった。9月末、貸倒引当金カバー率は177%である。商業銀行の純資本額は23.8兆元で、自己資本比率は14.41%である。現在、保険会社のソルベンシー・マージン比率は242.6%である。

④主要経営・監督管理指標は合理的区間にある。

1-9月、商業銀行は純利潤1.5兆元を実現し、全絵年同期比-8.3%となった。銀行業の不良債権処理は1.7兆元で、前年同期より3414億元多かった。9月末、銀行業の不良債権残高は3.7兆元であり、不良債権比率は2.06%であった。銀行・保険機関の流動性は、総体として平穏を維持した。

(3)銀行業の利益移譲

1-9月、21の全国性銀行のサービス手数料削減・利益移譲は1873億元であり、銀行の今年1年間の手数料削減・利益移譲は3600億元前後になると見込まれる。

①元本償還・利払猶予を実施した

現在、既に3.7兆元を超える企業向け貸出の元本・利息に猶予を実施している。

②民営、小型・零細企業等の脆弱分野への支援を強化した。

9月末、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスは、前年同期比30.5%増となった。1-9月、新たな小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの金利は、昨年1年に比べ、0.82ポイント低下した。

③銀行・保険機関の手数料徴収を断固整理・規範化した。

④規定に反した手数料徴収問題の対策に力を入れた。

11月11日 国務院常務会議

国務院第7回大督査(督促・監査)の情況報告を聴取した。会議の概要は以下のとおりである。

中央経済工作会議と政府活動報告の手配・要求を実施するため、最近国務院は全国14省(区・市)と新疆生産建設兵団に対し、督査を展開し、政策実施の督促と、地方経験の総括・末端の建議の聴取・実際の問題の解決推進を結びつけた。

督査情況から見ると、今年に入り、各地方は党中央・国務院の各政策決定・手配を真剣に貫徹し、2兆元の新たに増やした財政資金の市・県・末端への直接交付、企業・人民への直接優遇を推進し、とりわけ企業・大衆は、国家が実施した2.5兆元の減税・費用引下げ等の政策は、市場主体をしっかり保障し、市場の自信を奮い立たせるための「恵みの雨」となり、経済の基盤をしっかり安定させるために重要な支えの役割を発揮した、とあまねく評価している。

今後、引き続き督励実施を強化し、既に定めた各政策の全部実施・実現を確保しなければならない。政策の実施で主動的な成果を出し、成果が顕著な地方については、インセンティブを与えなければならない。

督査で発見した政策実施の手抜き、市場主体に対する勝手な負担増、資金の放置等の問題については、リストアップして通報し、期限を決めて是正させなければならない。是正が不十分な場合は、公開して責任を追及しなければならない。

今年の政策を完全実施するだけでなく、来年の重点政策の策定とリンクさせなければならない。