予算執行情況報告

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年8月27日


はじめに

劉昆財政部長は、8月8日、全人代常務委員会に対し、今年に入って以降の予算の執行情況を報告した。本稿では、このうち下半期の財政政策を中心に概要を説明する。

1.財政政策の執行情況
(1)財政政策のカウンターシクリカルな調節作用を積極的に発揮した

①新たに増やす財政資金の末端への直接交付メカニズムを確立した

特殊移転支出メカニズムを確立し、新たに増やす財政資金を直接市・県の末端に交付し、直接企業・国民に恩恵を与えた。

②迅速に予算を下達した

直接交付する資金の下達を加速し、6月末前に条件を具備した資金を全部地方に下達した。

③政府債券の発行を加速した。

7月30日までに、1兆元の疫病対策特別国債を既に全部順調に発行し、平均発行金利は2.77%であった。地方政府債券4.53兆元の限度額を既に全部下達した。7月15日までに、全国各地方が新たに増やした地方債は2.8兆元であり、今年の新たに増やす債券の59%を占める。うち、2.18兆元を支出し、既に発行した債券の78%を占める。

(2)疫病防御迎撃戦の勝利を支援した

①疫病防御資金と政策保障を強化した。

患者の救済・治療費用の負担軽減、疫病対策人員の待遇向上、疫病防御物資の供給保障、ワクチン・薬品研究開発の加速等を軸に、一連の財政・税制支援政策を打ち出した。6月末までに、各レベル財政は疫病防御資金1756億元を計上し、人民大衆が費用問題を心配して受診しないことがないようにし、各地方が資金問題によって医療救済・治療と疫病防御に悪影響を与えないようにした。

②公共衛生体系の建設を強化した。

国家医学センター・地域医療センターの建設を着実に推進し、現代化した疾病コントロールシステムに適応した人材の育成・訓練をしっかり実施することを支援した。

(3)3大堅塁攻略戦を支援した

①脱貧困決戦・決勝の目標・任務の達成を確保した。

中央財政特別貧困支援資金1461億元を既に全部下達し、このほか総合財政力補助金290億元を下達して、残った脱貧困堅塁攻略任務と脱貧困成果の定着を確保した。

②汚染対策堅塁攻略戦を断固支援した。

1-6月の生態環境支出は658億元であり、大気・水質・土壌等のモデル的重大戦役を支援し、重点生態保護・修復を展開し、地域の生態システムサービス機能と生態環境の質を高めた。

③財政・金融リスクを防止・解消した。

地方が総合的に措置を採用し既存の隠れ債務を穏当に解消するよう督促し、地方政府の規則違反の借入の責任追及を強化し、隠れ債務の増大に断固歯止めをかけた。

(4)庶民の雇用保障を支援した

①雇用の安定・拡大に努力した。

中央財政雇用補助金538.78億元を既に全部下達した。失業保険基金の剰余から1000億元超を取り出し、職業技能向上特別資金の使用を加速し、地方の各就業・起業政策実施を促進した。雇用安定保険料返還支援を強化し、1-6月既に雇用安定保険料返還資金636億元を交付し、申請・受領条件を緩和し、返還基準を高め、企業の安定による雇用保障に力を入れた。

②重点層の雇用対策を際立てて支援した。

科学研究プロジェクトを奨励し、10万の科学研究助手ポストを開発した。農村義務教育学校の教師特別ポスト計画の実施を支援し、今年の募集規模を10.5万人まで拡大した。

③失業者の基本生活を保障した。

失業保険基金を引き続きうまく用いて、高齢失業者の失業保険受領期限を延長し、申請・受領手続を円滑にした。失業保険金の受領が満期になっても就業できない失業者、失業保険金の受領条件に合致しない失業者に対し、6カ月の失業補助金を交付した。保険加入の失業出稼ぎ農民に一時的な生活補助あるいは臨時生活補助を交付した。失業保険金と失業補助金を受領している失業者に対し価格上昇臨時補助金を交付し、段階的に補助基準を引き上げた。

(5)基本民生を支援した

①公平で質の優れた教育を支援した。

2020年春学期から、全国義務教育生の1人当たり公用経費基準定額を統一し、中西部地域の基準を50元高めた。

②年金をしっかり保障した。

6月末までに、既に年金保険補助経費7678.27億元を下達し、年金保障水準を着実に高めた。

③基本医療需要を保障した。

6月末までに、既に都市・農村住民医療補助金3525.35億元を下達し、地方が住民医療保障の1人当たり補助基準を毎年550元に高めることを支援した。中央財政医療救済補助金320.1億元を全部下達した。

④民生の最低保障をしっかり行った。

困窮大衆救済補助金1660.47億元を下達した。

⑤基本住宅保障システムを整備した。

1-6月、全国の社会保障的性格をもつ安住プロジェクト財政支出1810億元で、各バラック地区改造を支援し、都市の老朽化した住宅団地の改造を加速した。農村危険家屋改造補助金184.5億元を既に全部下達した。

(6)市場主体の保障を支援した

①減税・費用引下げを強化した。

今年1-6月、新たに減税・費用引下げを1兆5045億元実施し、市場主体の負担を有効に軽減した。前期に打ち出した一部の段階的減税・費用引下げ政策の執行期限を今年年末にまで延長した。小型・零細企業、個人工商事業者の所得税を来年まで納付猶予した。

②資金調達難・資金調達コスト高緩和を支援した。

起業債務保証貸出の利息補助支援を強化し、貸出額の上限を高め、申請条件を緩和し、起業債務保証貸出の増額・範囲拡大を推進した。

(7)食糧・エネルギーの安全保障を支援した

①食糧等重要農産品の供給を全力で保障した。

農地・水田建設補助金682.8億元を既に全部下達し、食糧生産機能区と重要農産品生産保護区を重点に、ハイレベルの農地・水田と農地・水田水利建設を大いに推進し、農業生産の基礎を不断に打ち固め、国家食糧安全保障能力を高めた。

②エネルギー安全保障に力を入れた。

非伝統的な天然ガス補助金50億元を下達した。再生可能エネルギー発電補助政策を調整・整備し、補助金923.5億元を下達し、エネルギーの構造調整を促進した。

(8)産業チェーン・サプライチェーンの安定保障を支援した

①製造業の質の高い発展支援に力を入れた。

産業基礎再生プロジェクト特別資金の役割を発揮させ、産業基礎能力と産業チェーンの水準向上を支援した。新エネルギー自動車普及・応用財政補助政策を延長し、補助金107.7億元を下達して、新エネルギー自動車産業チェーンの安定的な発展を支援した。

②科学技術イノベーションの下支え能力を高めた。

投入保障メカニズムを整備し、最初に批准した国家実験室の再建と国家重点実験室の再建を支援した。

③対外貿易・外資安定に力を入れた。

6月末までに対外貿易発展資金を既に全部下達し、地方が対外貿易・外資公共サービス体系を一層整備することを誘導・支援し、多くの措置を併せ打ち出し、対外貿易・外資の基盤をしっかり安定させた。

(9)末端の運営保障を支援した

①地方財政力支援を大幅に増やした。

中央財政の新たに増やした赤字、以前の年度の繰越資金、自らの支出を圧縮して捻出した財政力等のルートを統一し、地方財政力支援を確実に強化した。6月末までに、既に下達した一般移転支出資金は6兆1214.6億元であり、末端の運営と各政策の有効な実施を有力に保障した。下達した特殊移転支出資金は5378.57億元であり、地方が「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)任務実施を支援し、執行における不確定要因に対応した。

②国庫調整を強化した。

地方財政に差別化した資金調整を実行し、困難な地域に適切な支援を与えた。3月1日から6月末まで、地方財政資金の使用留保比率を5ポイント段階的に引き上げ、新たに増やした使用留保資金は約1100億元であり、中西部地域と遼寧省に対して今年年末まで執行を延長し、再び増やした使用留保資金は約550億元で、全部県レベルの使用のために留保して、末端財政の平穏な運営を有力に保障した。

③地方の「給与・民生・運営」保障のモニタリング・事前警告を強化した。

県レベルの給与支給のモニタリング・事前警告を一層整備し、重点モニタリング範囲を2019年の105県区から534に拡大した。県レベルの給与保障モニタリング・事前警告を期日どおり実施し、地方末端財政の保障情況の報告を定期的に実施し、地方が支払リスクを確実に防止するよう督促した。

④各レベルの責任を徹底させた。

地方が、事前審査、事業実施中の監督・コントロール、事後処理の「給与・民生・運営」予算管理メカニズムを整備するよう指導する。省レベル財政が中央からの移転支出と自己資金を統一して、財政力の下方移転を強化するよう督促し、県レベルへの移転支出の規模を増やすだけで減らさない。県レベル財政が「給与・民生・運営」支出の優先順序を堅持し、予算計上と国庫調節をしっかり行い、「給与・民生・運営」支出の最低ラインを確実に守るよう要求する。

このほか、財政は都市・農村、地域の協調発展を積極的に支援した。農村公共サービスを強化し、農村インフラ建設を急速に推進し、農民の持続的な増収を促進した。新しいタイプの都市化を深く推進し、農業から移転した人口の市民化を支援する財政政策を整備した。国家重大地域戦略への財政・租税政策支援を強化し、旧革命根拠地・民族地域・辺境地域・貧困地域の急速な発展を促進した。

2.今後の重点政策

我々は党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新発展理念を堅持し、疫病防御と経済社会発展政策を更に好く統一し、サプライサイド構造改革を主線とすることを堅持し、改革開放の深化を堅持し、内需拡大という戦略基点をしっかり把握し、市場主体の活力を大いに保護して奮い立たせ、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策を着実にしっかり実施し、「6つの保障」任務を全面実施し、経済の質の高い発展を推進し、社会の安定・大局を擁護し、年間の経済社会発展の目標・任務の達成に努力する。重点的に以下の政策をしっかり実施する。

(1)財政政策は更に積極的に成果を出し、実効を重視する

昨年実施した更に大規模な税・費用引下げの成果を強固にし、発展させ、今年新たに打ち出した措置の実施に掛け値なしにしっかり取り組み、企業に係る費用徴収への監督管理を強化し、各種のやみくもな費用徴収を断固制止し、減らすべき税は完全に減らし、下げるべき費用は完全に下げ、企業に政策のボーナスを確実に享受させる。

疫病の態勢と経済の運営情況を密接にフォローし、減税・費用引下げの情報共有を強化し、地方と企業が不満をもつ際立った問題を適時検討・解決し、関連政策を一層整備し、経済の平穏な運営を更に好く促進する。

資金使用への監督を強化し、困難緩和政策実施の精確性・一定の期間の実効性を確実に高め、特殊移転支出メカニズムを厳格に執行し、新たに増やす財政資金を末端まで到達させ、迅速に実施し実効を上げる。

疫病対策特別国債・一般国債・地方債発行を統一的にしっかり実施し、期限構造と実行のテンポを合理的に按排し、資金調達リスクと市場の変動リスクを防止し、財政支出の平穏な運営を維持する。

重点分野・重大プロジェクトの資金需要をしっかり保障し、民間投資を積極的に牽引し、脆弱部分の補強・民生優遇・消費促進・内需拡大を有効に支援する。

政策の協調を強化し、政策の合成力を増強し、督促・指導と監督・検査を強化し、各政策が実施され実効を上げるよう断固たる精神で推進する。

(2)刻苦奮闘・勤倹節約を常に堅持する

政府は倹約の日々を過ごすという要求を断固実施し、使用を節約して国民を豊かにし、倹約により徳を養い、カネを肝心な部分に用い、雇用・民生・市場主体の保障を全力で支援し、徹底した倹約・しっかりとした見積もりを実施し、すべての事業で節約を励行する。

予算執行の制約を強化し、人代が批准した予算を厳格に執行し、予算に基づかない支出・予算を超過する支出を厳禁し、疫病防御・緊急災害救助事項を除き、予算執行において一般的に予算を追加しない。

予算執行の進展を密接にフォローし、節約できるものは節約するという原則に基づき、年末までに執行しなかった支出をカットする。

中央部門と地方が公務支出管理制度を整備するよう指導し、公務活動の総量・支出の範囲と基準を厳格にコントロールし、財務の報告・審査と日常の管理・監督を強化し、会議・出張、コンサルティング・研修、フォーラム・展示会等の経費を厳格に抑制する。

資産配分の編制・基準を厳格にし、計画と審査・認可の管理を強化する。

維持するものと抑制するものの区別を確実に実施し、節約した貴重な資金を重点建設・民生改善支援に用いる。

(3)地方政府の債務管理を引き続き強化する

各地方による地方政府債務予算管理に関連する規定・要求の厳格実施を推進し、人代による地方政府債務の借入・使用・償還の全プロセスの監督を主動的に受け入れ、地方政府債務の常態化した健全なモニタリングメカニズムを整備し、規格・監督管理を統一し、潜在リスクを遅滞なく発見・処理する。

特別債券プロジェクトのルール適合性の審査とリスクのコントロールを厳格にし、質の高いプロジェクトの備蓄と前段階準備、評価・選択等の活動メカニズムを早急に確立する。

地方政府債務管理情報システムをグレードアップ・整備し、特別債券プロジェクトの全プロセスへの監督・コントロールを強化する。

地方が要求に基づき特別債券を発行して対応するプロジェクトの情報公開を督促し、市場化された資金調達の制約メカニズムの形成を促進する。

地方が疫病対策特別国債の資金を、一定の資産収益が保障されるインフラ建設と疫病対策関連支出に用いるよう指導する。

各種措置を総合的に採用し、地方政府の既存隠れ債務を穏当に解消し、債務解消の虚偽報告を厳禁し、決して短期の問題を解決するために後遺症を残してはならない。

政府借入への問責メカニズムをしっかり実施し、規定に基づき厳格に調査・処分し、個人に至るまで処分して、有効なブラフを形成する。

(4)財政・税制改革を早急に推進する

予算法を真剣に貫徹実施し、人代の法に基づく予算の審査・監督を自覚的に受け入れ、新たに改正した予算法実施条例をしっかり実施する。

生態環境・公共文化等の分野の中央と地方の財政権限と支出責任区分改革方案の実施にしっかり取り組み、知的財産権・基本年金保険等その他分野の改革を着実に推進し、省以下政府の財政権限と支出責任区分改革を積極的に推進する。

大規模な減税・費用引下げ実施後、中央と地方の収入区分改革推進方案を実施する。

予算管理制度改革を一層深化させる指導意見を検討して打ち出し、党中央・国務院の重大政策決定・手配を断固掛け値なしで、予算編成・執行・管理の全プロセス・各方面にまで実施する。

印紙税法・増値税法・消費税法・関税法等の立法活動早急に推進し、政府調達の法律・法規を改正する。

法定手続に基づき、全人代常務委員会に国有資産管理情況総合報告を提出し、企業国有資産(金融企業を含まず)管理情況を特別報告する。

(5)財政資金の使用効率を確実に高める

予算管理一体化システムの建設を深く推進し、全国統一の予算管理規範と技術基準体系の形成を推進する。

財政資金管理を強化し、一件一件審査・認可し、全プロセスをフォロー・モニタリングし、プロジェクト批准ごとにすぐ資金を交付することを断固防止し、財政・経済紀律に違反した場合には、厳格に責任を追及する。

遊休資金の活用・使用を強化し、使用可能な財政力を多くのルートで増やし、資金の使用効率を高める。

会計検査で出た際立った問題の是正にしっかり取り組み、問題の重複発生を防止する。

予算業績効果の健全な管理制度体系を早急に整備し、業績効果管理を実質的に予算管理の中に組み入れる。

業績管理効果の評価結果の応用を評価し、評価結果を、予算調整・管理改善・政策整備とリンクさせる健全なメカニズムを確立し、カネを支払うときは効果を問い、効果のないものは問責しなければならず、効率の低いものは多く圧縮し、効率の高いものは多く計上して、貴重な財政資金に更に大きい効果を発揮させる。

我々は、習近平同志を核心とする党中央の周囲に更に緊密に団結し、習近平「新時代の中国の特色ある社会主義」思想を導きとし、「四つの意識」1を増強し、「四つの自信」2を確固とし、「二つの擁護」3をやりとげ、党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、13期全人代第3回会議の関連決議・要求と全人代常務委員会の審議・意見に基づき、困難に立ち向かい、実務に励み、財政の改革・発展のための各政策に着実にしっかり実施し、財政機能の役割を積極的に発揮させ、「6つの安定」政策をしっかり実施し、「6つの保障」任務を実施し、「2つの百年」奮闘目標の実現、中華民族の偉大な復興という「中国の夢」の実現のために新たな貢献を行う。

  1. 政治意識・大局意識・核心意識・一致意識
  2. 中国の特色ある社会主義の道・理論・制度・文化への自信
  3. 習近平総書記の党中央・全党の核心としての地位の擁護、党中央の権威と集中・統一的な指導の擁護