経済社会分野専門家座談会

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年8月25日


はじめに

習近平総書記は8月24日、経済社会分野専門家座談会を開催した。テーマは第14次5カ年計画で、出席者は中国を代表する学者である。ほかに王滬寧と韓正が出席しており、李克強は出席していない。このことから、第13次5カ年計画に続き、第14次計画も習近平総書記が党中央建議の起草小組を主導し、李克強総理はメインの立場にないことが窺える。

今回は、直ちに習近平総書記の重要講話が全文公開されており、その概要を紹介したい。なお、重要な部分は太字で示している。

1.座談会出席者

①北京大学国家発展研究院 林毅夫名誉院長

②中国経済体制改革研究会 樊綱副会長

③清華大学公共管理学院 江小涓院長

④中国社会科学院 蔡昉副院長

⑤国家発展改革委員会マクロ経済研究院 王昌林院長

⑥清華大学国家金融研究院 朱民院長

⑦上海交通大学安泰経済・管理学院 陸銘特別招聘教授

⑧中国社会科学院世界経済・政治研究所 張宇燕所長

⑨香港中文大学(深圳)グローバル・当代中国高等研究院 鄭永年院長

2.習近平総書記の重要講話

中長期計画を用いて経済社会の発展を指導することは、わが党の治国執政の重要な方式である。1953年から、わが国は既に13の5カ年計画を編成・実施しており、うち改革開放以降編成・実施したものは8であり、経済社会の発展・総合国力の向上・人民生活の改善を有力に推進し、世にまれに見る経済の急速発展の奇跡と社会の長期安定の奇跡を生み出した。

実践は、中長期発展計画が、資源配分における市場の決定的役割を十分発揮できるだけでなく、政府の役割を更に好く発揮できることを証明している。

第14次5カ年計画は、わが国が小康社会を全面的に実現し、第一の百年奮闘目標を実現した後、勢いに乗じて上昇し、社会主義現代化国家を全面建設する新たな征途をスタートさせ、第二の百年奮闘目標に向けて進軍する第一の5年であり、わが国は新たな発展段階に入る。

「何事も事前に準備をすれば成功できるが、準備をしなければ失敗する」1。我々は、長期に着眼し、大勢を把握し、門戸を開いて政策を問い、衆知を集めて有益な意見を広く吸収し、新たな情況を研究し、新計画を作らなければならない。

(1)弁証法的思考によって、新たな発展段階の新たなチャンス・新たな試練に対応する

19回党大会以降、私は何度も「今の世界は百年未曾有の大変局を経験している」と述べている。現在、新型コロナの疫病が世界で大流行していることが、この大変局の変化を加速し、保護主義・一国主義が台頭し、世界経済は低迷し、グローバル産業チェーンは非経済的要因によって衝撃に直面し、国際経済・科学技術・文化・安全・政治等の枠組みはいずれも深刻な調整が発生しており、世界は動揺・変革の時期に入っている。

今後一時期、我々は更に多くの逆風・逆水の外部環境に向けて、一連の新たなリスク・試練に対応する準備をしっかり行わなければならない。

国内環境も深刻な変化を経験している。

わが国は既に質の高い発展段階に入っており、社会の主要な矛盾は、既に人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要と、アンバランス・不十分な発展との間の矛盾に転化しており、1人当たりGDPは1万ドルに達し、都市化率は60%を超え、中等所得層は4億人を超え、人民の素晴らしい生活への要求は不断に高まっている。

わが国の制度の優位性は顕著であり、ガバナンス機能は向上し、経済は長期に好い方向に向かい、物質的基礎・人的資源は豊富で、市場の空間は広範であり、発展の強靭性は強大で、社会の大局は安定し、引き続き発展のための多方面の優位性と条件を備えている。

同時に、わが国の発展がアンバランス・不十分という問題は依然際立っており、イノベーション能力が質の高い発展の要求に適応しておらず、農業の基礎は強固ではなく、都市・農村・地域間の発展と所得分配の格差がかなり大きく、生態環境は任重く道遠しで、民生の保障には不足部分が存在し、社会のガバナンスにはなお脆弱部分がある。

つまり、新たな発展段階に入り、内外環境の深刻な変化は、一連の新たなチャンスをもたらすだけでなく、一連の新たな試練をももたらしていることは、危機が併存し、危機の中にチャンスがあり、危機をチャンスに変えることができるということである。

我々は、内外の大勢を弁証法的に認識・把握し、中華民族の偉大な復興の全局と世界の百年未曾有の大変局を統一し、わが国社会の主要な矛盾の発展・変化がもたらした新たな特徴・新たな要求を深刻に認識し、錯綜し複雑な国際環境がもたらした新たな矛盾・新たな試練を深刻に認識し、チャンスの意識とリスク意識を強め、変化を正確に認識し、科学的に変化に対応し、主動的に変化を求め、勇気を出して逆風に負けず事を進め、危機をうまくチャンスに変え、「更に質が高く、更に効率がよく、更に公平、更に持続可能、更に安全」な発展の実現に努力しなければならない。

(2)国民経済の循環を円滑にすることを主として、新たな発展の枠組みを構築する

今年に入り、私は何度も「国内の大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組みの形成を推進しなければならない」と述べてきた。

この新たな発展の枠組みは、わが国の発展段階・環境の変化に基づいて提起したものであり、わが国の国際協力・競争の新たな優位性を再構築する戦略的選択である。

近年、外部環境とわが国の発展にもともと備わっていた要素が変化するに伴い、市場と資源を外に求めてきた国際大循環の動力エネルギーが顕著に弱体化し、わが国の内需の潜在力が不断に発揮され、国内大循環の活力が日増しに強まり、客観的に「こちらが消えればあちらが伸びる」態勢があらわれている。

この客観的現象について、理論界は多くの討論を進め、引き続き研究を深化させ、正確で透徹した見解を提起してよい。

2008年の国際金融危機以降、わが国経済は既に国内大循環主体に転換しており、経常黒字の対GDP比率は、2007年の9.9%から現在は1%に届かず、経済成長率への内需の寄与率は7年100%を超えている。

将来一時期、国内市場が国民経済を主導するという特徴が更に顕著となり、経済成長における内需の潜在力が不断に発揮されることになる。

我々は、サプライサイド構造改革という戦略方向を堅持し、内需拡大という戦略基点をしっかり堅持して、生産・分配・流通・消費を更に多く国内市場に依拠し、内需に対する供給体系の適合性を高め、供給を需要が牽引し、供給が需要を創造する更にハイレベルの動態バランスを形成しなければならない。

当然、新たな発展の枠組みは決して閉鎖的な国内循環ではなく、開放された国内・国際の2つの循環である。

わが国の世界経済における地位は引き続き上昇し、世界経済との連携は更に緊密になり、その他国家のために提供する市場のチャンスは更に広範となり、国際商品と(生産)要素・資源を引き付ける巨大な重力場となる。

(3)科学技術イノベーションによって、新たな発展動力エネルギーを生み出す

質の高い発展を実現するには、イノベーション駆動に依拠した内包型成長を実現しなければならない。

我々は、自主的なイノベーション能力の向上に更に力を入れ、できるだけ速やかにカギ・コアとなる技術をブレークスルーする。これは、わが国の発展の全局に関わる重大問題であり、国内大循環主体を形成するカギでもある。

我々は、わが国社会主義制度の「パワーを集中して大事をなす」という顕著な優位性を十分発揮させて、カギ・コアとなる技術の堅塁攻略戦をしっかり戦わなければならない。

わが国の超大規模な市場と完備された産業システムに依拠して、新技術の急速・大規模な応用と代替わり・グレードアップに有利な独特の優位性を創造し、科学技術成果の現実の生産力への転化を加速し、産業チェーンの水準を高め、産業チェーンの安全を擁護しなければならない。

技術革新における企業の主体的役割を発揮させ、企業をイノベーション要素が集積し、科学技術の成果を転化させる主力軍として、科学技術・教育・産業・金融が緊密に融合したイノベーションシステムを作り上げなければならない。

基礎研究は、イノベーションの水源であり、我々は投入を増やし、長期の堅持と大胆な模索を奨励し、科学技術強国の建設のために基礎を打ち固めなければならない。

国際的に一流の人材と科学研究団体の育成・招請に力を入れ、科学研究単位の改革を強化し、科学研究人員の積極性を最大限度動員し、科学技術のアウトプットの効率を高めなければならない。

オープンなイノベーションを堅持し、国際科学技術交流・協力を強化しなければならない。

(4)改革の深化によって、新たな発展の活力を奮い立たせる

改革は、社会の生産力を解放し発展させるカギであり、国家発展の根本動力である。

わが国の改革は、既に40年余りが経過し、世を挙げて公認された偉大な成果を得た。

社会は不断に発展するものであり、社会関係と社会活動を調節する体制メカニズムをこれに伴って不断に整備してはじめて、社会の生産力を解放し発展させるという要求に不断に適応できるのである。

わが国が新たな発展段階に踏み入るに伴い、改革も新たな任務に直面しており、更に大きな勇気・更に多くの措置を打ち出して深層レベルの体制メカニズムの障碍を打破し、中国の特色ある社会主義制度を堅持・整備し、国家のガバナンスシステムとガバナンス能力の現代化を推進しなければならない。

我々は正しさを守ってイノベーションを進め、開拓・刷新し、自身の未来の発展の道を大胆に模索しなければならない。

社会主義の基本経済制度を堅持・整備し、資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、政府の役割を更に好く発揮させて、長期に安定し予測可能な制度環境を作り上げなければならない。

財産権と知的財産権の保護を強化し、ハイレベルの市場システムを建設し、公平な競争制度を整備し、市場主体の発展活力を奮い立たせることにより、社会の生産力発展に有利な全てのパワーの源泉を十分に湧き上がらせなければならない。

(5)ハイレベルの対外開放によって、国際協力・競争の新たな優位性を作り上げる

現在、経済のグローバル化に対する国際社会の見通しは、少なからず悲観的である。

我々は、国際的な経済の連携・交流は、なお世界経済の発展のための客観的要求であると考える。

わが国経済の持続的で急速な発展の重要な動力は、対外開放である。対外開放は基本国策であり、我々は対外開放水準を全面的に高め、更にハイレベルの開放型経済の新体制を建設し、国際協力・競争の新たな優位性を形成しなければならない。

グローバル経済のガバナンスシステムの改革に積極的に参加し、更に公平で合理的な国際経済のガバナンスシステムの整備を推進しなければならない。

現在、対外開放の推進において、2点注意しなければならない。

米国の州・地方・企業を含め、およそ我々と協力を望む国家・地域・企業すべてについて、我々は積極的に協力を展開し、全方位・多層レベル・多元的な開放協力の枠組みを形成する。

開放をすればするほど、より安全を重視し、発展と安全を統一し、自身の競争能力、開放への監督管理能力、リスクの防止・コントロール能力の増強に力を入れ、鍛錬により金剛力士のような強靭な身体を作り上げなければならない。

(6)共に建設・ガバナンス・シェアすることによって、社会の発展の新たな局面を切り拓く

事実が証明することは、発展し始めて以後の問題は、発展していない時と比べて少なくはないということである。

わが国の社会構造は深刻な変化が発生しており、インターネットは人類の交流方式・社会観念・社会心理・社会行為を深刻に改変し、深刻な変化が発生している。第14次5カ年計画期間に、社会構造・社会関係・社会行為の方式・社会心理等の深刻な変化にいかに適応し、更に十分で質の高い雇用を実現し、100%カバー・持続可能で健全な社会保障システムを整備し、公共衛生と疾病コントロールのシステムを強化し、人口の長期的にバランスのとれた発展を促進し、社会ガバナンスを強化し、社会の矛盾を解消し、社会の安定を擁護するかは、いずれも真剣な研究と政策手配が必要である。

現代化された社会は、活力が充満しているだけでなく、良好な秩序があり、活力と秩序の有機的な統一が見られるべきである。

共に建設・ガバナンス・シェアする社会ガバナンス制度を整備し、政府のガバナンスと社会の調節・個人の自治の良性の相互作用を実現し、1人1人が責任をもち、1人1人が責任を尽くし、1人1人がシェアする社会ガバナンス共同体を建設しなければならない。

末端の社会ガバナンスを強化・刷新し、1つ1つの社会細胞がみな健康に活躍するようにし、矛盾・紛争を末端で解消し、調和・安定を末端に作り上げなければならない。

社会の公平・正義を更に重視・擁護し、人の全面的な発展と社会の全面的な進歩を促進しなければならない。

以上、私はいくつかの問題、中長期的な経済社会発展に関わるその他の問題を重点的に述べたが、皆さんが深く考え、一層の研究成果を得ることを希望する。

(筆者注:以下は、政策とは直接関係ない部分なので、興味のある方だけご覧ください)

2015年11月23日、私は18期中央政治局第28回集団学習会を主催した際に、特にマルクス主義政治経済学研究について講話を行い、最近「求是」雑誌にこの講話が発表された。

エンゲルスは、プロレタリア階級政党の「すべての理論は、政治経済学の研究に由来する」と述べた。レーニンは、政治経済学をマルクス主義理論の「最も深刻・全面的・詳細な証明と運用」と見なした。我々はマルクス主義政治経済学の方法論を運用し、わが国の経済発展ルールへの認識を深化させ、わが国の経済発展の能力・水準を高めなければならない。

理論の源は実践にあるが、理論を用いて実践を指導もする。改革開放以降、我々は、新たに生き生きとした実践を適時総括し、理論の刷新を不断に推進し、発展理念・所有制・分配体制・政府機能・市場メカニズム・マクロコントロール・産業構造・コーポレートガバナンス構造・民生保障・社会ガバナンス等の重大問題において、多くの重要な論断を提起してきた。

例えば、

①社会主義の本質に関する理論、

②社会主義初級段階の基本経済制度に関する理論、

③「イノベーション・協調・グリーン・開放・成果を共に享受」による発展に関する理論、

④社会主義市場経済を発展させ、資源配分における市場の決定的役割を発揮させ、政府の役割を更に好く発揮させることに関する理論、

⑤わが国の経済発展が新常態に入り、サプライサイド構造改革を深化させ、経済の質の高い発展を推進することに関する理論、

⑥新しいタイプの工業化・情報化・都市化、農業の現代化を同歩調で発展させ、地域を協調発展させることに関する理論、

⑦農民が請け負う土地の所有権・請負権・経営権の属性に関する理論、

⑧国際・国内2つの市場、2種類の資源をうまく用いることに関する理論、

⑨国内大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組みを早急に形成することに関する理論、

⑩社会の公平・正義を促進し、人民全体の共同富裕を段階的に実現することに関する理論、

⑪発展と安全の統一に関する理論、

等々である。

これらの理論の成果は、わが国経済発展の実践を有力に指導したのみならず、マルクス主義政治経済学の新たな境界を開拓した。

時代のテーマは、理論刷新の駆動力である。マルクス・エンゲルス・レーニン等は時代のテーマを考え回答して、理論の刷新を推進した。

現在、世界経済の逆巻く大浪の中で、わが国経済の大船をうまく操縦できるかどうかは、わが党の重大な試練である。錯綜し複雑な内外経済情勢、様々な経済現象に対して、マルクス主義政治経済学の基本原理・方法論を学習・理解することは、我々が科学的な経済分析方法を掌握し、経済の運動プロセスを認識し、経済発展のルールを把握し、社会主義市場経済の操縦能力を高め、わが国の経済発展の理論・実践問題に正確に回答することに資するものである。

新時代の改革開放と社会主義現代化建設の豊富な実践は、理論・政策研究の「宝の山」であり、わが国の経済社会分野の理論家は大いにやるべきことがある。

ここで、私は皆さんに何点か希望を提案する。

①国情から出発して、中国の実践に始まり、中国の実践に帰着させ、論文を祖国の大地に記して、理論と政策の刷新を中国の実際に合わせ、中国の特色を備えさせ、中国の特色ある社会主義政治経済学・社会学を不断に発展させてもらいたい。

②深く調査研究し、実情を察し、実際の政策を打ち出し、実際の情況を十分に反映させることにより、理論と政策の刷新を根拠があり、実情に合う、合理的なものにしてもらいたい。

③ルールを把握し、マルクス主義の立場・観点・方法を堅持し、現象を通して本質を見極め、短期の変動の中から長期の趨勢を探究することにより、理論・政策の刷新を先進性・科学性を体現したものにしてもらいたい。

④国際的視野を樹立し、中国と世界の連携・相互作用から人類が直面する共同テーマを探り出し、人類運命共同体の構築のために中国の知恵・中国の方案を貢献してもらいたい。

  1. 原文は「凡事預則立、不預則廃」(礼記 中庸)。