新型肺炎とマクロ政策(44)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年8月20日


はじめに

本稿では、8月13日の郭樹清銀行保険監督管理委員会主席インタビュー、17日の国務院常務会議、18日の国務院貧困支援開発領導小組全体会議の概要を紹介する。

8月13日 郭樹清銀行保険監督管理委員会主席インタビュー(新華社)
(1)これまでの政策

「今年4-6月期、わが国の経済が回復しプラス成長となったことは、財政・租税・社会保障・雇用等の方面の政策を含む、マクロ政策の有力なヘッジと不可分であり、金融政策も重要な役割を発揮した。

今年に入り、わが国は3回預金準備率を引き下げ、1.8兆元の再貸出・再割引を増やし、段階的に元本償還・利払いを猶予する政策等を遅滞なく打ち出し、経済の回復を有力に促進した」。

新華社解説:今年上半期、わが国の新規人民元貸出は12.09兆元で、前年同期より2.42兆元多い。6月末、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスは前年同期比28.4%増であり、科学研究・技術向け貸出は同26.95%増である。企業向け無担保貸出は同13.8%増、中長期貸出は同13.4%増、といずれも貸出の平均の伸びより高い。

「資金の重点は、製造業、インフラ、科学技術イノベーション、小型・零細企業、『三農』等の重点分野・脆弱部分に振り向けられた。上半期、新たに増えた製造業向け貸出は史上最高であり、過去4年間のフローの合計を超え、貸出総量と構造はいずれも大きく最適化された。

貸出支援以外でも、直接金融方面も力を発揮した。上半期、銀行の債券投資は前年同期比28.5%増となった。保険業の債券投資は同16.5%増、長期の株投資は同18.2%増であり、これらの伸び幅は近年まれに見るものであり、金融業の構造の調整・最適化と実体経済の発展にとって、重要な役割を発揮した」。

(2)今後の政策

「これからは、まず小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスへの支援をしっかり行わなければならない。現在既に2360万社余りの小型・零細企業が銀行借入を獲得しており、この水準は全世界で一、二を争うものであり、カギは銀行の経営管理能力・リスクコントロール能力がかなり大きく高まったことにある。

実体経済を更に好く支援するには、直接金融と間接金融のバランスのとれた発展を推進しなければならない。下半期、引き続き企業債券の発行を推進し、銀行・保険機関は債券等の資本市場に更に多く参加しなければならない。企業は直接金融を通じて、長期資金、低コスト資金、相当部分の資本金を獲得することができ、これは企業の成長にとって更に有利である。

企業の難関克服を支援するため、現在銀行は既に6.12兆元の企業の期限到来借入について、融資支援を提供している。疫病の持続的影響に対し、遅滞なく対応をしっかり準備しなければならない。銀行保険監督管理委員会、人民銀行もいくらかの政策準備を検討しており、我々は市場の情況を見て、もし回復にいくらかの問題がある場合には、これらの準備した政策を用いて経済回復を加速する」。

(3)金融リスク

「現在、わが国の金融業の運営は平穏であり、リスクは全体としてコントロール可能であり、主要指標は合理的区間にある。新型肺炎の疫病が発生以来、国際金融市場は激烈な変動を経ており、相対的にいえば、わが国の株式・債券・外為市場はかなり強い強靭性とリスク抵抗能力を示している。

4-6月期、わが国の商業銀行の流動性カバー率は142.4%であり、資金支払能力は充足している。不良債権率は1.94%であり、年初に比べて0.08ポイント上昇した。貸倒引当金カバー率は182.4%、自己資本比率は14.21%であり、リスク抵抗能力はかなり強い。

同時に、現在金融リスクは依然として容易・高い程度に発生しており、いくらかの潜在的な隠れた弊害要因は依然としてかなり大きい。これには、既存のリスクがなお徹底的に解決されておらず、不良債権の上昇圧力が増大しており、資金面の緩和の背景下、市場の混乱が極めて発生しやすくなっていること等が含まれる。これらについて、必ず冷静さを保ち、冷静に検討・判断し、転ばぬ先の杖で対処しなければならない。

上半期、新型肺炎の疫病等の影響を受けて、銀行業が新たに形成した不良債権は昨年同期に比べ、ある程度上昇している。現在経済はなお全面的には回復しておらず、疫病はなおかなり大きな不確定性があり、これがもたらす金融リスクも一定のタイムラグがあるので、相当な規模の貸出リスクが後になって露呈することが予想され、将来の不良債権の上昇圧力はかなり大きい。

これについて、密接に注意を払い、できるだけ早く策を練り、積極的に対応しなければならない。

①債権の質の分類をしっかり行う。

銀行が予期信用損失法を運用して貸出リスクを評価するよう督促し、企業の経営の変化を真に反映させる。

②リスク抵抗の『弾薬』を十分準備する。

銀行が多様な方法を採用して資本を補充するよう要求し、前倒しで貸出引当金の取崩しを増やし、将来のリスクへの抵抗能力を高める。

③不良債権の処理を強化する。

リスクを十分掲示する前提の下、貸倒引当金のカバー率を段階的に引き下げることへの監督管理のあり方を検討し、資源を解放して全部不良債権処理に用いる。

④フローのリスクを厳しくコントロールする。

銀行が内部コントロールとリスク管理を強化するよう督促し、貸出の三段階審査をしっかり行い、貸出の損失を減らす。

今年一年の銀行業の不良債権処理は3.4兆元と見込まれ、昨年の2.3兆元より処理を強化する。来年の処理額は更に大きくなる。なぜなら、多くの貸出が償還猶予されており、いくらかの問題が来年になって露呈するからである。

突如やって来た疫病の影響の下、もともと経営が良好だった企業の販売が中断され、受注が圧縮されており、不良債権の上昇は必然的である。財政・金融・雇用・産業の各方面の政策を結びつけて支援を進め、多様な手段で企業を支援しなければならない。このようにすれば、我々の経済の大循環は更に正常・容易となるだろう」。

(4)対外開放

「ここ2年、銀行業・保険業は計34項目の対外開放措置を次々と実施し、いくらかの模範的な実例を形成した。例えば、外資が株を支配する理財会社の第一号、外資単独資本の保険持ち株会社の第一号等が認可を受け設立された。今年の上半期は、さらに友好国の保険会社が内地で外資単独資本の生命保険会社第一号等を設立することを認めた。

今後の金融開放政策について、現在最も主要なものは、既に打ち出した政策の実施である。内外の機関が商品・株主権・管理・人材等の方面で協力を展開することを奨励し、開放を広く深く展開しなければならない。関連制度とインフラ建設を整備し、更に市場化・法治化・国際化されたビジネス環境を作り上げる。

現在、国際環境はかなり大きな変化が発生しているが、我々の対外開放の大きな趨勢に変わりはない。疫病期間、不断に外資金融機関が中国に進出したことがそれを好く証明しており、中国金融業の対外開放政策は以前のままである」。

(5)改革の深化

「中小銀行の改革加速、直接金融の支援強化、銀行・保険機関のコーポレートガバナンスの整備等を含む、金融分野のカギとなる改革に力を入れる。

中小銀行の改革加速をブレークスルーとして、金融機関システムの健全性を高めなければならない。リスク処理と資本補充の資金源を開拓し、資本の補充を加速し、地元の事情に応じ、分類して施策を実施し、改革深化をリスク解消・コーポレートガバナンス整備と結びつける。改革を推進する際は、地方の金融組織体系の完全性の維持に注意を払い、とりわけ農村信用社あるいは農村商業銀行の県域法人としての地位の総体としての安定を維持しなければならない。

直接金融を大いに支援し、資金調達構造の最適化を促進する。信託・理財・保険会社等の機関がバリュー投資理念を樹立するよう誘導し、真の専業投資・バリュー投資を行い、資本市場の発展を促進し、資本市場の安定を擁護するため、中堅のパワーとする。同時に、コーポレートガバナンスを掴みどころとし、株主構造を調整・最適化し、現代的な金融企業制度を整備しなければならない」。

8月17日 国務院常務会議
(1)財政資金の企業・国民への直接恩恵

特殊移転支出メカニズムを確立し、中央が新たに増やす財政資金は直接市・県の末端に交付し、直接企業・国民に恩恵を与えることは、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)をしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)任務を実施する重要内容である。

8月上旬までに、今年新たに増やす2兆元の財政資金のうち、3000億元は既に大部分減税・費用引下げに用いられ、直接交付する1.7兆元の資金は、規定に基づき疫病対策特別国債の資金の一定割合を留保するほか、97.8%は既に市・県に下達した。

政策の実施は、減税・費用引下げ措置の実施を有力に推進し、末端の財政力を有効に増強し、「市場主体を助け、雇用を安定させ、民生を保障する」等への効果が徐々に現れ、経済の回復的成長を促進した。

これからは、

①市・県は、既に下達した資金を、市場主体・民生に速やかに用いなければならない。

分配を遅らせたり、資金を放置した場合は、必要な措置を採用して督促・是正しなければならない。

②資金の分配・交付・使用情況を動態的にフォローしなければならない。

直接交付資金の特別国庫チェックのメカニズムを確立し、帳簿と資金の流れを明らかにし、帳簿と実際を符合しなければならない。

③財政経済紀律を厳格にしなければならない。

虚偽報告・横領、資金の留保・流用については、発見しだい処理しなければならない。

マクロ政策の的確性・有効性を一層強化し、水を放って魚を養い1 、市場主体をしっかり保障・育成し、更に強力に改革を推進し、発展への自信を確固とし、実務に精励して、年間の経済社会発展の目標・任務の達成に努力しなければならない。

(2)実体経済への金融支援

今年に入り、金融部門は党中央・国務院の政策決定・手配を貫徹し、実体経済への金融支援の政策措置を積極的に実施し、「営業が持続可能」という原則に基づき、金利引下げ、手数料徴収減、貸出の元本償還・利払い猶予等の措置を通じて、1-7月、既に市場主体のために8700億元余りの負担を軽減し、小型・零細企業に対する支援を顕著に強化した。

これからは、引き続き市場主体のために負担軽減等の金融支援政策をしっかり実施しなければならない。

①流動性の合理的充足を維持するが、バラマキは行わない。

構造的で直接資金が到達する金融政策手段の精確な灌漑作用を有効に発揮させ、新たに増やす融資を実体経済とりわけ小型・零細企業に向けて流すことを確保する。

②金融支援政策の便利さを高める。

中小銀行がビッグデータを運用して有効な銀行・企業のマッチングを進めることを支援し、伝達メカニズムを円滑にし、市場主体の受益面を拡大する。

貸出プライムレート改革を深化させ、貸出金利の持続的な低下を誘導する。

再貸出・再割引資金をきめ細かく運用して、優遇金利の貸出を行い、無担保貸出等の措置を支援し、小型・零細企業の年間資金調達の量を増やし、面を拡大し、コストを引き下げる。

③銀行の不合理なルール違反の手数料徴収への検査を展開する。

④金融リスクを防止し、実体経済への銀行サービスの持続可能性を高める。

(3)師範大学卒業生の教師資格認定

更に多くの師範大学卒業生の教育従事、就職増加を促進するため、既に教師の職業資格について「まず仕事につき、それから試験を行う」という段階的措置を実行している基礎の上に、師範大学卒業生の試験を免除して教師資格を認定する改革を推進し、教師を養成する大学の教員養成学生への教学能力の考課制度を確立する。

教育系統の修士以上の学歴をもつ師範大学卒業生、公費による教員養成学生については、試験を免除して教師資格を認定する。教員養成大学の教学の質の審査を展開し、審査を通過した大学の卒業生は試験を免除して教師資格を認定し、師範大学卒業生の就職の便宜を図り、教師陣の素質を高める。

8月18日 国務院貧困支援開発領導小組全体会議

組長の胡春華副総理が、次の内容の講話を行った。

「習近平総書記の重要指示精神を深く貫徹し、党中央・国務院の政策決定・手配を実施し、有力な措置を採用して疫病・災害がもたらした不利な影響を克服し、手仕舞い段階の各政策を全面的にしっかり実施し、期限どおり脱貧困堅塁攻略決戦・決勝の目標・任務の実現を確保しなければならない。

脱貧困堅塁攻略は、最後の関頭に達するほど、ますますリスク意識を増強し、隠れた弊害要因の洗い出しを強化し、疫病・災害等の突発事件が脱貧困に与える影響を確実に最低にまで引き下げなければならない。

災害により貧困に至り、貧困に戻ることを有効に防止し、貧困地域の各防災・災害救助措置にしっかりきめ細かく取り組み、災害後の生産回復と保障支援を強化し、被災した貧困大衆の救助・支援を強化し、基本生活に問題が出ないことを確保しなければならない。

貧困労働力の就業支援を強化し、出稼ぎ貧困労働力の職場・雇用の安定を優先的に保障し、多くの措置を併せ打ち出して帰郷・在郷の貧困労働力の就業を促進し、貧困労働力の現有の雇用ポストのしっかりとした安定を確保しなければならない。

貧困支援商品の販売を全面的に開拓し、消費による貧困支援を着実にしっかり展開し、大きな範囲での売れ行き不振や売却難が出現しないことを確保しなければならない。

貧困に戻ることを防止するメカニズムと最低ラインを保障する措置を全面的にしっかり実施し、『最低ラインをすべて保障し、保障すべきものをすべて保障』の実現を確保しなければならない。

脱貧困堅塁攻略の手仕舞いの時は迫っており、任務は重く、各地方・各部門は、引き続き責任を徹底させ、措置を強化し、各政策を着実にしっかり実施しなければならない。

問題是正に引き続きしっかり取り組み、脱貧困堅塁攻略のセンサスと成績考課を厳格に展開し、脱貧困の成果に歴史と実践の検証を経させることを確保しなければならない」。

  1. 事業発展のための環境整備(中国通信)。