新型肺炎とマクロ政策(43)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年8月13日


はじめに

本稿では、8月8日の国家発展・改革委員会寧吉喆副主任インタビュー、10日の人民銀行易綱行長インタビューの概要を紹介する。

8月8日 国家発展・改革委員会寧吉喆副主任インタビュー
(1)経済の現状

現在の経済回復の態勢は、基礎・条件があり、持続可能である。中国経済は安定の中で好転しており、長期に好い方向に向かうというファンダメンタルズに変わりはなく、それが現在示されている。

生産サイドから見ると、一定規模以上の工業付加価値は、4月から連続3カ月プラスの伸びとなり、サービス業の生産指数は連続2カ月プラスの伸びを実現している。

需要サイドから見ると、固定資産投資は4-6月期にプラスの伸びを実現し、社会消費財小売総額のマイナス幅は、連続4カ月縮小している。

需給の循環は徐々に回復しており、経済回復の持続可能性を高めているといえる。

(2)投資

どのようにして経済回復の態勢を強固にし、勢いに乗じて上昇させるか?

下半期、内需拡大という戦略基点をしっかり把握し、投資方面では、新しいタイプのインフラ、新しいタイプの都市化、交通・水利等の重大プロジェクトの建設を重点的に推進し、公共衛生、緊急物資備蓄、交通・エネルギー等の分野の脆弱部分の補強を強化し、都市再開発を実施し、都市の老朽化した住宅団地の改造を加速しなければならない。

国家予算内投資、地方特別債、疫病対策特別国債のうち、投資に用いる資金でプロジェクトを実施し、企業・プロジェクトに直接交付して、プロジェクトを資金がフォローしなければならない。

民間投資は、全社会投資の60%近くを占めており、投資安定の重要なパワーである。下半期、わが国民間投資の環境を一層整備し、政策支援を強化し、疫病対策、公共衛生、倉庫・物流、緊急備蓄等の脆弱部分の建設に民間資本が参加することを支援すると同時に、民営企業の特色に適応した貸出商品の推進、無担保貸出・中長期貸出の規模・比率を増やすよう銀行を誘導しなければならない。

(3)消費

内需拡大には、経済成長に対する消費の基礎的な役割を更に好く発揮させなければならない。下半期、わが国は、Eコマース・オンライン教育等の新しいタイプの消費の質を高め発展させ、自動車・家電消費の転換・グレードアップを推進し、購入規制を行っている都市が自動車購入の限度額を増やすよう奨励し、新エネルギー車の購入規制を緩和し、新エネルギー車の購入に対して適切な補助金を支給する。

さらに、県域の消費集中地区を発展させることは、今回の内需拡大の重点であり、消費発展の潜在力があるところである。例えば、県都の商店街の改造に貸出支援を与えなければならない。さらに企業債券の発行により、この改造を支援することを認め、大都市のみならず中等都市・県都でも消費があるようにする。

(4)下半期の重点

わが国は、今年経済の下振れ圧力をヘッジする包括的な政策を次々に打ち出し、業務・生産再開の推進関連の政策だけでも、8方面・90措置が含まれている。

下半期の重点は、これらの政策を引き続きしっかり実施し、経済回復の政策を強固にして拡大し、経済の質の高い発展を推進し、年間の経済社会発展の目標・任務の達成に努力しなければならない。

8月10日 人民銀行易綱行長インタビュー
(1)疫病への対応

疫病の衝撃に対し、人民銀行は金融政策のカウンターシクリカルな調節を果断に強化し、金融政策手段を刷新した。主要な措置は、「総量を拡大し、供給を保障し、成長を促進し、金利を引き下げ、構造を調整し、主体を保障する」ことである。

我々は、春節期間に緊急で3000億元の特別再貸出を打ち出し、積極的な供給保障の成果得た。金融市場が春節後2月3日に予定通りオープンすることを断固支援し、予想を上回る短期流動性1.7兆元を放出した。1月1日に預金準備率を全面的に0.5ポイント引き下げることを公表したのに続き、さらに預金準備率を2回引き下げ、累計で長期資金1.75兆元を放出した。

その後、金融政策手段の数量は、3000億元から5000億元に増え、さらに1兆元に増加した。異なる情況下では、政策の含意は異なり、数量がますます大きくなり、金利はますます市場化された。商業銀行は、中央銀行のこれらの手段を使用して、実体経済のために低コストの貸出を提供し、企業の安定による雇用保障を有力に支援した。

(2)上半期の金融情勢

上半期のマクロ金融データは、ライトスポットが確かに比較的多かった。これは、穏健な金融政策が有効に実施されたことを示している。マクロ数量からみると、各金融指標は明らかに去年より高い。6月末、M2は前年同期比11.1%増、社会資金調達規模は同12.8%増であり、上半期の新規貸出は12.1兆元で、前年同期より2.4兆元多い。

金利からみると、今年に入り、我々は主要市場の金利低下を重視している。公開市場の7日物リバースレポの落札金利は30ベーシスポイント低下して2.2%になった。中期貸借ファシリティーの落札金利は30ベーシスポイント低下して2.95%になった。1年物の貸出プライムレートは30ベーシスポイント低下して3.85%となり、再貸出金利は50ベーシスポイント低下した。

金融政策による誘導は、市場全体の金利低下をもたらし、企業の資金調達コストの顕著な低下をもたらした。6月、債券レポの加重平均金利は1.89%であり、昨年末より0.21ポイント低下した。10年国債の収益率は2.82%となり、前年末より0.32ポイント低下した。インクルーシブファイナンス、小型・零細企業、民営企業、製造業向けの貸出金利はいずれも史上最低水準に下がった。とりわけ、インクルーシブファイナンスの貸出金利は、現在5%前後であり、昨年に比べ0.8ポイント低下した。

金利の低下は、実体経済を有力に支援し、貸出構造は明らかに最適化され、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援を受ける市場主体は顕著に増加した。6月末、貸出を受けた市場主体は3000万社(件)近くであり、借入残高のある社(件)は2300万を超えており、これらは主として、小型・零細企業、個人工商事業者である。

(3)当面の中国のマクロ経済情勢判断

新型コロナ肺炎の疫病は、中国では有効に抑制されたため、中国経済は世界で率先して回復を実現した。4-6月期、わが国のGDPは比較的強靭な反転上昇が出現し、GDPは前年同期比3.2%の伸びとなった。中国は、世界で唯一のプラス成長の主要経済体である。

一面において、各産業の回復がかなり速く、他方で、需要も徐々に回復し、投資は顕著に上昇し、消費は引き続き回復しており、輸出は顕著に好転している。経済回復と同時に、物価水準も安定を維持している。

我々は、当面の経済回復に影響を与えるいくらかの際立った問題にも非常に注意している。例えば、企業を安定させて雇用を保障することへのプレッシャーが比較的大きく、中小・零細企業と個人工商事業者の回復が、なおいくらかの困難に直面していることなどである。

総じて見ると、中国経済の潜在力が大きく、強靭性が十分であるという特徴に決して変わりはなく、下半期、わが国の経済成長は回復の態勢を継続し、年間でプラス成長が期待される。

(4)下半期の重点政策

下半期、人民銀行は引き続き党中央・国務院の政策決定・手配を真剣に貫徹し、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、新発展理念を堅持し、サプライサイド構造改革を主線とし、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)を着実にしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)を全面実施して、金融総量の適度で合理的な伸びを維持し、企業の安定による雇用保障に力を入れ、重大金融リスクを防止・解消し、金融の改革開放の深化を加速し、経済・金融の健全な発展を促進する。

重点的に以下の政策をしっかり実施する。

まず、金融政策は更に柔軟・適度にし、精確に誘導し、既に打ち出した企業の安定による雇用保障の各政策を確実にしっかり実施し、実効を上げなければならない。金融政策手段を総合的に運用し、M2と社会資金調達規模の伸びを昨年より顕著に高めると同時に、テンポをしっかり把握し、構造を最適化することに注意し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスと製造業向け中長期貸出の合理的な伸びを促進する。

金融リスクの防止・解消の方面では、リスクの最低ラインをしっかり守り、3年堅塁攻略戦の期限通りの手仕舞いを全力で推進し、金融リスク処理の制度的欠陥を早急に補い、重大金融リスクの健全な緊急処理メカニズムを整備し、かつ常態化したリスクの防止・コントロールとリスク処理に転入しなければならない。

さらに、金融分野の体制・メカニズムの改革を不断に深化させ、既に打ち出した金融改革措置の実施を推進し実効を上げ、地方政府が地域的な金融リスク解消を目標とすることを支援し、力量の範囲内で実施し、農村金融機関の市場化改革を深化させる。

このほか、金融管理と金融サービスを引き続きしっかり実施し、金融による貧困支援政策を統一的にしっかり実施し、グリーン金融・インクルーシブファイナンス・フィンテックのイノベーションテスト等を深化させる。

(5)金融の対外開放

国際情勢がいかに変化しようとも、最も重要なことは、我々自身の事柄にしっかり取り組み、金融業の改革と対外開放を断固深化させることである。

まず、米中経済貿易協議第一段階合意を引き続き執行し、近年公表した金融改革・開放措置をしっかり実施しなければならない。例えば、証券・ファンド管理・先物・人身傷害保険等の分野の外資持株比率規制の撤廃、適格国外投資家(QFII)と人民元適格国外投資家(RQFII)の投資限度額規制の撤廃、アメリカン・エキスプレス、マスターカード、フィッチ・レーティングス等の機関の中国市場への参入許可などである。

その次に、参入前国民待遇にネガティブリストを加えた管理制度の全面実施を引き続き推進し、債券市場の対外開放のための外貨管理政策を統一しなければならない。

(6)金融の国際協力

中国は一貫して疫病対策プロセスにおける国際協力の展開を主張しており、我々は引き続きグローバルな経済・金融ガバナンスに深く参加し、多国間主義を確実に擁護し、G20債務返済猶予イニシアティブに建設的に参加し、世界の発展途上国、新興市場国家、及びいくらかの低所得国家の債務削減のために一定の支援を提供する。

(7)人民元の国際化

現在、人民元の国際化の勢いは非常に良好である。上半期、人民元のクロスボーダー受払金額は12.7兆元、前年同期比36.7%増であり、人民元は連続8年、わが国の第二のクロスボーダー収支通貨となった。

1-3月期、外貨準備における人民元のシェアは7%を超え、2016年のSDR加入時に比べて2倍近くにまで増加した。

我々は引き続き、人民元の国際化と資本項目の開放を積極かつ穏当に推進する。