AIIB理事会

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年8月11日


はじめに

7月28日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)第5回理事会が開催された。会議は、オンラインビデオ方式で挙行され、「相互接続、未来に向けて」をテーマに、AIIBの設立から5年近くで得た成績を全面回顧し、AIIBの将来10年間の発展の青写真を共同で描いた。また、現在の金立群総裁を第2期総裁に再選し、リベリア共和国をAIIBの103番目のメンバーとして加えることを批准し、AIIB第6回理事会を2021年10月27~28日にアラブ首長国連邦ドバイで開催し、アラブ首長国連邦理事を主席とし、スイス理事を副主席とすることを決定した。理事会正式会議は、劉昆財政部長が理事会主席として主催し、かつ講話を行った。

本稿では、会議における習近平国家主席の挨拶・劉昆財政部長の講話の概要と再任された金立群総裁のインタビューの概要を紹介する。

1.習近平国家主席の挨拶

2013年末、私は中国を代表してAIIBの設立を提議し、アジア地域のインフラ建設と相互接続を推進し、地域協力を深化させ、共同発展を実現し、2016年1月16日、AIIBは正式に開業した。4年余り、AIIBは多国間開発銀行のモデル・原則に基づき運営され、国際性・規範性・ハイレベルを堅持し、良好なスタートを実現した。

最初57の創設メンバーが手を携えて運営を開始してから、今日のアジア・ヨーロッパ・北アメリカ・南アフリカ・オセアニア等の6大州の102からなるメンバーが一堂に会するまでに発展し、AIIBは不断に壮大となり、既にメンバーのために200億ドルのインフラ投資を提供した。AIIBの友人の輪はますます大きくなり、好いパートナーはますます多くなり、協力の質はますます高まり、国際的に専業性があり、効率が高く、廉潔な新しいタイプの多国間開発銀行の斬新なモデルを示した。

新型コロナ肺炎の疫病爆発以降、AIIBは迅速に行動し、緊急ファンドを設立して、メンバーが疫病に対応し経済を回復することを支援し、AIIBの行動力を十分体現した。

グローバルな新型コロナ肺炎疫病対策の実践は、人類は苦楽を共にし、同じ舟で風雨に立ち向かう運命共同体であり、相互に支援し、団結・協力してはじめて、危機に戦勝できるという人間の正道を示している。

経済のグローバル化のプロセスにおいて出現した矛盾を解決するには、各国は更に包摂的なグローバルガバナンス、更に有効な多国間のメカニズム、更に積極的な地域協力の形成に努力しなければならない。AIIBはメンバーの共同発展を促進するために、人類運命共同体の新たなプラットホームの構築を推進しなければならない。

私は、次のことを建議する。

(1)共同発展に焦点をあてて、AIIBをグローバルな共同発展を推進する新しいタイプの多国間開発銀行に作り上げる

平和と発展は、依然として我々の時代のメインテーマである。インフラの相互接続は各国の共同発展を助け推進する重要な物質的基礎である。

AIIBはすべてのメンバーの発展需要へのサービスに力を致し、更に多くの「質が高く、コストが低く、持続可能な」インフラ投資を提供し、伝統的インフラを支援するだけでなく、新しいタイプのインフラをも支援し、アジア及びその他地域の経済社会の発展促進のために新たな動力を提供しなければならない。

(2)勇気を奮って開拓・イノベーションを行い、AIIBを時代と共に進む新しいタイプの発展実践のプラットホームに作り上げる

AIIB自身が国際経済ガバナンスシステムの新たなメンバーであり、時勢にしたがって成果を出し、時勢に応じて変化し、発展理念・業務モデル・機構ガバナンスを刷新し、柔軟・多様な発展融資商品を通じて、相互接続を促進し、グリーン発展を推進し、技術進歩を支援しなければならない。

(3)最良の実践を創造し、AIIBをハイレベルな新しいタイプの国際協力機関に作り上げる

AIIBの発展においては、「ハイレベル・高い質を堅持し、国際一般基準を遵守し、普遍的な発展ルールを尊重する」ことを、各メンバー自身の発展への実際需要への適応と有機的に結びつけ、国際発展協力の最良の実践を創造しなければならない。

(4)開放・包摂を堅持し、AIIBを国際多国間協力の新たな模範に作り上げる

共に協議し、共に建設し、共にシェアする原則を堅持し、世界経済の枠組の調整・変化の趨勢に順応し、更に多くのパートナーと協力を展開し、地域的・グローバルな公共財を提供し、地域経済の一体化を推進し、経済のグローバル化が「更に開放的・包摂的・普遍的に恩恵が及び・バランスがとれ・ウインウインの」方向へと発展することを推進しなければならない。

中国は常に多国間主義を支援し、多国間主義を実践し、開放・協力・ウインウインの精神で世界各国と発展を共に図る。中国は、引き続き各メンバーと共にAIIBを支援し、AIIBをしっかり運営して、国際社会がリスク・試練に対応し、共同発展を実現するために、更に大きな貢献を行う。AIIBが使命に背かず、時代に背かず、大衆の負託に背かないことを希望する。

2.劉昆財政部長の講話

AIIBは、習近平国家主席のイニシアティブで設けられ、広範なメンバーが共同参加する多国間開発機関であり、「簡潔・清廉・グリーン」の理念を堅持し、国際性・規範性・ハイレベルを堅持し、不断に壮大に発展し、貸付額は累計で200億ドルに接近し、借款を受けたメンバーは24に増えた。

突如やって来た新型コロナ肺炎の疫病に対して、AIIBは迅速に行動し、メンバーが疫病に対応し経済を回復することを支援し、AIIBの行動力を十分体現した。

習近平国家主席は、挨拶においてAIIBの将来の発展について重要な主張を提起した。

AIIBは21世紀の新しいタイプの多国間開発銀行となるには、趣旨・使命を堅持し、地域の相互接続と経済の一体化促進し、メンバーの多様化した需要を更に好く満足させ、共同発展を実現しければならない。

国際発展協力に積極的に参加し、国際発展協力の最良の実践を創造し、発展理念を刷新し、国際発展協力事業のために新たな実践・知恵をもって貢献しなければならない。

多国間主義を唱導し、協力・パートナーシップを全面的に深化させ、地域的・グローバルな公共商品を提供し、地域経済の一体化と新しいタイプの経済グローバル化を共同推進しなければならない。

中国は、AIIBの重要株主・本部ホスト国として、引き続き責任ある大国の役割を発揮し、各メンバーと手を携えた努力を通じて、AIIBがアジア地域さらにはグローバルなインフラと相互接続のレベルを高め、経済の回復と持続可能な発展を促進するために、更に大きな貢献を共同推進する。

3.金立群総裁インタビュー(新華社北京電2020年7月29日)
(1)これまでの回顧

「我々のメンバー数は、開業時の57から現在の103に発展した。このことは、AIIBが国際社会の広範な認可を得たことの直接的な証明である。

我々は常に一点を堅持してきた。すなわち、共に協議し、共に建設し、共にシェアすることであり、皆の事は皆で相談しながら処理するということである。中国はAIIBの提唱・設置国であり、最大の株主でもあるが、中国はAIIBが多国間開発銀行のモデルと原則に基づき運営されることを断固支援し、国際性・規範性・ハイレベルを堅持してきた。AIIBが不断・壮大に発展したことは、中国の国際的な公的信用力を十分体現している。

AIIBは、いかなる政策決定もすべて集団で討論し、民主的に協議している。各メンバーは、経済規模の大小にかかわらず、すべて発言権があり、すべて尊重され、傾聴される」。

新華社解説:7月29日までに、AIIBは87プロジェクトを批准し、24の経済体をカバーし、投資総額は196億ドルを超えている。

「開業以来、AIIBはADB等多国間開発銀行と良好な協力を維持しており、約53%のプロジェクトが協同融資である。その他の機関が我々と一緒に活動することを望んでいることも、我々自身がハイレベルの銀行であることを証明している。

未来に向けて、AIIBは共同発展に焦点をあてて、勇気を奮って開拓・イノベーションを行い、最良の実践を創造し、開放・包摂を堅持し、メンバーの共同発展を促進し、人類運命共同体の構築を推進する新たなプラットホームとなる」。

(2)将来計画

新華社解説:2019年5月、初めて世界向けにドル建て債を発行し、2020年6月、30億元の人民元パンダ債を発行した。ここ数年、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)、ムーディーズ、フィッチの3大国際格付機関から最高の信用評価を得たAIIBは、徐々に国際資本市場で頭角を現している。

「AIIBは、引き続きドル建債資本市場に関心を払っていくが、これと同時にユーロ・円等のような、その他の資本市場も考慮することができる。

少なからぬメンバーが自国通貨で融資を獲得できることを希望しており、現在までにAIIBは、13種類の現地通貨で貸付を提供できるようになっている。

AIIBは、現在機関の戦略を制定中であり、2つを勝ち取る。

①2025年に、AIIBの年度貸出が100億ドルに達し、気候変動対応の融資のウエイトが50%に達する。

②2035年に、クロスボーダー相互接続のウエイトを25~30%とし、ソブリン・非ソブリン融資のウエイトを半々にする。

機関の戦略は、現在から2025年までの活動を計画し、2030年までの活動をも展望している。私は、今年9月に取締役会の批准を得て、私の新たな任期に執行できるようになるよう希望している。

私営資本の投資を更に好く動員しなければならない。民間資本を使用できるようになり、民間資本をできるだけ用いれば、すべてのプレッシャーを政府の勘定にかける必要はなくなる。これも、将来我々が推進しなければならない事である」。

(3)メンバーの拡大

新華社解説:AIIBの友人の輪はますます大きくなり、好いパートナーがますます多くなり、協力の質がますます高まるに伴い、少なからぬ人が、米国・日本等の国が参加するかどうかに関心を寄せている。

「承認があり、AIIBの規程を遵守しさえすれば、大きな門は永遠に開かれている。主権国家が加入するかしないかは、まずその国自身の意欲・決定を見なければならない。もし加入となれば、AIIBの規律に基づき処理する。

実際上、我々は米国金融機関と密接に協力している。たとえば、ニューヨークメロン銀行、ゴールドマンサックス等である。中でも、ゴールドマンサックスは、AIIBが初めて世界向けにドル建債を発行したときの主たる引き受け手である。

米国と日本がAIIBのメンバーでないとしても、AIIBには少なからず両国出身の従業員がいる。我々の原則は、才能を推し量って採用するというものであり、国籍を問わない」1

(4)新型コロナ対策

「今年4月初め、AIIBは50億ドルの危機回復ファンドを宣言・推進し、新型コロナ肺炎の疫病の衝撃に対応している。4月下旬には、AIIBはファンドの規模を100億ドルに増やした。AIIBは既に再度増額し、ファンドの規模は既に130億ドルに拡大している。

AIIBは政策貸出を提供しないが、新型コロナ肺炎の疫病により、メンバーの需要に応じ、資金調達を通じて危機回復ファンドを設立した。疫病に国境はなく、できるだけ速やかに各国に疫病をしっかりコントロールさせなければならず、現在AIIBは60億ドルを批准し、いくらかの国家の疫病対策を援助している」。

(5)中国経済

今年上半期、中国経済は下降から上昇に転じ、成長率はマイナスからプラスに転じて、回復的な成長の態勢を示している。4-6月期のGDPは前年同期比3.2%成長し、1-3月期に比べて10ポイント上昇し、巨大な強靭性と潜在力を示した。

世界から見ると、中国の上半期経済は目を見張るものであり、これは疫病防御を適時・着実にしっかり行う基礎の上に確立されたものである。

グローバル経済はなお極大な不安定性・不確定性に直面しているが、中国経済の今年後半は、好転の勢いを維持するチャンスがあり、年間で良好な経済を示す条件を有している。

  1. 日経新聞2020年7月28日によれば、現在AIIBの職員数は350人(ADBは3500人)である。