新型肺炎とマクロ政策(31)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年6月16日


はじめに

本稿では、6月8日の全国財政庁(局)長座談会、9日の国務院常務会議、12日の財政部記者会見の概要を紹介する。

6月8日 全国財政庁(局)長座談会

会議の概要は、以下のとおりである。

(1)財政部門は、財政活動を主動的に党・国家事業の発展の大局の中で考え計画し、不断に責任感を強化し、財政機能の役割を積極的に発揮させ、脱貧困堅塁攻略の目標・任務の決戦・決勝を達成し、小康社会を全面的に実現するために、パワーを貢献しなければならない。

「積極的財政政策は、更に積極的に成果を出ななければならない」という要求を断固実施し、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)に関連する政策の実施を全力で支援し、財政赤字の対GDP比率を適切に高め、積極的なシグナルを明確に発しなければならない。

政府投資を増やし、経済の下振れ圧力をヘッジする。減税・費用引下げを強化し、企業の経営困難をヘッジする。移転支出を強化し、末端の「基本民生・給与・運営保障」圧力をヘッジする。予算のバランスを強化し、疫病の減収の影響をヘッジする。減税・費用引下げ政策を断固実施し、遊休資金・資源・資産を活用し、予算執行管理を強化し、財政政策と資金ができるだけ速やかに実効を上げることを確保し、経済成長を安定させるカギとなる役割をしっかり発揮させる。

(2)財政資金の分配は重点を際立たせ、質・効率を高めなければならない。

今年は財政政策資金の規模・程度を大きくし、方向を正確に把握し、新発展理念の貫徹実施、サプライサイド構造改革の推進、3大堅塁攻略戦、産業の転換・グレードアップ等の、党中央の政策決定・手配に焦点を絞り、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策をしっかり実施し、「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)任務を実施することを軸に、力を集中的に発揮しなければならない。

財政資金の管理を確実に強化し、1件1件審査・認可し、全プロセスをフォロー・モニタリングし、プロジェクトの丸ごと認可・資金の丸ごと交付を断固防止し、「景気よく質の低いプロジェクトにまでカネをばらまく」現象を杜絶し、資金使用の効率を確実に高めなければならない。

(3)資金が直接末端と民生に達するメカニズムを確立し、財政・租税政策措置をできるだけ速やかに実施して効果を上げることを推進しなければならない。

各レベル財政部門は、中央の政策決定・手配に早急にしっかり取り組むことを軸に、貴重な財政資金を最も困難な地方・最も急いで必要とする分野に用いなければならない。

直接達した資金をうまく用い、今年中央財政が手配した末端に直接達する資金が直接企業・人民に恩恵を及ぼすことを確保し、企業とりわけ中小・零細企業に全部実施され、社会保障・最低保障・失業・老人介護の対象者と特別困窮者の身に達する。

財政部の統一手配の要求に厳格に基づき、資金への日常的監督と重点監督・コントロールを強化し、滞留・流用を杜絶し、存在する問題に対し厳格に問責しなければならない。

(4)財政部門は、政府が節約しなければならないという要求を真剣に貫徹し、一般性支出を厳格に圧縮しなければならない。

中央部門は、率先して節約し、中央レベルの支出はマイナスの伸びを計上し、うち不急・不要で裁量的な支出は50%以上圧縮しなければならない。

支出予算の関門を厳しく把握し、一般性支出の圧縮に力を入れ、各経費の支出基準を厳格に執行しなければならない。疫病防御・緊急災害救助を除き、予算執行においては予算をさらに追加しない。

プロジェクト実施の全プロセスの予算業績効果の管理を通じて、行政コストを節約し、責任制による制約をハードにし、真に資金が用いられた場合は効果を問い、効果がなければ問責しなければならない。一般性支出の圧縮に力を入れると同時に、脱貧困堅塁攻略等の重点分野の支出を確実にしっかり保障し、小康社会の全面実現のために有力な保障を提供する。

(5)末端の「基本民生・給与・運営」を保障する最低ラインを確実に守り、問題が出ないよう確保しなければならない。

①多くのルートで資金を手配する。

中央財政は、新たに増やす財政赤字、疫病対策特別国債の発行、中央レベルの支出等の圧縮に力をいれる等の措置を通じて、地方への財政力支援を増やす。

中央から地方への移転支出は8兆3915億元に達し、前年度より9500億元、12.8%増え、増額・伸び率はいずれも近年最高となっており、かつ中西部と困窮地域に向けて重点傾斜する。うち、県レベル基本財力保障メカニズム補助金は10%増、均衡性移転支出は10%増、旧革命根拠地・少数民族地域・辺境地域・貧困地域への移転支出は12.4%増である。

②資金の管理方式を最適化する。

保障責任を徹底し、地方財政資金の使用留保割合を段階的に引き上げ、移転支出予算を早急に下達し、資金が末端まで下に降りることを確保する。

③モニタリング、督促・指導と国庫支払の調節を強化する。

「中央から省へ、省から市・県へ」の監督・コントロールメカニズムを整備し、各レベルの国庫支払情況を遅滞なくフォロー・モニタリングし、期日どおりの県レベルの給与保障とモニタリング・事前警報を実施し、月ごとに地方の末端財政の国庫支払保障情況の通報を実施し、各レベルでの責任を徹底し、末端の「基本民生・給与・運営保障」の支出需要を確実に保障する。

省レベル財政は主体的責任を確実に担い、中央移転支出と省レベルの自己資金を統一して財政力の下方移転を強化し、県レベルへの移転支出の規模は増やすだけで、減らしてはならず、県レベルの財政力が前年度の水準を下回らないことを確保する。

県レベル財政は保障責任を全面実施し、「基本民生・給与・運営保障」支出を、予算手配と国庫支払調節の方面で優先順位とする。

(6)政府債券の発行・使用を加速しなければならない。

「プロジェクトを資金がフォローする」という原則を堅持し、特別債資金は主として中央が確定した重点分野・重点戦略プロジェクトに用い、民間投資を牽引し、脆弱部分の補強・民生優遇・消費促進・内需拡大を有効に支援しなければならない。

特別債プロジェクトのルール適合性の審査・認可とリスクコントロールを厳格にする。疫病対策特別国債資金をしっかり管理し、うまく用いる。

(7)リスク意識と最低ラインを守る考え方を常に樹立しなければならない。

地方政府の債務管理を強化し、当面の複雑な情勢の下、債務リスク防止活動を高度に重視し、法規に違反した借金への責任追及を強化し、疫病対応によって債務リスクを重視しないことがあってはならず、財政困難によってルールに反した借金が新たなリスクを生み出すことがあってはならず、短期の問題を解決するために絶対後遺症を残してはならず、システミックリスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。

6月9日 国務院常務会議
(1)新たに増える財政資金が直接企業・人民に恩恵を与える特殊移転支出メカニズム

党中央・国務院の手配に基づき、「6つの安定」政策をしっかり実施し、「6つの保障」任務を実施することは政府の重要な活動であり、決して手を緩めてはならない。

雇用・民生・市場主体を保障することは市・県により実施されなければならない。

今年国家は新たに減税・費用引下げ2.5兆元を確定したが、うち社会保険料の減免は市場主体のために1.6兆元余りの負担を減らし、大部分は下半期に実現する。多くの地方も自主的に減税・費用引下げを行っており、これは企業とりわけ中小・零細企業の困難緩和・困窮大衆の困難解消を有力に支援するものであるが、市・県の財政力に大きな不足をもたらすものでもある。

新たに増やす財政赤字と疫病対策特別国債計2兆元の資金を直接市・県に交付し、疫病のダメージが最大な中小・零細企業、個人工商事業者と困窮大衆への援助措置を地方が実施することを支援し、公共衛生等のインフラ建設と疫病対策関連への支出等を強化しなければならない。

特殊移転支出メカニズムを確立し、新たに増やした財政資金を中央の地方に対する移転支配増加、政府基金(特別会計)移転支払方式の手配を通じて、早急に全部、市・県に下達する。

中央財政は関係部門と共に管理を強化する。

省レベル政府は、この資金を「通りすがりの福の神」にすると同時に、「ほったらかし」にしてはならず、資金の監督管理を強化すると同時に、自身の財政力をより多く末端へと降ろし、末端の財政力不足を補填し、中央が確定した雇用・民生・市場主体保障措置の完全実施を確保しなければならない。

市・県政府は、台帳使用を確立し、資金の流れを明確にし、勘定項目が検査可能となることを確保しなければならない。

財政部は、同歩調で、すべてをカバーし、全ての資金チェーンを監督・コントロールするシステムを確立し、各レベルの国庫は点対点で直接資金を支払うよう督促し、帳簿が実際と符合することを確保しなければならない。審計部門は、特別会計検査を展開しなければならない。

滞留・流用、虚偽報告による横領に対しては、法規に基づき厳格に問責し、断固処罰する。

(2)脱貧困

近年、脱貧困堅塁攻略は、持続的に強化され、決定的成果を得た。今年は、脱貧困堅塁攻略戦に断固打ち勝つ、自身と能力がある。

中央財政の脱貧困堅塁攻略への支援を完全実施し、各地方も資金手配をこの方面に傾斜させなければならない。

貧困労働力の雇用を安定させ、消費により貧困支援し、産業により貧困支援する等の各政策を一層強化し、とりわけ疫病の衝撃がもたらした影響を有効に克服し、今年、現行基準の下での残る農村貧困人口の全部貧困脱却、「衣食を憂うことなく、義務教育・基本医療・住宅の安全が保障される」ことを確保し、貧困県を全部解消しなければならない。

(3)対外貿易企業支援

2億人近い雇用に関わる対外貿易企業の困難緩和・発展を支援するため、企業の国際市場開拓を奨励すると同時に、ニーズにかなった輸出商品の国内市場開拓を支援する。

国内販売認証と税務処理プロセスを簡素化する。Eコマースプラットホーム、大型商業企業等が対外貿易商品の国内販売活動を展開することを支援する。金融機関が貸出支援と売掛金・在庫・注文を担保とした融資を増やすことを奨励する。大型Eコマースプラットホームに委託して中小零細対外貿易企業への直接貸出業務を強化する。

6月12日 財政部記者会見

1日の山東省座談会、8日の全国財政庁(局)長会議、9日の国務院常務会議を受けて、開催された。会見の内容は上記と重複が多いので、ポイントを紹介する。

(1)資金の4分類

特殊移転支払メカニズムを通じて直接末端に交付する資金の重点は、新たに増やした財政赤字1兆元と疫病対策特別国債の1兆元、計2兆元である。

これは、4方面の内容を含んでいる。

①特殊移転支出に組み入れる部分

我々は、今年特殊移転支出を設けたが、これは主として、今年の疫病が経済・財政にもたらした影響に対応して、単独に設けたものである。これには、減税・費用引下げ、賃料減・利下げ、消費・投資の拡大等の方面が含まれ、重点は当面の末端が直面している疫病防御・基本民生保障等の困難を解決することに用いる。

②政府基金(特別会計)移転支出に組み入れる疫病対策特別国債

疫病対策特別国債は財政赤字に計上せず、政府基金の予算管理に組み入れ、政府基金移転支出を通じて地方に下達する。主として、一定の資産収益が保障された公共衛生等のインフラ建設と疫病対策の関連支出に用いる。

③正常な移転支出に組み入れるフロー・ストックの部分

特殊移転支出と疫病対策特別国債を除き、疫病の衝撃は財政収入の大幅な低下をもたらした。しかし、これまでの財政収入の手配に頼っていては、財政支出は資金源がなくなってしまう。新たに増やす財政赤字は、この部分の資金源を補填するものであり、正常な移転支出の範囲に組み入れられる。

正常な移転支出のうち、新たに増やす財政赤字が手配するものは、直接交付メカニズムに組み入れられる。

これは主として、減税・費用引下げを際立てて支援し、地方が減税・費用引下げ後形成される新たな財政力不足の補填に用いる。これは、当然特殊移転支出と交錯・重複するが、重点は財政力不足の補填であり、「6つの保障」任務の実施を統一的に支援する。

④地方で新たに増やした財政赤字の部分

新たに増やす財政赤字1兆元のうち、9500元は中央財政の赤字であり、①③で述べた特殊移転支出に用い、あるいは正常な移転支出に手配される。地方も財政赤字として一般債務500億元を計上しており、中央の9500億元を加えて、全部特殊移転支出・直接交付メカニズムに組み入れられる。この500億元は一般債務関連規定に基づき使用されるが、重点は「6つの保障」任務実施の方面に用いられる。

(2)末端への直接交付の方法

どうやって資金を直接交付するかで、特殊な移転支出メカニズムを設けた。この特殊な移転支出メカニズムは、現行の財政管理体制を変えず、地方の主体的責任を変えないことを保障し、資金分配権限を変えないこと維持する前提の下、「中央で切り分け、省レベルで細分化し、届出を同意し、スピーディに直接交付する」原則に基づき、関係資金の分配プロセスを整備し、地方の主体的責任を徹底させ、健全な監督管理・問責メカニズムを確立する。

①「中央で切り分ける」

中央が関係要因に応じて、省に分配する。

2兆元の資金は、異なる分類に応じて、関係する要因により直接省に分配し、1勘定ずつ切り分けて省に交付する。

②「省レベルで細分化する」

省レベルは、直接末端に交付するという要求に基づき、分配案を提出しなければならない。

省レベル自身で留めてはならず、全部市・県に分配する案を提出し、分配を細分化する。

③「届出を同意する」

省レベル財政は、末端に分配する、あるいは末端に直接交付する案を財政部に届け出て、同意を求めなければならない。

我々は、分配細分化の具体的情況を確認する。届出への同意は、甲県を増やす、あるいは乙県を増やす、といったものでは決してなく、具体的分配に関与するものではない。確認しているのは、省レベルで資金を滞留させていないか、全部末端の市・県に分けているかどうかである。

④「スピーディに直接交付する」

届出を同意後は、期限を決めて、省レベル財政部門に資金を末端へと下達させ、できるだけ早く資金の役割を発揮させる。

上述の処理方式を採用することは、省レベル政府の主体的責任を徹底し、省レベル政府の職責保障を強化し、より多くの財政力を末端に降ろすことに資するものであり、市・県財政部門は上のレベルから直接交付された資金とその他資金を、自前の財政力を含めて統一し、科学的に財政支出を手配しなければならない。公共財政の属性を強化し、民生を要として、保障すべきものはすべて保障するよう努力し、新たに増やした財政資金が「6つの保障」とりわけ雇用・基本民生・市場主体の保障において、重要な役割を発揮できるよう確保しなければならない。