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研究者のご紹介

人民銀行行長インタビュー

中国経済レポート

 

新領域研究センター 田中 修

2020年6月4日


はじめに

5月26日、易綱人民銀行行長は、「金融時報」「中国金融」記者の取材に答えた。本稿は、その概要を紹介する。

1.金融政策
(1)これまでの成果

疫病の影響を受け、2月1日、人民銀行は財政部・銀行保険監督管理委員会等の部門と、迅速に30項目の金融支援政策措置を打ち出し、総量を増してカウンターシクリカルな調節を行い、構造的金融政策手段を創設・運用して、疫病爆発以降実施したヘッジ政策は累計5.9兆元に及び1、疫病防御と経済社会発展に有力な支援を提供した。

①総量面では、3回の預金準備率引下げ、公開市場操作の強化、再貸出・再割引の増加等を通じて、予想を超える流動性を放出し、わが国金融市場が春節後2月3日に時間通りマーケットを開くことを断固支援し、金融市場のコンフィデンスを断固安定させた。

②金利面では、公開市場操作の買いオペ金利、中期貸借ファシリティー金利、貸出プライムレートのそれぞれ低下を誘導し、既存の変動金利貸出の金利決定基準の転換を発動し、既存の貸出金利引下げを推進した。

③構造面では、我々は3000億元の特別優遇再貸出、1.5兆元のインクルーシブな再貸出・再割引、6000億元の政策性銀行貸出限度額新規増を積極的に運用して、疫病防御の医療用物品と生活物資を生産する企業、疫病の影響がかなり大きい中小・零細企業とサービス業企業等を優先的に支援した。

これらの総合措置は、既に顕著な効果を示している。1-4月の人民元貸出は8.8兆元増加し、前年同期比で2兆元近く伸びが増加した。M2は前年同期比11.1%増、社会資金調達規模残高は12%増で、伸びは昨年より顕著に高く、有力でカウンターシクリカルな調節を体現している。

4月末、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス残高は、前年同期比25.1%増であり、伸びは前年末より2ポイント高まった。4月に新たに行った小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスの平均金利は5.24%であり、前年12月より0.77ポイント低下した。4月末、金融機関に貸出残高がある中小・零細企業は、2800万社を超えた。

(2)今後の政策

穏健な金融政策は更に柔軟・適度にし、多様な金融政策手段を総合的に運用・刷新し、流動性の合理的な充足を確保し、M2と社会資金調達規模の伸びを昨年より顕著に高める。

2.中小・零細企業への金融支援
(1)これまでの成果

①3000億元の特別再貸出を設立し、重要医療用物品と生活物資を扱う防疫企業向けに、金融機関が優遇金利貸出を行うことを支援し、供給保障を支援した。

5月23日までに、3000億元の特別再貸出は既に銀行が7000社余りの重点企業に累計2800億元近くの優遇貸出を行い、財政による利息補助後、実際の融資金利は1.25%となっている。

②再貸出・再割引専用限度額を1.5兆元増やし、秩序立った業務・生産再開、脱貧困堅塁攻略、春季耕作・耕作準備、家禽・家畜飼育等の分野への金融支援を強化し、かつ疫病の影響がかなり大きい観光・娯楽、旅館・レストラン、交通・輸送業種の小型・零細企業向けに、インクルーシブファイナンス支援を提供した。

5月21日までに、再貸出・再割引専用限度額支援を運用し、金融機関が累計4720億元の優遇金利貸出(割引を含む)を行うことを支援し、企業(農家を含む)57万社(戸)を支援した。

③中小・零細企業向け貸出の元本償還・利払い一時猶予政策を実施し、企業とりわけ中小・零細企業への支援を強化した。

4月30日までに、金融機関は既に1.2兆元を超える中小・零細企業向け貸出の元本・利息について猶予を実施した。

(2)今後の政策

金融政策の刷新を強化し、金融支援の的確性・精確性を高める。

①中小・零細企業向け貸出の元本償還・利払い猶予政策を延長する。

2020年末までに期限が到来する中小・零細企業向け貸出の元本、2020年末前に存続する支払うべき利息について、最長で2021年3月31日まで猶予を認め、同時に金融機関に対し、小型・零細企業向けインクルーシブファイナンスのうち、猶予すべきものは全て猶予するよう要求する。

②小型・零細企業向け無担保貸出支援を強化する。

小型・零細企業向けインクルーシブファイナンス支援方案を実施し、金融政策手段の刷新を通じて、条件の合致した地方法人銀行が小型・零細企業向け無担保インクルーシブファイナンスを行うことを支援し、銀行が無担保貸出割合を高めるよう支援する。

③政府債務保証メカニズムを改善する。

政策性債務保証機関の債務保証規模を拡大し、営利効果への要求を弱め、債務保証料比率と保証書提出要求を引き下げる。

④債券市場の資金調達支援を増やす。

無担保社債の純資金調達を前年比で1兆元増やし、より多くの無担保貸出資源を解放して小型・零細企業を支援する。金融機関が2020年に小型・零細企業向け特別金融債券3000億元を発行することを支援し、専ら小型・零細企業向け貸出に用いる。

⑤サプライチェーン融資を大いに発展させる。

業務・生産再開のコア企業、業種のリーダー企業及びそのコアとなる関連企業に対し、貸出支援を強化し、産業チェーンの運転回復を牽引する。コア企業への未払い清算を増やす。中小・零細企業向け2020年売掛金担保融資8000億元を促進する。

3.金融リスクの防止・解消
(1)これまでの成果

2018年以降、金融部門は一連の積極・有効な措置を採用して金融リスクを防止・解消し、ポジティブな成果を得た。マクロレバレッジ率の速すぎる上昇の勢いは初歩的に歯止めがかかり、シャドーバンキング業務の資産規模の拡張と管理コストの対収入比は低下した。

不良債権のリスクの顕在化には一定のタイムラグがあり、加えて疫病発生以降銀行業が企業に対して元本償還・利払い猶予の政策を行っているため、今後銀行はかなり大きな不良債権比率の上昇、不良債権処理増加の圧力に直面する可能性がある。

同時に、もし国際疫病情勢が長期化し、世界の経済成長の損害が日増しに深刻になり、国外金融市場の動揺がなお蔓延すれば、わが国市場に衝撃を生み出し、わが国の国際収支とクロスボーダー資本流動に不確定性をもたらすことになる。

(2)今後の政策

我々は、十分に困難・リスク・不確定性を推し量った基礎の上に、安定の中で前進を求めるという政策の総基調を堅持し、引き続き中央が既に決めた基本方針・政策に基づき、疫病対策と、経済回復、リスクの防止・コントロールの間の関係をしっかり把握し、マクロ政策のカウンターシクリカルな調節を強化し、各種リスクの解消任務を穏当に推進する。

銀行とりわけ中小銀行が多くのルートで資本を補充し、ガバナンスを整備することを支援し、不良債権処置を強化し、金融機関の健全性を増強する。

金融リスクの防止・解消の中で、人民銀行は国務院金融安定発展委員会弁公室の職責を真剣に履行し、金融監督管理と協調し、システミック金融リスクが発生しない最低ラインをしっかり守ることと、モラルハザードを防ぐこととの関係をしっかり処理し、金融機関の主体的責任、地方政府の管轄地責任、金融監督管理部門の監督管理責任と最後の貸し手としての責任を、際立たせてしっかり果たさせる。

いったん重大金融リスクが出現した場合には、関係株主・債権者は、法に基づき相応の損失を負担し、関係機関・人員の法規違反、職務上の怠慢・過失・涜職等の行為を厳格に追及すべきである。

4.金利改革
(1)これまでの成果

人民銀行は、2013年7月に貸出金利、2015年10月に預金金利の規制を緩和し、2019年8月に人民銀行が貸出市場オファード金利(貸出プライムレート)形成メカニズムの改革・整備を発動して以来、金利の市場化改革は重要な進展を得た。

①貸出プライムレートと市場資金需給の相関性が、顕著に増強された。

2020年5月公布した1年物貸出プライムレートは3.85%(8月改革以降累計0.4ポイント低下)、5年以上物は4.65%(同0.2ポイント低下)であり、市場の資金需給の変化を十分体現している。

②金融政策の伝達効率が顕著に増強された。

2020年5月中旬、新たな貸出の金利は、元の貸出基準金利の0.9倍より低いもののウエイトが35.3%を占め、貸出プライムレート改革前の4倍近くになり、貸出金利の隠れた下限が打破された。

③実際の貸出金利の低下を有効に促進した。

4月の企業向け貸出の平均金利は4.81%であり、貸出プライムレート改革前の2019年7月より0.51ポイント低下し、5月はさらに低下するものと予想される。

④貸出プライムレート改革は、預金金利と市場化改革にも重要な推進作用を発揮した。

貸出市場金利は全体として低下し、銀行の貸出収益が低下した。資産収益とのバランスを維持するため、銀行は負債コストを適切に引き下げ、高利息で貯金を集める動力もこれに伴い低下した。銀行の預金金利には既に一定の変化が現れており、一部の銀行は主動的に預金金利を引き下げ、市場により金利が決まる短期金融市場のファンド等の貯蓄商品の金利もある程度低下している。

(2)今後の政策

人民銀行は、引き続き貸出プライムレート改革を深化させ、短期金融市場金利が貸出金利に波及するルートを円滑にし、実際の貸出金利の低下を推進し、実体経済の発展を支援する。

同時に、既存の貸出基準金利を秩序立てて転換する。

5.金融の対外開放
(1)これまでの成果

近年、金融部門は40項目余りの対内・対外自主開放措置を公布した。現在、これらの措置実施の進展は良好であり、絶対多数の措置は既に法律レベル・実践レベルで実施されている。

①銀行・証券・ファンド管理・先物・生命保険分野の外資持株比率規制は、既に完全に廃止され、外資株の質の規制も不断に緩和されている。

②企業信用情報収集、ランク付け、支払決済等の分野は、既に外資に国民待遇を与えており、資本市場の相互連結が不断に深化され、関連する会計・税制・取引制度が不断に整備されている。

③疫病は、まだわが国の金融市場開放のテンポを攪乱してはいない。

これらの開放措置は、開放され、包摂的で、競争が十分な金融環境の提供に着眼したものであり、最大限度イノベーションを奨励し、実体経済への金融サービスを促進する。

金融を開放すると同時に、金融部門はマクロプルーデンス管理を不断に整備し、リスク防止を強化し、金融監督管理の能力・強度を金融の対外開放と相互に適応させ、頭を揃えて進むことを推進する。

(2)今後の政策

人民銀行は、引き続き市場化・法治化・国際化の原則を遵守し、金融業の対内・対外自主開放を積極かつ穏当に推進し、重点を以下の方面とする。

①引き続き、近年公布した金融開放措置をしっかり実施し、各措置の全部・確実な実施を確保し、より多くの外資と民営金融機関を呼び込んで中国市場に参入させる。

②参入前の国民待遇にネガティブリストを加えた制度の全面実施を推進し、統一的な参入基準を設定し、システム化・制度化された開放を推進する。

③ビジネス環境を不断に整備し、行政を簡素化し、権限を委譲し、契約を尊重し、財産権を保護し、政策制定の円滑化メカニズムを強化し、より多くの事前審査・認可を事後監督管理に改める。

各種所有制市場主体を平等に扱い、競争制度の基礎的役割を強化する。

④開放拡大と監督管理を密接に組み合せ、金融リスクを有効に防止・解消する。

6.デジタル通貨

現在、デジタル経済は、グローバルな経済成長にとって日増しに重要な駆動力となっている。法定デジタル通貨の研究開発・応用は、デジタル経済の条件下において大衆の法定通貨への需要を効率よく満足させることに資するものであり、小売支払決済の迅速性、安全性、偽造防止の水準を高め、わが国のデジタル経済の急速な発展を助けるものである。

人民銀行は比較的早くからデジタル通貨の研究活動を開始した。2014年、専門チームを設立し、デジタル通貨発行の枠組み、カギとなる技術、発行・流通環境、関連する国際経験等の問題について、特別研究を進めた。2017年末、批准を経て、人民銀行は一部の実力十分な商業銀行と関連機関を組織して、共同でデジタル人民元システム(DC/EP)の研究開発を展開した。DC/EPは、2つのレベルの運営、現金(M0)の代替、匿名コントロール可能性を堅持する前提の下、トップダウン設計、基準制定、機能の研究開発、共同調査・テスト運用等を基本的に完成させた。

現在、デジタル人民元の研究開発は着実・安全・コントロール可能・イノベーション・実用の原則を遵守し、深圳・蘇州・雄安・成都及び将来の冬季オリンピック会場において、内部にクローズされたテスト運用を進めており、理論の信頼性、システムの安定性、機能の有用性、プロセスの迅速性、一定の場面での適用性、リスクのコントロール可能性を検証している。

しかし、現在のテスト運用は、研究開発プロセスにけるノーマルな作業であり、決してデジタル人民元を正式に発行することを意味せず、いつ正式に打ち出すかのスケジュール表はない。

7.「三農」支援

近年、人民銀行は貧困への金融支援をインクルーシブファイナンスと結びつけ、金融支援をリスク防止と結びつけて、金融による精確な貧困支援の政策・組織・商品・サービス体系を不断に整備し、各政策はポジティブな成果を得ている。

2020年は、脱貧困堅塁攻略の手仕舞いの年であり、小康社会の全面達成目標の実現の年でもある。人民銀行は、金融支援とリスク防止にしっかり取り組み、貧困殲滅戦を深く戦い、残余の貧困人口・貧困県の全部脱貧困・解消を実現し、質の高い脱貧困堅塁攻略任務の達成を確保し、相対的な貧困の解決を支援する長期に有効なメカニズムを検討・確立する。

今後、我々の重点は、以下の方面で引き続き力を発揮する。

①貧困の金融支援政策をしっかりきめ細かく実施する。

貧困支援再貸出等の金融政策手段の運用を強化し、「三区三州」の貧困が深刻な地域への支援を強化し、これらの地域への金融サービスの恩恵の普遍性と持続可能性を高める。

②産業による貧困扶助への金融支援を強化する。

貧困地域が貧困支援産業を育成・発展させることを援助し、金融支援と産業による貧困扶助の融合発展を推進し、他の土地への移転後に続く産業発展への金融支援を増やす。

③貧困への金融支援の持続可能な発展を促進する。

貧困地域への貸出資産の質とりわけ貧困支援マイクロファイナンスのモニタリングを強化し、遅滞なく事前警報を提起し、「貸出により貧する」状態の出現を防止する。

④インクルーシブファイナンスの発展を推進する。

貧困地域の支払決済・情報収集等の基礎サービス施設の建設を早急に推進し、金融知識の普及・宣伝と金融の消費者権益保護を強化し、貧困地域の基礎金融サービス水準を強固にし、高める。

⑤脱貧困堅塁攻略への金融支援を農村振興と有効にしっかりリンクさせる。

県域法人金融機関の農村・貧困地域へのサービス能力を高め、金融による精確な貧困支援の成果を系統的に総括して宣伝し、2020年の後に続く政策の検討を展開し、相対的貧困を解決する長期に有効なメカニズムを確立する。

  1. 太字は筆者。