全国政協会議における習近平総書記と経済界委員との対話

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年5月26日


はじめに

5月23日午前、習近平総書記は全国政協経済界委員の会議に参加し、意見・建議を聴取した後、講話を行った。本稿では、講話の概要を紹介する(新華社北京電2020年5月23日)。

(要旨)

全面的・弁証法的・長期的な観点で当面の経済情勢を分析することを堅持し、危機の中で新たなチャンスを育て、局面の変化の中で新たな局面を開くよう努力し、わが国の世界最大の市場としての潜在力・作用を発揮させ、サプライサイド構造改革の戦略方向を明確にし、わが国経済が安定の中で好転し、長期に好い方向へと向かう基本趨勢を強固にし、農業の基礎的地位を強固にし、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)、「6つの保障」1(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障する)の任務を実施し、各政策決定・手配の実施・定着を確保し、小康社会の全面実現の決勝・脱貧困堅塁攻略決戦の目標・任務達成を確保し、波風を越えて穏やかに遠くまで、わが国経済を推進しなければならない。

(1)経済の見通しと今後の政策方向

わが国経済は、発展方式の転換、経済構造の最適化、成長動力の転換という難関攻略期にあり、経済発展の見通しは良好であるが、構造的・体制的・周期的な問題が相互に交錯することによってもたらされる困難・試練に直面してもいる。加えて、新型肺炎の衝撃により、現在わが国の経済運営はかなり大きなプレッシャーに直面している。

我々は、世界経済の深刻な後退、国際貿易・投資の大幅な収縮、国際金融市場の動揺、国際往来の規制、経済のグローバル化の逆流、一部国家の保護主義・単独主義の横行、地政学リスクの上昇等の不利な局面に対し、より不安定・不確定な世界において、わが国の発展を謀らなければならない。

わが国の潜在力は十分であり、強靭性が高く、挽回の余地は大きく、政策手段が多いという基本的特徴に変わりはない。

わが国は、世界で最もすべてが揃い、規模が最大な工業システム、強大な生産能力、完備した付帯能力、1億余りの市場主体、1.7億余りの高等教育を受けあるいは各種専門技能をもつ人材を備え、さらに、4億余りの中等所得層を含む14億人口が形成する超大規模な内需市場があり、新しいタイプの工業化・情報化・都市化・農業現代化が急速に発展する段階にあるので、投資需要の潜在力は巨大である。

①公有制を主体とし、多様な所有制経済が共同発展、②労働に応じて分配することを主体とし、多様な分配方式が併存、③社会主義市場経済体制等の社会主義の基本経済制度は、各種市場主体の活力を奮い立たせ、社会の生産力を解放し発展させることに資するのみならず、効率と公平の有機的な統一を促進し、共同富裕を不断に実現することにも資するものである。

未来に向かって、我々は内需を満足させることを発展の出発点・着地点とし、完全な内需体系を早急に構築し、科学技術イノベーション及びその他各方面のイノベーションを大いに推進し、デジタル経済・スマート製造・ライフヘルス・新素材等の戦略的新興産業を早急に推進し、より多くの新たな成長スポット・成長の極を形成し、生産・分配・流通・消費等の各段階の貫通に力を入れ、国内の大循環を主体とし、国内・国際の双循環が相互に促進される新たな発展構造を徐々に形成し、新情勢下においてわが国が国際協力・競争に参加するための、新たな優位性を育成しなければならない。

(2)対外経済

現在、保護主義的な思潮が高揚しているが、我々は歴史的に正確な側に立って、マルチ主義と国際関係の民主化を堅持し、開放・協力・ウインウインを胸中に抱いて発展を謀り、経済のグローバル化が、「開放され、包摂的で、普遍的に恩恵が及び、バランスがとれ、ウインウインの」方向に向けて発展するよう断固推進し、開放型の世界経済の建設を推進しなければならない。

同時に、安全発展の理念を牢固に樹立し、安全発展の体制メカニズムの整備を加速し、関連する不足部分を補充し、産業チェーン・サプライチェーンの安全を擁護し、重大リスクを積極的にしっかり防止・解消しなければならない。

(3)脱貧困

2020年中に、わが国の現行基準下での農村貧困人口の脱貧困の実現、貧困県の全部名称解消、地域的な全体貧困問題の解決を確保することは、わが党の人民・歴史に対する厳粛な約束である。

現在、全国でなお52の貧困県が名称を解消できず、2707の貧困村が脱出できず、登録された貧困人口がまだ全部は貧困から脱してはいない。過去と比べれば総量は大きくないものの、いずれもが貧困中の貧困、困窮中の困窮であり、最も対策が難しい。

我々は、新型肺炎がもたらした不利な影響の克服に努力し、より辛酸な努力を払って、脱貧困堅塁攻略戦の全面勝利を断固奪取しなければならない。

(4)「6つの安定」「6つの保障」

「6つの安定」政策をしっかり実施し、「6つの保障」の任務を実施することは、きわめて重要である。「6つの保障」は、我々が各種リスク・試練に対応するための重要な保証である。

雇用を安定させる措置を全面的に強化し、困窮大衆の基本生活の保障を強化し、中小・零細企業の難関克服を支援し、食糧生産の安定を第一として、石炭・電力・石油・ガスの安全で安定した供給をしっかり行い、産業チェーン・サプライチェーンの安定を保障し、末端公共サービスを保障しなければならない。同時に、「安定」と「保障」の基礎の上に、積極的に進取の精神で臨まなければならない。

(5)農業

我々のような14億の人口をもつ大国にとって、農業の基礎的地位は、どのような時も軽視し弱化させてはらない。どんな時にも、食糧が手中にあり、慌てることがないようにするのが真理である。今回の新型肺炎疫病は深刻であるが、わが国社会が常に安定を維持し、穀物と重要農業副産品を安定供給した功績は大きい。

総じていえば、わが国の農業は連年豊作であり、食糧備蓄は充足しており、穀物と重要農産品の供給を保障する能力を完全に有している。新たな情勢下、農業発展に存在する深層レベルの矛盾・問題の解決に力を入れ、農産品構造・リスク対抗能力・農業現代化水準の面で重点的に力を発揮しなければならない。

穀物等主要農産品の生産供給を保障し、主食供給安定の省長責任制の考課を強化し、穀物市場価格のモニタリングと監督管理を強化し、食糧を主たる倉庫のみならず隅々まで備蓄する戦略の実施を早急に推進しなければならない。豚肉等の農業副産品の価格をしっかり安定させ、豚肉生産省がすべて責任を負うよう要求し、引き続きアフリカ豚熱等の重大動物疫病の防御にしっかり取り組み、副食品の生産安定・供給保障をしっかり行わなければならない。

  1. これまでは「六保」を「保」の訳が定まっていなかったので、「6つの維持」と訳してきたが、全人代の提出された「政府活動報告」日本語版が、これを「6つの保障」としたので、以後はこの訳を用いることとする。