新型肺炎とマクロ政策(29)

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年5月22日


はじめに

本稿では、5月20日の新型肺炎対策領導小組会議と工業・情報化部記者会見の概要を紹介する。

5月20日 新型肺炎対策領導小組会議

経済関連は、以下のとおりである。

習近平総書記重要講話精神を真剣に貫徹し、新型肺炎対策領導小組の手配に基づき、的確に脆弱部分を強化し、疫病の変化に適応して遅滞なく重点地域・重点分野の防御を強化し、疫病の再流行を防止しなければならない。

「5月1日」(メーデー)期間の疫病防御と業務・マーケット再開の有効な経験・方法を総括して普及させ、経済社会秩序の全面回復の中で常態化した防御を整備し、消費と経済の早急な回復・上昇を促進しなければならない。

「5月1日」休暇期間は、わが国の疫病防御が常態化の段階に入ってからの最初のやや長めの休暇であり、各種交通手段は延べ1.21億人の旅客を輸送し、各種観光名勝は累計延べ1.15億人の国内旅客を接待し、レストラン・旅館の消費はかなり大きく回復した。

総合評価では、休暇期間の疫病防御はかなり好い効果を示し、全国毎日新たに確認された病例と疑似病例数、医学的観察中の無症状感染者と本土での濃厚接触者の人数、発熱外来に毎日訪れる延べ人数は、いずれも休暇期間前の水準より低い。

各地方・各関係方面は、有効な防御措置をとり、今後の長期休暇あるいは大規模な人員流動が密集する情況下での疫病防御、業務・マーケット再開範囲の拡大のために、経験を積んだ。この基礎の上に、常態化した防御措置を整備し、生活関連サービス業の早急な業務・マーケット再開を推進し、人民大衆の正常な需要を満足させ、正常な生産生活秩序を回復しなければならない。

全国両会開催は間近であり、防疫情勢に適応し、防疫規定に基づいて防御活動をしっかり行い、両会の安全で順調な挙行を保障しなければならない。

5月20日 工業・情報化部記者会見
(1)概況

①重点医療物資の生産・供給を全力で保障した。

わが部は、国務院防御連携メカニズム医療物資保障グループのリーダーとして、各構成員との協同・協調を強化して、重点医療物資の統一管理・統一調達制度を確立し、企業駐在特派員制度を創造的に実行し、重点医療物資の生産企業の増産・生産能力拡大を組織的に推進した。わずか1カ月余りの期間を用いて、湖北省重点医療物資の深刻な不足への十分な供給を実現し、その他の地域での供給も有力に保障した。

②全産業チェーンの業務・生産再開を推進した。

国務院業務・生産再開メカニズムの指導の下、部門を跨った製造業産業チェーン協同による業務・生産再開専門チームを率先して設立し、部門を跨り、地域を跨った業務・生産再開問題を協調して解決した。重点業種の産業チェーンをつなげるプラットホームを作り上げ、リーダー企業の牽引作用を十分しっかり発揮させ、企業が国際物流・輸送、人員の出入国等の困難を解決することを協調して支援し、産業チェーン・サプライチェーンの断裂点・隘路を開通させ、グローバル・サプライチェーンの安定を擁護した。

5月8日までに、全国一定規模以上の工業企業の平均業務再開率は99.1%、従業員の職場復帰率は95.4%であり、基本的に正常水準に達した。

③中小企業の発展環境の最適化に力を入れた。

知ってのとおり、国務院中小企業発展促進政策領導小組弁公室が工業・情報化部に設けられ、我々はこの弁公室の統一的企画・協調の役割をしっかり発揮させ、一連の中小・零細企業を支援する政策措置を打ち出した。人民銀行・銀行保険監督管理委員会等の部門は、3回の預金準備率引下げ、特別再貸出・再割引を通じて、企業とりわけ中小・零細企業と個人工商事業者のために提供した低コスト貸出は、2.85兆元に達した。110万社余りの中小・零細企業に対して、1兆元を超える貸出の元本償還・利払いを延期した。

公共サービスを最適化し、中小企業のデジタル化能力賦与特別キャンペーンを実施し、民営企業・中小企業への未払いを断固として正した。

④新産業・新業態の発展を大いに推進した。

新世代情報技術を積極的に推進し、疫病防御と業務・生産再開を支え、サービスし、5G・AI・工業インターネット(産業用モノのインターネット)・モノのインターネット・自動車インターネット・ビッグデータ・ブロックチェーン等の技術革新と産業への応用を大いに支援した。遠隔教育・テレワーク・Eコマース等の業態の発展は非常に迅速である。

全国上限の非常な困難・努力を経て、工業経済秩序は常態化した疫病防御の中で急速に回復している。しかし、世界的な疫病の急速な蔓延に伴い、不安定・不確定要因が顕著に増加し、企業の生産・経営はなおかなり大きな困難に直面しており、工業経済の回復にはなお一定の時間が必要である。

同時に、これまで既に打ち出した財政・税制・金融等の政策が急速に実施され効果が現れ、カウンターシクリカルな調節政策が同歩調で力を発揮しており、これに加えてわが国には、パワーを集中して大事をなす顕著な制度的優位性、膨大な産業規模・すべて揃った産業システム・巨大な内需市場があり、わが国の工業経済は複雑・峻厳な局面に対応する強大な強靭性と活力を示すだろう。

(2)工業経済の回復状況

3月以降、国内の疫病防御の成果が持続的に好転するに伴い、業務・生産再開が急速に推進され、工業生産秩序も急速に回復している。しかし、企業が安定的に好転するための基礎について、なお一層強固にする必要があると言わざるを得ない。

①業務・生産再開は加速し、範囲が拡大し、主要指標にポジティブな変化が現れている。

産業チェーンが協同して業務・生産再開を着実に推進している。業務再開率・従業員職場復帰率はいずれも100%に接近しており、基本的に正常水準に達した。

企業の業務再開後、生産能力が急速に発揮されるに伴い、市場需要は徐々に回復しており、1-4月の一定規模以上の工業付加価値は、前年同期比-4.9%と、長年見たことがないマイナス成長となった。しかし、4月は3月の-1.1%から3.9%増に転じ、マイナスからプラスに転じた。これは非常にポジティブなシグナルである。

②多数の業種が成長を回復しており、原材料業種、生活必需品の生産・供給は総体として安定している。

原材料業種の生産の伸びはプラスに転じ、機械業種の生産は徐々に回復・上昇し、軽工業・紡績等の消費財業種は引き続き回復している。自動車消費については、4月の自動車生産が2.3%増、販売量が4.4%増となり、販売量は連続21カ月下降した後、はじめてプラス成長を実現した。

③ハイテク製造業が流れに逆らい成長し、新業態・新モデルが急速・壮大に成長している。

1-4月のハイテク製造業の付加価値は、前年同期比0.5%増であり、うち3月は8.9%増、4月は10.5%増となり、伸びは全体の一定規模以上の工業の伸びより速い。

電子情報業種は急速に回復し、4月の集積回路の生産量は29.2%増、電子部品製品の生産量は59.2%増であった。疫病が生み出したテレワーク・オンライン教育・無接触配送等の新業態・新モデルは勢い盛んに発展している。温度測定器の内部にある赤外線温度探知器を例に挙げれば、過去の1日数万パーツから、現在では1日50万パーツに増えた。

現在、国内の疫病に有効な歯止めがかかり、4月の工業主要指標はある程度回復しているが、国際的な疫病はなお世界に蔓延し、主要経済体は経済の深刻な後退に陥っており、国内消費がなお完全には始動せず、いくらかの特殊な業種は疫病防御のため閉鎖を余儀なくされている。映画館・ゲームセンター・スポーツジムは、現在まだ完全には回復しておらず、観光業種が被った影響も比較的大きかった。これらについては、引き続きバランスをとり、一方で疫病防御にしっかり取り組み、一方で業務・生産再開にしっかり取り組む。

より強力なマクロ政策が打ち出され実施されるに伴い、業務・生産再開の持続的推進と各内需拡大政策の効果が顕在化し、4-6月期の工業経済の運営は引き続き回復・上昇の態勢が見込まれる。もし、世界的な疫病が徐々に抑制されれば、経済は徐々に回復でき、下半期の工業経済の運営状況は、上半期よりもあるいは好くなると予想される。

(3)中小・零細企業の業務・生産再開状況

各方面の共同努力の下、現在中小企業の業務・生産再開率は徐々に高まっており、工業全体よりはやや低い可能性があるが、上昇は比較的速い。わが部が、一部のクラウドプラットホームのビッグデータに対してモニタリングを行った結果、5月18日までに、全国中小企業の業務再開率は91%に達し、全部の工業よりも高く、100%に接近している。中小企業の業務・生産再開には、3つの特徴がある。

①業種の情況

製造業・建築業等のような第2次産業の業務再開率は93%であり、生産関連サービス業の90%より高い。生産関連サービス業の業務再開率は、生活関連サービス業より高く、旅館・レストラン業の業務再開率は最低であり、現在87%前後である。各業種の格差も一層縮小している。

②地域

各地方の業務再開率は徐々に上昇しており、20省の業務再開率は90%を超え、湖北省の最近の上昇速度も非常に速い。

③企業の種類

「専門性がある、精密な、特殊な、新しい」中小企業の業務再開率は、中小企業全体の水準より顕著に高く、規模が大きいほど業務再開率は高くなり、零細企業の業務・生産再開の難度は相対的に少し大きい。

(4)中小・零細企業への支援

今回の疫病はすべての企業に不利な影響をもたらしたが、中小・零細企業への影響はその他大型企業よりもはるかに大きい。党中央・国務院は、中小企業の発展を高度に重視している。なぜなら、中小企業は産業チェーンの安定に関わり、さらには雇用問題に関わるからである。大量の雇用は中小企業にある。

中小企業支援政策は、おおよそ次の方面にまとめられる。

①減税・費用引下げを増やし、企業の負担を引き下げる。

小型・零細企業と個人工商事業者への増値税減免を増やし、疫病の影響がかなり大きい交通・輸送、レストラン、観光等の業種の中小企業に対して、損失繰延の年限を過去の5年から8年に延長した。さらに各種企業の上半期年金・労災・失業保険の社会保険料を減免し、これだけで6千億元に達しており、最大の受益者は中小・零細企業である。

交通・輸送部門は、有料道路の通行料を免じ、額は全部で1400億元余りに達した。我々の生産要素保障部門は、電力・ガス価格を引き下げ、上半期の企業の負担減は670億元に達する。

②金融支援を増やし、中小企業がキャッシュフローの中断により、苦境に陥らないようにした。

人民銀行は預金準備率引下げで1.75兆元の資金を解放し、特別再貸出・再割引等の方式を通じて、中小・零細企業と個人工商事業者のために、低コストの貸出2.85兆元を提供し、100万社を超える中小・零細企業に対し、1兆元を超える貸出の元本償還・利払いを延期した。これらはいずれも、中小企業支援の金融方面の政策である。

③政府の公共サービスを最適化し、企業の創業・イノベーションを推進した。

疫病期間、我々は「企業ミニ講座」オンライン訓練を展開し、中小企業のために無料で政策・技術・管理情報を送った。同時に、中小企業デジタル化能力賦与の特別キャンペーンを実施し、中小企業が努力してデジタル技術の応用を通じてコストを引き下げ、市場を開拓し、雇用を安定させることを支援した。

疫病以降、我々はさらに各地の中小企業へのサービス機関を誘導して、各種の中小企業のためのサービス活動を累計延べ26000回余り挙行し、1対1サービスは延べ230万回に達し、サービスを受けた中小企業は延べ593万社に接近している。

総じて見れば、各企業優遇政策が急速に実施されるに伴い、中小企業の業務再開率は着実に上昇し、企業の困難も一定程度緩和された。しかし、経済の全面回復にはまだ時間が必要であり、現在中小企業の発展は依然として複雑・峻厳な局面に直面しており、とりわけ疫病が世界で急速に蔓延し、これまでに述べた影響以外にも、最近1つ特別に際立った問題は、対外貿易企業、とりわけ対外貿易を行う中小企業が遭遇している困難が比較的大きいことを見て取らねばならない。

これらはいずれも新たな情況・新たな問題であり、我々は密接に注意を払い、異なる特殊業種に対して、より的確な中小企業支援の各政策を打ち出す準備をしており、これにより広範な中小企業の眼前の難関克服を支援する。

今後、我々は引き続き、国務院中小企業発展促進政策領導小組弁公室の役割をしっかり発揮し、市場化の方向を堅持し、関係部門と中小企業に存在する問題について、分類した指導を強化し、精確に支援する。

一面において、各企業優遇政策措置の実施にしっかり取り組み、中小企業への金融支援を一層増やし、未払い清算を強化する。同時に、各地方の中小企業への費用徴収を規範化し、広範な中小企業に実際の獲得感を得させる。

他方で、中小企業の生存・発展のための内生的な活力・動力を不断に育成しなければならない。なぜなら、外因は変化の条件であるが、内因は変化の根本だからである。中小企業が細部に専ら注意を払い、「専門性がある・精密な・特殊な・新しい」発展の道を努力して歩み、学術・技芸を専攻し、自分の長じた実業・業種に集中して、長所を伸ばし短所を避け、自身の不利な条件を克服し、自身の役割をしっかり発揮するよう誘導する。