人民銀行の内外経済情勢分析

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年5月21日


はじめに

人民銀行2020年第1四半期貨幣政策執行報告(5月10日)は、そのコラム「新型肺炎疫病が世界とわが国経済に及ぼす影響と対応の分析」で、内外経済情勢を詳細に分析している。本稿では、その概要を紹介する。

1.経済予測の修正

今年に入り、新型肺炎疫病は世界に蔓延し、既に200余りの国家・地域で確認された病例は、5月5日までに累計で370万人を超えた、死亡病例は25万人を超えた。

疫病の影響により、IMFは既に2020年の世界GDP成長率予測を、1月の3.3%から6.3ポイント引き下げ-3%とし、20世紀30年代の「大恐慌」以来、最も深刻な景気後退となっている。

世界銀行も東アジア・太平洋地域の2020年GDP成長率予測を、2019年の5.8%から2.1%に引き下げた。

2.世界経済への影響

疫病は、世界経済の運営に顕著な影響を与えた。

(1)各国は都市封鎖・業務停止・隔離等の措置を採用し、必需品の生産以外の経済活動を基本的に停止し、経済は停滞に陥った。
(2)国際貿易が深刻に縮小し、世界経済の潜在成長率を押し下げた。

WTOの予測では、疫病の影響を受けて今年の世界貿易は13%~32%縮小し、2008年の国際金融危機の水準を超える可能性がある。しかも、疫病は世界経済成長を鈍化させ、一層の外需減少をもたらし、対外貿易部門にかなり大きなプレッシャーをもたらしている。

(3)大部分の産業への短期の「ショック」が、グローバル・サプライチェーンのカギとなる部分に影響を与えている。

ここ数十年、グローバルに一体化した大生産は、世界経済の成長の源となっており、各国の経済活動の停滞は、容易にグローバル・サプライチェーンの目詰まりさらには中断を誘発している。

(4)疫病はさらに世界の投資家の予想に影響を及ぼし、国際金融市場の「ブラックスワン」事件が頻発している。

3月の米国株価は大幅に下落し4回ストップ安となり、4月20日の国際原油先物生産価格は史上初めてマイナスまで下落し、金融リスクと経済の低迷が相乗効果・共振をもたらしている。

3.国内経済への影響

疫病は、国内経済社会の発展にも未曾有の衝撃をもたらしている。

(1)企業の生産・経営が影響を受けている。

春節休暇期間が延長され、業務再開が遅れ、有効な業務日が減少した。一部の省の交通規制も、生産に必要な人員・物資の流動に影響を与えた。これに関係する損失は、1-3月期のGDP成長率に体現されている。

(2)需要面の指標が前年同期より鈍化している

今年に入り、小売・レストラン・観光等の消費支出が顕著に低下している。

疫病はさらに経済主体の行為に深刻な影響をもたらしており、とりわけ消費者はかなり長期間、ショッピングモール・映画館等の人の流れが密集する場所での消費を減らす可能性がある。

(3)外部からの輸入型リスクが、引き続き国内経済に打撃を与えている。

国際貿易が停滞した状況は、短期には改善し難く、外需は引き続き低下し、わが国の経済成長を一層押し下げる可能性がある。

総じて見ると、わが国の経済が安定の中で好転し、長期に好い方向に向かい、質の高い発展をとげるというファンダメンタルズには変わりはない。

党中央・国務院の政策決定・手配に基づき、各地方・各部門は多くの措置を併せ打ち出し、常態化した疫病防御の中で、業務・生産再開、本格生産を全面的に推進しており、正常な経済社会秩序を回復している。

1-3月期、わが国の一定規模以上の工業企業は既に全面再開に接近しており、全国の多くの地域のレストラン・ホテル等の企業も、続々と営業を再開し、交通・物流はさらに回復している。3月以降の経済データは、既にある程度好転している。

4.リスク

しかし、以下のリスクにも注意を払う必要がある。

(1)世界で疫病が持続する期間とマイナスの影響は予想を超える可能性がある。

欧米・先進国家の疫病は依然として深刻であり、経済再始動の効果を観察する必要がある。

一部の発展途上の経済体・農産品輸出国は、新たに確定された患者の増加がかなり速く、世界の疫病の将来の動向には高度な不確定性が存在している。

(2)主要経済体の高度に緩和した非伝統的金融政策・財政政策の効果と波及効果に、密接に注意を払う必要がある。

金融・財政政策は、疫病がもたらしたマイナス影響をヘッジできるのみで、将来の世界経済の回復情況と金融情勢は、なお根本的に疫病防御の進展によって決まる。非伝統的政策のマイナス作用も徐々に顕在化する。

(3)国内経済はなおかなり多くの試練に直面している。

企業とりわけ中小企業は疫病の影響がかなり大きく、庶民の雇用と社会保障へのプレッシャーが上昇している。産業チェーンの業務・生産再開の協同・協調を増強する必要があり、主要農業副産品の供給保障・価格安定を不断にしっかり確保する必要がある。

(4)国際収支とクロスボーダー資金流動にも不確定性が存在する。

一面において、主要経済体の中央銀行の大幅に緩和した金融政策に加え、わが国の疫病防御と業務・生産再開がリードすることにより、人民元資産のかなり高い収益と相対的な安全性が、クロスボーダー資金の流入を呼び込む可能性がある。

他方で、外需が引き続き弱化し、投資家のリスク愛好志向が低下することが、輸出の減少とクロスボーダー資金の流出を引き起こす可能性もある。

5.今後の金融政策

穏健な金融政策を更に柔軟・適度にし、政策を打ち出す程度・テンポ・重点をしっかり把握し、安定成長・雇用維持・構造調整・リスク防止・インフレ抑制の関係をうまく処理し、M2と社会資金調達規模の伸びを名目GDP成長に基本的に釣り合わせ、かつやや高くし、適度なマネーの伸びによって、経済の質の高い発展を支援しなければならない。

引き続き人民元レートの双方向の弾力性を維持し、多くのルートで予想をしっかり安定させる。

国際的な政策協調を強化し、国際的な疫病の影響を有効に防御する。

同時に、最低ラインを守るという考え方を堅持し、可能性のある外部リスクに対して高度な警戒を維持し、展望性をもって政策準備をしっかり行い、国民経済の穏健な運営を促進する。