特別地方債について

中国経済レポート

新領域研究センター 田中 修

2020年5月14日


はじめに

本稿では、現在景気対策の重要な手段とされている特別地方債(地方政府特別債)に関する『人民日報』2020年5月11日解説記事「特別債で有効な投資をてこ入れする」の概要を紹介する。

今年に入り、特別債の発行加速に鞭が入っている。財政部は、これまで既に2回に分けて前倒しで下達した2020年新規増発特別地方債限度額1.29兆元は、4月15日までに1兆1607億元の発行を達成した。3回目の1兆元の特別債限度額は、現在既に地方に下達され、要求に基づき5月末までに発行を完了することとされている。財政政策の重要な手段として、特別債はどのような特徴があるのか? どこにより重点的に投資を振り向けるのか?この手段を使用する際に何に注意を払うべきなのか?

(1)特別債は、主として公益的プロジェクト建設の資金を調達している

3月7日、四川省は初めて、水利プロジェクト特別地方債総額22.41億元を発行した。債券の発行期限は10年~30年であり、集めた資金は主として今年着工を計画し、あるいは建設中の64の水利プロジェクトに用いる。

4月2日、河南省は上海証券取引所において、大学運営特別債券10億元の発行に成功した。債券資金は、主として河南大学等の10の大学の教学施設の建設に用いる。

ますます多くの地方が、特別債の発行を通じてインフラ建設を加速し、脆弱部分を補強し、民生を優遇し、投資を安定させ、発展を促進している。

(2)発行目的は?

新予算法の規定によれば、地方政府の債券発行は「地方債」というただ1つの形式であり、一般債と特別債の2種類に分かれる。

一般債は公共財政予算(一般会計)に組み入れられ、赤字補填に用いられる。

特別債は政府基金予算(特別会計)に組み入れられ、主として公益的プロジェクトの資金調達に用いられる。

(3)専門家は、一般債に比べ、特別債にはいくつかの顕著な優位性があると考えている

①赤字にカウントせず、発行がより柔軟である

特別債は、インフラプロジェクトの完成後の収益によって償還されるので、財政赤字にカウントされない。2016~19年、わが国の赤字規模は2.18兆元から2.76兆元に増えており、伸び幅は大きくない。しかし、同期間の特別債新規発行限度額は4000億元から2.15兆元に拡大しており、地方政府の資金圧力を有効に緩和し、積極的財政政策の施行に助力している。

②限度額管理を実施しており、リスクを有効に防止できる

特別債は予算管理を通じて、発行限度額を明確にしている。これは、政府の資金調達行為を規範化し、地方債務の透明化を推進し、地方政府の資金調達リスクを防止・コントロールすることに資するものである。

③特別債は、重点分野の公益的プロジェクトの合理的な資金調達需要に、専ら用いられる

④コストが相対的にかなり低い

2019年、特別債の平均発行金利は3.47%であり、銀行融資等の資金調達ルートに比べ明らかにコストの優位性がある。

⑤債務償還サイクルがかなり合理的である

2019年6月、財政部は地方債の発行期限の規制を緩和し、地方政府が発行期限のより長い債券を発行することを奨励した。

 財政部政府債務研究・評価センターによれば、2020年に率先して特別債を発行した河南省・四川省は、期限10年以上の特別債券の総規模に占めるウエイトが89.7%の高さに達しており、かつ債務償還時期を分散しているので、債務の期限集中到来による償還圧力を軽減できる。

中国財政科学研究院の白景明研究員は、「一般債に比べ、特別債の管理方式と適用範囲が相対的に柔軟であることは、財政資金調達の正式ルート(正門)を開く重要な注力点である」と考えている。

近年、規模が年々増加すると同時に、特別債の使用範囲も不断に拡大している。交通インフラ、エネルギープロジェクト、農林・水利等の元々の7大重点分野の基礎の上に、2020年は特別債を国家重大戦略プロジェクトに単独で使用し、重点支援することとした。同時に、都市の老朽化した住宅団地の改造分野を増やし、地方が緊急医療救済、公共衛生、職業教育、都市熱・ガス供給等の都市インフラのプロジェクト、とりわけ5G・データセンター等の新しいタイプのインフラ建設加速に振り向けることを認めた。

中国財政科学研究院の劉尚希院長は、「近年特別地方債の規模を大幅に増加したことにより、カウンターシクリカルな調節を強化でき、内外の不確定要因の相乗効果が経済にもたらす下振れ圧力に更に好く対応することができる」と述べている。

(4)テンポを加速し、脆弱部分の補強・内需拡大を支援する

今年に入り、新型肺炎疫病が経済社会の発展にもたらす衝撃に対応するため、わが国は積極的財政政策をより積極にして結果を出しており、特別債は集中的に力を発揮して、既に初歩的な成果をみている。

①債券発行のテンポをより速め、構造をより最適化し、実際の成果量をより速く形成している

特別債の「3連発」を経て、既に累計で2020年度の限度額2.29兆元を前倒しで下達した。市場は、年間の特別債発行額は3.8兆元を超えるか、4兆元を突破する可能性があると予想している。3月31日までに、既に8255億元の特別債資金がプロジェクトに使用されており、1-3月発行額の77%を占めている。

3月19日までに、地方政府は既に発行した1.01兆元の特別債のうち、交通軌道、有料道路、鉄道、物流、駐車場等の交通インフラプロジェクト、及びパーク建設、生態環境保護、エネルギー・水利、都市インフラ建設等のインフラプロジェクトの資金が85.3%を占めており、昨年の25%をはるかに上回っている。

中国財政科学研究院の白景明研究員は、「特別債が大挙してインフラ建設プロジェクトに向けて投資されていることは、できるだけ速やかに実物成果量を形成し、有効な投資を牽引し、脆弱部分の補強・内需拡大を支援し、経済チェーンが生み出す連鎖反応を牽引し、良性の循環を形成することに資するものである」と語っている。

②特別債を「プロジェクト資本金」に変え、より強力に社会資本をてこ入れする

2019年6月、党中央弁公庁・国務院弁公庁は、初めて特別債を重大プロジェクトの資本金にすることを明確に認めた。2019年11月、国務院は文件を発して、特別債の資本金に占めるウエイトは、プロジェクトの類型により制限割合を変え、15%~25%とすることを認めた。

特別債を重大プロジェクトの資本金に用いることは、プロジェクトの信用増加に相当し、より多くの社会(民間)資本を吸収・牽引することができる。中誠信研究院の特別報告によれば、今年1-3月期、計676.3億元の特別債がプロジェクトの資本金となり、全国130のプロジェクトに投じられ、昨年1年に比べて68.13億元・計9プロジェクト、顕著に増加しており、乗数効果は昨年の1.9倍から2.3倍に上昇し、市場による資金調達能力を一層てこ入れした。

現在、各地方が重大プロジェクトの資本金に用いた特別債の規模は、既に1300億元を超えている。財政部は最近、省を単位として、プロジェクト資本金に占める当該省の特別債規模のウエイトが、20%の制限を突破することを認めた。

中誠信研究院の汪苑暉研究員は、「年間もし特別債を3.5兆元新規に増やせば、理論上は最も多くてインフラ投資6兆元を牽引できる」と考えている。

中国社会科学院財経戦略研究院の楊志勇副院長は、「地方債の発行はそれに適した市場環境が必要であり、金融政策は流動性の合理的充足を保証すべきである」とする。今年に入り、人民銀行は3回の預金準備率引下げ、4回の中期貸借ファシリティーを通じて、計2.45兆元の中長期流動性を解放しており、特別債の順調な発行を有力に支援した。楊志勇は、「財政政策・金融政策は協同を強化し、投資・産業・地域等の政策と強大な合成力を形成し、疫病防御と経済社会の発展推進のために有力な保障を提供している」と述べている。

(5)リスクを厳しくコントロールし、資金の使用効率を高める

引き続き特別債の分配方式を整備し、債券市場の流動性を活性化すべきである。

特別債発行規模が急速に増加することが、政府債務の総体リスク情況に与える影響はどれくらいであろうか?

財政部の許宏才副部長は、わが国の政府債務の水準は総体としてコントロール可能であるとし、「2019年末までに、わが国政府の債務比率は38.5%であり、EU諸国の60%の警戒ラインより低く、主要な市場経済国家と新興市場国家の水準よりも低い」と述べている。

特別債の使用を規範化し、債券資金の収益を高め、債券リスクの防止・コントロールを強化するため、近年わが国は規範的な地方政府の起債による資金調達メカニズムを積極的に構築しており、現在既に、限度額管理・予算管理・債券管理・リスク管理・情報公開・監督問責等をカバーするクローズドループの管理制度システムを形成している。

今年1月、財政部は正式にオンラインで地方債情報公開プラットホームを試運転し、地方政府の債務限度額・残高及び経済・財政の状況、存続期間の管理等の情報を定期的に公開し、市場による資金調達の自律的なメカニズムの形成を促進し、特別債のリスクを一層防いでいる。

特別債を国家の民生にさらに好く奉仕させるには、なお関連制度を不断に整備し、特別債資金の使用効率を高めなければならない。

中国財政科学研究院金融研究センターの龍小燕副研究員は、「特別地方債の分配方式を引き続き整備し、一定の収益のある公益的プロジェクトが比較的多い地方に対し、特別債をより多く手配しなければならない。基礎が相対的に脆弱な地方に対しては、特別債の構造の調整を通じて必要な支援を与え、これらの地方が国の支援へ依存症化することを防ぎ、支援の程度は逓減制の実行あるいは業績効果に基づき相応の増減調整を進めてもよい」と考えている。

専門家は、債券市場の流動性を一層活性化し、特別債の発行を促進すべきだと考えている。龍小燕は、「2019年11月末、地方債残高が債券市場に占めるウエイトは22.34%であるが、流通市場での取引額のウエイトは4.96%に過ぎず、将来多様な措置を通じて特別債の市場流動性を活性化すべきである」と指摘している。

中国財政科学研究院の劉尚希院長は、「当面『6つの維持』(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧及びエネルギーの安全、産業チェーンとサプライチェーンの安定、末端の運営を維持する)任務については、特別債の一部指標を中央政府債務の中に入れて統一的に使用することを考慮してもよい。債務リスクコントロールの角度からすれば、一部の地方とりわけ末端のリスクコントロール能力は相対的にかなり弱く、より多くを中央財政が負担することを妨げるものではない」と述べている。